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エントリ01 あたしの中のジャック 香月
気づいたら手は汗で湿っていた。
ささいなこと。いつものこと。
うるさいガキども。叱らない親。
部屋の窓から聞こえてくる騒音。不協和音。
突然、頭が割れそうになる感じ。脳が、全身の血管が、警報を発している。
「耳をふさいで」
うるさいのはいつものことよ。慣れてるわ。
「お願い、ふさいで」
そんな、たいしたことないわよ。ささいなことよ。
「ふさぎなさい」
あら、あたしってば受験のストレスってやつで幻聴なんか聞こえ出したのかしら。
ふと目を手元に落とすと、ペンを持つ右手が震えている。どんなに抑えても止まらない。耳に届く騒音はボリュームを増すばかり。脳の痛みも増すばかり。
頭を掻き毟った。布団の中に身を隠した。耳をふさいだ。
それでもあたしは、内側から沸いてくるものを止めることができなかった。
はじめて感じる、「殺意」という感情
受験のストレス?そんなの単なるきっかけにすぎやしない
きっとはじめからいたのよ、彼はあたしの中に。
集団の中で孤独を感じるとき。
失敗したゲーム機を投げ捨てるとき。
うるさいガキをにらみつけるとき。
彼がかすかに動いていた。
湿った手をかたく握り締めながら、はじめて思う恐怖。
あたしの中のジャックが目を覚ました
エントリ02 とある日の記事抜粋より 神崎翔
昨日9月30日、○○町郊外の公園で変死体が発見された。
警察の捜査では、遺体は町内に住む仲野由実さん21歳。
遺体の外傷からして第一に通り魔が考えられたが、すぐにその予想は打ち消された。
というのも、遺体付近に血痕がなかったことを不審に思った警官が、付近を探索したところ、公園内の公衆トイレから大量の血を発見。その上、犯行時刻から数時間が経過しているにもかかわらず、凝固作用が働いておらず、まるでたった今犯行が行われたようであった。
念のため、遺体の血と照合してみると、意外なことが起こった。
なんと、見事に型が合わなかったのである。しかし、それだけではない。
流動していた血は自らの意志をもっているかのように、厳重に保管されていた戸棚のガラスを破り、外に流れ出していたのである。そして、その流れ出ていた血は以前までの威力を失い、凝固作用がすでに行われていたのである。
建物全土を探ったが、結局その血は発見されず、不可解な点が残るまま、殺人事件さえも捜査が打ち切られてしまったのであった。
エントリ03 記憶は掏り換えられるモノ 瓜生遼子
弟は穴掘り好きだった。私たちの遊び場は近所の空き地。そこで弟は穴掘りをした。
その日も私たちはそこで遊んでいた。私は草をちぎったり、笹舟もどきを作って遊んだ。私が弟から目を離したのは、そんなほんの少しの間だった。
それなのに、その間に弟はいなくなった。どこにいったんだろう。暗くなる前に帰らなくては、私が怒られる。
「どこにいるのぉ?出ておいでよぉ」
私は叫んだ。
「お姉ちゃん、こっちへおいでよ」
弟の声。「どこにいるの?」と尋ねても、返事はもう返ってこなかった。
暗くなるとすぐに、私は家に帰った。呼べど探せどいないから、家に帰ったに違いないと確信していたのに、弟は帰っていなかった。
夜、チチとハハと近所の人が弟を探しに出た。私は詳しいことを聞かれたが、弟の声のことは誰にも言わなかった。
後に、私たちは空っぽのお棺で弟の葬式をした。弟の靴が川で見つかったのだという。私は奇妙な快感を感じた。
私は今でも、その空き地へ行く。そして弟の声がしたところにしゃがみこみ、大地を引っ掻く。
「お姉ちゃん、やっと来てくれた」
残響のように響く、いつもの声。いつか引っ張りだしてあげる。私は口端を歪めて笑った。
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