QBOOKSトップ

第7回中高生500字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1シュガー・テイストゑみりぃ458
2境内の夕暮れ芦野 前500
3飛行機雲。499
4博士と角歌羽深空500
5心地良い、----。唯那685
6アンダンテ葉月繭500


バトル開始後の訂正・修正は受け付けません。




エントリ1  シュガー・テイスト     ゑみりぃ


似ていた。本当に似ていた。
この味はあれだ。
うん、あの味に限りなく似たこの味。
幼い頃。
父とのドライブ中。
途中で寄ったガソリンスタンドの休憩室で、
父が入れてくれたセルフサービスのコーヒー。
まだ子供の私だから、
砂糖とミルクをたっぷり入れてくれた。
ちょっと冷ましてくれたりもした。
でもあれは正直・・・不味かった。
甘ったるくて。しかもぬるくて。
ちょっと車に酔っていたのも手伝って、
本当に最悪だった。
でも折角入れてくれたんだし、
なんて情けもかけられないくらい。
少し飲んで、たくさん残した。
「不味い」
とはさすがに言わなかった。
言えなかった。遠慮してた。
まだ子供の私のくせに。
でも、あれからだよ。
ブラック以外のコーヒーが飲めなくなったのは。
砂糖もミルクも入れずにコーヒーを飲む私を見て、
父は驚く。まだ子供の私だから。
“あんたのせいだよ”
心の中で毒づきながら、
それでもあのコーヒーの味が忘れられないのは、
まだ子供の私だから?

ぬるくなったココアを前に、
粉を多めに入れすぎた、
自分で作ったココアを前に思うこと。

私にまだコーヒーは作れない。





エントリ2  境内の夕暮れ     芦野 前


(何やってんだよ)
 和也はイライラしながら時計を見る。
 浩美はまだ現われない。
 和也だって特に時間にうるさいというわけではない。
 待ち合わせ場所の神社に着いたのだって五時ちょうどで、浩美が先に来ているかもしれないと焦ったくらいだ。
(普段遅刻なんてしないないのにな)
 和也はもう一度時計を見た。
 約束の時間は三十分ほど過ぎている。
 その時、とんとん、と誰かが肩を叩いた。
(あーあ、やっと来たか)
 苦笑しながら振り向く。
 和也が最後に見たのは、目を見開いて笑う子供の顔と、傾いてゆく神社の景色だった。

 夕食の買い物をしてきたのだろう、親子が仲良く手をつないで帰っている。
「この神社はね、一人で遊んじゃだめよ?」
「なんでー?」
「昔ここで死んじゃった子供が寂しくて、肩を叩いて振り返ってくれた子を連れて行っちゃうんだって」
 子供は笑って言う。
「ママ、今どきそんなの私だって怖がんないよ」
 ふと子供が鳥居の方を見上げる。
「でも、さっきここにいたお姉ちゃん、いなくなっちゃったね」
「おしゃれしてたからきっと、男の子が迎えにきたんでしょう。今ごろ仲良く一緒にいるわよ」
 二人が去り、神社は薄暗い闇に包まれていった。





エントリ3  飛行機雲。     音


 五月の或る日。空は透き通りそうなほどに蒼かった。
俺は授業に出ずに、学校の屋上にいた。
「藤宮!」
 背後で屋上の扉が開く音と同時に、俺の名前を呼ぶ声がした。
その声には怒りが含まれている。俺は驚いて振り向いた。
「なっ、裕子……」
「なっ、じゃないわよ莫迦。さっさと教室戻りなさいよ」
「めんどい……」
「良いからさっさと…………あ」
 云いながら、裕子が空を見上げた。つられて俺も空を見る。
 そこには、真っ白な一筋の飛行機雲。青い空に良く映えている。
 裕子はそれを見ながら、哀しそうに顔を歪めた。
「莫迦、感傷に浸ってんじゃねぇよ」
「……だって、仕方無いじゃん……」
 裕子の瞳が、揺らいだ。
「あいつは確かに飛行機事故で死んだけど……だからって
飛行機だの飛行機雲だの見るたびに哀しんでどうすんだよ。
……俺、教室戻るから」
 そう云って、裕子を一人屋上に残し校舎内に入った。
ひやりとした空気が体を包む。階段を降りずに、その場に崩れ落ちた。
扉越しに、裕子の泣き声が聞こえた。
 裕子は未だ、あいつの死を引き摺っている。

 気付くと、自分の頬も濡れていた。
 俺も未だ、あいつの死を引き摺っているのだと、そのとき初めて気付いた。






エントリ4  博士と角     歌羽深空


一人の博士が地球から初めてモル星へやってきて、驚いた。
何しろ、迎えてくれる人々全てに、角があったのだから。
博士は、最初鬼の大群が攻めてきたのかと思った位だった。
多分他の地球人が見ても、電波塔だとか角だと言うだろう。

「なぜ、あなた方にはそのような角のようなものがあるのですか?」
博士がそう聞くと、モル星人の一人がこう答えた。
「それはお教えできませんが、これは大事なものである事は確かなのです。」

不思議がりながら、周りをもう一度見回すと、やはり全員角をもっている。
色々な星を見てきたが、こんな星も珍しい、と博士は思った。

とにかく、目的は交流である。
交流の印に、と博士はモル星人に、記念品を渡した。

しかし、急にモル星人達の顔色が変わった。
「この生物はなんという事をしているのですか!」
モル星人の指の先には動物図鑑の中で美味しそうに笹を食べるパンダの姿。

息を飲んで、もう一度博士は辺りを見回してみた。
すると、今までは気づかなかったが
あちらこちらに竹が生えており、その下には恐らくモル星人だと思われる骨が……。

「この星の土では、この植物が育ち難いのです。
ですから、生まれた時から頭に植え、育てているんですよ。」





エントリ5  心地良い、----。     唯那


しゅっしゅっ

まだ誰もいない教室の中で消臭剤をかける。
『さわやかな空色香り あなたもほら−爽やか気分−』
・・・一体何なんだ、この適当なネーミングは。

何で消臭剤なんかを私が持ってきてるかと言うと。

学校の匂いが大嫌いだからだ。
冷たい匂いがする。
寂しいし、息苦しいとも感じる。

しゅしゅっっ

机の間をすり抜けながら床にも天井にも、窓にも吹きかけていく。
吹き出る空色匂いの飛沫の中を、窓から差し込む光が通り抜けてまるでこの狭い箱の中だけが天国みたいだった。

この瞬間の空間は私だけのものだ

たったった

階段を上る音が聞こえる。
思わず消臭剤をカバンの中に隠して窓を開けた。
薄く薄く空気を伸ばしていく風が、私の天国を侵していくようで少し嫌な気分になった。

がららっ

「あっ、おはよ〜。今日も早いね」
私は無表情のまま、黙って頷いた。
彼女はいつも私の次に早くこの教室に入ってくる。
そして私に挨拶をしてカバンを置くと、いつもすぐ教室を出て行ってしまう。
今日も----。

「あれ?何か今日の教室、」
ふっ、と私の顔は彼女の方に向けられた。
「晴れてるからかな・・・風の所為? ううん・・・ 空気かな?
でもなんか、すごく居心地良くない?」

がらら、ピシャっ。
にこっ、と整った顔を綻ばせて一言、彼女は言った。
それだけ言って返事も聞かずに、この心地よい箱の中から出て行ったのだ。

少し、今日は暖かい。顔も火照っているような感覚がある。

「居心地イイ、か・・・。」

この心地よさを一人占めしていた自分のあの感情は、
消臭剤の適当なネーミングに似たようなモノだったのかもしれない。

窓から校庭に向けて思い切り空色の香りをしゅっ、と吹いた。





エントリ6  アンダンテ     葉月繭


しまった。何だって私はこんな時間にこんな場所に来てしまったのだろう。


「あれ? もしかして委員長?」


後ろからそう声を掛けられて、危うく心臓が飛び出るところだった。


「……さ、佐藤君?」
「当たり。ってかこんな時間にこんな場所で何してんの?」
「さ、さぁ?」
「さぁ、って」


もう辺りはとっくに暗くなっている時間で、そんな時間帯に制服姿でゲームセンターをうろついている私はとても目立っている訳で。
塾を親に内緒でサボり、その反発心故にいつもと違う格好をしている私と偶然出会ってしまったクラスメイトの佐藤恭一君は、不思議そうな顔をして私のことを見てきた。


「何か委員長、学校に居る時とは随分格好が違うね」
「そ、そうかしら?」
「うん。いつも委員長、引っ詰めおさげに黒縁眼鏡に膝下スカートでしょ? 今日は全然違うからビックリした」
「……変かしら。私がコンタクトに膝上スカートなんて」
「似合うと思うけど? 俺はそっちの方が好み」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして、林田小春さん」
「え? 何で名前」
「何言ってんの? クラスメイトじゃん」
「はぁ」


そう言うと、佐藤君は笑った。
私は、明日からこの格好で学校に行ってみようかと思った。