五つ、君に質問したい。 ○ひとつ。刻の狭間にひとつの真実が、この世の始まりがあるとしたら、君は行きたいと思うかい? ○ふたつ。砂漠の下に別の世界が、楽園があるとしたら、君は行きたいと思うかい? ○みっつ。眠りについたその瞬間を、夢の世界で夢の始まりを、覚えているかい? ○よっつ。風がどこから吹いてくるのか知りたいと思ったことはあるかい? ○そして、これが最後。今、君がいるのは家かな。それともネットカフェかな。まあ、どちらにしろパソコンの前に座っているはず。インターネットは便利だよね。いろいろな事がわかるし、面白いしさ。でも…… この話の続き…………聞きたい? どうだった?質問の意味はわかってくれたかな。 実はさ、この質問、どれもあまり現実性がないんだよね。 時間は止まることを知らないし、砂漠の下に世界があることもはっきり言ってありえないこと。眠りにつく瞬間なんて、いつも大体。眠くなったら目を閉じる。時間だって大体しか覚えていないのに、夢の始まりなんかもってのほかだよね。風が吹いてくるところも同じ。風が吹くという現象は授業で習っていると思うから、ここは説明、いらないよね。そして最後、話の先なんて、誰が考えたか、どんな話の内容かでまったく変わったものができる。 つまりさ、現実性がないもの。どうでもいいこと。それでも深く考えるといろいろな事が思われて、面白いんじゃないかな。 幻想、空想を描いて、それをどんなものなのか考えを進めていく。ただし、その事について自分なりのYESかNOはしっかりと持ってね。そして、そのことを友達にも言って考えてもらおう。最後に友達とその事について話し合ってみよう。そうすれば、君は君なりの、友達は友達なりの違った見方ができる。 それは、とても面白いことだと思う。もしかしたら友達の意外性を見られるかもしれない。まあ、一種の言葉遊びだね。 でも、それが本当は大切な事なんだと思う。非現実的な会話じゃなくてもいい。友達じゃなくてもいい。大事なのは他人の違った一面を知ること。 そうすれば、人に接することに面白みを感じられるのに。そうすれば、殺人なんてなくなるのに。 そうすれば、不登校なんてなくなるのに。 そうすれば………… ○作者附記:なんか、書いてておかしいと何度も思いましたが、それでもこの思いが誰かに届けばいいと思って投票しました。
紅い傘が、揺れた。それが目を掠めた時はてっきり何の変哲もない傘だと思っていたが、よく見ると番傘だった。休日の午後散歩に出た帰り突然通り雨に襲われ、近くのバス停の屋根の中へと逃げ込んだ時だった。東京といってもこの辺りは郊外で、まだ比較的田舎の町並みを持っている。だからこそこんな古いバス停が存在し、人もいないのだろうと思っていたところでその番傘を見たのだった。 番傘をさしている女性は着物姿で、どう考えてもおかしいと思われるような格好をしていた。幽霊と一言で片付けていいものだろうか、しかしどうしたものかと考えていると、彼女の方から声をかけてきた。 「雨、止みませんねえ。」 言葉自体に訛りはなかったが、そのイントネーションには心当たりがあった。日常的に最もよく聞く方言だ。 「あの、関西の、方ですか。」 「ええ。」 「東京、お好きなんですか。」 おかしな質問だと言ってから気付いた。しかし女性は何ともなしに答えてくれた。 「あきまへんねえ。ここいら辺はまだええけど、都心はあきまへん。空気が汚のうてとても息出来まへんわあ。」 「そんなに気になるものですか。私は都心まで仕事に出ていますが、毎日ともなると少しも解りませんが。」 慣れてしまって、とも付け加えると、女性は何がおかしいのかころころと笑った。 「うちは関西いうても大阪や京都の真ん中らへんやのうてもっと田舎の方なんです。せやからもう変に敏感になっとるのかもしれへんねえ。」 ふふ、と尚も顔を綻ばせる彼女を見ながら、私は少し疑問に思った。もしも幽霊なら、なぜ今の東京を知っているのだろう。 「色んなところへ、行かれてるんですか。」 ためらいがちに聞くと、女性は一瞬目を見開いてからまた微笑んだ。そして首を僅かに縦に動かした。ような気がした。 「どうして、こんなところへ?」 死んでからも尚年を重ね続け、なぜ故郷でなく東京にいるのか見当もつかなかった。すると女性は視線を遠くに向けながら、息を吐き出すように言った。 「さあ、何でやろ。」 帰り方忘れてしもたんかなあ。と呟いて、彼女は今にも泣き出しそうな表情になって言った。 「故郷に、帰りたいわあ。」 消えそうに儚い風情をかもし出している彼女は、大層美しかった。今になって私は、彼女がとても美しい人だということに気が付いた。 ふっと雨が止み、女性は消えていた。しかし番傘だけはなぜか残っていて、幽霊の持っていたものがなぜ残るのかと訝しく思いつつも、視界を紅く染める傘を見ながら故郷の母を思い出し、おもむろに懐の携帯を取り出した。
「何してるんですか?」 おっかなびっくり声をかけた。 彼女は驚いた顔をして振り向く。 「えっ?」 そのままぱちぱちと瞬きをして、口を開く。 「……見えるの?」 「……?うん?」 「そっか」 彼女は微笑んだ。 小さな頃から度々、見ていた。 その小さな公園のはじにはひまわりがたくさん植わっていた。世話をしている訳ではないみたいだけど、毎年きれいによく咲いている。 その列に加わるようにして空を見上げている女の人を、僕は毎年夏が来る度に見ていた。白いワンピースに空色のサンダルをはいて、少し汗ばんだ小麦色の肌の人。その眼差しがあまりに真剣で鬼気迫るようで、泣いてしまった事があるのを覚えている。 見る度に思う。声を掛けてみようって。もうその瞳は怖いものではないけれど、でも声をかけるのを躊躇うには十分だ。 それでも今日、やっと声を掛けた。 「キミ、時々ここに来てたよね。 ……そっかぁ、私が見えてたからこっち見てたのか。そっかそっか」 彼女は楽しそうにブランコに揺られながらそう言う。その姿はさっきと比べるとかなり子供っぽくて、あんなに緊張したのはなんだったんだろうと思う。 「せぇーの……でっと!」 勢いを付けてぽぉんとブランコから飛び下り、彼女はこっちを振り向いた。 「えへへ」 笑うその顔も、すらりと背が高く大人びた外見には似合わず無邪気だ。そして今度はジャングルジムの方へ歩いて行ってしまう。 僕もちょっと小走りになって追い付いて、気になっていた事を訊いた。 「あの…なんでずっと空を見てたんですか?」 彼女のみけんに少し皺がよって、すぐに苦笑に変わった。 「え?……んー、そうだなぁ…… ……恋、かな」 「……恋?」 「うん、そう。私はね、夏に恋してるの。 ……正しくに言うとね、」 彼女はかくんと首を後ろに倒して空を見上げる。 つられてそっちを見て、眩しさに思わず目を閉じた。 「あの、お日様に恋してるの」 横を向いて見れば彼女の顔は眩しさなど関係ないというように、ただただ太陽を真直ぐに見つめていて、僕は思わず言ってしまった。 「……僕、ずっとあなたのこと見てました」 僕は彼女のその表情に、恋していたのだ。 こっちを見た彼女の顔を見て、僕は。「……ありがと」 彼女が僕に近づき、思わず瞳を閉じた。 額に何か暖かいものが触れて、数秒経って目を開けるとそこには誰もいなかった。 陽射しはまだ強いのに、そこだけは夏の終わりを匂わせるようにただ、向日葵が萎れて俯いていた。