第3回体感バトル1000字小説部門(第2ステージ)

エントリ作品作者文字数
01期待がいっぱいクモイタカコ998
02目かくし水野まさみ1299
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ01  期待がいっぱい     クモイタカコ


 2月15日、朝。学校の自分の机に、正方形の箱(ラッピング済み)が入っていたら。
 俺はモテない高2男子(サッカー部所属)である。昨日のチョコレートの収穫はゼロ。しかもおふくろから、妙に気合の入った手作りチョコを貰って、さらにみじめになった。
 見つけた瞬間、緊張が走った。こっそりと手に取って、改めて確認してみる。これは、チョコレート、かも。薄いピンク色の包装紙が、よけい緊張を誘う。重さも、なんとなくそんな感じだ。箱に厚みがある。たぶん、チョコ。で、間違いない、と思う。一体、誰が?箱を裏返したり、側面を見たりする。手がかりはない。
 朝のHR、目で、クラスを女子を1人、1人追っていく。これを入れた女子は、すました顔をして座っているのだろうか?いや、待てよ。同じクラスなら、放課後にわざわざ机に入れないか。他のクラス、いや、他の学年かもしれない。こんな調子で、クラスの女子を眺めたり、他のクラスの女子を思い浮かべたり、まだ見ぬ女子を妄想したりしているうちに、2時間目が過ぎていた。そうだ、他のクラスなら、休み時間にこっそり覗きに来ていたりして。教室の扉を見ながら、それらしい女子を探す。……、わからない。
 3時間目の休み時間。サッカー部のマネージャーがやってきた。言い辛そうに、
「あの、ピンクの箱が入ってたと思うんだけど……」
お前か!?あんまり好みじゃないけど。いや、なんて思いつつ、
「あ、あぁ、美味しかったよ」と、適当に口走っていた。
すると、彼女の顔はみるみる蒼白になって、
「えっ!食べちゃったの!」
と、教室に響き渡る声で叫んだ。皆が俺たちを見つめる中、始業のチャイムが鳴った。いや、正確には食べてないんだが。何だよ、「食べちゃったの?」って……。
 昼休み、またマネージャーがやってきた。さっきの1件を知っている皆が、俺たちをチラチラ見ているのがわかる。彼女は俺の前へ来ると、心配そうに「ねぇ、気持ち悪くない?」と聞いてきた。
「気持ち悪くない?って、お前、俺に毒でも盛る気だったのかよ」
「そうじゃないってば!あれは、3年生が作ったキャンドルが入っているのよ!」
キャンドル?そういや、いつだったか、うちのおふくろがマネージャーの女子達に作り方を教えたんだっけ。
「昨日、学校に来ていた先輩が、あんたのお母さんに渡して、って」
そーか、そーか、そーか、そういう事だったのかよ……。俺は、机に突っ伏した。


※作者付記:前々回の作品に投票して下さった方、ありがとうございました。
本作も、楽しんでいただければ幸いです。






エントリ02  目かくし     水野まさみ


 四ヶ月振りにあなたと再会したとき、私は黒のスカーフを首に巻いていた。それは、前回の食事の席であなたがプレゼントしてくれたものだった。二十六歳になるんだから、少しは大人の女性らしいものをと思ってね。プレゼントを渡すとき、あなたは私にそう言った。私は、あなたと再会するまでそのスカーフをつけたことはなかった。

 あなたに会うのは今回で五度目で、その都度いつも同じフランス料理店で食事を摂り、そのあとあなたが宿泊しているホテルの部屋に寄った。初めてあなたと会ったとき、広告代理店でクリエイティブディレクターをしている、という内容のことをあなたは言った。広告のことをほとんど知らない私でも聞いたことのある会社に勤めていた。仕事の内容はわからないし、どうでもいいと思った。あなたのやわらかな語り口や会話の端々に四十代の男の艶っぽさがただよっていて、私はそちらのほうが気になった。あなたが目の前のポークソテーを丁寧に切り分けているとき、上品に仕立て上げられたロレックスの腕時計が目に入った。私は、ロレックスと、切り分けたポークソテーがあなたの口許に運ばれるのを目の端で交互に見ていた。食事を終えると、私はあなたの部屋に行き、セックスした。

 この前も言ったと思うけれど、僕は今、君も知っている教育番組を手懸けている。キャラクターのデザインや番組の世界観、そういうものを総合的にディレクションしていくんだ――。

 私は今でもあなたの仕事の内容がわからないし、おそらく興味がないのだろうと思うが、あなたは私の相槌を見ながら話を続けた。あなたが誇らしげに仕事のことを話しているとき、私はあなたの娘のことを考えていた。

 前回、就寝前にあなたは初めて家族のことを口にした。二年前に前妻と離婚したこと。今年で五歳になる娘がいて、今その子は前妻に引き取られていること。この間幼稚園の遊戯会にこっそり顔を出したこと。その話をしているときのあなたは、優しい父の目をしていた。なぜ今、家族の話をしないといけないの。あのとき私は、あなたの目の奥にそう問いかけた。さっきまで高揚していた身体の芯が金属のように凍っていくのを感じた。感覚的に気づいていたことを実際に言葉にされ、思いの外うろたえた。

 食事を終え、あなたはいつものように私の手を引いた。私は無言のままあなたの横を歩き、五歳の少女を想像した。遊戯会で歌を歌う少女がはっきりとした輪郭をもって、叫んだ。

――おとうさんをうばわないで。

 幼少の私と重なり、胸が締めつけられた。

 フレンチはもう飽きたかな。声がして、ふと顔を見た。優しい男の目がそこにあった。

 夜風が心地いいと思った。今の季節にはこのスカーフは合わないかしら。私がそう聞くと、とても似合っているよ、とあなたはほほ笑んだ。

 七分咲きの桜の木の下で長い間キスをした。私は首許のスカーフをほどき、あなたの目をそれで覆った。三十秒数えたらそのスカーフをほどいていいわ。隠れるから、ちゃんと数えてね。私がそう言うと、かくれんぼなんて久々だなぁ、とあなたはワイシャツの腕部分をまくった。

 夜風に桜が舞うなか、私は背中を向け歩き出した。