第1回中高生3000字小説バトル
Entry3
動物園に、ライオンがいました。ライオンの唯一のともだちは、 隣のオリにいるライオンでした。 ともだちのライオンは、ある日言いました。 「おい、おまえは、このままずっとここで暮らしたいか?」 ライオンは、返事に困ってしまいました。 「オレは、生まれたときからずっとここで暮らしているんだ。お前 は、ここに来る前はアフリカというところにいたんだろう。オレを 産んだ母親は、よくアフリカにいたときの話をオレにしたんだ。」 「いや、オレはここに来る前も、ここと同じような所にいたんだ。 生まれたときから、お前以外のライオンには会ったことがないん だ。アフリカって、なんだ?」 ライオンがたずねると、ともだちのライオンはとたんに目をかが やかせてしゃべりだしました。 「アフリカって、広いんだってさ。広すぎて、はしっこが見えないくら いだって、俺の母親が言ってた。ここからは人間と、ハトと、あと、 ときたま高いところに登ったサルが見えるくらいだけど、アフリカ にはもっともっといろんな動物がいるんだ。食べものだって、ここ では毎日同じ時間に出されるものを食べるだけだけれど、アフリ カってところで暮らしてるやつらは、いつでも食べものにありつけ るわけじゃなくて、ほとんど毎日、生きるか死ぬか、ギリギリのとこ ろで生きてるんだ。えものを見つけると、つかまえるために全速力 で走りまわらなくちゃならないんだ。それから、雨がずうっと降らな い時期っていうのがあって、その時期はのどがカラカラになりな がら,雨が降るまで水たまりを求めて歩きつづけるんだぜ。ワク ワクするだろ?それに、アフリカの日の入りは、世界中の何よりも きれいなんだって、何度も聞かされた」 「ふうん」 しばらく沈黙が続いて、不意にともだちのライオンが、またさっきと 同じことを言いました。 「なあ、お前は、このままずっとここで暮らしていたいか?」 ライオンは、2回も黙っているのは悪いと思い、しかたなく返事をし ました。 「ぼくは・・・今の暮らししか知らないから、そんなこと分からないよ」 ライオンは、しまったと思いました。ともだちのライオンは、自分のこ とを「オレ」と言います。ライオンは何となく、そのほうがいいような気 がして、自分もまねをしているのですが、弱気になるとどうしても、自 分のことを「ぼく」と言ってしまうのでした。 「オレだってそうさ」 さいわい、それにはともだちのライオンは気がつかなかったみたい でした。 「オレさ」 ゆっくりとともだちのライオンは言いました。 「ここを出ようと思うんだ」 「え?」 ライオンはびっくりして、思わず聞き返してしまいました。なぜなら、 ライオンは今までそんなこと、考えたこともなかったからです。 「ここの外にはアフリカがあるの?」 「いや。アフリカはもっとずっと遠くて、海っていう、水たまりをもっと でっかくでっかくしたみたいなやつを渡らなくちゃいけないんだ」 ライオンは、そんなに遠いところがあることも知らなかったし、海とい うものがどんなものかなんて、想像もつきませんでした。 「でも」 ともだちのライオンは続けます。 「オレはどんなに遠くても、いつか必ずアフリカにたどりつく。オレは もっといろんなものが見てみたいんだ。もっと思いっきり走りまわっ てみたいんだ。それで、アフリカにたどりついたら、とびきりの夕日を 見るんだ。お前は一生ここにいていいのか?」 「・・・」 ライオンは答えられませんでした。きっと、いくじなしだと思われただ ろうと思って、おそるおそる顔を上げてみましたが、ともだちのライオ ンは、別に気にしてないみたいでした。 「オレは明日ここを出る。明日人間がエサをやりにきたとき、オレは 人間に飛びかかって、そのままオリを飛び出すんだ」 その夜ライオンは、なかなか眠れませんでした。ともだちのライオ ンのようにすることが、ライオンのすることなのかなあと思いましたが、 ともだちのライオンのまねをする勇気なんか、とてもとても湧いてきま せんでした。 次の日、ライオンは朝からずっとドキドキしていました。こんなにドキ ドキしたのは、生まれて初めてかもしれません。ライオンはなぜか、 このままエサの時間がきてほしくないと思っていました。 エサの時間に人間が入ってきたとき、ライオンはまるで自分が逃げ 出そうとしているかのように緊張していました。 エサを置いた人間がライオンのオリの扉を閉めます。ガチャリ、と いう音がして、ほんの少しのあいだ、静かになりました。 2度目のガチャリが聞こえた瞬間、ライオンは思わず目をつむって しまいました。 一瞬の沈黙ののち、隣のオリから動物園中に響くような悲鳴があ がりました。けれど、ともだちのライオンのものは、どんなに耳をすま しても、うなり声どころか、足音さえも聞こえてきませんでした。 あとでちょっとのぞいてみたところ、人間はとっても慌てていました が、けがはまったくしてないようでした。 動物園のライオンは一頭になりました。 ライオンは結局、ともだちだったライオンのようにすることはできま せんでした。 ある日、ライオンは思いきって、オリの外でぶらぶらしているハトに 声をかけました。ともだちだったライオン以外に声をかけるのは初め てです。 「ねえ、きみ」 初めてライオンに話しかけられたハトは、少しびっくりしましたが、そ のライオンの弱気なことは有名だったので、すまして答えました。 「なあに」 ライオンは、ハトの態度が思ったよりつめたかったので、すこしびくっ としてしまいました。ともだちだったライオンは、はじめからとても気 さくに話しかけてきてくれていました。 「あのさ、前にぼくのオリの隣にいたライオン、知ってるだろ?あいつ が今どうしてるか、知ってるかい?」 「ああ」 ハトはあいかわらずつんとすました態度で答えました。 「あのライオンなら、殺されたわ」 ライオンは一瞬、頭がまっしろになりました。最初は何も言えないくら いでした。ともだちだったライオンが殺されなければならなかった理由 が、どうしても分かりませんでした。 「・・・殺された?」 「動物園から逃げ出した次の日、人間にほかくされたの。そのときはま だ生きてたんだけど、キケンだからって、そのあと毒を注射されたのよ。」 ハトはまるで自分が見てきたかのように話すと、ちらっと一瞬だけラ イオンを見て、それからどこかへ飛んでいってしまいました。 ライオンがそれから誰かと話すことはありませんでした。ずっととも だちだったライオンのことを考えていました。 ライオンはいつも、ともだちだったライオンのことがうらやましかっ たのです。ともだちだったライオンは、いつも目がかがやいていました。 いつでも楽しそうに話しかけてきました。ライオンにはないなにかを持 っていました。 ともだちだったライオンは、ライオンの、たったひとりのともだちで した。 ともだちだったライオンは、自由になった次の日に死んでしまい、ラ イオンは死ぬまで平和に生きていました。 それでもライオンは、ともだちだったライオンを、うらやましく思っ ていました。
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