第23回中高生1000字小説バトル全作品一覧

#題名作者文字数
1ザ・ゴースト佐藤 愁999
2オレ。Louis14
3コーヒーフラペチーノ関口葉月852
4実況中継カーム・トゥルース1000
5灰色の花米山あや1000
6記憶wara874

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Entry1

ザ・ゴースト

 ヒデキは今、山間の心霊スポットに来ていた。
 心霊スポットといえば夜ということで、ヒデキは夜の帳が降りた竹薮を、カメラを携えて歩いていた。
 その後ろから不安げについてくるのは、友達のリサである。
「ヒデキ、もう帰ろうよ」
「だめだめ。何かフィルムに収めてかないと、来た意味がない」
 ヒデキは振り返り、リサを見据えて言った。
 ヒデキとリサはサークルの友達で、今日はヒデキの独断で若い女の霊が出るという竹薮に来ていた。
 ヒデキはやる気まんまんだが、リサは乗り気で無い様子。
「どうして、カメラ持ってるの?」
「霊ってよくカメラに映るだろ。決定的瞬間を撮影し損ねないようにな」
 と、ヒデキは買ったばかりのインスタントカメラであちこちを見回した。
「確かに、そういうのには私達は体を具現化させやすいけどさ…」
「え? 何か言った?」
「なんにも。それよりも、やっぱり帰ったほうがいいよ」
「わかったよ。例の若い女の霊は出そうもないし、帰るとするか」
 ようやく飽きてきたヒデキは、溜め息をついて来た道を戻りだした。
 リサもその後についていった。
 竹薮の林野を下って、車を止めてあった林道に出た時、ヒデキはあれっ? と思った。車に寄りかかっているのは、リサだった。
「あ、ヒデキ。やっと戻って来た」
「あれ? リサ、おまえ、ずっと俺の後ろにいなかったか?」
 リサは不思議そうな顔をした。
「何言ってんの? 私は、ずっとここで待ってたんだよ」
「…そ、そんな馬鹿な」
 じゃあ俺についてきた女は誰だったんだ?
 おいおい、まさかあの女が例の幽霊…?
 そこまで考えた時、ヒデキの顔をじっと窺っていたリサが、突然吹き出した。
「あはははは。なーんてね」
「え?」
「ちょっと先回りして驚かそうと思っただけだよー」
「な、なんだそうだったんかよ」
「さ、早く帰ろうよ」
 そう言ってリサは車に乗りこんだ。
 ヒデキはほっと息をついてから車に乗りこみ、発進させた。
 人気のない道路を走っていると、不意にヒデキの携帯電話が鳴った。
「はい」
「あ、ヒデキ? どう、調子は?」
「…え、誰…?」
 ヒデキはその声を疑った。
「やあねえ、リサよ。今日は急用で一緒にいけなくてごめんね。あ、それから例の若い女の霊、すごい怨念を持った自縛霊なんだって。気をつけてね」
 プツっと、電話が切れた。
 ヒデキの背中に冷たいものが走った。
 おい、じゃあ、今後部座席に座ってるのは、誰なんだ…?


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Entry2

オレ。

少し暑い。

オレは喫茶店に入った。
コーヒーを頼んだ。
少し渋かった。
どうでもよかった。

オレは高校の授業が面白くなかったので、2時間目からサボって、この繁華街へ出てきたのだった。

まあいいや。どうでも。

喫茶店でダラダラと1時間ほど過ごした後、オレはふらっと映画館に入った。別に見る物もなかったのだが、なぜだか引き寄せられるように入ってしまった。適当に映画を選び、チケットを買った。

今日が平日なのでか、客はオレだけだった。
「そんなに人気無かったのか」
オレはど真ん中の座席に陣取った。
「どうでもいいけどな」

映画が始まった。単純な物語だった。
あーあ。金払って損したぜ。

その時だった。

オレはふと気がついた。
「これ、オレじゃねぇか!」
そう。目の前のスクリーンに映っていたのは、オレだった。
しかも、そのオレは、今、オレの驚きさえも映していた。
「何だよ、こりゃぁ!」

その時、誰もいなかったはずのオレの後ろから声がした。
「当たり前ですよ、これはあなたの映画なんですから」

その男は笑っていた。辺りが薄暗いので、顔はよく見えない。歳も分からない。

男は続けた。
「あなたの映画館で、あなたの映画を観る。ごく自然なことだと思いますけどねぇ。ククク……」
「はぁ? バカなこと言ってんじゃねぇよ。オレのオレのって、こんな、こんなバカな話があるか!」
オレは、だんだんと腹が立ってきた。映画なんてもう観ていなかった。
「だいたい、お前誰なんだよ!」
男は、にやにや笑いながら答えた。
「私はあなた。あなたは私。分かり切ったことです」
「意味がわかんねーんだよ!」

オレが席を立とうとしたその時、足下に猫がいるのに気付いた。
「どっから潜り込んできたんだ……」
その猫はやけになれなれしく体をすり寄せてきた。
「潜り込んで来たも何も、それはあなたです。始めからいましたよ」
「もういいよ!どうでも」
オレは反論する気もなく席を立とうとした。

「あれ……!」
立てなかった。
「なぜ立とうとするのです?」
「出てくからだよ!」
「出てく? 何を?」
オレはものすごくムカついていた。
「ここをだよ! 当たり前だろ! お前、頭わりーんじゃねーの!?」
その男は少し驚いた様子で、言った。
「ここはあなた。自分を出るなんて事、できるわけがありません」
「そんな……」
オレは全身の力が抜けるように感じた。

目の前が真っ暗になった。

「おい、こら、起きろ!」
オレは、その大声で目を覚ました。
「あ……」

目の前にいたのは、クラス担任の先生だった。
「『あ』じゃないだろ! 授業サボってお昼寝か!?」
先生はめちゃくちゃ怒っていた。
「まったく。なにか言ってみろ、おい」

「……先生」
「あ?」
オレは息を一つついて、言った。

「先生、オレって何ですか?」


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Entry3

コーヒーフラペチーノ

分離してしまった。
一言も言葉を交わさないまま。
一口も飲んでいないまま。
くっきり ふたつに。
分離してしまった。

濃い茶色の層と、その上の白っぽい層。

ふたつに、なってしまった。

暗くなりかけた空に、店内は照明を強める。
それでもやっぱりどこか薄暗い店内で、
赤と青のランプは静かに光をたたえていた。

窓際、彼女が気に入っていたソファの席。
雨の降り出しそうな空に目をやろうともせず、
彼女は目の前に置かれたカップをただじっと見つめていた。
ホットコーヒーと向かい合うように立つ、コーヒーフラペチーノ。
見慣れた、その姿。

混ざっていたはずの生クリームとコーヒーは分離してしまっている。
がしがし、がしがし。
多少の力加減をしながらコップを振る。

元に戻ってよ。
ひとつに戻ってよ。

がしがし、がしがし。

彼女はコップを振り続けたけれど
コーヒーとクリームは頑固に分離したままだった。
コップを置いて、ささっている緑のストローを上下する。

ふたつが混ざるように。
もう一度 ひとつになれるように。

がしがし、がしがし。

手が疲れるだろうに、
それでも彼女はストローを動かしていた。
目の前にいる人物など、見ようともせずに。
ただストローを上下させていた。
そのまま、しばらく時間が過ぎる。
静かに彼女を見ていた彼は、ゆっくりと口を開いた。

「もう 終わりにしよう」

…………………。

がしがし、がしがし。

深く俯いたまま、それでも彼女は手を休めなかった。

混ざって。分離しないで。
もういちど。
もういちどだけで、いいから。

「…終わりに、しよう」

がし…

「………」

手が、止まった。
それからまた、堰を切ったように夢中でストローを上下させる。

彼はしばらく彼女の手が乱暴に上下するのを見ていたが、
少し 顔を伏せた。
まったく混ざる気配のないフラペチーノの正面で、
冷めてしまったホットコーヒーは
ただ静かに立っていた。

がしがしがしがし。
珍しく人の少ないコーヒーショップ内に、その音が響く。

がしがしがしがし…

ぱたり、と。
テーブルの上に、雫が落ちた。

コーヒーとクリームは、もう混ざり合えなかった。


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Entry4

実況中継

「ハーイ!みなさま、こんにちは!カームでございまぁ〜す。今日は母親がいないことを機会に、実験でもしようと思います。
 さて、実験内容なんですけど、使う材料は、卵です。私は、日頃思っているコトがあるんです。毎朝、私の朝ご飯は、食パンにシリアルなのですが、食パンに”目玉焼き”のせたくなるんですよね。しかし、焼いて、片づけしている時間がないんですよ。
 そこで、思いついたのが、レンジでやれば早いのでは?と思い、今回実験してみようと思います。
 以前、テレビで卵をそのまま、レンジにかけて、食べたとたん、バクハツしましてね、私もそれをくりかえすのは、嫌ですからね。ちゃんと、殻は取ります。
 ということで、実験を開始いたします。実況は、この私、カーム・トゥルースがお送りいたします。」
 ー「それでは、開始いたします。卵をお皿に割ります。それから、レンジに移します。そうですね、一応、30秒を目安にします。それでは、スイッチオン!」
 「うぃ〜ん」(レンジが作動した音)
 「実況を続けます。お皿がまわっています。5秒がたちました。変化はありません。10秒が、たとうとしています。白身のところに、ぽつぽつと白い斑点が見えてきました。その斑点はつながってきたようです。黄身の部分は、まだ生のようです。
 おおっ、白身のまわりの部分がなんだか、チリチリとしてきました。真ん中の方は、まだ生のようですが、おっ!まわりが、少しこげてますね。」といい終わるうちに「ばっひゅ〜ん!」という音がした。
 「ぬぁぁっ!!・・・あ、失礼いたしました。つい、飛びずさってしまって、びっくりしたもので。現状をお伝えします。白身の部分は、コゲて、バクハツしたもようです。
 さて、それでは、レンジを開けてみましょう。・・・・これは・・・すごいですね。見事、一部分が、飛び散って、レンジの中に、白い白身が、さまざまな所にくっついています。
 ま、まぁレンジの方は、後へとまわしましょう。卵の方ですが、いい感じですよ。塩をふっていただきましょう。ええ、味の方は結構イケますよ。卵は、まわりの黄身は、おでんのような仕上がりですが、中身は半熟でおいしいです。これから、忙しい時は卵は、レンジでOKですね。危険は、伴いますが。
 それでは、みなさまごきげんよう」
電子レンジは、こまなく白身をふき取ったつもりだけれど、どうか母にはバレませんように!!バレたら大変!


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Entry5

灰色の花

 色鮮やかな都会の人通りの多い道に、灰色の小さな花が一輪、咲いていました。
 
 何でこんなにも世の中は不公平なんだろう。ほら見て、私の目の前にある人混みごしの花屋ではスーツ姿の男がやってきて、一輪のユリを買って行くのよ。そんなユリなんて、きっとビニールハウスで人間に過保護に育てられたんだわ。
 それに比べて私。生まれたときから一人で生きてきて、咲かせた花は灰色よ。
ほんとにこの世は不公平よ。
 花が咲く前はまだよかったわ。目の前を通り過ぎていく人間達の誰もが振り返る花をきっと咲かせてみせるという夢があったから。
 
 その夢のために毎日毎日必死になって生きてきたのに。
 
               
 花が咲いてから、私は世を恨んだ。
 
 咲いた花も誰もが振り向くどころか、道ゆく人は誰も見てくれない。
 あんなに頑張ったのに目の前ではぽかぽかのビニールハウスで育てられた花達が次々と買われていく。

「あと2日かしら」
 美しい青空を眺めて私は呟いた。
 今私の花は満開である。(一つしかないけど)でもたぶんあと2日しか持たないだろう。そしてきっと誰からも見られないまま枯れてゆくんだろう。
 私はため息をついた。何のために頑張ったのか、何のために生きたのか。

  知りたいよ……。

悔しさと無念さで私はもっと灰色になった。それはもう黒に近かった。

 私は黒になっていた。あれからもう2日たつ。回りはまだ明るい。
 
 2日前に感じた通り、私の花は今日が最後だった。黒い花びらはしわしわで私の頭にくっついているが、強い風が来たら間違いなく飛ばされるだろう。

 結局、誰も私のことを見てくれなかった。

 次に生まれ変われたら人間になりたいわ……、なんて思いながら、私は静かに余命を過ごしていた。目の前をたくさんの人が通りすぎていく。
 
 ふと誰かが、私の前で立ち止まった。
  誰? 
その人はよろよろと私の方へ歩いてくる。
 その人は汚い格好をした男性だった。私の目の前で足をとめると、泣き声交じりの声でこう言った。
「お前も、独りぼっちなんだなぁ」
 見上げるとその男性は私を見下ろしている。
 そう。私も一人だったわ。
 急に雨が降ってきた。その雨は私の上にだけ降っていて、その滴が当たる度、私の花びらは白くなっていった。

 一年後

 色鮮やかな都会の人通りの多い道に、白い花がたくさん咲いていました。その美しさに人は、誰もが足をとめるのです。


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Entry6

記憶

あー苦しい、今何時? あーしんどいなあ。嫌だな。

最近朝がつらい。もう2週間くらい前から。起きるまでの間、僕は暑苦しい何かに襲われていて、葛藤と戦い、心臓のバイブが鳴ったかと思うと、幻聴なのか本当に聞こえているのかわからない声や音に僕はつきまとわれている。寝ぼけているから曖昧でわからない。でも、朝鳴っていたと思った電話の音は確かに幻聴だった。
着歴を確かめると、夜中にかかってきたユキが最後の着信だったから。

夢と現実の境目がわからなくなっていく。
ピンクとオレンジのあたたかいものが僕を包む感じ。
ベールが、僕を、さらっていく感じ。

「ちゃんと学校にきてよね」
ユキは受話器の向こうで確かに言った。ユキはかわいくて少し変わった子だった。会う時は暗くなってからじゃないと嫌だと言い張りどうしてかと聞くと、いつも恥かしいからって言った。とにかくユキは人より自意識の強い子だと思っていた。でも僕はそんなユキのことが最近、どうでもいい存在になってきている。愛しているだなんて、僕はまだわからない。でも、前は本当に、ユキを、愛していたと思う。なくてはならない存在だった。

でもユキは朝焼けのきれいな日に消えた。それに僕が気づいたのはそれからすごい後だった。相変らず学校に行かず毎日ゴロゴロしてたら友人からの電話で知った。もうユキの事がどうでもよくなっていった僕は、頭の中からユキという存在を消してしまっていたみたいだった。信じられない。恋人の存在を忘れるなんて。そんな事があるものかと思った。自分が信じられなかった。もう、記憶なんてものが僕にはなかったように思えた。でももう遅かった。僕がぼーっとしている間にユキは遠いところにいってしまった。

僕は眠りについた。ユキは消えた。だけど僕は・・・僕は何の為にここにいるんだろう、何で。プルルル・・あ、電話。僕は起きた。

「はいもしもし」
「あ、ユキだけど」
「あー・・久しぶり」
「ねーいつ会える?」
「いつでも」
「ふうん、じゃあ今からは?」
「え、今? もう遅いよ」
「じゃあいい」
ツーツー・・

あー苦しい、今何時? あーしんどいなあ。嫌だな。



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