いったい私をどこへやったの今もココに体はあるのに魂の抜け殻みたい手も足も鉛みたいになってるいったいあなたをどこへやったの今もココにあなたはいるのに心の抜け殻のよう手も足もどこか遠い感じよ私はどこあなたはどここれじゃあ無いも同じ張り詰めて途切れた糸よりも残酷張り詰める前に緩んでしまった私はどこへ行ったのあなたはどこへ行ったのこれじゃあ初めから無いも同じ私たちの未来は無いも同じじゃないの
「隣にいてくれてありがとう」何度もその言葉を伝えようとして、何度もその言葉を飲み込んだ。僕が今、こうやって笑っていられるのは、いつだって、君が隣にいてくれたから。つらいときも、悲しいときも、ずっと隣に、君がいてくれたから。だけど僕は、何もできなかった。君がつらいときや、悲しいとき、何もしてあげられなくて、ただ隣にいることすらできなくて。君のために泣くことも、君を慰めることも、ましてや笑顔にすることもできない、甘ったれで、お調子者で、弱虫な僕だけど、それでも君が、好きなんです。
「がんばってね。」ありがとう。私、思うよ。つきはなされなきゃ頑張れなかったんだ。
ガラスの食器に氷があたる音はあの夏の風鈴に似ていてだいすきだった祖母と同じくらい鮮明に、あなたのことを思い出した歪な形の割り箸でそうめんを掬う綺麗に割れなかったこと 安っぽい木のせいにしたあの夏のわたしとは違って。寝癖のついた頭でも12時にパジャマを着ていてもまだあなたのこと考えているそれは事実で ひとりの部屋では嘘なんてつけないけどそれでも、認めるのはかっこわるい気がした素直になりたい綺麗になりたいしあわせに、なりたい今の自分を見つめられないまま、口癖のようにつぶやいている変わらなきゃいけない とかそろそろ周りからも言われそう。どんなに綺麗な恋をしたとしてもきっと来年も、同じ場所に帰ってくるわたし何度も何度も繰り返して飽きてしまっても同じようで違う毎日に気づかないまま網戸ごしの空がもっと高くなって暖かくて冷たい空気がこの世界を覆ったらもう戻ってこない夏がまた、過ぎていく。
「爪を切ったらダメだよ。猫の爪切るだなんて…一体何考えてるんだよ、君は?」僕はそう猫沢さんに言われて、うしろめたい気分になった。とても自己的には満足しながら話した結果がこれで、僕は一気に嫌な味が胸に広がった気分になった。猫沢さんは、数日前に突然僕の部屋にやってきた。満月の輝くある夜に、白い透明カーテンのふわりと揺れる窓辺から「やあ」といってピースをしながら侵入してきたのだった。その侵入の仕方がとても軽やかで、猫のようだったのをよく覚えている。そして、猫沢と名乗るその少年は、“本当に”猫だったのだ。黒と白とグレーが同じ等角で三色縞模様になった尻尾と耳がはえていた。そして瞳は左右色の違う美しい吊り上りの瞳をしていた。髭もちゃんと頬からピンと張っていた。それ以外は普通の、どこにでもいるような人間の少年だった。「僕の瞳、おかしいだろ?左と右、色が違うんだぜ」と猫沢さんが言った。「右がブルー、左がエメラルドグリーンときたもんだ。」「とても素敵ですよ。他の猫よりも美しいし、珍しいじゃないですか」僕は微笑んで真剣に言った。「なんにも分かってないんだな、人間って」猫沢さんはため息をつくように、髭を垂らせて喉を鳴らした。「どういう事ですか?」「いいかい?左右違うっていうのは、珍しいとか、美しいだとか、一種の個性だとか、そういう問題じゃないんだよ。我々この地球に生きる生命は、左右対称じゃないといけないんだ。右手と左手がピッタリと重なった瞬間から、やっと自我という淡い光が体全身を帯びて覚醒するんだ。」猫沢さんは自分の髭をぴんぴん、と引っ張って弄びながら月夜の窓辺で語っていた。僕は、猫と月という組合せはなんて幻想的で不思議で非現実的に美しいんだろう、と黙って頷いていた。「ふむ」「右目は左ばかりを見ていて、左目は右ばかりを見ていて、じゃあ僕自身は真ん中ばかりを見ているとすれば…それこそ後から混乱するのは、もちろん自分自身なんだ。そうだろ?自分の右にケーキがあって、左にハンバーグがあって、真ん中にアイスクリームがあるのと一緒さ。どれから食べようか迷っているうちに、『あれ?結局自分は一体どれを食べたかったんだっけ?』と疑問をもつのと一緒さ」「うむ?」猫沢さんの言いたい事が分からなくて、僕は差し支えのないような範囲の息遣いで、再度問いかけた。猫沢さんは分かりやすく日常的な物を使って例を出したんだろうけど、それは逆に僕には理解しづらくさせていた。「だからさ、まぁ要するに左肩上がりも右肩上がりもダメって事さ。肩の力を抜けっていうのかね。君もね、自我を失いそうになったら、すぐさま両手を重ねてじっとそれを見つめるようにしてごらんよ。左右対称、それが生きるキーワードなのさ」「要するに、未成のアイデンティティの確立と、護衛ですね?」「そう、アイデンティティ。君は良い言葉を知っているね」そう言って永沢さんは窓辺から月に向かってにゃあん、と鳴いた。その次の日の夜、昨夜の満月がすっかり三日月になった時に、僕は拾ってきた子猫の爪を切ってやった事を猫沢さんに告げた。また窓辺に座ってたそがれていた猫沢さんは耳を右と左両方違う向きでピクピクさせ、尻尾をピンと天井に向かって立てた。「爪を切ったらダメだよ。猫の爪切るだなんて…一体何考えてるんだよ、君は?」「飼い猫になるんだから、爪はもう必要ないじゃないですか。怪我をしてしまったら危ないですし」と僕は弁解するように言った。子猫の肉球を少し押さえて出した爪が確かに先が平らに削られているのを見て、猫沢さんは尖った八重歯を見せてそのブルーとエメラルドグリーンの瞳で僕を睨んだ。「君は、なんにも分かっちゃいないんだな」猫沢さんと子猫のうしろで輝く三日月が、僕には尖った猫の爪に見えた。End.
※作者付記: 妙にアイデンティティにこだわっておりますが、自我同一性の心理の奥深さを好きに書き放題してみました。
この木を切り倒すことは簡単さ虫に若葉を喰われたことが、そうも悔しいのかい幹を割り、萌える新芽の切ない喘ぎ君には聞こえないらしい君が落とした小さな種はまだまだひ弱な幼木だけど根っこは大地にしがみつき小さな花まで咲かせてるみてごらん花に集まる蜂、蝶、そして葉に喰いつく芋虫、芋虫を啄ばむ鳥君が落とした小さな種に命たちが吸い寄せられて一つの世界を作ってるこの木を切り倒すことは簡単さ君が落とした種だから君が切りたきゃ切ればいい蝶や小鳥は来たかと思えば行ってしまうそんな気まぐれを君は裏切りと呼ぶのかいしつこく居るのは害虫さ見張ってるのが面倒かい膨らみかけた小さな芽朝露とともに開くだろう夏には小枝に育つだろう君が白髪になる頃には多くの花を咲かせるだろうそんな良くある話など君には関係ないのかい臆病な君よ純粋で傷つきやすい君よこの幼木は発芽した瞬間から乾きと痛みと孤独と戦い生き延びるために外に向かって硬く硬く幹を育ててきたんだよ傲慢な君よ汚れて憎しみに溢れた君よ今日、少しだけこの木の手入れをしよう少しだけ、少しだけ辛抱しようそして、明日も、その次の日も少しだけ、少しだけこの木を愛してあげよう許してあげようしぼんでしまう花を、散る葉を、気まぐれに飛んでいく蝶を、小鳥をそして、時には葉に巣食う害虫でさえも少しだけ、少しだけ許してあげよう明日も、その次の日も少しだけ、少しだけこの木に優しくしてあげようそうして遠い時の彼方太い幹の下で鋭い太陽の光を凌ぎながら君が見る景色は平和で優しく愛と尊敬で君を包むだろうだから...だから、その怒りの斧を下ろしてください
水色のスカートから覗く 日に焼けていない 白い足僕はひらひら揺れるそれと 君の足に心を奪われる金色に美しく塗られた 君の足の爪きゅっと締まった踝で静かに揺れる 華奢なチェーン君のキレイな足 僕の大好きな 君の――夏僕は町で一目だけ君を目にした 忘れもしない駅前の階段こんな田舎町に似つかわしくない さながら女神可憐に踊り 蜃気楼で滲む 素敵な君 君の白い足真っ黒に日焼けした人間達の中で 一際目立つ君の姿白く 淡く 儚く 輝く 僕の大好きな君 君の足君に逢いたくて 駅前の階段で探偵ごっこ脳裏に焼きついたあの神々しい姿 君は何処へ?触れたら穢れてしまう 美しい曲線 ふくらはぎ君に逢いたくて 聞き込み調査を開始日が経つごとに鮮明になる僕のビーナス 君は何処へ?滑らかな質感 弾力に溢れた若々しい 繊細な肌――秋二学期の授業が始まった クラスは転校生の噂で持ちきり高鳴る胸を押さえながら 僕は教室の扉に目をやる扉のレール きしむ音 差し出される足はきっと あの美しい
…だから見つめていた奇麗な影も赤い香も静かな瞳も支離滅裂が…支離滅裂すぎてそれが本質に見える…だろうか?私は言わない 夏の終わりが今日の終わりであることそれだけは抉れた地面に寝そべって彼の声が聞こえる位のまどろみに溶けて彼の指が感じる位にこの髪を梳いて欲しいと願って 風鈴が笑う蚊帳の外の鈴虫の声落ちて 浮き 晴れて雷雨巡恋(じゅんれん)が潤憐(じゅんれん)の痕を私と彼と夏と地面に落とす…花火 夜空 瞬間 炎 落ちる鼓動…花火 彼の 傍ら 視線 私釘付け 時季は今宵のみ私の夏は 今日だけであって それだけではない…だけど 夏は今日で終わる彼が霞んで見えた八月八日の花火の群れと浴衣の群れの中…だから見つめていた花火が言う 蜃気楼 霞み散り逝く 至純恋(しじゅんれん)の憐夏葬(れんげそう)
沈むならいっしょ流されても 流されてもこの灯台へまた戻ってきましょここはふたりが出会った場所心配なんていらないわだれも引き離しはしない沈むならいっしょ
この紙の端、縦に穴を二つ開けて、この棒二つにきちんと穴が合うようになっていますから紙が千枚ありますので、それを千回繰り返していただけますか?その作業を「ファイル」と言います。あなたの丁度後ろにある棚からずっと向こうまで、一面に並んでいる白い背表紙に青い表紙のビニール製のもの、それはその作業をなされたものの集合体です。とても、沢山あるでしょう?すごいでしょう?寸分の狂いなく。寸分の狂いなく。皆さん同じ作業をなされて参りました。そちらはその結晶とも言えます。「寸分の狂いなく。」不安な顔をしてますけども(笑)とても、簡単な作業ですから。大丈夫だよ。ただね、一度間違われたらこの作業担当を外れていただきます。規律と責任感をしっかり持って、作業を行ってくださいね。よろしくね。わからないことがあれば、聞いてください。何回でも聞いていいからね。それでは、よろしくね。
あぁ、水になりたいなぁあたしは水になりたいのあなたのそばを流れゆきそっとあなたを映してあげるあなたの中へ入っていってやがてあなたの涙になるのいちばんよわくていちばんつよいあたしにおぼれてほしいのよ。
人は想う言がある精神上の分裂は一時の自分のイメージにしか過ぎず、毎秒や是からとは全く別次元の擦傷のよう君が勝手に果実になって内側から過剰に熟れたことも自ら体を落としたことも永久の中の誰かの掌の温かさ護られている君が束縛と呼ぶのは誰かが強く掴んだ証だった「フールは始まりでさえない」終わりでもない暗示用記号「あの鳶は君が誕生した時から君を識っている」本当は何時だって純粋過ぎるんだ