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エントリ01 巻貝の波間に 瓜生遼子
女がいた。
と言っても世界の半分は女だから、きっとその女がどういう人かは分かってもらえないに違いない。よって僕はその女のことを分かり易く説明する必要がある。
つまり、その女は巻貝を耳に当てる女だった。
よく分からない、という意見が多そうだ。だが、これ以上説明の仕様がない。なぜって、その女をよくよく観察する前に、巻貝を残して女が消えたからだ。だから僕が彼女について知っていることは、彼女は巻貝を耳に当てた女だったってことだけだ。女がどこにいったかは誰も知らない。
とりあえず、今、僕の手元には女の残した巻貝がある。別に真似する気はないけれど、僕はそれを耳に当てた。
ざざんざざざん、と音がする。僕は驚いた。巻貝から海の波の音がする。女はこれを聴いていたのか。僕は巻貝の波の音を聴き続けた。女のように。かつて女がそうしたように。
そして、最後に音を聴いた。
さぶん。
僕は巻貝をなくした。巻貝はどこ、と聞くかわりに、ごぽごぽごぽっと音がした。僕の周りは水だった。喉に入ってくる。水は塩っ辛かった。
なぁんだ、やっぱり女はここに来たのか。
最後に聴いたあの音は、僕が巻貝の波の間に飛び込んだ音だった。
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