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| エントリ | 作品 | 作者 | 文字数 |
| 1 | 牢獄 | 横川敦 | 750 |
| 2 | 記憶の鍵は君が持っている。 | 桜也乃 | 1273 |
| 3 | 正しくなんか、伝わらない | 神風夜月 | 1000 |
| 4 | 声 | 香月 | 885 |
| 5 | うそつき | 芦野 前 | 1000 |
| 6 | トンボに影、柿に愛撫 | 花村彩邪 | 1023 |
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エントリ1
牢獄
横川敦
私は牢屋の看守を勤めているもんですけどね、酷いもんですよあそこは。なんていったって、入ってくる輩が酷い。入ってきたら最後、鉄格子越しにこちらのことを蹴って来たり、酷い罵声を浴びせられるんですから。 まあそんな時はねえ、こちらも反撃して、唾を吐いてやったりするんですよ。暴力を振るって問題になったら、まるで馬鹿みたいですもんね。かといって、ただそれをおびえて見てるだけじゃ癪に障る。それでこの方法を使っているんです。そんなものが効くのかですって?効きますよ〜。不快感と屈辱感を同時に与えるわけですからね。その時のそいつらの顔を見たときはこっちも腹の底が凄く愉快になってきます。 私が楽しみなのはそいつらが牢屋から出てきたときです。どんな顔をして出てくるのでしょうかねえ、夢を膨らませて出てくるかもしれませんし、明日をどう生きるのかと途方にくれる人もいるでしょう。そいつらをどうぶっ殺してやるか・・・。それを考えるだけで、心が本当にわくわくしてくるんですよ。私のことをさんざんいたぶってくれた奴に、どれだけ自分の犯した罪が重かったかというのを身をもって分からせてやるんです。 私がやつらを殺すとき、やつらは一体どんな顔をして死んでいくのでしょう?それを考えるだけで、私は興奮に打ち震えそうな気がするんですよ。一種の快楽ですよね、これも。 あ〜早く出てこないかなあ、ぶっ殺してやりたいな〜・・・。 ・・・・・・・・ 「おい、運ばれてきたやつ、大丈夫か?」 「いかれてるね。自分のことをどうやら看守だと思っているらしい。で、俺達のいるこっち側が牢屋だと思っているみたいなんだ」 「確かに異常だな。大丈夫かな?」 「こっちも気をつけないといけないな、逆に殺されないようにね・・・」終 エントリ2 記憶の鍵は君が持っている。 桜也乃 ねえ。私は誰なの? それとも、誰でもないの?そう、私はロボットだったっけ。こうして、みんなと一緒にいると、私がなんだか人間のような気がしてくる。もっとも、みんなは、私が人間だと思っている。だから接してくれるけど、私がロボットだって分かったら、 みんなは、離れていくんだろうな。こんな会話が一日に一回はでてくる。 最近の001はおかしい。急に「学校に行きたい」と言いだしたかと思えば、今度はこれだ。やっぱり、学校なんて行かせるんじゃなかったな。 俺は、ため息をつく。さっき、001は学校へ行った。勉強は理解できているらしい。当たり前だろう。001の頭脳は大学生並だ。 中学の、勉強なんてつまらないくらいだろうと思う。なのになんでわざわざ学校に行くのか理解に苦しむ。「葉は、どうして学校に行かないの?」 同い年の彼女に一度だけ聞かれたとき、俺はなんて答えたっけ? これも001のことでいっぱいだからか。 つい最近のことなのに、どうしても思い出せない。 「あら?遥香ちゃん。もう出かけちゃったの?」 001(遥香)と仲のいい、明日香という子が、家に来た。 「でも、さっきでたばかりだから走れば追いつくと思うよ。」 「ありがとう。でも、遥香ちゃんって歩くのはやいんですね。 この間なんて、でたのが一分しか違わないのに逢わなかったんですよ?」 「そっか・・・。」 これはいかん。001の歩くスピードを変えなくちゃな。 あっ。そういえば、なんで001を作ったんだっけ。やっぱり思い出せない。 「葉。元気か?いい加減学校こいよな。」 昨日、メールが来た。ううん、日付は昨日じゃなかった。1年も前。 すると俺は、今何歳なんだろう。分からない・・・。 「ただいまー」 001だ。 「何だよ。今日はすごい速いじゃないか。」 「うん。今日は三時間だったの。」 「それにしても・・・速すぎないか?まだ10時だぞ?」 指さした時計は、十二時を回っていた。 「やだ。葉。ぼけちゃった?」 001が001じゃない誰かに見えてくる。 この人は・・・誰だっけ? ・・・・遥香?僕はやっと、遥香という少女を思いだした。 遥香とは、中学時代の僕の彼女だ。 彼女は、対人恐怖症という病気を持っていた。いつも一人だった。 僕は、いつも保健室で一人で勉強していた彼女と仲良くなった。 と、いうのも僕も保健室で勉強していたからだ。でも彼女はすぐに転校してしまった。僕はまた一人になった。そして、引きこもりがちになった。そして001を作った。 「葉は何で学校に行かないの?」聞いたのは彼女じゃない。001だ。 そして僕はこう答えた。「行く必要がないからだよ。」いったって居場所が無いと言う僕を001は不思議そうに見つめてたっけ? 今度、遥香に会いに行ってみよう。そうしたら、もっと違う記憶が浮かぶかもしれない。僕が誰なのか分かるかもしれない。僕は、重く閉ざされていた記憶の扉を開いた・・・。 やっぱり、遥香。君はいつも僕のそばにいたんだね。 気がついたら、そこは学校だった。 「夢だったのかな?」 そう・・。あれは夢だったのだ。 いや、違う。僕はまた記憶に鍵かけたのだ。 エントリ3 正しくなんか、伝わらない 神風夜月 「お嬢さんを僕にください」 俺は土下座をした。 「顔をあげてください……」 頭上から降る、困惑気味の彼女の父の声。 俺は促されるように顔を上げると、その場にいた皆、彼女はもちろんその両親までもが呆気にとられていた。 「いや、困りましたな……。あなたの経歴さえ知らないのに、判断しようがありません」 誠意は分かりましたが、と彼女の父親は付け加えた。 「失礼しました。僕は開成高校を出て、東京大学の医学部を主席で卒業し、現在大学病院のほうに勤めております。お嬢さんとはご存知の通り、同じ病院で知り合いました」 「ほう。東大の医学部を首席で卒業ですか」 「はい」 「いやはや、素晴らしい経歴ですね。文句のつけようがありません」 ははは、と快活に彼女の父は笑った。 「しかし……」 不意に真剣な表情になる。 「そのような方がなぜ、うちの娘などとの結婚をご所望で? 君ほどなら、引く手は数多でしょうに。ご存知だとは思いますが、うちの娘には私が昔に決めた婚約者もいます。あなたはまだ若い。どうです? 考えを改めてみては?」 俺はしっかり首を横に振る。 「諦められません。彼女を、ただの男として愛しています」 強く一言一言を印象付けるように言うと、彼女の父親はため息をつき、沈黙した。 「いいでしょう」 ぽつりと言葉が投げ出される。 「君の誠意、気に入りました。君になら娘をやってもいい」 「しかし、婚約者のほうは?」 「私が借金の条件に言い出した話だ。あちらは喜んで受け入れるだろう」 「そうですか……。ありがとうございます」 「礼を言われるほどではない。娘を頼んだよ」 俺は最後に、深くお辞儀をした。 「本当にいいの? 親だまして」 俺の肩に手を這わす彼女に問う。 「いいのよ。あんなブ男と結婚したくなかったし」 「……どうせなら、顔と頭がいい俺と?」 「そうよ、いいじゃない。体の相性もいいし。あなたは国会議員の娘と結婚。逆玉よ?」 「確かにね……」 「でも、驚いちゃった。『ただの男として愛してる』だなんて嘘」 「傑作だろ」 「お父さん、ああいうのに弱いのよね。でも、きっと驚くわ。私たちの間に愛なんて存在しないって知ったら」 彼女は妖艶な紅い唇で微笑み、俺に口付けた。俺は受け入れ、深い口付けを交わす。 彼女が寝てしまった後。 「ただの女として、君を愛しているよ」 と、囁いた俺の本心は、きっと彼女には届かない。 想いは所詮、正しくなんか伝わらないのだ。 エントリ4 声 香月 いつもと同じ通学路。二年間毎朝この道を通っている。 靴が鳴る。 あたしは歌う。 風はただ髪をみだす。 季節は秋。坂を下る足が速まる。 遅刻する。急がなければ。あぁつかれた。学校さぼろうか。いや、いいわけも見つからないし。あぁだるい。 突然坂沿いの家から人が出てきてぶつかりそうになる。 「あ」 「あ・」 たった二音。あなたとの初めての会話。その家の表札には、あなたの苗字が書いてありました。 2年、ここを通ったのに。初めて会いましたね。 あたしはそれ以上何も言えずに早足になった。「遅刻しそうだから。遅刻しそうだから。」なぜか心の中で言い訳をしていた。 あなたを、思い出しました。 塾の長い机。チョークの粉。ペンをはしらせる後姿。うるさい教室の中で、あなたの声だけが響いていた。 高くない身長、細い体、真っ直ぐな目が好きだった。 あれは高校入試の日、みんなが塾へあつまって自己採点をしていたときのこと。 いつも、真っ直ぐのびた背中が、歪んでた。入試の点数は、合格ラインとどくかどうかのものだった。先生や友達に励まされるあなた。「だいじょうぶだ」「きっと受かるよ」 あなたに何か伝えたかった。声を、かけたかった。だけど、あたしは何も言えず、何もできず。自分が嫌いになった。どうしていつも、伝えたいことが、伝えられないのか。 どうして好きなのに、ただ、好きなのに、苦しいばかりなのか。 その後、塾の卒業パーティーでも、何も変わらず。笑ってるあなたを見て、ひとり安心していた。 そしていつのまにか、あなたを忘れていた。 帰り道、いつもの坂をのぼる。今朝の場所で、ふと、足が止まる。あなたの家を、見ていた。気づけば、「出てきて」と願っている。あなたのことしか考えていない。いや、以前から今まで変わらずに、あなたを想っていたのかもしれない。 翌日、また時間がない。早足でくだる坂道。ちょうど昨日と同じ時間、あなたと出会う。 「あ・・」つぶやくあなた。 ただ、思っていても、伝わらない。声に、しなければ。言葉に、変えなければ。 嫌いな自分に気づいたなら、変えればいいだけ。 息を吸って。 あなたの目を見て。 あたしの目を見て。 「おはよう」 エントリ5 うそつき 芦野 前 私は、うそつきだ。 「ねえ聞いてー!」 「おはよお真知。どしたの」 「いやあ昨日塾のヒトに誘われちゃったっすよー! ほら、前に言った目のパッチリした可愛い感じの人。でも却下! 話聞いたら一浪なんだって! M高校出身で浪人してちゃねー」 私の軽いトークで始まる、いつもの朝。 麻子さんは慣れたように、ハイハイと流す。 「しかも志望大学、同じW大だよ? やあっぱ受験生同士だと気まずいっすよー」 「……真知、おまえいつから志望校W大学なの」 離れたところから、低い声。 おとこのひとの。 「アサクラー、おまえともかぶってんじゃん」 黒く短い髪。 まっすぐの目。 「あは、ちょっと憧れちゃってさぁ」 すぐに視線を逸らす。 今のを、聞かれてしまったんだ。 ずしり。 心に、いやなかんじ。 キンコンカンコン。 最初の鐘が鳴る。 3−Bは生物実験室へ、白衣を持って移動。 麻子さんも話を聞いていたみんなも、どんどん教室から流れて行く。 私とアサクラ、二人はなんとなく、その場で止まってる。 「ちなみに学部まで一緒だったりするのは」 「は?」 アサクラ、ちょっと不愉快そう。 そんな顔、しないで。 今から大事なこと、いうんだから。 「、真知がアサクラを好きだから、なんだ」 沈黙。 「で、その話はどこまで本当なワケ?」 ……、……。 こんなときに。 私のおしゃべりは、一体どこへ行ってしまったんだろう。 またいつもの冗談でいいから、何か出てこい。 「ははは、これがマジなんだー」 目が。 アサクラが、怖い。 この人の前で、冗談は言えない。 「めずらしーでしょ、真知のホントの……」 「憧れとか追っかけとか冗談とかで受かるほどオレの受験校甘くないと思うんだけど」 言葉、全然終わらないうちに、かぶせられてしまう。 「おまえってやっぱ軽いのな。他に何か、言うことは」 「……にゃはは、ありませーん!! 全部バレバレですなー」 ふざけてる私に背中を向けて、アサクラは遠くなっていってしまう。 ぴた、と背中に冷たく濡れたいちご牛乳のパックがあてられる。 「あとで、話ちゃんと聞いてあげるから」 麻子さん。 私はうつむいたまま、頷くことしかできない。 きっと頬が赤くなっているから。 マスカラはラインごと滲んでしまっているから。 顔なんて、ぐしゃぐしゃの涙だらけに違いないから。 額をいちご牛乳に押し付け、誰もいなくなった教室で考える。 私は、うそつきだ。 エントリ6 トンボに影、柿に愛撫 花村彩邪 『秋の夕日に〜♪ (あきのゆうひに〜♪)』 僕はこの歌を聞くともみじ、じゃなくて何故かトンボが頭の中に出てくる。そのことを友達に言うとみんながみんな、口を揃えてこう言った。 「え〜ゆうくん、バカじゃん!」 どうやら友達が言うには「音楽の先生だって“これは紅葉が秋色に染まるのを歌った唄なのですよ”って言ってた」らしい。じゃあ、唄を聴いてトンボが飛び回ったり、稲が風に揺られて音を立てたり、僕とぱぱが夕日に向かって一緒に手をつないで帰ったりする光景を思い出す僕がいけないのか。 授業中だったことに気付き、慌てて休めていた手を動かす。今は図工の時間だ。もちろん僕は画用紙いっぱいにトンボの絵を描いた。あの頃、ぱぱと歩いた散歩道を思い出しつつ…… 「ゆうや、この柿美味しそうだろう」 「うん!ぱぱ、食べたいよ」 「ははっそうか。待ってろ、今もいでやる。んしょっ」 「わぁ、すごいすごい」 「言っとくけど取った事は内緒な」 「うん!…美味しい!あ、トンボだ」 「あぁ…本当に秋なんだなぁ」 あの時のぱぱは嬉しそうで、なんだかこっちも嬉しかった。トンボも嬉しそうに僕達の影を追いかけていた。 突然、クラスの女の子が話しかけてきた。 「ねぇ、ゆうくん。ゆうくんの誕生日ってもうすぐ?」 「?うん、そーだよ」 「何が欲しい?」 「……柿」 どうしても食べたかった。なのに手に入らなかった。ままが天国に行ってから、ぱぱは僕と会いたがらなかったから。でも、もう一度だけ食べたかったんだ。 さっきの女の子が数分してまた、僕の前に現れた。 「お、おまたせ、ゆうくん!」 はぁはぁ息を切らしながら、ほっぺを赤らめながら、彼女は柿を出した。 そろりと出されたその柿はなんとも言えない橙色で。磨いてくれた事が分かってしまうくらいつやつやで。彼女が自信なさ気にも笑ってくれて。……胸がぎゅっとした。見たら泣きそうになった。から、目を逸らした。 「こんな校庭の裏から取ってきたやつじゃ嫌だよね…」 「いや、いいんだそれで!」 「…ずっとこれが欲しかったんだ」 僕はそっと渡された柿を手に取った。ぎゅっと握った。あの時、ぱぱがもぎ取ってくれた柿…あの柿をどうしても食べたかった。欲しかったのは誰かが僕の為にもぎ取ってくれる夕日色に染まった橙色の実だった。 手に取った柿は夕日をいっぱいに浴びたあの日のトンボを思い出させた。 口の中いっぱいにほおばった柿は音もなく崩れた。 「……美味しい」 僕は泣いた。 ・作者注: この唄が「紅葉が秋色に染まるのを歌った唄」かどうかは不明。 気になった方々、どうもすみません。 |