「おや、珍しいね、人間がこんな処まできてゐるよ」「本当だね、あの緑色の機関車に乗つてきたのかな」「いいや、きつと綿毛にのつて飛んできたのさ」「そんなわけあるか、人間はうんと重いんだぞ」「此所はずいぶん寒いねえ」 青年は、丘に広がる黄色い花々に話しかけました。花達は、青年に急に話しかけてこられたから、みんな驚いて黙つて仕舞ひました。花の言葉は、人間には聞こゑない筈だからです。勇気のある白ぽいやつが青年に向かつてすこし青ざめて言ひました。「おれの声が聞こゑるなんて変だぞ。さては、お前は悪魔か何かだな、」青年はしやんと云ひました。「僕は電機人間さ。」「電機人間。何なんだい、それは。」「谷の底に在る香水工場で花を摘む為の機械さ。ただ、僕は頭にでつかい鉛のボルトが刺さつて以来、何だか花が可哀想で摘めなくなつて仕舞ひ、仕事を辞めさせられちまつたんだがね。」「ふん、辞めちまつて正解さ、そんな野蛮な仕事。」みんなは背伸びして口々に言いました。「旅をして、やつと此所まで着いたのだけれど、この丘は今まで見た中で一番綺麗な処だ。僕はきつと此所を探していた。」「そうかそうか、ならずつと此所に居ればいいよ」白ぽいやつがにこにこ言いました。「有り難う。なら僕そうしよう。」 途端に、電機人間は、その場にがしやんと倒れました。「もう瓦斯も油も無くなつていたんだ。機関車から、この丘が見えたから、僕本当に、君達の中に入りたかつたんだ」「そうか。おれはニハル。…永く眠る前に、お前の名前を教えて呉れよ。」白ぽいやつが、電機人間の耳元で言いました。「僕は、アルシュ」「ああ、おやすみ、アルシュ。世界で一番幸せな電機人間。此所の丘が何故美しいのか解るかい、」然しアルシュはもう動きませんでした。「花を摘むことを忘れた君が、花を摘まない幸せを見つけたからさ。」 丘には更に沢山の花が咲き、緑色の機関車をけふもさわやかに見送つています。
「とぅうぃんこーとぅうぃんこーりぃろぉすたぁー♪」「……きらきら星?どうしたの、急に」「何となく思い出してみた」 私は、単調なメロディーで誰にでも作れるような、この歌が好きだ。「今日は、星出るよね?」「このまま天気が崩れなければ」 大好きな樹(たつき)と手を繋いで、今日は久々の買い物をしに外に出ていた。「あ、鯛焼きの屋台はっけーん☆食べよ♪」「さっき昼飯食ったばっかだろー……ったく、未悠(みはる)はマジ食いしん坊だな」 屋台に居たのは、樹と同じ20代くらいの、笑顔が可愛らしいお兄さんだった。「いらっしゃーい♪」「小倉餡1つとクリーム1つ!」「あいよ〜」 樹は餡が嫌いだ。「……はい、お待ち〜」 と、お兄さんと樹の視線がぶつかった。「貴方は……!」 お兄さんの表情が一変する。「え?なになに?」 私は訳がわからず、2人の顔を交互に見た。 数秒の沈黙の後、樹は一瞬厳しい目付きになったと思ったら、すぐに表情を柔らかくした。「何でもないよ、未悠。仕事でこの前会った方だ。……そうでしたよね」 最後は何気に強い語調で言ったので、お兄さんは頷くしかなかった。 私はと言えば、鯛焼きをもらってすっかり嬉しい気分になっていたので、そんなことはすぐに忘れてしまった。 近くの公園のベンチに座って食べた。「美味しいね♪」 隣に立っている桜の樹には、1枚の葉もなかったけど、何だか偉く見えた。「ちょっと待ってろ」 樹は、公園の入口近くの自動販売機で、温かい緑茶を買って来てくれた。「ありがと!」 少し雲が浮かぶ薄水色の空と、温かいお茶と、鯛焼きと、……樹と。「幸せ」 霜月の小春日和に包まれて。「……今夜も、仕事行くの?」「おう。……ごめんな、いつも夜一緒に居てやれなくて」「私なら、大丈夫だよ」 そうは言ったものの、やっぱり寂しい。 すごく、寂しい。 樹の仕事は、私はよく知らない……知らない方がいい、のかもしれない。 夜の10時過ぎ。「じゃ、仕事行くからな」「うん」「明日朝早いんだろ、早く寝ろよ」「うん」 私は、玄関で樹に強く抱きついた。「じゃぁな、おやすみ、未悠」「おやすみ……」 私はこの瞬間が人生の中で一番嫌いだ。 でも……私は、私ができる最高の笑顔で言った。「行ってらっしゃい、パパ!!」 樹――パパは、笑顔でドアの向こうに消えた。 おほしさま。 ちゃんときょうもパパをみまもっててよね。
※作者付記: 前回に続き、2回目の投稿です。お読み頂き、有難うございます。今度はなんとか1000字近くまでいきました。
11時50分もう少しで今日が終わる。あと、たったの10分だ。僕の手にはコーヒーが注がれたコップと、文庫本がある。そろそろ寝なければ。でも、もったいないな。何が?今日が終わってしまう事だよ。日にちが一つ変われば、今日は過去になってしまうんだから。そんなのいつもの事じゃないか。いつもと変わらず今日が終わって、明日が来る。それが何で、今日に限ってそんな事を言うんだい?僕はコーヒーを一口飲んだ。夜だというのに、湯気が良く見える。これもいつもと変わらない事か。11時55分手にしている文庫本の258ページを開いた。そこでは船が動き出し、主人と召使の言葉が載っていた。僕は続きを読まなかった。変わりに栞をそのページにさして、次はそこから読んでみようと思った。歌を聴いたからだよ。誰の歌だい?君が知らない人さ。君が知っていて、僕が知らない事なんてないというのに、君は何故そんな事を言うんだい?人は、無駄の天才だからだよ。不思議なことに、どんなに平凡な人でも、無駄をしようと思うと、素晴らしい無駄遣いが出来てしまうんだよ。それでは答えになってないような気がするけどね。それも、君の言う無駄なのかい?そうかもね、そうではないかもね。どちらでもいいさ。僕はもう一口コーヒーを飲んだ。ああ、歌の話をしてもいいかい?いいとも、聞かせてくれよ。その歌にはね、明日の向こうって歌詞があるんだ。それが今日の僕は、とても気になったんだよ。もし、明日が向こうにあるのなら、今日と明日は12時を境にして途切れているんだ。壁のようなものでも立っていてね。それで?うん、つまりだね、その錯覚の壁があると感じることが、今日の僕が特別だという理由だよ。時間の上に乗っている僕達は、時間を歩かされている。ゆっくりと、少しずつ進んでいるんだよ、壁に向ってね。もう今日に帰れなくなる壁さ。時間の論議なんて意味がないさ。人はまだ時間がどういうものか、定義づけができないのだから。11時59分この時間が進んで、今日が終わっても、君はまだ傍にいてくれるかい?声は聞こえなかった。明日は目前だ。この壁を越えたら、僕は今日から明日へと進んで、明日が今日になる。壁にぶつかったりはしないかな? 面白そうだけど、勇気がないや。12秒前だよ、君。もし迷っていたら、明日でつかまえておくれよ。約束するよ。ああ、良かった。これで僕らはまた一緒にいられるね。12時00分
━━放課後━━「ダァァァーyゥyゥマジうざいy。」あつきは いつも先生に怒られては走らされていた・・・「また走ってんのかョ?」こいつは あたしの幼なじみこうや いつもこうして話しかけてくる「うるせーんだョy。」あつきはこうやが大嫌いだった・・・「なぁ?いつまでそうゆう態度とってんだょ?」「・・・」実は あつきは誰にも知られたくないことをこうやに言ってしまったから・・・「っうかさyァなんで俺がこんな状況になってるわけyィそもそもは お前がいったんじゃんy。」「はぁ?お前がひつこいから言ってやったんだろyィy。」実は あつきは押しに弱かった・・・だからいつもこうして逆切れしていた・・・
私は誰? わいわい。がやがや。そんな効果音がぴったりとあてはまりそうな場所。空港のロビーや駅のホームと似た雰囲気を持つけれど、そこにいる黄色人種は数えるほどで、あとは黒く濃い肌色の子供が多い。日本の女子高生なんて、多分私一人だ。「どうかしたの?」 にこっとその人は笑って、私を見下ろしていた。爽やかな笑顔を顔一杯に浮かばせて、多分10人いたら9人はこの人は“良い人”だと言う判断を下すだろう。因みに、残った私のような一人は、彼のような男を胡散臭そうに見上げるのだ。「隣座っていい?」「…どーぞ」 私はぶっきらぼうにそう言い、彼は背筋のすっと整った綺麗な姿勢で私の左隣に腰を下ろした。「どこから来たの?」「日本」「ああ。今は自殺が流行っているんだってね」 彼の視線が私の手首に注がれるのが分かった。私は慌てて右手で左手首の傷を隠したけれど、もう既にその赤い線を見られてしまったから無駄な事で、そう分かったら無性に恥ずかしくなって、顔を伏せた。「手を出して」「?」 彼がそう言ったので、私は訝しげに眉を寄せてそれを無視した。 すると彼は、いいから、と半ば強引に左手首の傷を隠していた右手を引いた。「ほら」 私の手に乗ったのは、一つのコンパクトだった。「…なに…?」「見てごらん」 私は恐る恐るそのコンパクトの美しい花の模様があしらわれた蓋に手を掛けた。パカ、と音がしてゆっくりと鏡が私の口元を映していく。「―――…っ!」 そこに映っていたのは、私であって、私ではなかった。私は私だと分かった。けれど、鏡に映る私は、今まで私が見ていた自分自身の姿よりも、ずっと綺麗だった。「それは君の5年後の姿。結局こんな綺麗になる前に君は命を絶ってしまったけれど」 彼は悲しそうな顔を浮かべて、コンパクトから目の離せない私の傷ついた手首にそっと白い指を這わせた。「後悔した?」 私は頷いた。私の容姿が気に入らないといって、毎日私を罵ったクラスメイト―――5年後にはそんな彼らを笑い飛ばせるほど、私は綺麗になっているのに。「うん。じゃあ、次は後悔しないようにしなきゃね」 彼はコンパクトの蓋を閉じて私の手にぎゅっと握らせて、私の頭を大事なものでも扱うように優しく撫でた。私は呆然としたままもう一度頷いた。「そろそろ、行こうか」 彼の手が差し出された。私はそれを躊躇わずに、取った。 ―――大丈夫。私は確かに、強くなったから。
「すみません、早く金払え、払わないと品物届けないぞって請求書届いたんですけど」「払ってないんだから届いたんですが、何か?」「いえ、きちんと払いましたよ? ほら、領収書」「ああ、領収書ですね。うちの店の名前が書いてある」「分かっていただけましたか」「話題を逸らさずに、早くお金払って下さい」「は? だって、今、領収書だって」「大事なのはお金ですよ。領収書がどうだかは知りませんが、こっちでは金を受け取ってません、これが事実です」「お金払ってますよ、勿論。この日付の日に、きちんと現金渡してます」「何か証拠でもありますか?」「いや、だから、その証拠の領収書でしょう」「お金を受け取ってませんし、記録もありませんね。そもそも、領収書なんて、偽造だって出来るでしょう?」「偽造なんてしてませんよ!」「うるさいな、じゃあ調べとくからまた今度来て下さい」「今度っていつ!?」「資料を調べ終わったらですよ。資料の量も確認してないのに、いつなんて言える訳ないじゃないですか」「あの、また請求書届いたんですけど。調べてる途中ですよね」「あー、ああ、それね。間違いでした」「間違い?」「会計係に金を持ち逃げしたヤツが何人かいましてね。領収書も勝手に出したみたいなんですよ。まったく、油断も隙もないですなぁ。ハッハッハッハ!」「ちょ、ちょっと」「もう今は心配ないですよ。盗んだヤツは、ちゃんと対処したんで。後、金の方も払ったって事にしたんで」「ああ対処――逮捕されたんですね」「いえ、クビにしました」「クビ? 逮捕でなく?」「え? 逮捕する事もないでしょう? あなたは他人だから、逮捕なんて簡単に言いますけどね、前科者になったら一家が路頭に迷うんですよ? 奥さんは肩身が狭いし、子供はいじめられるかも知れない。今まで頑張って働いてた社員を、そんな些細な事でどん底に追い込むなんて、いくらなんでも可哀想ですよ。そもそも、退職金もあげてないんですよ? 退職金で、パソコンがいくつ買えるか」「……まあ、そうかなぁ。頼むよ、今度から。この辺田舎なんだし、パソコン買える店ここしかないんだから」「……あの、一ヶ月待ってもパソコン届かないんですけど」「えー? 届けましたよ。何か届いてない証拠でもありますか?」
むあっ目の前を女子生徒数人が通り過ぎるとなんだかよくわからないがとても濃い香りが鼻腔を貫く(…濃)口に出すと失礼とも取られかねない台詞を吹き出しに浮かべ走り去った女子達を目で追ういつからこの国の女性はあんなにもきつい匂いを醸すようになったのだろう男にもたまにすごい匂いをしている奴がいるが女の場合すべからくきつい匂いを放っている…俺の鼻の方がおかしいのかもしれない男の大半はどうってことがないことから恐らく自分とは違う匂いに耐えられないのだろう流石に生活に支障をきたすほどではないが女子に至近距離によられると思わず息を止めてしまう長時間いられると呼吸困難に陥るので用件は手早く済ませなるだけ関わらないようにしている今日も掃除をさっさと終わらせ帰宅しようとほうきを動かす教室内には俺を含めて女子3人男子2人そこそこにふざけながらも俺が黙々と働いているので掃除はすぐに片付いていった俺はたまたま日直もかねていたので花瓶片手に日誌を届けに行った戻ってくるころにはもう誰もいないだろう日誌を渡し横着をするなとたしなめられ平謝りをすると水場で一息ついた職員室のタバコやらなんやらの匂いも中々きついのだそこで一旦窓を開け思いっきり息を吸い込む「あぁ…」ちょっとおっさん臭いな…何度か深呼吸をした後一息ついたと振り返ると背後に人の顔があって心底驚いた「なにやってんだ」「こっちの台詞だよぅ…急にふらっといなくなって」肩をすくめて水を替えた花瓶を持ち上げるとポンッと手を打ちオォっと唸ったどうやら合点が行ったようだ「だったらあたしも帰ればよかった」どうやら他の連中は帰ってしまったようだ薄情なやつらだ、まぁ普通は帰るのだが「あぁー鞄教室だし」もちろん俺も鞄は教室だ必然的に俺達は並んで歩くような構図になったわけだが教室で別れてから気付いた(あれ? 俺さっき普通に息してた?)俺の鼻が治ったのだろうかと思い帰り際に職員室で盛大に息を吸い思いっきりむせ返った肺をやってしまいそうだったそれから何度か俺はやつの匂いをコッソリと嗅いでみた正直犯罪者気分だったがそれでもやつから発する匂いが不快にならないやつの匂いの元は一体なんなのださっぱり解らなかったので思い切って聞いてみた「お前って何の香水つけてんだ?」「? 香水なんてつけてないよ?」そういってはにかむ様に彼女は振り向いた彼女の匂いが心地よいと気付いたのはこの時だった