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エントリ1
僕と安田とテトリスとアレ。
音
安田は僕の右隣に座ってゲームのコントローラーを弄っている。 目の前の画面には積まれていくブロック。今は僕の方が優勢だ。 「やべぇ、負ける」 危機を感じ始めているらしい安田の焦った顔を見て、僕は安田にバレないようにほくそえんだ。勝ちはもう目に見えている。 しかしそう思った瞬間、僕は信じがたいものを目にした。 「や、安田……!」 「ん?」 僕は思わずコントローラーを落としてしまった。 僕の目に映ったのは、ポテトチップスを食べた手でコントローラーを操作する安田の右手。 今まではポテトチップスの袋が安田の影に有ったので気付かなかった。 「どした、木田」 安田は何食わぬ顔でポテトチップスを食べながらゲームを進めている。 やめろ、その手でコントローラーを弄るな! 油が付くだろうが! せめて自分の服で拭け! 油が付くのは同じだがそのままコントローラーを触られるよりは幾分かマシだ!! 「あ、やった俺の勝ち」 いつの間にか僕のブロックは一番上まで積まれていた。 「……安田テメェ!」 「え、ちょっ、木田、何で怒って……ああっ、逆エビ固めは厭ぁぁっ!!」
ポテトチップスは友情にヒビを入れる恐れがあるので、取り扱いには充分御注意を……
エントリ2
シェスタァ
歌羽深空
「ほら、あーもう、由美ちゃん、早く。」 「イヤったらイヤよ!」
いらないったら、いらないんだから。 あんたなんかいなくたって、わたしたちはいきていけるもんね。 ふん。 にんげんサマのせかいはほんとうにすごいんだからね。 あんたなんかいなくたって、ほんとのほんとうにだいじょうぶなんだから! あんたのかわりもつくれるし、あんたのダメなところぜんぶなおしたモノもつくれるのよ! あんたなんかメじゃないんだからね!
だいいち、あんたよりあのコのほうがよっぽどやくにたつわ! かみをしょりするなんて、ふつうのゲイトウじゃできないもの! あんたはかみなんかしょりできないでしょ!
でも、しかたないからみとめてあげる。 あんたはうまい。 あんたがうまいのは、ニホンのきたのほうもしってるわ。 このわたしもみとめざるをえないわ。 でも、それでいいキにならないことね! いまのあんた、すこしはらがたつのよ! なによ!ジンギスカンって! あーもう、はらがたつ!
「由美ちゃん!由美ちゃん!ヒツジさんに文句言ってないで早く数えなさい!そして、早く寝なさい!明日、動物園にヒツジさん見に行くんでしょう!」 「でも、ママ。私さっきも言ったけどヤギさんの方が好きよ!」
エントリ3
愛しのあなたとカメラ
花村 彩邪
もう高3ともなると考えが変わってきたわ。愛には色々な形があるということ。今までは“本当に好きな人”というのが見つけれなくて随分と悩んだわ。だけど今、やっと“本当に好き”の意味を知ったの。 そうね、もう高3......大人だもの。好きだけじゃやっていけないこと位もう分かったの。それでも今、あなたが隣に黙ってついててくれるのは、お互い頼りになる存在だからよね、きっと。 愛しのあなたと写真を撮る為にカメラを買ったの。だって、好き合ってるもの同士は写真を撮るものでしょう? 思い出として残すよう、それが愛の形なのでしょう? でもあなたとの写真は1〜2枚で良いの。だって、あなたってば同じ顔しかしてくれないんだもの。 そう、私が幼い時から好きだったのかもしれないね。5才かな?初めて出会ったのは。それから何年もの時が経った。ありがとね、そしてこれからもよろしくね...... 現像に出した写真を隣にいる彼と見ながらそう伝えた。写真に写っていたのは数日前の私と黄色い物体。隣にいるのは黄色いキツネのぬいぐるみ... いいえ、愛しのあなた。
だって、“愛ニハ色々ナ形ガアル”のでしょう?
エントリ4
街頭、人の波
相川拓也
くそっ、まただ。ティッシュじゃないと見れば素通りしていきやがってクソババア。あぁ、気に入らね。とっととやめちまうか、こんな仕事。なんかいいのねェかな。……何やってもつまんなかったな。ったく。おい、受け取れよ。何だその目は。ああはなりたくねェとか思ってんじゃねェぞ、ガキが。 あぁ、もう、つまんねェ。何だ、こいつらは。ゾロゾロ歩きやがって。見るな、こっちを。黙って受け取れ。つまらんチラシだと思って受け取ればいい。みじめなチラシ配りの仕事を終わりにさしてやってくれよ。汚い物を見るような眼で見るなよ、なァ。 ……おい。嘘だろ? あれ。人違いだろ、そうだよ、人違いだよ。生きてるはずがねんだから。ましてこんなとこ。なんで近付いて来んだよ。おい……。 「私の孫はどこですか?」 「……」 「私の孫がどこにいるか、御存知ですか?」 「……さ、さァ」 「そうですか……」 マジかよ、おい。人違いであってくれ、人違いのボケた婆さんであってくれよ、頼むから。 「孫は頑張ってますかねェ」 くそォ、何やってんだよ、この婆さんの孫は? なァ。頑張ってんのか? なァ。何がしたいんだよ。どこに向かってる? どこにいるんだ? 俺は。
エントリ5
詐欺
芦野 前
「はい、竹島です」 「お前のジジイは預かった」 「えっ?」 「無事に帰してほしけりゃ500万用意しろ」 ガチャっ ツー・ツー・ツー…… (よし、やった) もう後戻りはできない。 無抵抗の老人を殴り縄でぐるぐる巻きにするのはさすがに良心が痛んだが、こっちは生活がかかっているのだ。 ピリリリリリ! そこへけたたましい携帯の着信音。 「はい」 「あ、もしもし父ちゃん? オレオレ」 (こんなときにオレオレ詐欺かよ) 息子などおらん、と怒声が喉まで出かかって、ふと手元のプリペイド式携帯を見つめる。 (コレ、誘拐のために今日買ったんだよな) 「お前誰だ」 「あら、ばれちゃった」 「今、声変わらなかったか!?」 「そりゃあボイスチェンジャー使ってるし。ちなみに、逆探知で番号は割れてるから」 「ま、待て、サツにしちゃ対応早過ぎるぞ!?」 「あ、うちのおじいちゃん無抵抗な老人のふりして遊んでるだけだと思うけど気をつけてね? 早めに逃げる方が得策だと思うよー」 そこで通話が切れる。 青ざめた男の後ろで、シパーンと縄をしばく音。 迫る影。
電話を置き、徳子はいたずらっぽく微笑む。 (ダメダメ、元警視総監にケンカ売るなんて百年早いわよ……)
エントリ6
納涼
神崎現
九月に入った市民プールはガラ空きで、僕と由希の貸しきりだった。子供のいないプール全面を使って、由希はお得意の潜水ばかりする。僕は彼女が浮かんでくるのを待って、モグラたたきのようにビーチボールを投げつけてばかりいた。 ずいぶん長く泳いで飽きたのか、由希はプールサイドに座った。隣に腰かける。あんまりプールが静かで、場がもたなくて口を開きかけた時、彼女は話しはじめた。 「知ってる? ここ、出るんだって」 「髪が長くて手が青白くて、排水口にいて、引きずりこむ奴?」 「昔、このプールで溺死した女なの」 聞いたことがある。僕は話半分に陽光できらきらする水面を蹴った。残暑はしばらく続きそうだ。飛沫が焼けた肌にここちよくて、僕は熱中しだした。 「その幽霊、今も溺れてるんじゃないかと思うの」 しばらくしてもまだ同じ話だった。 「とっさに他人の足とか掴んで巻き添えにしてるのよ」 呆れてあいづち以外の言葉を発する。 「前に出ちゃダメなんだよね、後ろから助けないと」 「排水口より後ろって、どこかしらね」 由希はおしゃべりにも飽きたようで、水に潜った。僕はビーチボールを構える。 けれども彼女の体はもう、浮かんでこなかった。
エントリ7
夢と…現実?
藤筆
「ねぇ、考えられる?朝起きたら周りはみんな真っ赤で、人間も、犬も、猫もみんな、何かわからないくらい真っ青になってるんだ。」 休み時間、教室の片隅で、裕貴は言った。 「周りは赤と青で染まっている。でも、自分はまだ染まっていない。」 「なに?いきなり。そんな…気持悪いでしょ?考えたくもないよ。」 私は否定した。そんな事があってたまるか。いきなりふざけた質問するなよな、と。 「その赤と青の正体はわかる?」裕貴は私に問いかけた。 「わかるはずないじゃない」その話を聞いていると、寒気がしてきた。 「その正体は赤は人間とか、動物の血の色で、青はもちろん…血を抜かれた姿さ。ただし、青に染まらないのもいる。今まで、自分の限界を何度も見てきた者さ。精神的に強いなら、わざわざ青に染まる必要はないからね。」裕貴は軽快な口調で言った。 「それならあなたも青に染まっているのね?」嫌みで言ったつもりだった。 「もちろん。だから今こうやって君の所に来て助けを求めてる。」 「え…どういうこ」寒気が増してきた。裕貴は私の言葉をふさぐように言った。 「残っているのは君だけなんだ。お願い助」 ここで目が覚めた。私の周りは真っ赤に染まっていた。 青いものもあった。私は青には染まっていなかった。
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