| エントリ1 QWERTY(伊呂波)
歌羽深空
ひっくり返る展開。落ちていく身体。
これは夢だと信じたい。
天井は、茶色の正方形の網目。
原稿用紙の裏側か?
そう納得などできる筈もなく。
第一、原稿用紙と自分とじゃあ、大きさの差がありすぎる。
・・・出られるところも見当たらない故、
只、単調に繰り返されていく万年筆の動きを追う。
文字が見える。
あら、原稿用紙の確立、10割だ。
突然ビリビリと剥がされる原稿用紙。
丸められる、捨てられる。
別に体に異変はないが。
優しく投げてくれ、中にいるのも知らないで。
ふん。
ああ、鼻紙と一緒。
ピーンポーン
チャイムの音。
袋に詰められる。
ぎゅうぎゅう、きついんだから。
そして運び込まれる、車の中へ。
向かうはそう、煙突のある・・
嗚呼、成る程ね。ゴミの焼き場火葬場というわけか。
燃えていく、燃えていく(一応)我が同胞たち。
もしかして我、紙の精?
まさか。
こんな理論的な精など、いやしない。
ああ、でも原稿用紙だからなあ・・・。
一瞬
暗転。
煙が、見える
ジリリと鳴って飛び跳ねる。
嗚呼、休憩終わりか大変だ。
急がなくては、怒られる。減給だ。
持ち場につき、焼却炉の中に街の汚物を投げ入れる。
私は今・・・忙しいんだ。
炎の中で、焦げた原稿用紙がひらりと舞った。
エントリ2 心のすみで恋をする ユタ
僕の下駄箱は五列目の三段目だ。そして僕は故意に――いや、恋に!――下駄箱を間違う。隣りの列の三段目、そこが彼女の下駄箱だ。
彼女はバスケ部だ。まだ部活でがんばっているのであろう、女の子には似つかないナイキのスポーツシューズがかかとを向けて置かれてある。それだけで僕はたまらなく幸せになる。街頭で有名人に会うような。
僕は彼女の靴を触ることなく下駄箱を閉めた。首を回し、ため息を吐いた。
今日も僕は六列目の下駄箱を開ける。ある。ゆっくり息を吸いこんだ。僕は下駄箱を開けるという行為に慣れていてしまった。手袋を着けたり外したりしながら、気がつけばすぐそこに足音があった。足音は下駄箱の角を曲がり、僕と目があった。彼女だった。慌てて、本当に手袋を着けた。もしものときの言葉がなかなか出てこない。言え、言うんだ。
「下駄箱間違っちゃった」
驚くほどぎこちなかった。僕は自分の下駄箱を開けようとした。しかし手袋のままでは開けづらく、それはまるでそのことに慣れていないかのように思えた。
僕が戸惑っていると、彼女は唐突に言った。
「奇遇ね。私もよく間違うの」
彼女は僕の下駄箱をなんなく開けて、微笑んだ。
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