第66回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01ラン・ボーイ・ランヤマモト1000
02Cネーム:SUIREN778日出人908
03眠らなかった森の美女八頭1103
04Summer has come.月島瑠奈998
05空箱土目1000
06学校の…久遠988
 
 
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エントリ01  ラン・ボーイ・ラン     ヤマモト


僕はまだ中学生で、家と学校が僕の世界のほとんど全て。部活はハードな陸上部で、今フォームをガッチガチに直されているところ。友達は沢山。おかしい奴等が沢山いる。勉強はそこそこ。国語より数学が好きだ。歴史も好き。自分でも思う、僕は平均的男子。
しかして。僕の中で無茶苦茶特別なもの。それは初恋だ。彼女に一目ボレして以来、僕の世界はバラ色だ。

授業が終ると部活の時間。体操服に着替え、僕は今日も彼女を想い走る。
スタートの合図からすべからく体重を前へ前へ、前傾姿勢を保ちながら脇を締め前後に腕を振る、振る、振る。飛び出す足から地面の感触をザンザン感じるのに気付くと全ての感覚が鋭くなっていく。自分の内側に、外側に。
心臓はポンプ、僕の真っ赤な血潮は握拳大のこの器官によって勢いよく送り出され身体中を巡って僕を生かす。呼吸すれば肺が膨らみ凹み、酸素を取り入れ二酸化炭素を吐き出す。肉体の構造がガンガンシンプルになって実感されてくる。
五感はあらゆる方向へアンテナを伸ばす。耳はテニス部の掛声や体育館の床がキュッキュ鳴る音、校舎内ではしゃぐカップルの声まで捕らえるし、目は太陽に照らされる全てのものを僕の脳へ届ける。タイムをとる顧問の難しい顔、野球部の首筋の汗、踏み締める砂の一粒一粒まで僕は見る事が出来る。それがアドレナリンによる錯覚だとしても。僕は世界を感じその中で生きる。激しく速く走りながら。
勢いよく肌をなぶる風に余計なものは吹飛ばされ、生きている感覚だけが残る。
好きだ、と思う。この世界が。僕が生きる世界。僕が走る世界。平均的世界。彼女が生きる世界。彼女を感じられる世界。酷い事も美しいものも異なるもの全てが同時に存在しうる世界。
好きだ好きだ好きだ。彼女を初めて見た時から。走っている時と同じ感覚になるなんて。僕は僕の鼓動を静める事ができない。好きだ好きだ好きだ。耳元で風が急かす様に鳴る。ゴーゴーゴーゴー。ドンドンドンドン、心臓は誰かに叩かれている様に弾み、苦しいのに生きている感覚をうるさいくらいに伝える。好きだ好きだ好きだ、伝える気も手段もない、ゴールの事も考えず僕はただ想い走る。ガンガンガンガン走る。走る走る走る。好きだ好きだ好きだ――。

僕はまだ中学生で、家と学校が僕の世界のほとんど全て。いろんなものを吹き飛ばし走り、心底この世と彼女を愛す。
アドレナリンと初めての恋に酔う、まだヘナチョコな13歳だ。







エントリ02  Cネーム:SUIREN778     日出人


 いつからか、気配を消すことなど簡単になっていた。私はひとり、暗闇でじっと息をひそめる。もう四ヶ月、何も指令がない。いよいよ私も用済みになり、消される運命にあることを悟った。

 突然、指令が入った。指令用の携帯電話にメール。指令の連絡が入るのみで、こちらから電話をしたりメールを送信することはない。当然、メモリには番号もアドレスも登録されていない。もう三年以上も前の機種で、電池の消耗が激しい。
 指令のメールの文面は暗号となっている。頭に叩き込んだ暗号一覧で即座に解読。明日、池袋のある飲食店に出頭せよとある。ターゲットとの接触に何度か使ったことのある店だ。連中は、明日私を処分すると決めたらしい。私の死体は発見されることはないだろう。
 この国に密入国して九年と二ヶ月。祖国からの指令に忠実に従い、確実に実行してきた。しかし私は知り過ぎた人間として消されるのだ。死など恐れていないが、このまま黙って殺されたくなかった。
 部屋を見渡した。住居として与えられた古くも新しくもないアパート。フローリングの床に布団があるのみで、家具らしいものは何もない。ずっとここで空気の一部のように生き延びてきた。唯一の持ち物のスポーツバッグから、現金三百万円の入った封筒を取り出す。口座には相当の金があるが、預金を下ろせば連中はすぐに感づくだろう。

 翌日、約束の時間に私は出頭しなかった。日付がまた変わる頃、アパートに四人の男が音もなく侵入しようとしているのを、遠くの物陰から見守る。予感は当たったようだ。一人を外に残して三人がドアの内側に入った瞬間、私は起爆装置の遠隔操作ボタンを押した。アパートは、閃光と共に轟音を発して吹き飛んだ。
 歩き出して数分後、着信があるはずのない携帯電話のバイブレーターが振動した。話などしたくないが、一応電話に出る。
「SUIRENか。直ちに出頭しろ。まず話し合おう」
 無機質な男の声だった。正確な日本語がひどく耳障りだ。
「私はただ、死にたくないだけだ」
「待て。早まるな。とにかく一度……」
 私は祖国の言葉で「死ね!」と叫ぶと、携帯電話をドブ川に放り投げた。
 目の前に広がる、深い闇へと、一歩ずつ足を運んでいった。







エントリ03  眠らなかった森の美女     八頭


 王女の誕生祝いで、招待に洩れた魔法使いは、王女に糸車の針に刺されて死ぬという呪いをかけました。呪いの力は強く、別の魔法使いの力をもってしても、百年眠る程度に和らげるのがせいぜいでした。
 セットの皿の枚数に合わせて客を招待する程愚鈍だった王様は、国民の反対を押し切って国中の糸車を集めて燃やしてしまいました。

 それから数年。
 王女は少しやんちゃなところもありますが可愛らしく、知識は偏っていますが聡明な子供に育っていました。
「――ねえ、マリア、いつも国民は城に向けて何か怒鳴っているけれど、一体何を言っているのか知っていて?」
「お気になさらず。国民というのは、城に向けてああやって何かを言うように出来ているのです。そうしないと不健康になるのです」
「意味のない言葉には聞こえないわ。服がどうとか、糸がどうとか言っているのは分かるのよ」
「そ、そんな事はありません。全然服の事なんて」
 侍女の慌てた口調を、王女は見逃しませんでした。
「わたしは、ウソなんかつかないマリアがだいすきよ?」
「それは……」
 侍女は本当に困った顔になります。本当は、お願いされたら、すぐに何だって聞いてあげたいのです。
「だめ?」
 王女は寂しそうな顔になります。
「いえ、そ、そんな事は」
 少しの間、侍女は言い出しあぐねて口をぱくぱくとさせていましたが、ようやく意を決したような顔になります。
「国民は……『服をよこせ』と言っているのです」
「まあ、国民は服を持っていないの?」
「糸が作れないので、布を織って新しい服を作る事も、繕う事も出来ないのです」
 王女は自分の服を見ます。王女が生まれる前に仕立てた服なので、きちんと糸が使われています。
「ひょっとして、わたしの呪いって、その糸と関係があるのではなくて?」
 口ごもりながらも、侍女は小さく頷いてから、呪いの内容を詳しく話しました。
「――そうだったの」
 話を聞き、王女はうつむきます。
「王女様、気になさらないで下さい! 我が国は綿も羊毛は取れるし、手で糸は紡げない事もありませんし――」
「……そうだわ」
「はい?」
「布が作れなければ、フェルトを使えば良いのではなくて?」

 国民は布ではなくフェルトを使うようになりました。
 フェルトの服は、この国の特産品となりました。お金は貯まっていき、別の国から糸や普通の布を買う事も出来るようになりました。こうして、糸車は本当に必要なくなり、王女が針に刺される事はありませんでした。
 そして、無事に大人になった王女の計らいで、国王は早めに隠居し、かつての暴政を責める声は立ち消えてしまいました。

 同じ職人の作ったお皿のセットを持っていた、遠い別の国のお話です。







エントリ04  Summer has come.     月島瑠奈


ダンナさんは,コンビニ袋片手にしまった,という表情を浮かべていた。

「ご……ごめん」

 悪戯をして反省する子供みたいに,謝るダンナさんの姿はとても可愛らしい。
 30も間近の現役サラリーマンにこんな表現するのは失礼かもしれない。
 でも,可愛いんだからしょうがない。乙女ゴコロを擽る。
 とにかくも,だから思わず困らせてみたいと小学生級の思惑を抱いてしまうのも,致し方ない。
 ……多分。

「シン君が『君が淹れた美味しい紅茶が飲みたい』って言うから,一生懸命愛を込めて淹れたのにぃ」

「ヤニ切れたなーと思ってさ。そしたら我慢できなくなっちゃてさ。本当に悪かった!」

 ダンナさんは,童顔に似合わずスモーカーだ。
 日に何箱も開ける位の,ヘビースモーカーではないから禁煙しろとかは言わない。
 煙が篭らない程度なら,タバコの香りも悪いものではない。
 ダンナさんの存在が感じられるし。

「ショック。タバコに負けた」

「だからごめんって。こら,機嫌直しなさい」

「それにしても,タバコ買うだけにしてはちょっと遅くない?」

 我が家と最寄のコンビニまでは徒歩2分程度。
 タバコなんてレジで買うから探す時間は殆どないはず。

「どうせ,立ち読みとかしてたんでしょー。お好みのグラビアは見つかりましたかー?」

「馬鹿,そんな本見てないよ。漫画だよ漫画!」

「やっぱり,立ち読みしてたんだ」

「……あ。ええと,……折角だから,紅茶いただこうかな」

「え? もう冷めちゃったから,淹れなおすよ」

「いいって,手間かけるから。勿体無いしそれに愛が一番沢山入っている紅茶が飲みたいの」

「……その気持ちは嬉しいけど,そこはこだわりがー」

『……本日は全国各地で真夏日を越える天気となり……』

 待っている間の暇つぶしに流していたTVから聞こえる天気予報。

 そう言えば昨日の夜から寝苦しくって,クーラーつけっ放しにしてたから感覚が麻痺してた。
 そういえば,ダンナさんも汗をかいている。
 それは確かに,立ち読みでもして涼みたい気持ちになるのも無理はない。
 今は夏真っ盛りなんだから。

「良くタバコだけのためにこの暑い中外出したね。私絶対駄目」

「うん…{{三点リーダ}}確かに,俺もそう思った。コンビニ,極楽だったよ〜」

 言いながら,ポットに手を伸ばすダンナさんの手を遮った。

「待ってて,今。アイスティーにしてくるから」


 窓から見える空には,とってもまぶしい夏の太陽が煌いていた。



※作者付記: 初投稿です。季節はずれなお話です。






エントリ05  空箱     土目



その時私には何もなかった

満たされていたかつての私は何処にもなく

あぁ、今私は”からっぽ”なんだな、と漠然と思っていた

このまま朽ちていくのも悪くないかな、なんて自虐気味に呟いていた時
彼との出会いはそんな昼日中の公園での出来事だった
彼は私に気付くとにっこりと笑顔を向け手を伸ばしてくれた
初めての出来事に戸惑い、体が震えて声が出ない
けれど彼はそのやさしくも力強い手で私を軽く掴み上げると
そのまま彼の部屋まで私を連れて行った
これは犯罪なのでは? と頭によぎる
が、まぁいいかと私は気にしないことにした
それよりもここでなら彼ならもう一度私は満たされるかもしれない
そんな期待に胸を弾ませずにはいられなかった
彼は私を部屋に座らせると部屋を出かけていく
一人にされる不安から引き止めてしまおうかと思うがそれができない
「行って来ます」の声がとても遠くに聞こえドアの閉まる音が無常に響く
あ…
思わず声が漏れたが彼に届くことはない
仕方ない…引き止めなかったのは自分だし何よりあそこから私を救い上げてくれた人にそれ以上を求めるというのも贅沢な話だ
と自己弁護を済ませた後に部屋を眺めることにする
ぐるり一回り見回すだけで私はめまいを起こした
彼の部屋には色んな物があった
それは多彩というよりは雑多、物が揃っているというより物で溢れている感じだ
とてもいい部屋とは呼び難い
けれど何故か私にはここがあっているそう思えた
部屋の匂いがそう思わせるのだろうか気が付くと私は笑顔になっていた
自分が笑っていることに気付き何とか元に戻そうとするのだがうまく行かない
それで余計に変な顔になってしまってい、また笑うの繰り返し
やっとのことで落ち着いたが特にすることもないのでボーっとしている
しばらくボーっとしていると彼が帰ってきた
私は今までがそうだった様にこれからもボーっとしていくことにした
何も変わっていないはずなのに決定的に何かが違った
ただそこにいるだけで私は満たされていった、彼が満たしてくれた

けれど彼は私が幸せの絶頂になるといつも私の全てを奪ってしまう
それを与えてくれたのは確かに貴方だけど
勝手に奪っていくなんて…
理不尽じゃない!
でも彼はすぐにまた新しい物で私を満たしてくれる
何度も与えられ奪われを繰り返して私はやっと気付いた
私はいつも彼に満たしてもらっている
そう私はいつも満たされているのだ
それに気付いた私は何もないのに何故か他の何よりも満たされていた







エントリ06  学校の…     久遠


 某小学校の螺旋階段。校舎の真ん中に位置するそれは、数十年前生徒が転落死した事から使用禁止になり、校舎の隅に代わりの階段が設置された。
 しかし、代わりのその階段は急いでいる時などは使うのが非常に面倒で、現在では罪悪感を持ちながらも生徒は螺旋階段を使い、教師もそれに目を瞑りながら彼らも密かに使っていた。
 すると、一つの話が生まれた。
「あの螺旋階段、夜の五時に最後の12段を数えて降りていくと、階段の数が増えて、そのまま地獄まで行っちゃうんだって」
 その話を聞いた一人の少女はとても怖がりだった。そして、その日少女は委員会で帰りが遅くなり、親からは早く帰って来るようにと言われていた。
 時刻は五時少し前。今から校舎隅の階段を使って帰ったら遅くなるのは必須だった。でも、怖がりの少女は螺旋階段を下りる勇気がなくて、階段の前で立ち往生していた。
「どうしたの?」
 そんな少女の背中に声が掛かった。少女が驚いて振り返ると、年の頃が同じくらいの少年が立っていた。それでも少女はこんな少年を今まで一度も見たことはなかった。
「帰らないの?」
「階段が……」
 少女がおずおずと告げると、少年は首を傾げて螺旋階段を走って降りた。
「あ! 待って…!」
 少女は慌てて少年を追いかけた。すると、少年は最後の踊り場、階段の残りが12段の所で少女を待っていた。
「早くしないと遅くなるよ」
 少年は手を差し出して、少女は反射的にその手を取った。冷たくてさらりとした手だった。
「(1、2…)」
 二人は階段を降り始め、少女は自分の恐怖心とは裏腹に無意識のうちに階段の段数を数え始めていた。
「(…9、10)」
 11段目で、少年の手が少女の手から離れた。
 そして、少年は最後の12段目を飛ばして廊下にトンッと軽々と足を付けた。
 ―――時刻は丁度、五時。
「どうしたの?」
 少年が11段目で立ち尽くしたままの少女に首を傾げて尋ねた。
「ううん」
 少女もまた一段飛ばして廊下に足を付けた。
「……一段抜かせば良いんだ」
「何か言った?」
 少年の問いに、少女は緩やかに首を横に振った。
「…僕、ちょっと急ぐんだ。気をつけて帰ってね」
「あ。うん。さようなら」
 さようなら、と少年は笑って走って行ってしまった。

 それから、学校の階段の怪談話は闇に葬られたようにぱたりと聞かなくなった。
 そして不思議な事に、少女はそれから一回もあの少年を見ることはなかった…。