「……クレタ島には、うそつきがいるらしいよ」 荒い息の下で転校生が呟く。 リョウは思わず殴る手を止める。 「うそつき?」 「そう……あれ、信じてない?」 鼻血で汚れた顔をぬぐい、転校生はにっと笑う。 リョウは、その赤い瞳をにらみ返す。 「興味がないだけだ」 時計は五時をまわっている。 早く出ないと、裏門にも警備員が立つ。 「ちがうねぇ……リョウ君は今まで見たことないでしょ、『うそつき』。だから、怖いんでしょ」 開きかけた扉から戻り、無言でもう一発殴りとばす。 転校生の頭が黒板にあたって、鈍い音がする。 ランドセルを背負ったままひんひん泣いてるミサキはそのままにして、リョウは薄暗い廊下を駆けた。 クレタ島は、渋谷から山手線で十五分ほど行ったところにある。 人ごみであふれかえる休日の渋谷が、リョウはあまり好きではない。 それでもクレタ島までの切符を買っているのは、やはり昨日の転校生の一言が悔しいからだ。 東京に「嘘禁止条例」が出されたのは、もう十年も前になる。 この国では現在、「首相」という名のマザー・コンピュータが全ての権力を握っている。 「首相」が嘘と判断すればすぐさま警察が飛んできて、その度合いによっては「療養所」へと送られる。 A級犯罪者は「うそつき」と呼ばれ、社会に復帰することは決して叶わないという。 条例が施行されてから犯罪検挙率は東京都を中心に八十パーセントまで上がり、国民は穏やかになった。 リョウは生まれたときから東京に住んでいるから、「うそつき」には会ったこともない。 (あいつは転校生だから、ここに来る前に見たことがあるんだろうか) 何だかその経験の差だけで、負けている気がする。 リョウは、理由もなく人を殴ったりはしない。 昨日の五時間目は家庭科だった。 『これ、よかったら』 ミサキの作ったクッキーは、お世辞にも美味しそうとは言えなかった。 それでもそのラッピングにはいじらしいハートマークが散らしてあって、リョウはなんとなくいやな予感がしていた。 『僕、ブスが作ったクッキーとか、食べる趣味ないから』 にっこりと笑って吐いたその言葉を、リョウはまだ覚えている。 ミサキを守るためにも、ここでリョウが転校生に負けるわけにはいかなかった。 ちょっと駅の周辺でも探検してくれば、明日何か言ってやれるだろう。 その程度の、軽い気持ちのはずだった、のに。 「なんでお前がここにいるんだ」 『クレタ島。クレタ島。ドアが閉まります。無理なご乗車は危険です。おやめください』 駅にアナウンスが響く。 後ろから降りてきたのは、ミサキだった。 「あと、つけてきたのか」 ミサキがちょっと怯えた視線を向ける。 「どうしてもお礼、言いたくて……昨日は、ありがと。それと、あの後ね、これ渡してって言われたの」 おずおずと差し出されたのは、一枚の地図だった。 「ここにね、いるんだって」 そう言って、赤で丸印がついている点を指す。 ご丁寧にも、どこぞのビルの見取り図までくっつけてある。 リョウは天を仰ぐ。 これで、本当に後へ引けなくなってしまった。 「リョウくん『うそつき』まだかなぁ? ミサキ疲れちゃったよ」 「静かにしろ」 ミサキが弱音を吐いたのは、二人が歩き始めて三時間が経つころだった。 転校生の地図では、もうすぐ目的の場所に着くはずだ。 地図は驚くほど正確だった。 ビルの中は無人で、全て機械で動いているようだった。 現代において、こういった設備は珍しくない。 しかし、そのせいで予想以上に薄暗い回廊が、リョウたちの足を遅くしていた。 (どこに懐中電灯とか……くそっ、せめて俺の携帯の充電が切れなきゃカメラのフラッシュで照らせたのに) リョウは思わず舌打ちをする。 不意に、背後に気配を感じて、リョウは誰もいない道を振り返る。 誰もいない、回廊。 「ミサキ……?」 呼びかけはどこまでも響くだけで、応える声はない。 左右に人が隠れられるような通路はない。 「あ……」 リョウは恐怖にかられて、走り出した。 つきあたりには大きな扉がある。 後先を考えずに、リョウはその扉を開け放った。 「いらっしゃい。お腹、空いたでしょう?」 長いテーブルの上には、豪華な料理が並んでいる。 シャンデリアの光は柔らかく、絨毯はふかふかとして暖かい。 リョウは一瞬呆気にとられて、黒いスーツの女を見つめた。 バタン、と扉が勝手に閉まって、リョウは我にかえる。 「ミサキをどこへやった」 低く唸ったつもりだった。 だが、その声は憐れなくらいに震えている。 小学六年生の、悲しい現実だった。 「丁重にお帰りいただいたわ……ねえ、あなたたちどうやってここに入ったの? 子供の楽しめそうな場所だとでも思って?」 対して、女の声には余裕がにじみ出ている。 ふと、その視線がリョウの握り締める地図にとまる。 クス、と息をもらして女が笑う。 「どこかで悪い噂でも聞いたのかしら?」 「……知っているのか」 「あら、何のこと」 女は上品にナイフとフォークを動かす。 この落ち着きが、怖い。 リョウには焦りしかない。 「俺は確かに聞いたんだ! クレタ島にはうそつきがいるんだろう!!」 それを聞いた瞬間、女は信じられない素早さでリョウにナイフをぴた、と向ける。 「嘘、ついちゃダメよ」 まるで勝ち誇ったかのように、女は笑う。 「ここには今、うそつきは一人もいないのよ……あなたを除いてはね」 警報が鳴り始める。 部屋に二人の男が入ってきて、リョウを取りおさえる。 (この、腕章、は) 国家警察の、菊の。 暴れる間もなく口元にスプレーを吹きかけられ、リョウの意識は急速に遠のいていった。 『……繰り返します。脱走者S-五〇ニ三は無事捕獲されました。特別作業に当たっていた部隊は速やかに任務を解除の後、通常業務につくよう……』 「ああ、おまえ目が覚めたのか」 恰幅のいい中年がパイプ椅子に座っている。 リョウのよく行く玩具屋の親父に、ちょっと似ている。 手足の鎖が食い込んで痛い。 頭はズキズキするし、目もチカチカしている。 「脱走したのにここへ戻ってくるなんざ、正気の沙汰じゃないわな。まあ、今後はおとなしくしてろ」 「ここって何なんだ!? 俺はこんなところに来たことは一度も」 「大きな声を出すな」 首をぐっ、と深くつかまれる。 間近でみると、男の顔や首には深い傷がいくつもついていた。 「誰がなんと言おうと、おまえは今日から『うそつき』S-五〇ニ三だ。この療養所で罪を償え」 たとえ、お前が「身代わり」でもな。 聞こえるか、聞こえないかのボリュームで囁かれた最後の一言は、リョウを充分に動揺させた。 (身代わり!? 俺が、一体誰の何の罪を償うっていうんだ!?) 腕には二重に嵌められた、大きな手錠。 銀色に輝くそれは、薄暗い牢の中であってもリョウの顔を映し出す。 リョウは自分の姿にぎょっとして叫ぶ。 「赤い瞳……!!」 「そこには管理ナンバーが刻んである。お前がこの牢から出ることは、一生許されない」 リョウは男の話など聞いていなかった。 歯が、うるさいくらいにガチガチ鳴っている。 座り込んだセメントの床は、リョウに無機質な冷たさしか伝えてこない。 もう一度、手錠を顔の近くに寄せる。 こちらを見つめるその赤が、にっ、と笑いにゆがんだ気がした。 こらえきれず、リョウは悲鳴をあげた。
俺にとって今すぐにでも棄てなければならないものが見つかった。「後で」というのは俺の悪い癖だが、今は多分そんな事を言っている暇はなさそうだった。今棄ててしまわなければ、絶対に俺は手放せなくなるからだ。 出会った頃の香枝には、女らしさなんてほとんど感じられなかった。男にとってはそれだけ近寄り易い存在だったのかもしれないが、とにかく香枝は身体に無駄な肉なんて付いていなくて、そのくせ女子に見られる柔和さなんてものがなかった。ただ、顔だけはちゃんと女だったのは否定出来ない。俺はそんな香枝と他の男子よりも格段に仲が良かった。 いつだっただろうか。高校を卒業してすぐに、香枝が精神病院に入院したと聞いたのは。その時俺はもう大学生だった。何でも高校を通して付き合って、卒業後結婚の約束までしていた男が卒業と同時に音信不通になったらしい。俺はその話を聞いた時よくある話じゃないかと思った。しかしそんな理由で香枝は幾度も自殺を図ったと知り、香枝のそいつへの想いの深さを感じた。俺と香枝は中学卒業後ほとんどメールで話すだけだったが、お互いの人柄が出会った頃と変わっていないという事位しか理解出来ていなかった。俺はそんな男の事を香枝から一度だって知らされていなかったのだ。 俺は休日を使って、香枝の見舞いに行く事にした。中学以来顔を合わせていなかった為、不謹慎にも僅かに気分が高潮していた。 病院に来るのは久し振りだった。元々俺は健康がとりえの人間で、外科や内科にもなかなか訪れる事はなかった。精神病院なんてもっての他だ。確か前に病院に来たのは妹が酷い熱を出して入院した時だったと思う。 病室を聞き出してそこへ向かっていると様々な患者が目に入ったが、思っていたよりも普通の病院と変わらないようだ。症状の酷い患者は隔離してあると話に聞いてはいたのでそんなに心配する事もなかったのだが、どうも精神病院に入院した事のない者としては偏見を持ってしまうようだ。 「香枝?入るぞ。」 香枝の病室は個室だった。冬だというのに窓が開いていて、白いカーテンが小刻みに揺れている。俺は驚いて、急いで窓を閉めた。香枝は薄着一枚でベッドに座っていて、反応を示さない。 「香枝?」 顔を覗き込むと、香枝は小さく目を見開いて、すぐに微笑んだ。その微笑が限りなく女性的な儚さを含んでいて、俺は少し気まずくなった。 「久し振り。元気だった?」 ずいぶんと身体は成長しているつもりなのに、香枝はすぐに俺だと解ったようだ。所詮面影というものは拭い去れないものなのだろうか。 俺と香枝はしばらく朗らかに話していた。そこには全く昔と変わらない快活な香枝が居て、俺はひっそりと目を伏せた。香枝は色々な事を話した。精神病院と言っても、患者さん達はとても親切だという事。入るまでは不安だったが、入ってみるとそうでもなかったという事。しかしそれらは全て入院動機には含まれなかった。俺は思い切って聞いてみた。 「なあ。付き合ってた奴の事、そんなに好きだったのか?」 香枝は一瞬びくっと身を震わせたように見えたが、静かに悲哀に満ちた顔をした。そして落ち着いた声で言った。 「……うん。」 俺は「そうか」としか言えなかった。 「だってね。彼の傍が一番落ち着いたのよ。」 様々な所でよく聞く文句だなと思った。そいつが香枝に何をしてやったか知らないが、なぜかいけすかないと思った。 「絶対この人はあたしの傍に居てくれるって、そういう安心感があの人にはあったの。」 安心感だけ与えても、行動が付いていかないんじゃどうしようもないなと思った。結局そいつは香枝を泣かせた事に変わりはないのだ。 「それで?お前はどこぞでよく聞く永遠なんてもんに憧れてるわけか。」 どう聞いても皮肉ったらしい俺の言葉に、香枝はいささか気分を害したようだったが、曖昧に「そうかもね」と答えた。 「だってそういうのってありえないって言うけど、あたしは絶対に信じてたもの。中学の時位から。ううん、小さい頃のお伽ばなしまで換算したらもっともっと前からかもしれないけど。」 俺はその言葉に毒でも吐きかけてやりたくなった。大人になりきれていない香枝の思考にはもう慣れているし、別に俺も嫌いではない。しかし、そのお伽ばなしのお相手が得体の知れない香枝の昔の男だという事に無償に腹が立った。 「人間の命が永遠じゃないのに、永遠の愛なんてあるもんか。」 俺は更に毒づいた。とにかく香枝の考えをまっこうから否定したい気分だった。俺の言葉を聞いて、間もなく香枝がしかめっ面をしたが、そんな事はどうでも良かった。香枝ももう言い返す気もなくなったらしく黙り込んでしまったが、何となく俺がどんな男だったのか追及すると香枝は渋々ではあるが話し始めた。告白したのは向こうからだったけど自分も密かに気になっていたとか、最初から最後まで優しかっただとか。俺は黙って聞いていたが、それはまさにどこかの少女漫画のような恋愛だった。読んだ事はなかったものの、多分こんな感じだろうというような気がした。とにかく、そいつの言葉は全部作り物のように出来すぎていて、俺から言わせれば嘘っぽい。普段男がなかなか口にしないような言葉をさらりと言ってのけるような男は、創造された世界にだけ存在していて欲しいと思った。まあ二次元の男や芸能人に憧れるような女は多々居るのかもしれないが。とりあえず俺はその男の話を聞きながら、今すぐそいつを殺してやりたい気分に駆られた。何で身近に男は居るのに、香枝はそんな男にひっかかったのだろう。そしてどうしてその男が俺でなかったのだろうと思っている自分に, 「とにかくあたしは、一生傍に居てくれるような人がいいの。」 そう言って香枝は、まっすぐに俺を見た。挑発しているような目ではなかったが、確実に俺を責めているのが解った。中学時代、俺達には多分恋愛感情なんて存在しなかった。しかしその中で、確かに互いに何かが通じた瞬間はあったのだと思う。ただきっとその感情を理解していなかったのもあるし、行動に移す勇気もなかった。だから今俺達は、互いに責め合っているに違いないのだ。 「清治は、一生傍に居てくれる?」 俺に香枝が求めているような安心感は一切ないと解ってはいたが、どうしても俺はこいつを棄てられないなと感じた。二人の間に溜まっている沈黙が、二人の周囲に散乱して飛び跳ねているようだ。声が出そうで出ないような状態になっている。俺はきっと香枝が欲しがっているようなものは何一つ与えてやれないと解っていたので、こいつを早く棄ててやった方がいい事は解っている。しかしそれでまた香枝が絶望するのかと思うといたたまれない。 「……考えといてやる。」 不遜な言葉で曖昧に答えると、俺は「また来るから、じゃあな。」と言って病室を出た。今度来る時までに答えを出しておこうと思う。ああ、俺はまた「後で」に頼ってしまった。病室を出る時に、香枝がため息をつくのが聞こえた。 俺が言葉を放った瞬間に、散乱していた沈黙が一気に跳躍した気がした。 ○作者附記:精神病院の情報についてはほとんど想像です。ご了承ください。
「会いたい」以外に言葉が浮かばない こんなメールばかりじゃ、あなたが困るのはわかっている だけど 他になにも浮かばない いつからか 君からのメールが、いつも悲しい色をしていた 前はあんなに明るかったのに 僕が そうさせてしまったのだろうか はじめは、本当に軽い気持ちだった。テレビのニュースやドラマでよく耳にする、『メル友』ってやつが私も欲しかった。お互いの顔も知らなければ、年も、性別も、さまざまな人と関わることができる。それは友達とも家族とも違って、顔が見えないからこそなんでも話せると思った。 「はじめまして。私は神奈川県の15歳の女です。音楽が好きです。男女問わずメル友募集してます♪」 掲示板に書き込んだ。翌日から、何通もメールが届いた。 その中に、あなたがいた。 同級生だったこともあり、私は返信した。あなたからの返事はとても好意的で、すぐに仲良くなった。 どんな曲をよく聴くの?受験勉強はどう?学校楽しい? くだらない話から、悩みまで、なんでも話した。 そんなある日、あなたからの告白。 もちろん私はOKした。 だけど、翌日友達に報告したら、だまされてるとか、遠距離だからやめなとか、みんなに反対された。 それでも別れたいなんて思わなかった。あなたが大好きなのは、本当だから。 学校で友達にメル友の良さを自慢された。くやしくなった僕は、早速家に帰ってメル友募集の掲示板をのぞいた。その中に、たまたま同級生の女の子がいたから、メールを送ってみた。 それが、君だった。 「はじめまして。僕は北海道の中三です。僕も音楽が好きなので、よかったらメル友になってください。」 十分後、返事が来た。君とする話は地元の友達とは違い、新鮮だった。よく話してみると、同じ歌手が好きだったり、いろいろ共通点が見つかって、仲良くなった。君はなんでも話してくれたから、僕もなんでも話ができた。 気づいたときには、君のことばかり考えていた。メールの返事が遅れると、嫌われてしまったのか不安になり、朝起きたとき君からのメールがあると、その日は一日機嫌が良かったり。 告白しようと思い立ってから、メールを送るまで三日かかった。 一度打ってみては、なんだか違うような気がして。こんなに悩んだのは初めてかもしれないほど。 結局、「好き。付き合ってほしい。」とひどく淡白な文になった。 君からOKの返事が来たときは、つい声を上げて喜んでしまった。 だけど、学校で自慢したら、みんなにバカにされた。 相手はネカマだとか、おばさんだとか、冗談だとか。 でも僕は気にしなかった。僕が君を好きなのは真実だから。 初めての電話は、緊張してあまり覚えていない。 ただ、あなたの声がひどく優しかったことだけ覚えている。 初めて君の写真が届いたとき、ファイルを開くまでにひどく時間がかかった。 恥ずかしそうに笑う君が可愛くて、すぐに保存した。 ―――いつからこうなったんだろう 前は、メールが一通くれば、五分声が聞ければ、それだけで幸せだった。 だけど日に日に心は貪欲になり、もっと、もっと、満足できなくなっていった。 大好きなあなたに、ワガママなんて言いたくないのに。 メールの返事が遅い。以前なら「部活が忙しい」とか、「今ご飯なんだな」と思えたのに、今では「誰かと一緒なんじゃないか」などと、君を疑ってしまう。 大好きな君を、信じていたいのに。 「会いたいな・・・」 電話越しの君が、小さく呟く。それが何より悲しかった。 「お金ためて会いに行くよ」 あなたの優しさは嬉しかった。だけど無理なことはわかっていた。 ねぇ、私が彼女でいいことあった? ねぇ、後悔していない? なんだか最近悲しくなるだけなの。 なぁ、僕よりいいやついる? なぁ、傍にいれなくてごめん。 なんだか最近不安になるだけだ。 「別れよう」 このメールを送るまでに一週間かかった。 泣きそうな顔をする君が頭に浮かんで、打っては消し、打っては消し、その繰り返し。 それでもやっぱり送ったのは、僕のせいで君が悲しんでいると思ったから。 たった、四文字で、終わってしまった。 私は、嫌われてしまったのだろうか。それとも、最初からそんなキモチだったのだろうか。 泣いた。 泣いた。 それでも「うん」と返事したのは、あなたを困らせたくなかったから。 どうして、今出会ってしまったのか。 いっそ、会わなければよかった、なんて思わないけど。 どうして、後三年・五年、遅く会わなかったのか。 初めて、「早く大人になりたい」と思った。 お金も、自由も、勇気も、すべて欲しい。 弱虫な自分が嫌いだ。 どうして、大人は信じてくれないのか。 たしかに、僕たちはまだ子供だけど。 この気持ちは、真剣なのに。 会いに行きたい。お金が欲しい。 なんて お金を盗む勇気もない そんな自分が嫌で 情けなくて 君との日々が嘘になってしまう気がして でも、いつか、君に会いに行く 想いが真剣だったことを、伝えに ○作者附記:ずいぶん短くなってしまいました。 ほぼ実話です