第2回体感バトル1000字小説部門(第2ステージ)

エントリ作品作者文字数
01スピーチでんでろ31000
02死期を知らない詠長さん土目1000
 
 
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エントリ01  スピーチ     でんでろ3


 翔太君、朱美さん、本日は、まことにおめでとうございます。
 えー、只今ご紹介にあずかりました、私、佐藤俊夫と申します。と、いっても、「お前は誰だ?」という視線が痛いので、軽く自己紹介させて頂きますと、私は、新郎の翔太君とは、中学1年からの悪友でして、長くお付き合いをさせていただいております。本日は、友人代表のスピーチという大役を仰せつかまつり、大変光栄に思っております。
 それで、スピーチなのですが、普通にやってもつまらないので、翔太君の数々の名言を振り返りながら、彼の人となりを見ていきたいと思います。

「表紙に騙された!」
 のっけから、なんですが、男性の方は、このセリフだけで、大体予想がつくと思います。これは翔太君が初めて、たいまいはたいて、Hな写真集を買った後のセリフです。私と彼は、丸2週間、この写真集を買うべきか否かについて激論を交わしました。あれほど激しく熱く議論を交わしたことは、他にあまりありません。

「貴様は、今日、俺の『いつか殺すリスト』に載った」
 彼は、平和を愛する男でありまして、ケンカなどしたことはありません。ただ、このセリフは良く言ってましたので、根に持つタイプかも知れません。もちろん、相手には聞こえないように言っていました。

「こんなもん微熱だ」
 これは、彼が高校受験の時に風邪をひいて40度の高熱を押して受験した時の言葉です。そして、見事、私と同じ高校に合格いたしました。男を感じさせる一言です。

「俺は2月14日の無縁仏だ。今更ながら分かったよ」
 これは、私と彼が行ったウィンター好感度アップ大作戦が徒労に終わり、チョコが1つも貰えなかったときの言葉です。

「騙りだよ。チクショウ」
 これは、あるとき、セクシーなお姉さんから、「私と、いいことしない?」という大変幸福な質問をされて、喜び勇んで行ったら、ゴミ拾いのボランティアだった時の心の叫びです。確かに、嘘ではないんですけどね。

 こんなふうに、MSな彼でしたが……。えっ? 「MSって何? 変態なの?」いえいえ、MSはマイクロソフトでも、モビルスーツでも、メモリースティックでもなくて、「もてない、さえない」の略でございます。

 こんな彼ですが、今までもてなかったのは、朱美さんという素晴しい生涯の伴侶を得るために、運を、せっせこ、せっせこ、貯め込んでいたからだと思います。おめでとう。翔太君、朱美さん。末長くお幸せに。







エントリ02  死期を知らない詠長さん     土目


詠長さゆりさんはゾンビである。
この敬称はいろいろと誤解を生む表現であり、
彼女はただの病人なのであるが、
代謝が下がった土気色の肌は生気を感じさせず、
痛覚、というか触覚がほぼ無いため、
体をぶつけたことにも気づかずフラフラと彷徨う様は、
どこかのホラー映画で見たことのある様子に瓜二つであった。
本人も自己紹介のときに大体ゾンビですって言ってたからゾンビで良いだろう。

そんな彼女がなぜ普通にウチの学校に通っているのかは謎である。
今日も彼女は片足を曲がり角にぶつけながら平然としていた。
「詠長、足」
ふぇ?
と振り返った彼女は見事に柱に頭をぶつけた。
脳に走った衝撃で彼女は地に膝を着く。
「なにかなー?」
焦点の定まらない目で落とした眼鏡でも探すように足を探している。
「わ、悪い、足ぶつけてたから」
いまだワタワタしている手を掴み引き起こし、女子の手を掴んでしまったと自己嫌悪に陥る。
こんなことを考えているとまるで狙っていたかのように思える。
「ありゃーほんとだー」
彼女は立ち上ると青くなった自分の膝を眺めている、どうにも反応が遅い。
怪我痕を見せるのは恥ずかしいらしく、
携帯しているらしい絆創膏を使って綺麗に患部を覆うと、
満足げにムフンと息を吐いた。
「もうちょっと周り見て歩けよな」
「柱はあたしの所為じゃないもん」
ごもっともです。
「でも、詠長って歩くの速いじゃん、もうちょっとゆっくり歩いて色んな物見たほうが将来役に立つんじゃないかなーっとか俺は思うわけですよ」
「あたし歩くの速い?」
歩くのが速いというか歩く感覚が不規則である。
だがそれを指摘するのはいささかマナー違反なきがした。
「いや、足長いじゃん」
「変なとこ見ないでよー」
珍しく顔に血の気を通わせて足元を隠そうとする。
返答を間違えたと後悔する。
窓の外に目をやり”変なところは見てませんよ”アピールする。
「でもなー」
俺の隣に来て窓の外を眺める彼女はいつもと変わらないようで、
「私はよくわかんないからなー」
それゆえにとても悲しそうで、
「春の暖かいも、夏の暑いも、秋の涼しいも、冬の寒いも」
シュンとしてしまった彼女を見ていて、ふとポケットに突っ込んでいたものを思い出した。
歪になった桜餅である。
「桜餅…」
朝ご飯と言われた時は泣きたくなったが、今は感謝したいくらいである。
「美味しいのは解るんだろ?」
「おいしい」
あげると言う前になくなった桜餅は彼女の頬をほんの少し桃色に染めた。