第2回中高生3000字小説バトル
Entry3
赤い目玉。すぐり色の目玉。白い毛。真っ白な毛。 皆と違う毛の色、みんなの毛は栗の色。 みんなと違う目の色、みんなの目は夜の色。 母さんも皆と違う白い毛に赤い目。皆あたしたち母子を 「血の目の悪魔」 「不吉な白髪リス」 って言ってのけ者にした。だからあたし達は餌も取れなかった。で も賢い母さんは毎晩何処からか餌をとってきてあたしに食べさせて くれた。形は何処にでも居るりすなのに。気持ちは何処にでもいる りすなのに。毛と目の色が違うだけで皆汚いものを見るようにあた しを見た。友達も居なかった。外に出れば独りぼっちだった。でも 母さんにともだちはみんなやさしくていいこでよくあそんでくれる と報告した。ときには嘘の話も作って。 とても晴れた日が多い年にあたしはひとりだちをした。どのなかま にもはいれずにいた。むしろ誰に話しかけても無視されたり、引っ 掻かれたりして仲間に入れてもらえなかった。わざわざ私のところ へ来て 「やーいすぐり目玉。白髪リス」 悪口を言っていったり汚いものをやっとの想いで見つけた巣に置い ていったりするリスがいた。そいつは、毎日毎日そうだった。決ま った時間にきて、 「やいすぐり目玉。悔しかったら出てこい」 と、びょんびょんあたしの住んでいる巣の近くを跳ねまわった。 やっぱり何処に行っても餌は取れなかった。実のなる木のところに 行くとそこでおいしそうに食事をしているリスが大勢いた。近づく とみな一斉にそれを止め、あたしのほうを向いた。大声で追い立て られた。あたしはいつもお腹を空かせて気がたっていた。母さんが 綺麗だと褒めてととのえてくれた白い毛はもう、ぱさぱさになって いた。毛繕いもしないで死んだように寝ていた。変な臭いがあたし から漂った。 ある時あたしはいつも通り悪口を言いに来たしっぽの太い馬鹿リス の喉笛にありったけの力で噛み付いた。ぎちぎちぎち。歯が硬いも のに当たるのを感じた。あたしの口の周りは血で濡れた。そいつの 血は嫌な匂いと塩辛い味がした。そいつは大声で痛みに絶えられず に叫んだ。そうしたらそいつの仲間が来てあたしをぼろぼろになる まで噛み付いて引掻いて振り回して投げ飛ばした。気が付くとあた しは巣の外にいた。力尽きたしっぽの太いリスの屍とともに倒れて いた。しっぽの太いリスは首がぐらぐらになっていて、目を開けた ままだった。気持ち悪くなって、嘔吐した。血が混じった液が喉を 焼くように通り過ぎた。死んじゃうんだ。あたしも。殺されるんだ。 あたしも。お腹がどくどくと熱かったから手をやると、指先は直に みずっぽい肉にさわった。ひどくしみた鮮やかな赤。 もういやになった。 その日、躰に付いた血を舐め取りながら、どうせ死ぬのならあの馬 鹿なしっぽの太いリスの仲間に殺されたようになるよりも狼に食べ てもらった方が良いと思った。あたしを苦しめた犯罪者の処刑を後 々あの一族の武勇伝として伝えられるよりは。だから次の日、私は 狼を探しにいくことにした。行く先の所々に私が殺めたリスの家族 や仲間が居て、叫んだ。 「ああ殺し屋がとおるよ! 白髪の殺し屋めくたっばちまえ」 あたしが睨み付けると奴らは何もせず罵り続けた。殺し屋め、殺し 屋め、血の目の悪魔の殺し屋め、近づくなみんな、覚えておけみん な、白髪のリスには近付くな。 くるしかった。ただひたすら木の上をあっちの枝にわたりこっちの 枝にわたり走っていくと狼らしき真っ黒な姿が下をのそのそ歩いて いるのが小さく見えた。あたしはそいつの目の前に、ぱっと飛び降 りた。そしてしっかりと目を見据えて頼んだ。 「あたしを食べて」 そういうと奴はそっけなくこたえた。 「いま、野うさぎを食ったばっかりだ」 「りす1匹食べたところでなんともないわ、さあはやく」 奴はしぶしぶ近づいてきたから、覚悟をして目蓋を閉じた。でも奴 はあたしを見ているだけで、食べようとなんかしなかった。 「はやくしてよ」 待ちきれなくていうと奴は言った。 「お前、他のリスと違うなあ。真っ白だ」 あたしは驚いた。 「狼は色が分からないって母さんが言ってたわよ。嘘吐き」 「いや、白か黒かくらいは判るさね。やあ綺麗なリスだな、お前」 照れくさいけど、どこかうれしかった。母さん以外の動物に綺麗な んて言われるのも、母さん以外の動物とこんなふうに普通に話すの も初めてだった。 「あんた、あたしを食べないなんてどうかしてるわ。狼のくせに。 ちょっと牙を見せてちょうだい。 本当はおおきなうさぎかなにかなんじゃないの」 黙って奴は口を開けた。 熱い息。赤い舌、黒い上顎、白い牙。間違いない。狼だわ。 「わかったかい」 「うん。さ、あたしを食べて。早く。逃げたりしないわ。早く」 でも狼はあたしを見ていた。もったいないな、お前を食うの、と呟 いて。あたしは狼がお腹を空かせてあたしを食べるのを我慢できな くなるまで待つことにした。そう言うと狼は 「好きにしな」 草の上に寝そべった。ぼーっと私は奴をみていた。そのうちに太陽 は橙色になって、赤くなって、無くなった。 「ね、まだお腹空かない?」 「空かないねえ」 辺りはぼやけて、母さんが気を付けなさい、といっていたおばけ鳥 の鳴き声がした。ぼぉー。ぼぉー。あの鳥の声は怖い。母さんは教 えてくれた。おばけ鳥はおおきな足をしていて、それでつかまえた りすやうさぎ、ちいさな鳥を食べてくらしていると。おおきな目を していて、その目には自分の餌しか映らないと。 餌にされるならこの狼がいいわ。 「まだ?」 「まだまだ」 「もう良いでしょ」 「いんや。食べたうさぎはひどく太っててね」 あたしは目の前がかすんで、なにも見えなくなった。昔からあたし の目はよく見えない。すぐり色のせいだとずっと思っていた。狼に はあたしが見えるみたいだった。 「おまえ、ふるえてるね」 「寒いの。もうじき死ぬわ。 昨日馬鹿な存在価値ないリスを殺したの。 その殺したリスの仲間に大怪我させられたわ。ほら、見る? お腹のところに、傷が有るの。多分中まで通ってるかも。 血を舐めて拭いながら夢中でここに走ってきたのよ。 もう今は血は出つくしたわ…。止まったもの。 仲間である筈の動物に殺されたことになるなんて嫌だった。 生きてるうちに、 違う動物───あなたに食べて欲しかったのに」 「俺は餌以外は殺さない主義だから無駄な殺しはしないがね」 「殺される側ってどんな気持ちなのかしらね」 がさ、っと音がして狼の立ち上がる気配がした。 「じゃあ、ぼちぼちいくか」 「……いっぱい話して疲れた…おねがいね」 あたしは目蓋を閉じた。どちらかというと勝手に閉じた気もした。 狼は、途惑っているようだったけどゆっくりとあたしの喉をかんだ。 生暖かい唾液が触れる。この狼にやられるとおもうと気持ちよかっ た。あたしを綺麗だと言って、普通に話してくれた狼。 「あ…」 急にずきっとしたから思わず声が出た。狼はそれを聞いて牙をゆる めた。 「いいの…つづけて」 狼は流血しているのだろう冷たく重くなったあたしの首筋を優しく 嘗めた。だんだん躰が重くなって眠くなった。 「旨いよ。お前のからだ」狼の声が遠く聞こえた。 狼は、あたしを食べた。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。