第37回体感バトル詩人部門


エントリ作品作者文字数
01愛撫神上小鳥193
02伝えたかったこと漣 紫央240
03すだちサナダ40
04そうめん妃咲391
05山田ミツル1561
06優しさの種の育て方さくら、兄さん元気だよ。673
07僕が恋したもの432
08蜃気楼椿※データ無
09海の中へ待子あかね75
10ファイルやさぐれOL368
11水になりたい美央※データ無
12環境鵯砂弐依189
 
 
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エントリ01  愛撫     神上小鳥


いったい私をどこへやったの

今もココに体はあるのに

魂の抜け殻みたい

手も足も鉛みたいになってる


いったいあなたをどこへやったの

今もココにあなたはいるのに

心の抜け殻のよう

手も足もどこか遠い感じよ


私はどこ

あなたはどこ

これじゃあ無いも同じ


張り詰めて途切れた糸よりも残酷

張り詰める前に緩んでしまった


私はどこへ行ったの

あなたはどこへ行ったの

これじゃあ初めから無いも同じ

私たちの未来は無いも同じじゃないの






エントリ02  伝えたかったこと     漣 紫央


「隣にいてくれてありがとう」
何度もその言葉を伝えようとして、
何度もその言葉を飲み込んだ。

僕が今、こうやって笑っていられるのは、
いつだって、君が隣にいてくれたから。
つらいときも、悲しいときも、
ずっと隣に、君がいてくれたから。

だけど僕は、何もできなかった。
君がつらいときや、悲しいとき、
何もしてあげられなくて、
ただ隣にいることすらできなくて。

君のために泣くことも、
君を慰めることも、
ましてや笑顔にすることもできない、
甘ったれで、お調子者で、弱虫な僕だけど、

それでも君が、好きなんです。






エントリ03  すだち     サナダ


「がんばってね。」

ありがとう。

私、

思うよ。

つきはなされなきゃ頑張れなかったんだ。






エントリ04  そうめん     妃咲


ガラスの食器に氷があたる音は
あの夏の風鈴に似ていて
だいすきだった祖母と同じくらい鮮明に、
あなたのことを思い出した

歪な形の割り箸でそうめんを掬う
綺麗に割れなかったこと 安っぽい木のせいにした
あの夏のわたしとは違って。

寝癖のついた頭でも
12時にパジャマを着ていても
まだあなたのこと考えている
それは事実で ひとりの部屋では嘘なんてつけないけど
それでも、認めるのはかっこわるい気がした

素直になりたい
綺麗になりたい
しあわせに、なりたい
今の自分を見つめられないまま、口癖のようにつぶやいている
変わらなきゃいけない とか
そろそろ周りからも言われそう。

どんなに綺麗な恋をしたとしても
きっと来年も、同じ場所に帰ってくるわたし
何度も何度も繰り返して飽きてしまっても
同じようで違う毎日に気づかないまま

網戸ごしの空がもっと高くなって
暖かくて冷たい空気がこの世界を覆ったら
もう戻ってこない夏がまた、過ぎていく。






エントリ05       山田ミツル


「爪を切ったらダメだよ。猫の爪切るだなんて…一体何考えてるんだよ、君は?





僕はそう猫沢さんに言われて、うしろめたい気分になった。


とても自己的には満足しながら話した結果がこれで、僕は一気に嫌な味が胸に広
がった気分になった。



猫沢さんは、数日前に突然僕の部屋にやってきた。満月の輝くある夜に、白い透
明カーテンのふわりと揺れる窓辺から「やあ」といってピースをしながら侵入し
てきたのだった。


その侵入の仕方がとても軽やかで、猫のようだったのをよく覚えている。



そして、猫沢と名乗るその少年は、“本当に”猫だったのだ。


黒と白とグレーが同じ等角で三色縞模様になった尻尾と耳がはえていた。そして
瞳は左右色の違う美しい吊り上りの瞳をしていた。髭もちゃんと頬からピンと張
っていた。



それ以外は普通の、どこにでもいるような人間の少年だった。





「僕の瞳、おかしいだろ?左と右、色が違うんだぜ」と猫沢さんが言った。「右
がブルー、左がエメラルドグリーンときたもんだ。」


「とても素敵ですよ。他の猫よりも美しいし、珍しいじゃないですか」僕は微笑
んで真剣に言った。


「なんにも分かってないんだな、人間って」猫沢さんはため息をつくように、髭
を垂らせて喉を鳴らした。


「どういう事ですか?」


「いいかい?左右違うっていうのは、珍しいとか、美しいだとか、一種の個性だ
とか、そういう問題じゃないんだよ。我々この地球に生きる生命は、左右対称じ
ゃないといけないんだ。右手と左手がピッタリと重なった瞬間から、やっと自我
という淡い光が体全身を帯びて覚醒するんだ。」



猫沢さんは自分の髭をぴんぴん、と引っ張って弄びながら月夜の窓辺で語ってい
た。


僕は、猫と月という組合せはなんて幻想的で不思議で非現実的に美しいんだろう
、と黙って頷いていた。


「ふむ」


「右目は左ばかりを見ていて、左目は右ばかりを見ていて、じゃあ僕自身は真ん
中ばかりを見ているとすれば…それこそ後から混乱するのは、もちろん自分自身
なんだ。そうだろ?自分の右にケーキがあって、左にハンバーグがあって、真ん
中にアイスクリームがあるのと一緒さ。どれから食べようか迷っているうちに、
『あれ?結局自分は一体どれを食べたかったんだっけ?』と疑問をもつのと一緒
さ」


「うむ?」


猫沢さんの言いたい事が分からなくて、僕は差し支えのないような範囲の息遣い
で、再度問いかけた。猫沢さんは分かりやすく日常的な物を使って例を出したん
だろうけど、それは逆に僕には理解しづらくさせていた。




「だからさ、まぁ要するに左肩上がりも右肩上がりもダメって事さ。肩の力を抜
けっていうのかね。君もね、自我を失いそうになったら、すぐさま両手を重ねて
じっとそれを見つめるようにしてごらんよ。左右対称、それが生きるキーワード
なのさ」


「要するに、未成のアイデンティティの確立と、護衛ですね?」


「そう、アイデンティティ。君は良い言葉を知っているね」そう言って永沢さん
は窓辺から月に向かってにゃあん、と鳴いた。





その次の日の夜、昨夜の満月がすっかり三日月になった時に、僕は拾ってきた子
猫の爪を切ってやった事を猫沢さんに告げた。


また窓辺に座ってたそがれていた猫沢さんは耳を右と左両方違う向きでピクピク
させ、尻尾をピンと天井に向かって立てた。




「爪を切ったらダメだよ。猫の爪切るだなんて…一体何考えてるんだよ、君は?



「飼い猫になるんだから、爪はもう必要ないじゃないですか。怪我をしてしまっ
たら危ないですし」と僕は弁解するように言った。




子猫の肉球を少し押さえて出した爪が確かに先が平らに削られているのを見て、
猫沢さんは尖った八重歯を見せてそのブルーとエメラルドグリーンの瞳で僕を睨
んだ。




「君は、なんにも分かっちゃいないんだな」







猫沢さんと子猫のうしろで輝く三日月が、僕には尖った猫の爪に見えた。












End.


※作者付記: 妙にアイデンティティにこだわっておりますが、自我同一性の心理の奥深さを好きに書き放題してみました。







エントリ06  優しさの種の育て方     さくら、兄さん元気だよ。


この木を切り倒すことは簡単さ
虫に若葉を喰われたことが、そうも悔しいのかい

幹を割り、萌える新芽の切ない喘ぎ
君には聞こえないらしい

君が落とした小さな種はまだまだひ弱な幼木だけど
根っこは大地にしがみつき小さな花まで咲かせてる

みてごらん
花に集まる蜂、蝶、そして葉に喰いつく芋虫、芋虫を啄ばむ鳥
君が落とした小さな種に命たちが吸い寄せられて一つの世界を作ってる

この木を切り倒すことは簡単さ
君が落とした種だから君が切りたきゃ切ればいい

蝶や小鳥は来たかと思えば行ってしまう
そんな気まぐれを君は裏切りと呼ぶのかい
しつこく居るのは害虫さ
見張ってるのが面倒かい

膨らみかけた小さな芽
朝露とともに開くだろう
夏には小枝に育つだろう
君が白髪になる頃には多くの花を咲かせるだろう

そんな良くある話など君には関係ないのかい

臆病な君よ
純粋で傷つきやすい君よ
この幼木は発芽した瞬間から乾きと痛みと孤独と戦い
生き延びるために外に向かって硬く硬く幹を育ててきたんだよ

傲慢な君よ
汚れて憎しみに溢れた君よ
今日、少しだけこの木の手入れをしよう
少しだけ、少しだけ辛抱しよう
そして、明日も、その次の日も
少しだけ、少しだけこの木を愛してあげよう

許してあげよう
しぼんでしまう花を、散る葉を、気まぐれに飛んでいく蝶を、小鳥を
そして、時には葉に巣食う害虫でさえも
少しだけ、少しだけ許してあげよう
明日も、その次の日も
少しだけ、少しだけこの木に優しくしてあげよう


そうして遠い時の彼方太い幹の下で
鋭い太陽の光を凌ぎながら君が見る景色は
平和で優しく愛と尊敬で君を包むだろう

だから...
だから、その怒りの斧を下ろしてください






エントリ07  僕が恋したもの     涼


水色のスカートから覗く 日に焼けていない 白い足
僕はひらひら揺れるそれと 君の足に心を奪われる


金色に美しく塗られた 君の足の爪
きゅっと締まった踝で静かに揺れる 華奢なチェーン
君のキレイな足 僕の大好きな 君の


――夏
僕は町で一目だけ君を目にした 忘れもしない駅前の階段
こんな田舎町に似つかわしくない さながら女神
可憐に踊り 蜃気楼で滲む 素敵な君 君の白い足


真っ黒に日焼けした人間達の中で 一際目立つ君の姿
白く 淡く 儚く 輝く 僕の大好きな君 君の足


君に逢いたくて 駅前の階段で探偵ごっこ
脳裏に焼きついたあの神々しい姿 君は何処へ?
触れたら穢れてしまう 美しい曲線 ふくらはぎ


君に逢いたくて 聞き込み調査を開始
日が経つごとに鮮明になる僕のビーナス 君は何処へ?
滑らかな質感 弾力に溢れた若々しい 繊細な肌


――秋
二学期の授業が始まった クラスは転校生の噂で持ちきり
高鳴る胸を押さえながら 僕は教室の扉に目をやる
扉のレール きしむ音 差し出される足はきっと あの美しい






エントリ08  蜃気楼     椿


…だから見つめていた

奇麗な影も赤い香も静かな瞳も

支離滅裂が…支離滅裂すぎて
それが本質に見える…

だろうか?

私は言わない 夏の終わりが今日の終わりであることそれだけは

抉れた地面に寝そべって
彼の声が聞こえる位のまどろみに溶けて
彼の指が感じる位にこの髪を梳いて
欲しいと
願って 風鈴が笑う蚊帳の外の鈴虫の声

落ちて 浮き 晴れて雷雨
巡恋(じゅんれん)が潤憐(じゅんれん)の痕を私と彼と夏と地面に落とす

…花火 夜空 瞬間 炎 落ちる鼓動
…花火 彼の 傍ら 視線 私釘付け 時季は今宵のみ

私の夏は 今日だけであって それだけではない

…だけど 夏は今日で終わる

彼が霞んで見えた八月八日の花火の群れと浴衣の群れの中

…だから見つめていた

花火が言う 蜃気楼 霞み散り逝く 至純恋(しじゅんれん)の憐夏葬(れんげそう)






エントリ09  海の中へ     待子あかね


沈むならいっしょ

流されても 流されても
この灯台へまた戻ってきましょ
ここはふたりが出会った場所
心配なんていらないわ
だれも引き離しはしない

沈むならいっしょ






エントリ10  ファイル     やさぐれOL


この紙の端、縦に穴を二つ開けて、この棒二つにきちんと穴が合うようになっていますから
紙が千枚ありますので、それを千回繰り返していただけますか?
その作業を「ファイル」と言います。

あなたの丁度後ろにある棚からずっと向こうまで、一面に並んでいる
白い背表紙に青い表紙のビニール製のもの、それは
その作業をなされたものの集合体です。

とても、沢山あるでしょう?すごいでしょう?

寸分の狂いなく。寸分の狂いなく。皆さん同じ作業をなされて参りました。
そちらはその結晶とも言えます。

「寸分の狂いなく。」

不安な顔をしてますけども(笑)とても、簡単な作業ですから。

大丈夫だよ。

ただね、一度間違われたらこの作業担当を外れていただきます。
規律と責任感をしっかり持って、作業を行ってくださいね。よろしくね。

わからないことがあれば、聞いてください。
何回でも聞いていいからね。
それでは、よろしくね。






エントリ11  水になりたい     美央


あぁ、水になりたいなぁ
あたしは水になりたいの

あなたのそばを流れゆき
そっとあなたを映してあげる
あなたの中へ入っていって
やがてあなたの涙になるの

いちばんよわくて
いちばんつよい

あたしにおぼれてほしいのよ。






エントリ12  環境     鵯砂弐依



人は想う言がある

精神上の分裂は一時の自分のイメージにしか過ぎず、毎秒や是からとは全く別次元の擦傷のよう

君が勝手に果実になって

内側から過剰に熟れたことも

自ら体を落としたことも

永久の中の誰かの掌の温かさ

護られている


君が束縛と呼ぶのは誰かが強く掴んだ証だった

「フールは始まりでさえない」

終わりでもない暗示用記号

「あの鳶は君が誕生した時から君を識っている」

本当は何時だって純粋過ぎるんだ