外は凍て付くほどの寒さにまでなっていた。窓の方へ目をやるとそれはもう、極寒の雪景色で。私は、よくこんな日に電車が走っているなと薄い関心を示した。 私は早朝から電車にのっていた。その電車は、地元でも有名な��時刻を知らない電車�≠セった。つまり、時間にルーズってことだ。それで構わなかった。目的を決めていない私はただ、長い間電車に揺られながら考え事をしたかっただけなのだ。 空気は冷たく、窓から見える景色は閑散としたものだった。ようやく雪も降り止み、空には分厚い雲が広がっている。「おー寒い、寒い」手をこすり合わせながら、早速仕事に就く。 俺はまだ研修生みたいなもので、電車の中の見回りや雑務をする日々だった。この日は、時間にルーズなおんぼろ車の窓拭きを頼まれていた。 暖房で曇ってしまった窓を雪化粧の世界へと誘う。「おや、女の子だ」ぼんやり窓の外を眺めている少女が、一人座っていた。 私は昔から、暖房でほってた頭を冷たい窓ガラスに押し付けるのが好きだった。右手には��鳴らずのケータイ�≠ェしっかりと握られている。独り者の私にとって携帯はお金の無駄遣いなのかもしれない。でも、もしかしたら……そんな事を期待していつだって解約出来ずにいる。 途端に襲われるこの孤独に対する恐怖は何なんだろう。誰かと繋がっていたいだけなのに、それすらも難しい。 ……どうしたんだろう、あの娘は。どの駅に着いても降りる気配が無い。日々変わらない日常を送っている俺は、少しだけ興味があった。「少女を励ましてやりたい」あぁ、なのにどうしよう。何て話しかければいいんだ。 「どうしたんですか、お嬢さん?」 「……」いきなり知らない人に話しかけられた。格好を見るとどうやら車掌さんらしい。だけどやっぱり怪しい。私が警戒しているとまた車掌さんらしき人が口を開いた。 「俺は窓拭きをしなくちゃいけなくてね。ちょっと失礼。」 頭上からキュッキュッ、と窓がふかれる音がする。一体何なんだろう。不思議と違和感はあったものの嫌な気は全くしなかった。車掌さんは窓を拭き終えると私の隣に座ってこう言った。 「ほら、外を御覧なさい」 「……きれい」 さっきまでは雪が融けかけ、世界の色を全て失った灰色の世界だったのに。暖房で曇っていた窓ガラスは一掃され、一瞬にして雪景色へと変化していた。「地平線を見ているみたいだ」何もないその景色はまさにそうだった。 「ありがとう、車掌さん」少女はそう言って微笑みかけてくれた。「いや、俺はまだ車掌じゃないよ」咽まで出掛かってその言葉を飲み込んだ。いやこれでいいんだ。雪はまた降り、おんぼろ車は尚加速し、窓から見える景色は銀白世界そのものとなった。
ながいながい横断歩道。信号は当然のように赤いまま。 向かい側から、しびれを切らしたスーツ姿の男が歩き出した。赤信号の横断歩道にオバケが潜んでいるとも知らずに……。 思わず閉じた目を開けたとき、もう男は地中に飲み込まれていた。 あとを追うように、赤と黒の派手な服を着た若い女が、横断歩道に足を踏み出した。一瞬、彼女と目があう。 渡るな、と精一杯に視線で伝えようとしても、彼女は歩みを止めない。見ていられなくなり、ついに目を閉じても、オバケが彼女の細い足を握り締め、ぐいぐいと引きずりこむ様子が、はっきりと浮かぶ。もがき苦しみ抜いた末、彼女も飲み込まれてしまった……。 「どうかした?」 と声をかけてきたのは、やられてしまったはずの彼女だった。その彼女が、気付くと脇に立っている。 「赤信号なのに渡ってきたから」 思うように言葉が浮かばない中、不器用に答える。 「渡ってもいいじゃない。たたられるわけじゃないし」 たたりどころか本当に殺されちゃうんだよ、と教えようとしたけれど、それより早く彼女が言った。 「きみも渡ってみなよ」 ごく自然で、あまりに素直な彼女の勧めは、断るなんて許されていなかった。 「ほら、早くしないと信号変わっちゃうよ」 いっそ青信号になって欲しいと実は思っていた。ただ逆らえず、勢いに任せて足を踏み出してみた。一歩、二歩、そして三歩目を踏み出したとき、地面からぬっと手が延びてきた。 すぐに足首を掴まれた。万力のように強く締め付けられ、足が鬱血していく。体が地中に沈んでゆく感覚。 「とまらないで歩いて、大丈夫だから」 後ろで彼女が言った。 そういえば、小さい頃はよく言われたものだった。子供騙しの一言でも、幼い精神は強靭になれた。やってみれば、簡単なことだった。 目を開けると、足元には何もなかった。すぐに横断歩道を渡り切れた。 振り返ると、小さな笑顔とブイサインを見せ、彼女は去っていった。 しばらく歩いていくと、また赤信号の横断歩道があった。もう大丈夫と言われなくても大丈夫な気がした。 赤信号のなかを、堂々を渡る。向かい側には、目を大きく見開いている女の子がいた。 「きみにだって、赤信号は渡れるんだ」 僕は少女に話しかけた。
(本作品は公開を終了しました)
私が初めて自分は何者でもないと感じたのは、本当に最近の事だった。今までの私はまだギリギリ十代前半だと言える年齢で、才能や技術にこだわってばかりいた。他とは違う自分を見つける度に、何だか特別な気がしてたまらなく嬉しかったのを覚えている。大人から見れば「若い」という事なのかもしれないけれど、今の自分からすればそれは元々から与えられた自分の家を誇りに思う子供のようで、恥ずかしさしか感じない。 「現実を見なさい。」と両親から幾度となく言われ続けてきて、私は初めてそれに答えようとしている。高校という、新しい場所を持つ事で。今までの私ならば、間違いなく特殊な学科を選んでいただろう。しかし今の私は、迷う事なく普通科の高校を選んだ。自分の能力の限界を中学のうちに、それも体験入学の実習の中で知ってしまって限りなく絶望したけれど、それから得た事もあるにはあったというのがせめてもの救いだったというところか。何故なら私は、自分のおごりから抜け出せたのだから。 近所の誰もいない土手で、無造作に生えている雑草を踏み締めながら、ふと私は思った。 (この世界は、永遠に否定も肯定もし続けているんだ。) 人間達は私を否定しかしないけれど、心を持たない生命や物体達は私を肯定し続ける。踏まれても文句ひとつ零さずに。それは何となく心地いいものだったので、私は学校の清掃活動等の時間に友達の目を盗んで刈られた草の山を踏みつけたものだ。 気が付くと、見知った少年が目の前に立っていた。それは同じクラスの男子で、私が何となく忘れ難い人間だった。 「何してんだ?」 彼が聞いた。私の方こそ聞いてみたかったが、素直に答えておいた。 「…散歩だけど。」 一番無難な答えを言うと、彼は笑って「そっか。オレも。」と言った。 私が彼を忘れられないと思ったのは、彼が清掃活動の時私が草を踏んでいるのを見て、「草ってすごいな。」と言ったからだった。多分彼も私と同じような事を考えていたのだろうと思い、気になっていたのだ。 「…ねえ、草ってそんなにすごい?」 二人並んで草の上に座り、彼が草を弄んでいるのを見て、私は言った。 「うん。すごいよ。ってか何されても何も言わねえ奴らは皆すごい。人間でも、何でもさ。お前みたいに。」 確かに私は人に嫌な事をされても何も言えなかったけれど、彼がそれを見ていたというのを知って驚いた。私は初めて人から肯定されたようで嬉しかった。そして彼が「もうすぐ卒業だなー。」と言った時、たまらなく切なくなった。 もうすぐ、冬が終わる。私の孤独と折り重なった雪は静寂に沈んで、やがて溶けるだろう。この言い知れぬ悲哀すらものせて。
気づいたときには、もう遅かった。 「気づかなきゃ良かった」なんて、思ったりはしないけれど。 季節は冬、吹き付ける風はこごえるほど冷たい。連日温暖な気候が続いたとはいえ、夜六時を過ぎれば気温は急激に下がる。だというのに、私はマフラーひとつしていない。 「今日、ありがとな。」 「本当だよ〜ったく、こんなに遅くなっちゃったじゃんか〜。」 「ごめんごめん、ピザまんおごってやるから許せ。」 本当はちっとも怒ってなどいない、むしろ感謝している。仕事を手伝わせてくれたことでさえ嬉しいのに、こんなに帰りが遅くなったおかげで一緒にコンビニにまで行けるなんて。あなたはこんな気持ち知らないだろうけれど。 ほかほかのピザまんが内側から暖めてくれる。本当は、あなたが手をつないでくれたらもっといいのに、なんて思ってしまうけれど、そんな夢は見ないことにした。もうすぐ、あなたと別れる場所が来る。バス通学のあなたと、電車通学の私はここでおわり。たった正門から40メートルの距離。なんて、短い、距離。 バス停まで、あと5メートル。残酷にも、バスは丁度やってきた。私は別れと言おうとあなたのほうを向いたが、あなたはまったく乗り込む気配がない。 「バス・・・いっちゃうよ?」 いっちゃえばいいのに。心が言ってた。 「今日は電車で帰るからいいよ。」 なんで。「私の為?」だなんて誤解はしたくない。 「俺のせいで帰り遅くなって、お前一人じゃ危ないだろ。」 だって・・・バスだと、家まで15分だよ?電車だと、一時間かかっちゃうんだよ?すごく嬉しかったのに、わめいてばかりいた。あなたは笑って歩き出した。 「お前寒くないの?ほら、マフラーしろよ。」 ふいに、あなたの匂いが私を襲った。グレーのマフラーに温もりを感じる。 だけど私はすぐにそれを突き返した。 「あたし・・寒くないから平気だよ!」 本当は寒かった。指先は赤くなっていた。息は真っ白で、ずっと、あなたの香りに包まれていたかったけれど。 思い出してしまった。 なんだか心がぐちゃぐちゃだ。 優しくできない。でも優しくして。だけどそんな優しさは嫌。優しいあなたが好き。 「お前」と呼ばれるのは好き。他のひとは「さん付け」で呼ぶから。私が少し近いみたいで。 だけど、それは私の欲しかった「近さ」じゃなくて。 私の求めたものは、あの子が持ってた。 あなたが見つめるあの子が。 思ってしまった。気づかなければ、笑っていられたのに。 「このマフラーは、あの子も温めるの?」 泣きながら帰った冬の道。
宇宙人。私は、彼のことをそう呼ぶ。もちろんこのことは、彼は知らない。 顔は、かっこいい。性格も良い方。でもちょっと変わっている。 「面白いな。」人間観察には、もってこいだと思う、不思議な言動を起こす。 友達に、彼の話をした。 「小学校の時、塾が一緒やってん。そん時、蛍光ピンクのズボン履いてきてやったよ。」やっぱり、彼はただ者ではない。 いや。私も変わっているか。 この間、席替えがあった。隣の席は、宇宙人君が座っていた。 おぉっ。 失礼しまぁす。ちょっと、観察させてもらいます。 それから、私は、しばらく彼のことを観察させてもらった。 (観察って、虫かよっってつっこまれそう。) 彼は、荷物(鞄の中身だけ)を床においていた。 (汚いから、やめなって。) 授業中だけ、似合わない眼鏡。 (コンタクトに、して!!) ちょっと、待て! この寒いのに、半袖、短パン、くるぶしって・・・・・? (いい加減、寒くないですか?もう、冬なんですけど。) 部活は、野球部。なんだっけ?バッター? いや、違う。ピッチャーか。どうだって、いいだろ。こんな話。 数学は、ホントに苦手らしい。 自分で、テストの点数いっちゃってるし。 (私より、良かったりするし。私、馬鹿だから) 文化祭の自前の衣装も、すごかったけど(笑) やっぱり、ただもんじゃない。 ある日、この話を友達にしたら大うけされた。 それはやはり、こんな事をしている、私に対して? それとも、彼の面白すぎる言動に対して? 最近、宇宙人君と、ある人の相合い傘が、頻繁に 黒板をにぎわしている。 彼女は、嫌がっているけどまんざらでもないと思う。 ほっといてやれよ。って思うけど、相手が宇宙人なら・・・。 面白くなるんだもん。私の中で。 それこそお節介だよな。って、自分で思った。 「でもさぁ、宇宙人君ってかっこよくない?」 「まぁ、顔だけね。」 ある日の会話。 ・・・・ところで、この間言ってた気になる人って「宇宙人」君? 友達に、聞かれた。 どうやら、私のいう「条件」がぴったり来たらしい。 「さぁ、どうだろうねえ。」 ・・・・でもさぁ、なんで好きでもない奴、ずっと見てるわけ? 「いや、趣味で(汗)」 ・・・・・ふーん。 これ以上、いったらばれちまうじゃんかよっ。 本命が誰かって!! 最後に付け足しておくが、 本命は宇宙人君では、ありません。 でも、部活やってるときはかっこよかったけどね。 あぁ、本命がばれるぅ。 ○作者附記:内輪受けが良かったので、載せてみました。ほとんど実話です(笑) 宇宙人君とは、よんでないけど(汗)プラスちょっと脚色。 内輪にも、新鮮です!内輪は読め!