もうすぐ、蒼芽が芽を吹いて若葉の時期が来る。
まるで、私達みたいだね。
イイ意味でも、悪い意味でも若すぎる。
「付き合って…、欲しいんだけど…」
金谷君にいきなりそう言われたのは、まだ4月も中頃の事だった。
私は、高校生活を入ったばかりなのにもうエンジョイしてるんだなって、人事みたいに思いながら、黙ってしまった。
答えられなかった。
でも、だ。実は、の話。
私は、金谷君のことが好きだった。
誰にも打ち明けたことはなかったし、金谷君とは少ししか話したことなかったし。
それでも、金谷君の他とは毛並みの違う雰囲気は、いつも私をドキドキさせた。
その金谷君が、金谷君が。
よりにもよって、どうして私なんかに告るのだろう?
とにかく、どうにか答えなきゃと思うのだけど、イイ返事を探している内に、思考は他のところへ脱線していく。
それに、これはOKすべきなのか?
金谷君は私が好きで?私は金谷君が好き。これは両思い。
ってコトは、OKすれば付き合うってことになる。
でも、それって具体的にどんなこと?
うーん…。わかんない。
その様に、私が考え込んで黙っているうちに、女の笑い声が近づいてくる。
ヤバイ!!人が来る!
そう思った瞬間、私は。
「ごめんなさい!!」
そう、心にもない事を口走っていた。
今思っても、何でそんな事いったのか、何でそんな行動に出たのか。
後悔が募るばかりだけど。
その後、私は。
金谷君の顔なんか、まともに見られずに、一目散に二人きりの教室を出て、さっきの笑い声の女達とぶつかりながら、何とか階段まで逃げ切ったんだ。
金谷君の顔、見なかったはずなのに、金谷君の悲しい顔が目の前を横切った。
その金谷君の残像を見て、自分の仕出かした事の大きさを、やっと自覚した。
恥かしさ(?)の余りとはいえ、何て事をしたんだろう?私。
きっと、金谷君も傷ついたハズだ。
もしかしたら、金谷君に嫌われるかもしれない。
もう、話してくれないかもしれない。
何より、何よりも。
もう金谷君を好きではいられなくなる。
…こんなに、好きなのに…?
自分さえ知らなかった自分の気持ちまで、どんどん溢れてくる。
でも、どうしよう。もう後戻りはできない。
今戻ったって、金谷君にしては迷惑な話。
どうしよう。とんでもなくジレンマに襲われる。
それに、後悔の冷たい雨が、体を中から冷やしていた。
その時ふと自分の目の前に、階段が続いているのに気が付いた。
延々と続く下りの階段。ここを転がれば、少しは痛いだろうか。
今はどうしても、自分に鞭を打ちたい気分でいっぱいだった。
恥かしいって感情だけで、あんな行動に出てしまう自分が憎い。
いっそ、世の中から消えてしまいたかった。
どうして自分は、こうなのだろう。
こうも打算的で、物をすぐに言うことが出来ないんだろう。
伝えたいことを、きつんと伝えられないのだろう。
自分の気持ちに、素直でいないんだろう。
とりあえず、その場は少しでも落ち着いて、階段を転がらず、きちんを下りた。
金谷君には、時が経ってから、誤解だったと言おう、と。
でも、この時の自分がどんなに愚かだったか。
気付ければ、どんなに良かっただろうと思った。
何度も思った。
次の日から、金谷君は私を避けるようになった。
そりゃ、当たり前だ。
告った女の近くになんか、いたくないんだろう。
しかも私は、間違えとはいえ、フッてしまったのだし。
でも、今までそんなに遠く感じなかった金谷君との距離が、まるで次元が違うとでも言うように、すごい遠いものになってしまった。
時間が経てば経つにつれ、それを思わされた。
幾ら手を伸ばしたところで、届きやしない。
どんどん遠ざかって、やがて見えなくなってしまいそう。
私の知らない金谷君が、また一層増えていく。
そして友達から、「金谷って彼女いるんだって」と聞かされた時、私は。
涙を、流した。
生まれて数回しか流したことのない涙の内の1回だ。
私は、もともと泣かない子で、親にも気味悪がられたほどだ。
そんな私なのに、この時、ほろりと涙を流した。
止まらなくて、友達はワタワタしていた。
それでも、私の涙は止まる所を知らず、とめどなく私の頬の上を、滑っていった。
教室の窓から見えるナラの木は、もうすぐ青葉が茂りそうだ。
その、つき始めた若い葉を見ながら。
私は自分をそれに重ねたりする。
何て、青いのだろう。
何て、若いのだろう。
何て、愚かなんだろう。
若さだね、若さだね。
でもね、あまりに若すぎて、時々道を踏み間違ってしまう。
若すぎて、自分の気持ちも、相手の気持ちも見えない時がある。
若すぎて、タイミングを踏み外してしまう時が有る。
愚かな若さ。もっと大人になりたいよ。
でもね、私。
今まで散々「若さ」に後悔させられてきたけど。
あと、1回「若さ」に見を任せてみようと思うんだ。
例え、後悔しても。例え、傷ついても。
大人になる前の、若い私達にしか出来ないことを。
1歩1歩前に踏み出して。教室への距離を縮めて。
今度は、私から金谷君へ告ってやるんだ。
私の葉は、まだ芽を吹いたばかりで。
これから、枯れるかもしれない。落ちるかもしれない。
だけど、今は若いのを気取ってみるのもいいかな。
私達はまだ、若葉の頃なんだし。