| エントリ1
ピーター パンッ・・・
歌羽深空
すぱんっ・・・
何かの音がした。
それは空気の抜ける音のような気もするし、
自分の中で何かが切れたような音のような気もしたし、
鼓膜の切れた後の耳のような感じすらした。
最近気づいたことは、自分の後ろに影の無い事。
大人になんてなりたくないと、家を抜け出して
”ピーターパン”になったのに。
段々と子供のままでいる事にも飽きてきた。
たしかにあっちの世界では体は大人にならない。
けれど、心は確実に歳を取るんだ。
一度家に戻ったら、もう誰もいなかった。
蜘蛛の巣は張り、俺が抜け出した鉄格子は錆びていた。
俺の影は、いつのまにかまた逃げ出してネバーランドの”俺”になった。
あいつは、フックに成り代わって海賊の頭になったらしい。
ティンクは、俺が連れてきた子供に羽をもぎ取られ、死んでしまった。
もういやだ。いやだ。
そして戻ってきた俺。
しかし、緑の服、羽をつけた帽子のまま立つ俺に周囲は騒ぎ出し。
警察につかまり・・・ここにいる。
「君は・・・名前、なんていうんだい?」
「ピーターパン。」
「名前は?」
「ピーターパン。」
今俺は、白い壁の中にいる。
精神病院・・・というところ。
すぱんと、音がした。
何の音?
・・・嗚呼、俺が暴れて撃たれた音だ。
エントリ2
雪の輪舞
相川拓也
夜遅く目覚めた少女は、ほの明るく白んだ窓の外を見た。外は、雪。ガス燈の暖色に、遠くの家々、教会、浮かぶ。静かに雪が降りてくる。
地上に舞い降りた雪はふわり起き上がる。ちらちら、輪舞。光が飛び交って、雪の結晶たちは次々に姿を変える。白く光る、眠りの街、窓ガラスを通って、踊る雪、少女の眼に映る。踊り手一人出て、華麗な舞を見せる。
哀しき舞、ひたぶるに移りゆく。音もなく、雪の輪舞は広がる。空からは、ただしんしんと白い花びらが降る。暖炉の消えた暗い部屋の中、一人少女の顔が、雪の明かりに照らされる。幻のような、冷たい舞、くり返す。時に静まり、時に昂じて。
空仄かに明るむ。空は雲に覆われて灰色。淡々、雪は降りつもる。輪舞は続く。冷たくひそやかに、雪たちが舞い踊る。ひんやりと凍ったガラスに、少女の暖かな白い息がふきかかる。瞳に映るは、儚き雪たち。
雪がやむ。
白い夜明け。輪舞は終わりを迎える。鳥の乾いた翼の音が聞こえてくる。部屋に光が入って、静かに明るさが増してゆく。教会の朝の鐘がおぼろげに響く。白い街。
踊り手たちは、白い舞台に伏す。だんだんと形を失って、消える。瞳の中で、残酷に演じられる終局。
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