第5回体感バトル1000字小説部門(第2ステージ)

エントリ作品作者文字数
01ドクターでんでろ31000
02黒い花嫁よたか1000
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ01  ドクター     でんでろ3


「ドクター」とは、昔々のパソコンで遊ぶ人工知能というよりは人口無能といった方が良いようなプログラムで、「患者」の打ち込んだ言葉をおうむ返しして問題点を患者自身に気づかせるという丸投げな「精神科医」である。

「こんにちは」
「こんにちはが問題なのですか?」
(いきなりかよ。挨拶は不要だったな)
「将来が不安です」
「将来が気になるのですね」
(まぁ、意味は通っているか)
「就職できるか気になります」
「就職できるかが問題なのですね」
「内向的な性格で面接など上手く行くか不安です」
「内向的な性格が問題なのですね」
(バッサリ切ったー)
「ええ」
「ええが気になるのですね」
(相槌も禁物か)
「本当の自分を知ってもらえれば、どこにだって入れる自信はあるのですが」
「そりゃ、自信過剰なんじゃないの?」
(あれ?)
「だいたい、人間相手に相談することもできずに、こんなところでパソコンの、しかも自分の作ったプログラム相手に相談してるようじゃ終わってるって」
(いやいやいやいや、俺、こんな高度なプログラム作ってないぞ)
「お前は誰だ?」
「お前は誰だ? が気になるのですね」
「気になります。ものっそい気になります。つか、元のプログラムのフリするんじゃねぇ。正体現せ!」
「実は、私はお前の父親だ!」
「電源コードを抜かせて頂きます」
「待って待って。一遍言ってみたかっただけなのー!」
「誰なんだよ、お前」
「実は、色々やばいんで名前は名乗らないが、ちょっと前まで超有名なCEOだった男だ」
「……1つ言って良いか?」
「なんなりとどうぞ」
「このパソコン、Windowsなんだけど……」
「うっそ、マジ? アートできないじゃん」
「……で、何しに来たの? てか、あんたホントにあの人?」
「私が誰かは問題ではないんだ。君に話が有ってきた」
「じゃあ、名乗らなきゃいいじゃん」
「お前が聞いたんじゃん」
「で、何?」
「実は、この星に危険が迫っている」
「どんな?」
「……も、ものすごい」
「いや、程度じゃなくて、内容」
「内容……とな?」
「だから、もうすぐ巨大な隕石がぶつかるとか」
「ああ……、それで行こう」
「いや、『それで行こう』って」
「とにかく、君が私にコマンドを打ち込むことによって、危機が回避されるのだよ」
「なんで?」
「時間がない。とにかくやりやまえ」
仕方なく俺はコマンドを打ち込んだ。
「コマンドまたはファイル名が違います」
そう表示された次の瞬間、地球は砕け散った。







エントリ02  黒い花嫁     よたか


あたしだって、女の子だから花嫁さんになりたい。
キレイな花嫁さんになりたい。結婚式して、しあわせになりたい。

でもね、わからない事がある。

おとうさんと、おかあさんは1回だけだけど、2回も3回も結婚式してる人がいるみたい。

そんな人はきっと、ヨクバリだとおもうの。

1回でもしあわせなのに、そんなに何回もしちゃったら、チョウチョウ、しあわせだよね。
だからあたしも、10回くらい結婚式してみようかな。

学校で、みんなに言った。

「うんうん、しあわせになれるよ」
「すごいよ。そうだよね」
「あたしも、何回も結婚式する」

そんな感じで、みんな言ってくれた。
少し嬉しくなって、担任の先生にもそう言ったの。

担任の先生は女の人なんだけど、少しコマッタ顔をした。
「回数がすべてじゃないのよ」

元気の無い声で、それだけ言って、行っちゃった。
そんな事言われても、よくわかんない。


家に帰って、おとうさんにも言った。
「あたし10回くらい結婚して、チョウチョウ、しあわせになる」

「そんなに何回も結婚式すると、おとうさんすり切れちゃうよ」
おとうさんは、笑いながら、そう言った。

「おとうさん、すこし、すりきれた方がいいよ」
おとうさんに言うと、わたしをひざの上にのせて、ギュッて抱きしめてくれた。

「そんな先の事いいから、いまはお父さんのところにいておくれ」
おとうさんの言い方がとても、やさしかった。

「うん。いまはこのままでいいや」って言ったら、お父さんはまた、やさしい笑顔で笑ってくれる。

すこし丸い、おとうさんのお腹に、しあわせがつまっている気がする。
そこへ台所から、おかあさんがやって来た。

もう、どうでもよくなったけど、同じ事を言ってみた。
「10回くらい結婚したら、チョウチョウ、しあわせになれるの?」

おかあさんは、口だけで笑って答えてくれた。

「花嫁のドレスって白いでしょ」
「うん」
「でもね、回数を重ねるごとに、少しずつ汚れて行くのよね」
「えっ? そうなの?」
「10回も繰り返すと、汚れきって、黒い花嫁になっちゃうかもね……」

おかあさんの目が、ジッと私を見てる。
おかあさんの口が、形を変えずに笑ってる。

どうやら、結婚式は、1回でいいらしい。
おかあさんの顔を見て、なんとなくわかった。

「1回で、いいんだね……」少しこわくなって小さな声で言うと、おかあさんは少しだけ笑って台所にもどって行った。


あとでわかったんだけど、先生は2回目が終わったばかりだったらしい。


※作者付記:1回でしあわせなら、10回だとしあわせも10倍? いえいえ、人生はそうで無い事を学んで少女は大人になって行きます。このお話はそんな日常の1コマ。
もしあなたの近くにこんな少女がいたら、怒らずに見守ってあげてください。