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第8回中高生500字小説バトル

エントリ 作品 作者 文字数
1浮遊人佐々木洋美500
2teenager葉月繭500
3それは素敵の始まり藤筆507
4ジェットコースター人生歌羽深空500
5永遠に…。雪雀500
6白い花5500


バトル開始後の訂正・修正は受け付けません。




エントリ1  浮遊人     佐々木洋美


 私は空を飛べる。その能力で、私は様々な国の上空を飛び回っていた。ある日私はある島国へとたどり着いた。その島国は、どこか暗かった。時々爆弾や火のついた枝なんかが落ちてくる。その度に島国はボロボロになった。私は今日もその島国を観察している。島国からは生への執念、そんなものが私には感じられた。壊れては復興し、壊れては復興し…、そんなことばかりを続けているからだ。
 しばらく空を浮遊していると、飛行機が私の近くの上空を飛んでいった。
「また、爆弾を落とすのかな」
 私は言った。正直、爆弾を避けるのは楽じゃない。一つ一つ連続して落ちてくるから、うまく避けられないのだ。そんな中今まで生きてきたのは、奇跡と言えるだろう。だから私は、今日あたりでそろそろこの島国から離れようと思っていた。
 私が色々と考えていると、先ほど飛んでいった飛行機が爆弾を落とした。今までと違って、たった一つだけ。しかも今までの爆弾より、少し大きかった。
 爆弾は地に着いた。それと共に起爆。大きな爆音と共に、閃光と熱気が私に降りかかった。私は、自分の体が溶けていくのを感じた。
 ああ……、私は死ぬのか。
 それから私は、空を飛べなくなった。







エントリ2  teenager     葉月繭


「ただいま」と家のドアを開けると笑顔で迎えてくれる母親が居て、居間には大好きなシチューの匂いが漂っている。そんなごく当たり前の風景が、イライラの対象に変わったのはいつ頃からだろう。少なくとも、3年前……私の本当の母親が生きていた時には、こんな感情に襲われることなんて無かったのに。

母親が死んでからやってきた若い女は、とにかく全てがカンに触った。その中でも特に気に入らないのは笑い方で、媚びるような笑顔を見るたびに彼女を蹴ってやりたくなった。


「おかえりなさい、美鈴ちゃん。ご飯出来てるわよ」
「要らない。今日はもう寝るから邪魔しないで」


わざと大きな音をたてて自分の部屋のドアを閉める。鍵をかけて電気もつけずに、暗い部屋の隅で体育座りをして、ただひたすらに時間を過ごした。今日は、いつも階下から聞こえてくるあの女のすすり泣きは無い。

やがて父親が仕事から帰ってくると、あの女が嬉しそうに「赤ちゃんが出来たの」と報告するのが聞こえた。いよいよ来たか、と私は身を強張らせる。やがて生まれてくる赤ん坊が、憎くて憎くてたまらなかった。今から下に行ってあの女のお腹を蹴り続ければ赤ん坊は死ぬだろうか、とほんやり考えた。







エントリ3  それは素敵の始まり     藤筆


 素敵な恋はいつも突然にやって来る
あやはいつもそう思っていた。あやは部活引退後、勉強をしながら部活に行っている友達を待っていた。
いつものように窓の外を眺めながら。テニスコートに目を向けた。パコーン、パコーンと、良い音が聞こえる。
あやはその音を聞きながら愛しい人の方に目を向けた。
テニス部エース、木下。頑張ってるなぁ。それと同時にかっこいいなぁ。と思いながら。すると木下がこちらを向いた。
目が合ってしまった。恥ずかしくなったあやは机の問題集に目を向けた。2.3問といた後にもう一度コートを見てみた。彼の姿はない。
「帰ったのかな…?」
残念に思っていると教室の扉が開いた。
「おい!」
木下だった。あやは驚きを隠せない。さっきまで外にいた彼が今ここにいるのだから。
「お前何してんの?」「玲香待ってるの。部活。」
「お前部活は?」「引退したよ。木下と違って強くないの。」
「…ごめん。偉いな〜。勉強して。」「私たち一応受験生でしょ。…何しに来たの?」
あやがそういうと彼は真剣な表情であやに言った。
「本当は大会で優勝したら言おうと思ってたんだけど…。」今がチャンスだと思って。
「好きだ。」
彼の唇がそう動いた。
あやの元に素敵な恋が舞い降りた。







エントリ4  ジェットコースター人生     歌羽深空


物語の主人公は少し活躍しなきゃ。少し奇跡が起こって後は平坦、なんて事つまらないし。

だから、例えば……そうだ。
東の島国の金、太郎?
まあ、あの話は僕のその精神に反している。
熊と大きな鯉を倒し、それでお侍さんがスカウトにきて、
侍になり、鬼を倒し、裕福になって山にいるお母さんを都へ迎えに行くなんて。
悩む事なんて一つも無い。

だから、主人公なんかがちょっと堕落してくれると良い。
ちょうど、僕のようにね。


「さぁ、過去についたわよ。」
「そうかい。」
「でも、あなたの魂をまた人形の中に入れるのは気が引けるわね。」
「大丈夫。最初は素直な子供を演じてやるよ。もう、19回目だもんな。流石に慣れたよ。」
「やっぱり気が引けるわ!ピノキオに死んだ後のピノキオの魂を入れるだなんて!」
「君の祖母もそう言ったさ。でも、1回生きてみて分かったんだ。鼻も伸びず、一生を木のまま爺と過ごすなんて楽しくない。どうせ同じ未来を作るよりなら、変な人生を何回も生きようって。ジェットコースターに乗るようなもんさ!ジェットコースターは何回乗っても飽きないだろう?」

そして、溜息をつくとピノキオが生き直しをしてから計5代目の新任妖精は、杖を振った。







エントリ5  永遠に…。     雪雀


 果たして、永遠というものに幸せがあるのでしょうか。
 
 隣家との距離が一キロ近くある小さな一軒家。そこに住むのは二十歳前後の、一人の女性。彼女の仕事は、生徒が十数人しかいない、小さな小学校の教師。

 四季を肌で感じることの出来る校庭。青い空を縦横無尽に飛び回る小鳥。そして、いきいきとした命を持つ子供達。
  
 全てが、彼女に一瞬の生を与えてくれた。その時だけ、生きる事が出来た。それだけで良かった。しかし、それだけだった。

 一度家に戻れば、彼女は生きながら、死んだ。どんなに時を生きても、慣れることのない、孤独という、命。

 いつの日だったか。永遠に、などと希望を持っていたのは。永遠に生きる事が出来たら……。そんな想い、愚かだと、気付くべきだった。

 今になってはそれも、後の祭り。辛く、哀しい人生を、送るしかない。どんなに涙を流してみても、それに気付いてくれる人は、誰もいない。
 
 限りを持つからこそ、人は希望を持てる。しかし、それに気付く人は少ない。
イツマデモコノシアワセガツヅケバイイノニー…。
 
 田舎町に暮らす、何の変哲もない、美しくもなく、醜くもない、普通の女性。
 
 普通の彼女が普通ではない。彼女には名前もない。
 
 今も何処かに生きている。そしてこれからも生き続ける。生徒が、皆、死んでしまっても。
 
 永遠を望んだばかりに、ずっと一人で生きる、哀しき女性。







エントリ6  白い花     5


ブルーな日。最高にブルーな日。地面を見ながら歩いていると、あるものを見つけた。

あ!きれいな花!水鳥の羽みたいな白の花びらに、星屑のような黄色の花粉。
半ば、吸いつけられる様にそこへ行くと、
それは、ケシの花だった。
なぜか一輪しか咲いていない。僕はくるりと辺りを見回す。
よし、人は居ない。なぜだか突然にそう思った。
急いで鞄の中から袋を取り出す。(これは朝、パンを買ったときの袋だ。まだ食べかけのパンが残っているけど。)
落ちていた小枝で丁寧に土を掻き分ける。運動会とかで暇なときにやる、棒が倒れないように砂の山を崩していく遊び、あの感覚に似ている。
注意深く土を振るい落とし、茎が折れないように気をつけながら、僕は花を鞄に入れた。

家に帰ると、やっぱりいつもと同じひんやりとした空気が漂っていた。
机には、夕食には十分すぎるほどのお札。
またか、と思いながらもそれを手にし、二階へ上がる。
今日はなんだか心が躍る。
別に麻薬とか、覚醒剤とか、阿片とか、そんなものに興味は無いけど。

ただ、持っているだけでいい。

最終兵器を隠し持っている科学者のような、護身用のナイフやスタンガンのような、僕にとってはそれと同じものになった。