第74回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01食の安全Vickers929
02生と死と愛しずる1000
03私と彼女の身体事情土目1000
04結婚するって本当ですか?久遠999
05『前髪』佳石939
 
 
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エントリ01  食の安全     Vickers


「……む、今度は米か。困ったものだ」
 首相官邸の執務室で、総理大臣がため息をつく。
「どうされました、総理?」
 秘書が尋ねる。
「食品の信頼性の話だ」
「ああ」
「国民の生命の安全の柱だというのに、企業も農水省も全くなってはおらん!」
「……そうですね」

 官房長官が記者団の前に出る。
 記者たちのフラッシュが一斉に光り始める。
「――えー、この度、刑法を改正致しまして、食品の生産、流通に関わる企業や役所で発生した不正に対する刑罰を五割り増しに引き上げる事と致します」
「官房長官! 質問よろしいですか!」
 記者の一人が怒鳴る。
「はい?」
「それは、この度の事故米が原因の対策だと考えて良いんですか?」
「いえ、必ずしもそれ一件によって決まった事ではなく、昨今の状況を総合的に判断しまして――」

「はぁ……」
 頭を抱え、総理大臣は首を横に振る。
「今度は肉か!」
 ニュースサイトが表示されていたノートパソコンを閉じる。
「刑罰を増やしただけでは駄目か」
「発覚するだけ健全と言えなくもありませんが……」
 言いつつも、秘書も苦笑いをしている。
「よし、こうなれば!」
 総理大臣は椅子を蹴倒して立ち上がった。

 官房長官が、フラッシュの中で発表する。
「――えー、この度、地産地消を大前提と致しまして、食品の県境を越えた輸送を禁止致します」
「官房長官! それによって、本当に安全が保障されるんですか!?」
 記者が怒鳴る。
「食品の不祥事というのは、この……いわゆる顔の見えない相手に販売する事が原因であると考えられますので、今回の対応は必要十分なものであると判断しております」

「むぅ……ぬおおお!」
 総理大臣は、頭を何度も机に打ちつける。
「県内で売られた野菜に、規定量を超える成長促進剤ですか。所詮身内でない者には、何だって使うんでしょうかね」
 秘書は新聞を見る。
「こうなれば、根比べだ!」
 総理大臣は、机を拳で叩いた。

「――えー、この度、食物の販売を禁止致しまして、食物、食品類の家族間を除く移動を禁止致します」

「総理、やりましたね、あれ以来、一件も食品に関する不祥事は起きていませんよ! 総理、ねえ、総理!?」
 机に突っ伏していた総理は、弱々しくげっそり頬の痩けた顔を上げた。
「くい……もの」







エントリ02  生と死と愛     しずる


「君はもう死んでるんだよ」
「え? 何言ってるのよ」
「君は死者だ。光を求めて、生の世界に迷い込んだんだね」
「ふふふ。いやねぇ。あなた、そういう小説、読みすぎよ」
「いや、本当だから。ほら」
 夫は、和室に置かれた仏壇を指さした。そこには、私の写真が飾られている。ふと、自分の体を見てみると、まるで当然かの様に、透けていた。
「あら、ヤダ。本当ね」
「だろう?」
「それにしても、もっと良い写真なかったの? これじゃあ、女狐みたいじゃない」
「そうかな。僕は、結構、気に入ってるけど」
「そうかしら……」
「あぁ、そうさ」
「ねぇ、私って、何で死んだの?」
「覚えていないのかい?」
「えぇ」
「交通事故だよ。車に轢かれて……」
「そう……。ねぇ、私、苦しんだかしら」
「いいや。即死だったらしい」
「それなら良かったわ。苦しみながら死ぬのって、恐ろしいもの」
 私は、仏壇に目をやる。改めて、自分は死んだのだと実感した。不思議な気持ちだが、恐怖心や失望感は、ない。それはきっと、今こうして、生きていた頃と変わらず、夫の傍にいるからだろう。
「……ねぇ、私って、あなたにとって良い妻だった?」
「突然、何を言い出すんだい?」
「私は、あなたから大きな幸せを貰ったけど、私は、あなたにそれ相応の幸せを返せたかな、って」
「勿論だよ」
「あなたを罵ってばかりで、本当に悪かったと思ってるわ」
「もう済んだ事さ」
「いいえ。嫉妬深く、いつもあなたの愛を疑ってたわ。一日に50回も電話したり、夜中に泣き叫んだり、あなたを袋叩きにしたり」
「もういいんだよ」
「良くないわ! 優しさと思いやりに満ちたあなたを、私を愛してくれたあなたを信じずに、私は……。あなたを不幸にしてしまった」
「幸江」
「……」
「僕は不幸だなんて思っていなかったよ。幸せだった」
「あなた……。こんな自分勝手な私を許してくれるの?」
「僕は、いつも愛していたよ」
「……ありがとう。その言葉、もう一度聞きたかったの。……じゃあ、私、もう行くわね。さようなら、大切な人」
「待って」
「?」
「一緒に行くよ」
「え!?」
 夫は、私の前に手を差し出した。私は静かに手を伸ばし、夫の手を掴もうとするが、すり抜けて掴めない。
「駄目よ。掴めないみたい」
「大丈夫さ。ほら、よくあるじゃないか。霊体になって、生者に触れなくなっても、意思を通じ合わせたその時、触る事ができるってやつ」
「あなた……。そういう小説、読みすぎよ」







エントリ03  私と彼女の身体事情     土目


私、平城優には一人の友人がいる
彼女、加藤速水である
幼稚園、下手をすればそれよりも以前からの付き合いである。

そんな結構仲の私達であったがある日、私達といっても私が一方的になのだが底の見えない溝ができた

それは4月の中頃であった
「それでは次、加藤さーん」
「はい、行ってくるね」

手を振る彼女に軽く手を振り返して保健室へ入る体操服姿の彼女を見送った
数分後、彼女安堵のため息とともに部屋から出てきた

ガラッ

「どうだった、どうだった?」
待ちきれませんとばかりに彼女に食いつく
「優が終わってからでいいっしょ」
「待ちきらんない〜」
じたばたと暴れると保険医が止めに出てくる前に速水の方が折れてくれる
「しょうがないなぁ…ボソボソ」
超のつく小声で結果を報告する速水
「うっはぁ、すんごいね!」
「あ、あんま騒がないでよ…」
焦ったように口をふさぐ速水にいたずら心が生まれる
「これ…が、こう…で」
目測と手の形でエア測定をすると速水は真っ赤になって胸を隠した
「次、平城さーん」
「ほ、ほら優、呼ばれたよ」
「へぃへぃ、戻ってからじっくりねっぷりだからな!」

宣言してから勇ましく保健室へ入っていく私、そして…

ガラッ
「あ、どうだった?」
「吸われてた…」
「へ?」
結論から言うと私の結果は思わしくなかった
平均との差が速水の+分以上に−であった
予想以下予想外規定外範囲外そんな感じの言葉で埋め尽くされていた私は今にも沈んでいきそうだった
私はおもむろに私の本来のあるべき姿のところへ手を伸ばし、その返却を求めた
「この、これが、私の」
「わぁあああ! 何!? 何!?」
「戻れ…戻るんだ…」
「戻んないよ! っていうか元から優のじゃないよ!」


そんなあの日にできた確かな溝を埋めるべく私は彼女を揉み続けている


「お祭り? 行く行くー! 浴衣? 持ってないけどそれがどかした?」


「次、体育中でやるってー、その手は何?」


「ちょ! 優! 授業中! 授業中だから!」


「常に私の視界にいて!」


「最近見境無い! 前からとか! 着替え中とか! お願いだからトイレではやめて!」


「せめて服の上からぁ!」


「先生! 平城さんの前の席は嫌です!」


私は揉み続ける、誤解を受けようが影で噂され様がたまに夢中になろうが
最近手段と目的が入れ替わってる気もするが

それでもいつか私に帰ってくることを信じて
今日も牛乳片手に揉んでいる、本来私のものであるこれを揉むのは当然の権利だ

悔しくなんてないもん







エントリ04  結婚するって本当ですか?     久遠



 ――どいつもこいつも、俺の勝手だろ!
 さっきまで俺の仕事を邪魔した友人達がやっと帰っていった。今日は同窓会があるから、声を掛けに来た――と言うのは、ほんの建前で、本当は真実が知りたいのだ。高校時代の友人が、卒業して一年も経たないうちに結婚すると言うのが、本当かどうなのか。
 そして、俺は堂々と答えたのだ。結婚すると。
 すると、奴らは揃ってそれだけはやめろと言い出した。口々に。
 すべて余計なお世話だった。本当は、彼女の父親がリストラにあって、財政的に厳しいから、俺が就職して彼女を養うためだ。愛しているのは本当だけど、正直、俺もどうして良いのか分らない。
 自動ドアが開いて、一人の客が入ってきた。
「いらっしゃい…あ」
「あ」
 見知った客は、中学時代の同級生。高校は俺が入れないような進学校で、今は有名大学の一年生。
「学校帰り?」
「まぁね」
 新商品のチョコレートを見つめながら、彼女は答えた。
「大学楽しい?」
「まあねー」
 そう言ってから、彼女は顔をあげて、俺を見つめた。
「結婚するんだって?」
「え?」
「さっき聞いた」
 そう言われて、容易に想像ができた。あの連中の一人が、彼女と面識のある奴だった。きっと、ここに入ってくる前に話を聞いたのだ。
「…まあな」
 俺は答えに困って、結局肯定した。どうせ、こいつだって、否定するんだ。
「…あたしも、結婚する予定だったよ」
「へ?」
「高校にも大学にも行かなくて、16になったら結婚するんだっていうくらい愛し合っている人がいたの」
 手にした商品を棚に戻しながら、なんでもないことのように続ける。
「それでもね、結婚してくれなかった」
「…ど、して…?」
「君はたくさんの世界を見なくちゃいけない。もし大学を卒業してそれでも僕のことが好きだったら結婚しよう――だってさ」
 言うと、鼻で笑った。まるで世界中のすべてを嘲笑するかのような笑みだった。
「不思議ね。あんなに好きだったのに、大学に入った今じゃちっとも好きじゃないの」
「……何が言いたいの?」
「別に」
 言うと、彼女は俺に秋の新作チョコレートを突きつけた。
「ただ、私は結婚しなくて良かったって思っているだけ。だって、お互いのためじゃないもの」
「お互いのため…?」
「好きじゃないんだもの」
 はっきりした言葉だった。
「…そうか。そうだよな」
「感謝しているのよ。そう言ってくれたあの人には」
 言うと、彼女は店から颯爽と出て行った。







エントリ05  『前髪』     佳石


 伸びた前髪を自分で切っていたら、切りすぎて、それを誤魔化すのにまた切って、だんだん短くなって、最後には2pあるかないかのなんとも不格好な前髪になってしまった。
広いおでこがコンプレックスなのに、切るのを途中でやめられなかった自分に矛盾を感じつつ、怒りをぶつける対象を探したけれど、『自分』以外には見つからない。
当たり前だ、他に誰が悪いはずもない。
 コンビニのバイトをクビになった次の日、予定のない土曜日の昼下がり、なんだか全てがおっくうになってしまった。
「帽子を買わないとな…」
 そんな独り言も言っても、本当は出かける気などこれっぽっちもなかった。ベッド脇にあったミニコンポのリモコンに手を伸ばし、MDの再生ボタンを押した。
色が次々に変わるところが気に入って買ったパイオニアのコンポのスピーカランプは、今ちょうど黄緑色だった。
「あれ…」
 いつまで経っても音が流れてこないので、仕方なくベッドから体を起こしてコンポの画面が見える場所まで歩いていった。
「空だ…ディスク抜いたっけ…」
数日前に友人が遊びに来ていた時の事を思い出す。
そう言えば、彼女が持っていないアルバムのMDをそのままあげた気がする。
「なんだ…」
そう言うと、また気だるさがドッと溢れてきた。何をする気にもなれない。
仕方なく3枚収まるCDのイジェクトボタンを1から順に押して中身を確認すると、2枚目のCD―Rを再生した。
閉めきった部屋には、昨日の晩焚いたお香の焦げ臭さだけが籠もっていた。頭が重い。
前髪は軽くなったハズなのに、視界が悪くて仕方がなかった。
「窓…あけよっかな」
音楽を聴くと一緒に大声で唄ってしまうクセのせいで、コンポをつける時窓は開けないのが常だったけれど、窓の格子越しに見た外があまりに清々しくて、開けずにはいられなかった。
何処か、ここ以外の場所と繋がらねば。
そんな、なんだか変な危機感があった。
「自分が駄目になってく気がするぅ〜」
半分笑いながら、遠くの山を見る。
何処かからケムリが上がっている。
田圃を焼いているのかもしれない。
家の前の道を、おばさんやおじさんや、自転車の子どもが通って行ったけれど、構わず大声で唄った。バカみたいに大口あけて。

梅雨の中休み。切り過ぎた前髪が風に薄っぺらくなびいた。


※作者付記:古い。。だいぶ前の作品です。
ほかは全部1000字超ぇてましたw