第21回中高生1000字小説バトル全作品一覧

#題名作者文字数
1万魔殿サーガ佐藤整849
2かなしいイワシのお話米海あや999
3もう一人の存在花梨1000
4逆逆表nia703
5今とギターしゃちめばる917
6思い理久777
7小さなバトル柴田 かおる861
8コンパス藤原俊也1185
9僕の人命救助CLUB4271000
10泣くのを少し 我慢しろプラズマ紅葉1045
11隣の彼女詩音1000
12赤い手明彝観也子1487
13笑う関口葉月841

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Entry1

万魔殿サーガ

時は西暦2345年、24世紀。
昔はそう呼ばれていた世紀があった。
だが、今はそう呼ぶ奴は誰もいない。
今はこう呼ぶ。
「万魔歴300年」「3世紀」

丁度今から300年前、2045年の事であった。
突如、東京湾に小島が浮かび上がってきた。
それがすべての物語の始まりだった。
最初、人間達はその小島に上陸したが、生きて帰ってくる奴はほとんどいなかった。
だが、一人だけその小島から帰ってきた人間がいた。
その人間はこう言った。

「あそこは人間の行くところではない。なぜなら、見たこともない生物が次々と出てきたのだ。だが、私は仲間達と先に進んでいった。そこには巨大な穴が空いていた。その穴を事前に用意しておいた小型飛行船で下におりてみた、だが何の気配もなく、地球の中心に辿り着いてしまうかと言うほど降りていったが、一向に底は見えない。しばらくしたら、下の方に何か建物らしき物体が見えた。仲間は底に降りてみようと言い張ったが私は余り言い予感はしていなかった。だが、降りてしまった。
もう、後戻りは出来ないと思った。私は仲間に付いていきしばらくすると、何故かこんな所に人間が二人話している姿を見てほっとした。
何故かというとこんな所に人間がいると言うことは他の探検隊が来て調査をして生きていることを確認出来たのだから。
そして、その人間にしゃべりかけてみた。
あのでかい城はなんだい?と。
そして答えた。

『あれは、【万魔殿】だ。』と。

そこで、私は聞いてみた。
なぜあの城の名を知っているのだい?と。
そして答えた。

『オレニンゲンジャナイ、ジゴクノジュウニン」と。
それを聞いた私の仲間は驚いて逃げてしまった。
やはり私の感は当たった。仲間はその化け物に食われ、私は近くにあった小型戦闘機らしきもので逃げ出した。」

と言うことだ。

その年から、世界、いや日本が中心に変わっていった。
今年は先ほども言ったとおり、「万魔歴300年」、今年は「万魔歴300年」になったばかりと言うことで世界中の悪魔が騒いで喜んでいる。

「万魔歴300年」を祝うために・・・。


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Entry2

かなしいイワシのお話

 僕はいわし。一生懸命生きている。最近は毎日がすごく楽しいんだ。
 それはね、僕、彼女ができたんだ。その子はすごく優しくて、かわいくて。僕には本当にもったいないようないい子なんだ。群れのなかでいつも一緒にいて、毎日がすごく幸せなんだ。
 ある日も僕らは一緒にいた。群れのみんなと泳ぎながらプランクトンを食べていた。
 そこへ乱暴がやってきた。やつは僕と同い年だがすごく乱暴だ。きっと彼女を奪いに来たんだ。僕は気が弱いけど、彼女を守るため前に出た。

 やっぱり戦いがはじまった。もちろん僕の方が弱い。皮が何カ所も剥がされる。彼女が心配そうにみつめている。

 もう限界だ。僕は本当に思った。片目をとられ、皮を何十か所もはがされて、今にも水面に浮いていきそうだった。なのに僕はまだ一撃も当ててはいなかった。かすんだ片目であいてを睨む。今、留めがくる。
 そんなとき乱暴の後ろにマグロが現れた。僕らは逃げた。しかし乱暴は哀れにも逃げ遅れて、あっさり食べられてしまった。 
 僕らは逃げた。一生懸命に。どうやらマグロは僕を狙っているらしかった。弱った僕は泳ぐのが遅い。彼女はそんな僕に泳ぐペースを合わせようとする。
 (はやく!僕を気にせず先に泳ぐんだ!)
 僕のささやきに横に首を振り、彼女は僕と泳いだ。そしてなぜか急にマグロはターゲットを変えた。
 
 マグロは20匹ほど僕らの仲間を食べて立ち去っていった。幸い、僕と彼女は無事だった。本当によかった。これでまだしばらくは彼女といられる!舞上がる気持ちだった。
 急に影になった。なんだろう、水面になにか大きいものが浮いているらしい。そのとき、僕らの下からなにかが浮いてきて身動きが取れなくなってしまった。たくさんのいわし達がどんどん水面にあげられていく。そしてとうとう、水から出てしまった。
 苦しいっと思う暇もなくなにかに下ろされたらしい。すると何かに掴まれ狭い水の中に投げ入れられた。
「ねえねえ、これいっぱいあるのなに?」
 外から人の子供の声がする。なぜか僕はその会話が理解できた。
「これはね、いわしってゆうんだ。弱い魚って漢字を書く。」
 大人の男の声がした。 
「今焼いて喰うか?」 
「うん!」
 急に僕の彼女の悲鳴がした。あたりに焦げた臭いがした。
「どうだ、うまいだろ?」
「うえ〜、にがい。」
「しまった、こげちまった。海に捨てろ、また焼いてやる。」
 僕は、信じられなかった。


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Entry3

もう一人の存在

「でさ、俺らの将来どうなるの?」
「そんなの、適当に勉強して普通に卒業して、普通に就職して、OLにでもなってお終いじゃない?」
「俺はフリーターかな?」
「そんなもんかなぁ…やっぱり。」
「お前はどうしたいの?」
「俺は…」
俺と、男友達、女友達、3人で話してみる、将来。
高3にもなって将来を考えるのは遅いのだろうか。
夢も現実味を帯びてくる。
小さい子のように、「パイロットになりたい!」など言うことは出来ないのだ。
「分かんない。」
「何それ。早く決めないと!」
皆が笑う。What’s?
そんな適当に決めるものなのか?
全く分からない。

「お前は何したいんだよ」
僕の中の誰かが話しかける。
「僕は…君になりたい」
「俺に?何故?」
「無理に男らしく『俺』って言う必要もない。物事を考える必要もない。」
「楽をしたいのかよ。」
「いけないのかい?」
「俺は良いけど…やっとお前を頂ける。さんざん拒んできたお前を。」
「良いよ。交渉成立さ。」
不適に微笑む誰か。素直に応じる僕。

「あぁ…」
身体が熱い。身体が空になる…。
暗い暗い闇の中に光が見える。
「いらっしゃい。」
「君はもう一人の僕?」
「あぁ。けど、今から立場が逆転さ。」
「うん…名前だけでも教えてよ。」
「俺の名前は…」
大きな光が僕を包む。

「ねぇ?どうしたの?急に倒れて…」
「ん…ちょっと頭が痛くって。」
「吃驚したぜ。」
「顔色が何だか悪いわよ?」
「保健室へ行ったほうが良いよ。」
「うん。分かった。行ってくるよ。」
「気をつけてね。」

「あぁ!ボールが向こうにいっちゃった!取ってくるわ!」
足にボールが当たる。
大きく広がる黒い影。その形はまるで、悪魔のように…。
「ボール、取ってください。」
振り返ったその顔は薄気味悪い笑顔。
背筋がゾッとする。
「はい、どうぞ。」
何処から発せられる声だろう。
まるで闇の底から聞こえる悲鳴のような声。
「ありがとうございます…」

一歩一歩、踏み出す。
保健室ではなく、ある川へ向かって。
川は静かに流れる。
平和である事を告げるような静寂。
何か起こりそうな静寂。

俺は血の涙を流す。
手には、深紅の薔薇がある。
瞳から零れる雫も、深紅。
太陽に照らされた夕方の川も、深紅。
世界が全て…深紅に染まる。
だが、俺の身体は染まらない。

何故かって?君にだけ教えてあげようか。
声高らかに言ってやろう。
君の為に…まぁ今言っても、君は闇の奥深く。
意味のない事かもしれないがね。
それはね、僕の名前は「死」だから…。


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Entry4

逆逆表

 朝起きると、食堂のテーブルに「カレーパン」が乗っていた。
いや、「カレーパンらしき物」と言った方が良いだろうか。
普通カレーパンというのはカレーがパンに包まれたもので、パンをカレーが包んだものではない。
 しかし、今僕の目の前にぽんっと出されたのは、明らかに後者であった。
これはカレーパンと呼んでいいのだろうか?それとも、パンカレーと呼んだ方がこの意味不明な物体の格好に相応しいのだろうか?僕は、このひたすら意味不明な食べ物へ次第に憤りを感じるようになってきた。人間常識と著しく外れた物を見ると怒りの感情を抱く物だ。
 だが、文句を言おうにも共働きに出ている我が家ではこの怒りをぶつける相手がいない。
気が付いて時計を見てみると、始業ぎりぎりだった。僕は鞄を引っ掴むと、学校へと走り出した。
 心なしか道の様子が変わっているような気がした。……どこか違う。目のどこかに風景がこびり付くような、脳に刻み込まれた記憶に狂いを生じさせるような。
 近所の家を覗くと、いつも鎖に繋がれていたレトリバーが居なくなっていた。その代わりに、金属を引っ掻くような甲高い鳴き声がした。
 おかしい。何かがおかしい。日常という四角いブロックを積んでいる時、突如として差し出された
異形のブロック。四次元のように決まった形を持たないそのブロックは、時としてその存在すらを気付かせない。
 始業には何とか間に合った。落書きだらけの机に腰掛けると、丁度チャイムが鳴った。
そう言えばこの教室に入る時も違和感、いや、不快感と言えばいいのだろうか。変な感覚を
覚えた。走るのに夢中で気付かなかったが……。
 僕は改めて辺りを見回した。骨が皮を包む姿が有った。


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Entry5

今とギター

 その日、ギターの弦が切れた。ついでに僕もきれてしまった。
 大分ガタが来ていたので、いつかは切れると思ってたけど…。ただギターを弾いていただけなのに。流行りの歌を歌おうと、そう思っただけなのに。すべてに拒絶されてしまったような絶望感が自分の物になった。そして僕はがむしゃらに夜へと飛び出して行く。
 しばらく歩く。こうるさい繁華街は、色んな人間がごったになっているところだ。キレイなお姉ちゃんにウインクしたら、うまくできなくて両目ともつむってしまった。まったく、おもしろくない。
 さえない僕はまだ歩く。流行りのリストウォッチが呼んでいる。フラフラと不安定な僕の足取り。
 いくらですか。
 二万五千円(税抜き)です。
 時計を買った。
 顔を上げれば看板に微笑むアイドルと目があった。そのアイドルの新発売のCD、ついつい手に取った。
 そのまま買った。
 同じようにしてスニーカーも雑誌もジーンズも健康食品もダイエットマシーンもシャープペンも買った。
 相変わらずフラフラな僕。空の向こうが白けてきている。そろそろ帰らないと。帰らないと。
 両腕が重い。
 気がついたらいっぱい「今」を抱えていた。ひとつひとつが、全部流行りものだ。なぜこんなに買ってしまったのだろう? 無意味な最先端達よ、お前らは僕を絶望から救えるのか否か。
 でも今は早く帰りたい。こんな問答してるヒマはないんだから、歩け自分。
 己を叱咤しつつ足をすすめる。カメとカバの合体以上にのろい足取り。あまりに多すぎる物をのせ、痺れる二の腕。半泣きの僕。
 ただいま。ただいま。ただいま。何度も繰り替えした。腕の中の物をすべて床に落とし、僕はベッドへとダイブする。勢いのつき過ぎにより、壁に頭を強打した。本当に、もう、バカだなあー。
 涙が出て来た。そして。
 ぼんやりした視界のすみっこに見なれたボディー。切れっぱなしの弦。僕の、古いギターがそこにいた。
 僕は弾いた。泣きながら、流行りの歌じゃなくて適当に音を弾き出した。お前はいつも変わらないままで僕を待っていてくれるんだね。足りない弦も気にせずに、ひたすら弾いた。
 長い間のあと、僕は出かけた。不思議な鎮静と見えている目的を持って、真昼の光へ。


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Entry6

思い

 彼女を見つけたのは本当に偶然だった。仕事の下見に来た盗賊の若頭であるオレは、村の泉であいつを見つけたんだ。チビで童顔で、女の色気なんて持ち合わせていないようなガキ。……でも、綺麗な瞳をしていた。
 強い意志と、想いを秘めた美しい瞳。今思えば、その瞳に捕らわれたのが全ての始まりだった。
 手に入れたい。
 そう、思った。
 訳の分からないような独占欲がオレの中で渦巻き、押さえつけられない感情があふれ出す。
 あいつを手に入れるには、どうしたらいいんだろうか?
 考えて、思い付く。あいつがあいつの意志で、オレから離れることのない方法を。
 そして、それからすぐにオレはあいつの村を襲わせた。あいつだけが、生き残るように仕向けて。
 血や泥にまみれながら、あいつの瞳は輝きを失ってはいなかった。オレを睨み付け、決して屈服しないと訴えていた。
「オレが、憎いか?」
「……憎い、憎いに決まってるだろ!」
 彼女はそう吐き捨てるように言った。
 その瞬間、オレの企みは成功したのだ。
 そのあとオレはあいつを砦へと連れて行き、そして、側に置いた。あいつを束縛することもなく、あいつがいつでも逃げることの出来るように。
 でも、あいつは逃げなかった。オレを殺すまでは逃げないと言ったのだ。
 ……つい、笑いが零れた。
 成功した、と。

 オレを、憎め。
 オレ以外その瞳に映さないように。オレ以外の奴のことなんか考えられなくなるほど、憎め。
 一生復讐に燃えろ。一生オレの命を狙い続けろ。
 その思いが憎しみでもかまわないから、愛でなくてもいいからオレを思い続けろ。
 他の物など、目に入らないくらい。
 オレを殺し、オレがこの世からいなくなるその時まで。
 オレだけを思い続けるんだ。
 オレだけを……。
 ……。
 ……。
 屈折した思いだとは分かっている。


 でも……オレは……オレは、お前を愛しているから。


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Entry7

小さなバトル


「あんなコト言うんじゃなかったなぁ……」
 今更ながらに頭を抱えこむ。
 目の前には問題集の山。横には今日の所に
「テスト!絶っ対勝つ!うぉりゃーっ」
 と太い赤ペンでぐりぐり書きなぐられたカレンダー。

「げ、来週テストじゃん」
「俺今回ちょっと頑張ってんだ!佐藤にも勝てるかもよ!」
「万年Bクラスの癖に調子のるなっつーの」
「なッ!俺だって勉強したらAクラスぐらい―」
「ぐらい?そーゆーコト言える程、お前頭よかったっけ?」

 ムカついたんだ。いっつも俺よりも頭良くって、いっつも
バカにされて。だから、つい
「次のテスト、絶対勝ってみせるから!」
 って言っちゃって……でもよく考えてみたら、たかが
何日間か猛勉強したからって佐藤に追いつける、や、
追い越せる筈なんてないのに……
「わ、もう時間じゃん!あーもー知らねっ」
 半ばやけくそになりながら家を出た。
「あ。」
 そういえば今日は妹の誕生日。塾終わってからだったら
店閉まっちゃうし……俺は急ぎ足で近所の店へ向かった。

 着いた先は雑貨店。平日の夕方だから人も少ない。
女のコって何買ってあげたらいいんだろ?妥当に文房具かなぁ?
と考えていると、ふと、目が合った。
「さすがにコレはなぁ……」
 それは真っ白でまんまるくて、手を横に、足は前にのばして
赤いリボンのついたうさぎの人形。中2の男が買える物じゃないよなぁ、
と思いながらもなぜか目が離せなくって……
 くりっとしたで、口はちょっと目にこっとしてて。そう、まるで
「ガンバレ」
 と言われてるようで。
『頑張るけど……佐藤に勝てるわけない。Aクラスだって
競争率すごく高いし……』
 答えが返って来る筈はないけど、何やってるんだ?俺、と
思いながらも心の中でつぶやいてみる。
 そしたら
「ヤッテミナキャワカンナイジャン?」
 って顔で見てくるから―
「すみません、コレプレゼントでお願いします」

 店を出て歩いていると佐藤がいた。うぁ、単語帳開きながら。
「よ、佐藤っ」
「あ……どう?Bクラスとはおさらばできそうかよ?」
 ムカ。
「まあね」

「ヤッテミナキャワカンナイジャン?」


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Entry8

コンパス

無人の通学路をうっとり眺め入る僕。

早朝のひんやりした空気が汗ばんだ体に気持ちいい。ペダルさばきも心持かろやかに、僕は朝の学校の静寂を裂いていく。ほくそえんでしまう。自分達より先に教室にいる僕の姿を見た、クラスメイトの顔が大袈裟な演出で僕の中に浮かぶのだ。

「あ!」「はや・・」「うそ!」「あ〜あ」

もはや僕の遅刻登校の際に行われる儀式は担任含めたクラスみんなのささやかなレクリエーションとなっていて、ただ不愉快なだけの僕を尻目にそれは彼らの一日の学校生活への活力を導いているらしいのだ。

「他人の不幸は蜜の味っていうだろ」そう言って笑う担任。

そして、廃棄処理を逃れ新たな役目を担うことになったあの古い金属製の巨大コンパス。

階段を上がるたび、僕の足音が反響しているのがわかる。窓から青白い空が見えた。三階の踊り場を曲がったところで僕はまたしても笑いが止まらなくなった。信じられないくらいの静けさだ。木造りの廊下がミシミシきしむ。通り過ぎる教室に人の気配は無い。D組に到着。教室に入る前に深呼吸した。

「ガララ」

先客!そんなまさか。まだ六時五十分。
一番乗りは伏木すず子だった。寝ている伏木を起こさないように目配せしながら忍び足で席に着いた。おかしい、ここは堀江の席だ。隣も平田に変わっている。ハッと黒板に目をやった。座席表が書いてある。「省エネ席替え」というやつだ。
何の巡り合わせか、僕は伏木の隣になっていた。息を殺してそっと席に着いた。音を立てないようにバックとカバンをかけた。伏木はグッタリと上半身を机に寝かせている。長い髪が机から垂れている。当たり前だけど、彼女のここまで無防備な姿を見るのは初めてだ。ぼんやり眺めていたら伏木はウーン、と声を出して寝返りを打った。その声があんまり色っぽかったので僕は動揺して彼女から離れた。体を背けてさっきの声を反芻した。顔が火照った。

「あれ?」

振り返ると、伏木がうつ伏せのままで僕を見ていた。

「今日は、早いね」

あんまり普通なので僕は気後れして

「うん、まあ・・」

と、口ごもってしまった。それから三十秒ほどして、

「あ、連続遅刻記録、ねえ」
「ついに止めたよ」
「おもしろかったのに」
「人ごとだと思って」

伏木が僕を見て笑った。僕も引きつった微笑でなんとか笑い返した。

「みんなびっくりするね、きっと」
「うん、これであのコンパスともお別れだ」
「あれ、すごく痛そう」
「・・実はそうでもないんだけどね」

伏木は席を立って黒板の横に立てかけてあるコンパスを手に取った。

「もし痛かったら林田くん罰ゲーム」

なんで?と笑いかけるがはやいか、ピシッという乾いた音が鳴り渡った。

「やっぱり痛かった!」

口半開きでつっ立っている僕を睨みつけた。何か言葉を催促しているようだったので

「あ、ば、罰って?」

はにかんで彼女が僕に下した罰の意味が僕にわかったのはそれから1分後の事だ。


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Entry9

僕の人命救助

 ある夏の、ある昼下がり。
 ギラギラと太陽が鬼のように日本を照り付けていた。
 雲の涙も乾き切り、それを受けた植物達が雨の雫を滴らせている。
 僕は、部活帰りの自転車に乗り、長々いストレートを疾走していた。
 この時間帯、人通りが少なく、気持ち良く、傷害物も無く思う存分走れるのは良い。
 数キロ離れた学校から全力で駆けて来ているのに、少しも呼吸は乱れていなかった。
 日傘をさした女性が、子供と思われる赤ちゃんを必死に負ぶっている。
 こんな暑い日に赤ん坊を外に出したら、脱水症状で死んでしまうかもしれないのに。
 思いつつ、その女性を避けて走る。
 無数の蝉(せみ)達が、騒がしくはしたなく音を、止まる事無く紡ぎ出している。
 蝉。蝉と言えば、小学校の時に先生が、こう教えていた。
 「蝉の成虫は、たった一周間で死んでしまう。あの鳴いている蝉達を見ろ。あいつ等は必死に鳴いている。この時の一瞬が大切なんだ。あいつ等は必死に生きている。自分が生きている事を必死に証明しようとしているんだ。お前達も、この一瞬を大切にしろ。必死に生きてみろ」
 つまり先生はあの時、僕に一周間で死ねと言いたかったのだろうか。
 「……なんてね」
 今は思ってはいない。
 多分、当時の僕にとっては、己の命ほど自分にとって邪魔な物は無かったのだろうと、思う。
 あの時の僕は、誰の命も救えなかった僕は、自分が生きている事それ自体が屈辱だった。

 坂の前に出た。
 ……坂か。この坂は僕の家の前にある。したがって、生涯何度もここを自転車で登ろうとした。しかし、今までこの坂を自転車で、地面に足を着けずに登り切った事は一度も無かった。
 そう、例えば僕が今それに成功すれば、必死に頑張れば、神がその頑張り具合を見て、瀕死の誰かを救ってはくれないだろうか。
 極まった馬鹿らしい考えだった。
 でも、この世界には、僕が自転車でこの坂を登りきった事が無いという事実が存在している。
 一度ぐらいは、登り切った快感と言われるものを体験しても構わないのだろうか。
 地球では、数秒刻みで人が死に、そして誕生している。そして、九死に一生を得た人間だって、いる。
 もしも、僕が頂上に辿り着いた瞬間と、誰かが九死に一生を得た瞬間とが重なったなら、それは僕がその人を助けた、と勝手に考えても別に良いのではないだろうか。

 少し意気込んで、汗ばんだハンドルを握り直す。
 僕は、蝉になった。


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Entry10

泣くのを少し 我慢しろ

授業中 突然起こされた。

教科書が少し湿っている。
ヨダレとか垂らしてないよな?俺。
それ以外 何も変わらない授業風景。
突然起こされることも初めてじゃないから「あぁ またか」程度ですむし。

今日の目覚ましは国語教師 辻井。
チョークとか直ぐ折っちゃう握力馬鹿。
黒板と会話してるようにしか見えないし。
でも、話とか聞かない奴がいたら容赦なく怒鳴る。
得に俺とか。
そんな大きな声で言わなくても聞こえるよ。
こう言ってやりたくなる。

・・・。
オイオイ ちょっと待てよ。
今は理科の時間じゃなかったっけか。
だってここ、理科室。
バッカでェ 間違えたのかよ。
間違えるかよ 普通。
そしたら俺を呼んでつかつか歩き出した。
あ、用事だったの。俺に用事なの?
授業休めるよ ラッキー!!って感じだった。
理科室が見えなくなったあたりで国語教師辻井は立ち止まった。


気が付いたら俺、何処か解らない病院の集中治療室の前にいた。
親父はうつむいて、妹は十分泣き腫らした目でまだ泣いていた。
俺?
俺は立ってた。
ソファがあったけど立ってた。
少し喉が渇いてたと思う。腹も減ってたと思う。
そんなこと少しも気にかからなかった。

「岩瀬ェ、お前のお袋さん、倒れたんだ」

立ち止まった国語教師辻井は俺に言った。
いつもの癖で語尾はのびたりしてたけど
ぶつぶつ声じゃなくてハッキリ聞こえた。
俺、きっと凄い顔してたと思う。
何も口利けなかったし。
こいつの言ってること冗談だとも思わなかったし、嘘だとも思わなかった。
どこに行けば かあちゃんに会える?
そうとしか思わなかった。
んで、今に至るわけ。
俺、本能的に察知しちゃったのかな?
やばいくらい思った。
かあちゃんとは多分、もう会えない って。

それから何分、あるいわ何時間たったのかは分からないけど
時間とか空腹とか眠気とか気にならないくらいの
時間がたっていたんだと思う。


かあちゃんは死んでしまった。


病名は長ったらしくて覚えていない。
妹は毎日泣いていた。親父も俺たちに隠れてトイレで泣いていた。
でも、死んだ母ちゃんとの対面、葬式中、49日たっても俺は泣かなかった。

ふと、国語教師辻井に会った。
少し話をして
「お袋さんは多分大丈夫だ。だから もういい」
と言われた。

うつむいたら 涙がこぼれてた。

乗せられた車の中で国語教師辻井は言っていた。

「ちょっとの間 泣くのを我慢しろ。お袋さんが大丈夫になるまで、
なるまででいいから 泣くのは我慢しろ」

俺は車の中で泣いていた。
我慢した涙の味は多分一生忘れないだろう。
母ちゃんのことも。
国語教師辻井のことも。


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Entry11

隣の彼女

世間は夏休みと言うけれど、来年は社会人の為毎日就職活動。
家に帰る前に、自然に足がコンビニに向かう。
一人暮らしを始めてコンビ二に行くことが増えた。
涼しい店内、雑誌コーナーで今日発売の雑誌を手に取り読み始めた。
急に、学生時代の夏休みを思い出した。

僕の高3の夏休みは毎日夏期講習に通い、周りと同じように受験勉強を
なんとなくして終わった気がする・・・。
夏期講習が終わるのは午後4時。僕は帰り道いつも
同じコンビニで30分間立ち読みをするのが習慣だった。立ち読みを始めて
1週間ぐらいたっていつも隣で立ち読みをしてる人が同じ人だということに
気づいた。大学生くらいの女の人でいつも読んでるのはファッション誌。
肩まである髪は今時珍しい黒髪で、服装はいつもシンプルで白や薄い色が
多い。8月に入ると、毎日彼女に会う為に僕はコンビニに通っていた。
これが僕の初恋だったみたいだ。
雑誌を見ながら横目で彼女を見ていた。今考えると、ストーカーと
思われていたかもしれない。(笑)彼女が来るのは4時15分くらい。
10分くらい立ち読みをして、飲み物と時々お菓子を買って帰っていく。
僕は、そんな彼女をずっと見ていた。ある日、彼女が携帯を落として
拾ってあげたら『いつも、隣同士ですよね』と笑顔で言われた。
彼女も僕のこと見ててくれたんだ・・・。うれしかった。
あの時は、純粋だった。
夏休みはもうすぐ終わろうとしている。宿題は・・・まだたくさん残っている。
でも、僕の足はやっぱりコンビニに向かう。彼女に会う為に・・・。
夏休みもあと3日になった。学校も始まるとこの時間にコンビニに
来るのは難しくなる。
今度、いつ会えるか分からない。せめて、名前だけでも聞きたい!
僕は、その日彼女に思い切って名前を聞くことにした。
雑誌を読むフリをして小声で練習した。
4時15分・・・。彼女が来る時間だ。
いつも通り彼女が来た。
けど・・・僕が知ってる彼女ではなかった。
明るいブラウン色に染められた髪、服は赤のTシャツにミニスカート。
僕は話し掛けるのを辞めた。あまりにも彼女が変わったから・・・。
昨日の彼女で良かったのに・・・。
ショックだったけど、僕には山ほどの宿題が待っていてそれどころじゃなかった。
気づけば、秋、冬、そして大学入試の日。

あれから彼女には会っていない。
夏が来るたび、彼女の隣で立ち読みした日々を思い出す。
僕は、雑誌を元の所へ戻しお弁当を買って家へ向かった。


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Entry12

赤い手

今わかった。

今までとてもワガママだったこと。
まわりを巻き込むような迷惑をいつも掛けていたこと。

それなのに、可哀想なのは私だと思いこんで…。
なぜまわりは私を苛めるのかと頭を抱えて、目を瞑って。

本当の自分の姿を、見ようとしなかった…。

私は被害者なのではない。
私は加害者だった…。


「ああもう…わかったから…」

深夜、静まり返ったキッチンで、加奈子は自分の心臓が痙攣するのを感じていた。
左手に握っていた包丁は、いつの間にか絶望のまま床に滑り落としている。
赤く染まった床。
その染みは今もなお、その規模を広げている。


〈…どうかこの血を、止めて…〉


震える右の手首を呆然と、加奈子の瞳が見詰めていた。

普段ならばこんなものを直視することなどできないはずだった。
赤く裂けた傷は赤々と煌めいて、血は泡を吹く勢いで流れ出てくる。

それはまるで自分の命の終わりを告げるように…。


〈…怖い……〉


右の腕に散る幾筋もの線は加奈子の付けた「ためらい傷」だ。
刃物を皮膚につきたてはするものの、死というものに直面する恐怖。
そして今 生のある体に対する痛みへの恐怖。
この体を傷付けるという恐怖が、このためらい傷をつくらせる。

震える手により、その傷はギザギザと不気味な形を作りだしていた。
この特有の傷の形こそ、ためらい傷というものの最大の特徴である。

そして、刃はこのためらいの後に致命的な傷をその手首に刻んだ。

深く食い込んだのだろう。

溢れ出る赤い血を目の前にしたショックに、
握りしめていた包丁を握り続けることはできなくなっていた。

これがあの床に滑り落ちていた包丁である。

赤い液体が床に座り込んだ加奈子の足を濡らす。

暖かい。
生きている証拠がこの血にはある。
その血を今物凄い速さで、加奈子は失い掛けている。

「ああ…、ぁぁ……嫌……」


〈私が悪かったの。 自分を過賞してたから…〉


どんなに自分が未熟だったか…!

それに気が付いたのだからどうか…


〈お願いだから…このまま死にたくない…〉


「お父さん、お母さん……!!!」


〈お願いだから…私を助けて……〉


叫び声をあげたその反動で、
加奈子は自分の抜け出て行く血を感じながら倒れ込み、意識を失った。

***

異常な娘の叫び声に起こされた両親が加奈子の元へ駆けつけたとき、両親は言葉を失った。
見開かれたままの瞳には涙が幕を張り、玉のような涙は頬を濡らしている。
そしてその娘を濡らすものは何だろう。
赤く、ドロリとしたこの液体は……。

父親は直ちに救急車を呼んだが、母親は恐怖のあまり、その場に佇んでいることしかできなかった。
我が子が、親よりも早くこの世を去るなんて
そんなことは考えもしたくない。しかしつきたてられた現実は母親を絶望の淵へと追いやっていた。

救急車のサイレンの音。
それは心臓の動きと重なった。

***

「知ってる? 自殺をして助かった殆どの人がね…あの時死ななくて良かったって…」

「あの時ね、私、動けなかった。…ごめんね、お母さんなのにね…怖かった。…このままカナが死んじゃうんじゃないかって…」

「……よかった…。例えどんな子であろうとね…、あなたは、私のただ一人の子供なのよ。…忘れないで」

母の言葉が胸を満たしていく。

腕に巻かれた包帯が現実を教えてくれる。


ああ、あの時、死ななくて良かった…。
この言葉に、そんな重みがあるとは思っても見なかった。


「死ななくて…よかった……。」

やり直すことができる。
だって、こうして生き残ることができたんだから…。

もうあのころの馬鹿な私を、繰り返さないから…。

「ありがとう…」


この命が、一つであることを忘れない。


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Entry13

笑う


スクリーンの奥で女の人が泣いてた。
その腕に抱かれた男の人が静かに目を閉じた。愛しているよ、と言い残して。
女の人が呆然と彼を呼ぶ。彼は答えない。

また呼ぶ。
また答えない。

呼ぶ。答えない。呼ぶ。答えない。

女の人が叫ぶように泣いて、映画館には悲しげな溜息が充満した。
僕は笑う。
唇の端を吊り上げて、喉の奥で笑う。

何人かの大人が僕を振り返ったけど、僕は構わず笑ってた。
スクリーンの中で女の人が泣きじゃくる。
映画館の、ど真ん中の席で僕は笑う。
別に男の人が死んだのが嬉しい訳じゃない。悲しくないだけ。
なんで他の人は悲しがるのさ。

現実じゃないのに。

スクリーンの中の人たちは僕のことなんか見向きもせずに話を進めていく。

僕の席とはとても近いのに、空間が違う世界。
同じ時間を所有しているのに刻むときは違う。
その『違い』が異様に可笑しくて、僕は笑う。

誰かが鼻をすする気配がした。
それはスクリーンの中じゃない、この映画館の中だ。

「…あは」

つい笑いが漏れてしまった。

何を泣いてるのさ。

現実じゃないのに。

現実じゃないのに。現実じゃないのに?現実じゃないのに!

「あははははっ」

僕がどんなに笑って、周りの大人に睨まれても
スクリーンの中では相変わらず悲劇が展開されてる。
近いのに遠くて、同じなのに違って、
何故だかやたらと可笑しい。
僕は笑う。

笑う。


笑う。



夜中、父さんが母さんを殺すのを見た。
『僕の』父さんが、『僕の』母さんを殺してた。
現実の光景。

でも、うすいカーテン越しに見たそれはまるで映画のようだった。
裏切り者が、殺される瞬間のようだった。

「あは」

近い。遠い。
同じ。違う。

「あははは」

現実だってわかってたけど、実感なんてなかった。
噛み殺すのをやめて、僕は素直に笑った。
僕に気付いたらしい父さんは、しばらく迷ってたみたいだけど
母さんを刺した包丁を持ったまま僕のところまで歩き始めた。
僕、殺されるのかな。
父さんに?母さんみたいに?
殺される、のか。

「あはははははははは!!!」

何故だか、やたら可笑しくて。
僕はずっと笑ってた。

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