第46回体感バトル1000字小説部門


エントリ作品作者文字数
01メロディーちな994
02受験生黒霧 島男1560
03ある日知った虚無みらくる。1000
04運動しない運動会土目1000
05私の路。蒼空 自由792
06忘れられた時間いっぺいくん1000
 
 
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エントリ01  メロディー     ちな


 「一体あれは何だ?」
と、一人の男が空を指差して言った。
「飛行機か・・・」
「それにしてはおかしな形をしているが」
そこにいた誰もが空を見上げる。ザワザワと騒ぎが大きくなっていった。やがてその不思議な飛行物体は郊外へ姿を消した。その飛行物体を見た誰もが着地したであろう地点を目指して集まっていく。飛行物体が降り立った先には小さな空き地があった。

 飛行物体は楕円状で青白く光っている。大きさは軽自動車くらい。人々はその不思議な飛行物体の周りに集まり、期待と不安の混ざった眼差しで見つめる。物体との一定の距離絵を保ち、不思議にも誰一人としてその物体に触ろうとするものはいなかった。
 やがてその飛行物体から銀色のアンテナの様な物が伸び始めた。
「何だあれは?」
「あそこからレーザーが出るとか・・・」
「気をつけよう。」
一瞬にして緊張が高まった。空き地を奇妙な静寂が包む。しかし、しばらくしてさっきまでの静けさは消えた。その飛行物体から音楽が流れ始めたのだ。
「何だこの音楽は・・・」
「楽器でも歌でもオルゴールのような音でもないし・・・」
「しかし素晴らしく綺麗なメロディーだ。」
「こんな美しい曲は聞いたことがない。」
不思議な飛行物体から流れ出した音楽は人々の心を優しく暖かい気持ちにさせた。そこにいた人々全員がそのメロディーに聞きほれる。
幾日たってもその音楽が鳴り止むことはなかった。周辺の人々は毎日その音楽を聞いて暮らした。テレビでも放送され、国内だけでなく遠い国に住むたくさんの人たちもこの音楽を聴くために空き地に押しかけた。テープに録音して持ち帰る人もいた。世界中の人々がこの音楽を愛し、聞きほれた。

 この音楽は人々の心を穏やかで幸せな気持ちにさせた。
やがてその暖かさと優しさは世界中に広がり、どの国でも争いを起こす人はいなくなった。武器を持つ人も戦争を始めようとする国も、もうどこにもない。この永遠に鳴り止むことのない一曲のメロディーによって地球は愛に溢れた平和な星になったのだ。

 「大成功ですね。」
「ああ。やはりあの音楽の効果は素晴らしい」
地球から何万光年も離れた星でそんな地球の様子を満足そうに眺めるものがいた。
「これで地球は武器を持たない平和な星になった。」
「はい。これで計画はスムーズに行えそうです。」
「まさかあの音楽が人々の戦闘意欲を失くす為に開発された兵器だとは夢にも思うまいな・・・。」






エントリ02  受験生     黒霧 島男


大学に落ちた。そんで、働かなきゃならん。どうしようかと二秒考えた末、神父になった。財布を調べると、三千円。良い携帯用の椅子を買った。千八百円。後は、ダンボールを集めて、「神父です。何でも懺悔してください。」と書いた。お袋と姉貴は、受験の失敗で、頭がいかれたんだなと言った。親父は、黙って笑った。弟はダンボールの看板作りを手伝ってくれた。下手なマリオの絵が、俺の汚い字の右下に書いてある。十六色で。そんで、それを持って街に出た。
あたり前だが、客はまったく来ない。雨が降り、駅に逃げ、風が吹き、タバコを吸った。吸殻の山と人の群れ。無視。梅雨明けをセミが知らせ、太陽が眩しく濡れたアスファルトを照らし、俺の目を痛くしたのは、タバコの煙。甘い香りは、水溜りの中でじゅっと音を立てた。暇が続いて昼が過ぎ、ホットドックにコカコーラ、残金、八百円。また、タバコを吸おうと思うと、ポケットの中の相棒は萎れてる。それをぎゅっと捻り、怒りをぶつけて、地面に投げた。また雨が降り、駅に逃げ、風が吹き、口をぽかんと開けて、何かを待った。先ほどの場所に戻ると、水かさの増した、水溜りの上で、ぷかぷかと相棒の亡骸が浮かんでる。凝視。ため息。日が暮れる。亡骸が動き出す。「なに、驚いてんだ。死後硬直で動いたんだ。」と俺は俺に突っ込むが、それがタバコの箱だと思い出して、また口をぽかんと開けた。
「うわーん。うわーん。神父さんよお」とタバコの箱からおっさんは、出てきた。股引に腹巻。鼻が赤い。「聞いとくれ、聞いとくれ、わしの話を」と言って、弟の描いたマリオの絵をズタズタにしながら、爪でダンボールを登り、俺の膝の上に乗った。
「南の酒場で、娼婦を殺しただ。わーん。おととい。」
「罪の意識に苛まれて、私のところに来たのですね。ならば、私にすべて言ってしまいなさい。」
「ほら、これを見てけれ」
「前掛けではないか」
「そうです。そのとおりです。これを阿婆擦れが馬鹿にしたんだ。それで、カッとなって。飲んでいたビール瓶を割って、ぐさりと。ああ、なんと惨たらしいことを俺は、、、神よ!」
「それで、どうして前掛けなぞを」
「ああああ、あっ、これ?ファッションじゃあないかい」
「五十の禿げ散らかしたおっさんが」
「そうです。神父さん。わ。いまなんと?」
「五十の禿げ散らかしたおっさんが前掛けをつけるのはおもしろいよ」
「貴様!似非神父だな!俺を侮辱する奴はこうしてやる!」おっさんは、腹巻から、血のついた割れたビール瓶を取り出す。
そして、俺の腹めがけて、突き刺した。血がついた。どこぞの娼婦が殺されたときの血が。俺は、おっさんをつまんで言った。
「神はわれわれを創った、世界を創った。私、そしてあなた。そして、生きとしいけるもの全ては、神から操られているのです。我々に中身などないのです。ですから、こうやって、人生を経てみると、明日と今日、火曜と日曜では、我々は自分のことを別の人間のように思うのです。きっと、実際に違うのでしょう。我々は、何の武器も自信も持たずに、ある日やって来る敵を倒すのです。感覚だけが我々のもので、後は神のものなのです。あなたは人を殺しました。罪ではありません。神がさせたことなのです。だが、どうでしょう困ったことに責任はあなたのものなのです。責任は、過去に置いていけない。記憶と言う名の黒い袋を背負ってあなたはどこまでも、どこまでも。」と腕を振り上げ、熱弁したが、おっさんはどこかに消えていた。おれはあたりを見回したが、何処にもいない。いるのは、ホームレスで、彼は「よく言った」と言い、俺に腐った隠元のてんぷらをくれた。テキトーな言葉の連なりへの報酬としては悪くないが、それを離れで捨てた。そして、もう一度、勉強を頑張ろうと思った。まだ、三浪じゃないか。






エントリ03  ある日知った虚無     みらくる。


知り合いの連れ合いが死んだ。

何度か庭先の手入れをしている彼を見かけ挨拶するぐらいのあっさりとした関係だったが、学校をさぼる口実にでもなろうかと葬儀に出席した。実際、母親がそれを望んだのだから何も非はないだろう。

一時間程度の、小さな弔いだった。壇上いっぱいに花が飾られ、その中にあの陽のなかでみかけたような人のいい笑顔を浮かべた彼の写真がある。手前に坊主が座るであろう座布団と、焼香場が設けられていた。

喪服の業者のいかにも重々しい挨拶から始まり、経が唱えられ、焼香をし、親族からの挨拶があった。

彼がどんなに人徳のある男だったか、彼がどんなに自然を愛していたか、彼が死に際どんな言葉を遺したか、最後に、彼に何もしてやれなかった自分の悔いを語っていた。

けれど、と、老女は続ける。

けれど、こんなにも多くの方にご出席いただいて、さぞ彼は喜んでいるでしょう。




なんだか無性に泣きたくなった。

自分の不徳な行いのせいではない。そんなことをいうなら、隣で眠っていただれともしれないこのオヤジもそうだろうし、式が始まる直前まで会社かどこかに妙に甲高い声で電話をしていたあの女性だってそうだろう。

集まる理由などどうでもいいのだ。所詮式など遺されたものの自己満足や社会的確立のために必要な行事でしかない。それでも慰められる者があるならそれはそれで意義のあることだ。つまりは、集まることに意味がある。


だがこうやって、たとえば自分が死んだ後、自分ではない誰かに自分を語らせ、あるいは決定され、自分というものがかえられていくことが悲しい。

生きていればどんな屈辱的な噂も努力次第で消すことができる。

だが死んでしまえば意識の中でしか私は存在できない。揺らぎやすい意識の中で、一体どうして私が私として『生きて』ゆけるだろうか。


だが、と、写真の中でただただ笑う彼を見て思う。

生きていることと死ぬことに、さほど違いがあろうか。

生きていても行方が知れなければ、話すこともなければ、私は彼の生を知ることなどできない。それが死と、どう違っているだろう。

こうして弔いをすることで私達は彼を『殺してしまっている』気がした。帰る場所はないのだと、彼を諭している気がした。


これが人の常なる『死』の形ならば、なんと残酷なことだろう。


―――――――彼は向こうでなにを思っているだろうか。


白絹の布に包まれた箱が親族と共に去っていくのを見ながら、私はふいに泣いた。




※作者付記: ある方には侮辱的な作品かもしれません。心を痛められた方、申し訳ありませんでした。小人のくだらない思想だと思って忘れてください。







エントリ04  運動しない運動会     土目



さぁて今年の運動会もいよいよ大詰め!
今年も白熱した試合でしたがこの最終競技最終組クラス対抗リレー(三年)に会場は最高潮の盛り上りを見せております!
紹介が遅れました
私は実況担当放送委員副委員長の堀内です
解説は委員長の小野田さんでお送りしております
小野田さんどうぞー

解説も何も…って今更自己紹介か?

さぁ選手が入ってまいりました

スルーか

機材が大玉に潰されたなんて言い訳したくないんですよ!

…してるし、とにかく進めてくれ

解っていただけ結構です、では実況に戻ります
各コース、足に自信のある選手がここぞとばかりに目立とうとしております

いや別に目立とうとしてる訳とは…

屈伸で足をほぐす者、仲間の声援に応える者、各選手それぞれの形で競技開始を待っております
おっとそんな中、辺りをキョロキョロと浮かない顔の選手が一人

ん、あれは…中田だな

中田選手お腹でも壊したんでしょうか?
あ、顔を赤くしてますよ我々の会話に気づいたみたいですね

マイク使ってんだ当たり前だろ

流石解説者、鋭い指摘です、とそろそろ開始のようです、各選手がスタート位置につき、審判が今銃口を御国に向け放たんとしております! 神をも恐れぬ行為ですね

気にしないで続けてください

『バンッ』

さあ各選手一斉にスタート、二組陸上部のエース近藤を四組サッカー部キャプテン飯島が追いかけその後ろに我等が三組竹内演劇部所属に一組恐らく名前で選ばれた足立と続き、私こんな早口初めてです!

いいから続けろ

いやだなぁ小野田さん実況たる者細部まで事細かに実況するのはもはや宿命ですよ? と言っている間にすでに先頭一組のバトンはアンカーに渡ったー!
我らが三組二番手でアンカーとなり何があったかスタート時ダントツだった他二組は遥か後方です

ちゃんと実況してねぇから…

おぉーっと中田女史すごい快進撃だ! 一組高木を抜き去り残す所後一周これはダントツかー?
! これはすごい! 四組安藤最下位からいつのまにやら現在二位、中田選手との距離もぐんぐん縮めております!

負けんな中田ー!

小野田さん自チーム贔屓だー! 両選手、今ゴールイン! 判定は…同着、同着です!
という事は総合優勝は三組に決定! おめでとうございます!



〜運動会終了から一時間後〜


「ふー、やっと片付け終わった…」


「あ、小野田君…」


「ん? 中田…なんか用か?」


「あの…あのねっ!」


夕闇の中二人の影は一つとなるのであった…


「実況してんじゃねぇ!」








エントリ05  私の路。     蒼空 自由


 とても清々しい朝が麗美馨を待っているはずなのに。彼女は幾度もこのお邸と、寄せ集めの美術品や装飾品を憎む。全てが金儲けの商品であったと思うと、芸術品でも感動できない。
 「お早う御座います、お嬢様。朝食の支度ができております。」
 「ん。」
 朝食は、忙しい父を除いては家族全員で戴くことになっていた。全員とはいっても、母と娘の二人なのだが。
 大広間には、長いテーブルと大量の朝食と母親の姿があった。
 こずえはまだ納まってないらしい。しかし昨晩よりは理性があるようだ。両者が朝食を食べ終えてから話は始まった。
 「まだ登校には時間があるわね。」
 「キノウハスミマセンデシタ。」
 麗美馨としては、さっさと部屋に戻って一人の時間を満喫していたかった。
 「謝ることは重要ではなくてよ。理由を述べてちょうだい。」
 ―一応本当のことを話すけど・・・―
 「私は自分の意志にしたがって将来をみつめたいの。」
 「あなた・・・何度言わせれば気が済むの?越智家の一人娘として、恥じない教育を受けその全てを習得しない限りは自由は認められないの。それが代々の掟なのよ。」
 「なんで私が・・・・・・もう一人産めば?男のほうが継ぐにはもってこいの存在でしょ。」
 「えげつない事を堂々と言える口にした覚えはありません。」
 ―どの口がそういう説教をできるのか・・・―
 「とにかく、好き勝手したいならそれなりのノルマを片付けてからにしてちょうだい。」
 「ハイ。」

 彼女の通う小学校は比較的近くにあるため、自ら徒歩で行くことを望んでいる。もちろんそれは制限されていない。

 教室に着いた麗美馨は、いかにも高級そうなランドセルを乱暴に下ろし、窓を全開にし、予鈴がなるまで身を乗り出して外を眺める。そこからは、朝日降り注ぐ蒼き空が広がっていた。
 灰色のコンクリートと我が家がよく目立つ風景の真上に輝く、神々しいありのままの存在として。


※作者付記: 自作小説の一片に少し手を加えたものです。
酷評願います^^;







エントリ06  忘れられた時間     いっぺいくん


もしも、もう一度だけ会いたいと思ったらどうすればいいのかな?
僕も列車に乗って君のところへ飛んで行けばいいかな?
君が僕の疑問に首を傾けた時に扉が閉まった。
強く降る雨の中に彼女を乗せた列車は飛び込んでいった。
僕の声は届いていたのだろうか・・・今でも答えは見つからない。

「おっす!公平」
後ろから卓也の声が聞こえると見覚えのある女性と手をつないでいた。
「はっ、はじめまして」
木々の揺れる音に聞こえづらかったが彼女は僕を覚えていなかった。
三年前、首を傾けたときよりも大人っぽく、ショートに近かった髪は肩まで伸びていた。
くりっとした黒目はあいかわらずで、見つめられた僕はあの時のように吸い込まれそうになった。
「なに、知り合いなの?」
公平が僕の視界に割り込んで来た。
「違うよ。思い出の彼女に似てたんだ」
「あぁ、いつも話していた彼女か。住んでる場所さへ知らないのだからあきらめろよ」

そう。僕と彼女は東京駅という限られた世界で出会った。
重そうな荷物を引きずっている彼女にあの時何故、声をかけたのかは覚えていないが、彼女と過ごした30分は鮮明に覚えていた。
ホームまで荷物を持っていった僕は彼女から熱くなっている缶のコーンポタージュを渡された。
「ありがとうねぇ。東京で優しくされたのは最初で最後かも」
缶の蓋に爪をかけようとしていた時、くりっとした黒目に薄く涙が浮かんでいる彼女を見た。
「時間って進んでいくだけのものとしか思われていないけど、本当は戻ることもあるんだよ」
新幹線がホームに入ってきたとき彼女は僕の目を見つめてつぶやいた。
東京で何があったのか、聞く勇気が出なかったが彼女のその目を見て理解できたような気がした。
「そろそろ出発時間だ。本当にありがとうねぇ。私なんかに時間を使わせちゃって」
「あのぉ。もしも、もう一度だけ会いたいと思ったらどうすればいいのかな?」
彼女は何も答えなかった。
「僕も列車に乗って君のところへ飛んで行けばいいかな?」
君が僕の疑問に首を傾けた時に扉が閉まった。
強く降る雨の中に彼女を乗せた列車は飛び込んでいった。
僕の声は届いていたのだろうか・・・今でも答えは見つからない。

「おい!公平」
目を開けるとそこには青い空が広がっていた。
「何寝ようととしてるんだよ」
いつのまにか、卓也達と話している間に寝ていたらしい。
「公平さん。これどうぞ・・・」
彼女から渡されたのは、熱い缶のコーンポタージュだった。