今は授業中、といっても自習時間 男友達が連れだってトイレに行き、まぁぶっちゃけ暇なのだが この暇な時間を有効に使おうとしていたわけだ そんで課題のプリントに目が行ったんだが 自分でやるなんて面倒くさくて仕方ない 誰かのを写してしまったほうが時間のエコだ というわけで森野麻女こと森野さんに話しかけた 語り口は俺の突拍子もない一言 「なぁなぁ、前々から思ってたけどさ森野さんって魔女っぽいよな」 真面目な彼女は教師の目がなくとも勉強をしていたが 教科書を閉じると僕の方を見て はぁ? の口をした 「…何言ってるの? 馬鹿じゃない」 …うん、そう言われるんじゃないかとは思ってた だけど俺は負けない、今日は退かないデーと朝起きた時心に決めたのだ 庭のダイゴロー(犬)に誓ったのだ 「だって、こう〜黒い服着て杖とか持ったら凄い様になりそうじゃない?」 「何? 私にそういう格好して欲しいの? そういう趣味の人だったの?…」 げふ、げふん 違う! 違うぞ! 断じてそういうわけではない! 「そ、そうじゃなくてさ〜、ただイメージの問題というか…」 「…いつも私見てそんなこと考えてたんだ」 うぼはぁ! 超逆効果! やばい! 俺の人としての尊厳というか色んな物が大ピンチ! やめて! 顔赤くしてジト目とかやめてー! 急速に話題の方向性を変えねば 「そ、その話は置いといて。森野さんて真面目だよね〜ちゃんと課題してるし」 「青山君は不真面目だよね、今も立ち話してるし」 お嬢さんなかなか強烈なカウンターですね 2ラウンド目開始早々にしてグロッキー寸前ですよ だが今日は負けん! 倒れるときは溝の中でも前のめりだ! 踏みかけた糞は踏み抜いてこそだ!(意味不明) 「な、なんでファイティングポーズとってんの…」 「いや、ちょっとな…」 思わず闘志が体を動かしてしまったようだ ベリーロールに入らなかっただけ良かったと思いな 「そろそろ本題に入ったら?」 「えっ?」 「これ貸して欲しいんでしょ?」 ひらひらと回答の埋まったプリントを見せびらかす くっ見透かされていたか 「いや〜、バレてましたか〜」 「バレバレ」 「俺の頭じゃ一時間かけたって終わんないよー、助けて?」 「…」 うっ他人を軽蔑する視線 すると何を思ったか彼女はシャーペンを俺の眼前につきたてた 刺される? 「ちちんぷいぷい」 「は?」 「頭の良くなる魔法」 それだけ言うと彼女はそっぽ向いてまた教科書を開いた ぽかんとした僕は別の魔法にかかっていたようだ
「はぁ……」 授業合間の十分休みの時間、田中五郎は書店のカバーのかかった文庫本のページをめくる。 「どうした、田中。本なんか読んで」 向かいの席の花山賢が声をかける。 「……本ぐらい読むっての!」 「またまた、ご冗談を仰って、田中さん」 「敬語!?」 「おめーはほとんど本なんて読まねーだろ。フランス文学か何かか?」 花山は文庫本の中身を覗き込む。 「中国文学だ。西遊記だよ」 田中はカバーを外して表紙を見せる。 「また、毒にも薬にもならんレベルのもんを引っ張り出して来たな」 「結構面白いぞ。色んな国があって、最初の方のドラゴンボールみたいだ」 「それつっこんどいた方が良いのか?」 「でな、溜息の訳なんだが」 「……別にそこは大して気に留めてもいなかったんだが」 「聞けよぉおおお!」 田中は花山にしがみつく。 「ええい、鬱陶しい! 聞いてやるから離れろ!」 花山に振り解かれ、田中は自分の椅子に座る。 「女人国って国がなぁ……いいなぁ、と思ってな」 「そうか?」 「だってお前! 女人しかいないんだぞ! お前、凄い事なんだぞ! 女人だぞ、女人だけ!」 「これ以上女子にドン引きされたくなかったら、その口を縫いつけて良い子にしてやがれ!」 花山は田中を缶ペンではたく。 「だって……女子校に行くと冴えない中年教師がモテモテになるという、いわんや女人国をや。あああ、行きたい! 行ってモテモテになりてぇええええええ!」 「何を言ってんだ。んなもん現実にある訳……いや、ああ、それっぽい名前の市が日本にあったな」 「なんだと!」 『男いるじゃねえか、この野郎!』 花山の携帯電話から、田中の怒鳴り声が聞こえる。 「……いや。本当に行くなよ」 『騙したな、畜生、騙したな、花山!』 「騙される要素が分かんねーよ。そもそも、『タマナシ』は男に使う言葉だろうが」 『ちくしょおおおおお!』 「ああ、どうせだから、帰りに辛子レンコンでも買って来てくれよ」 『何人前だ、コノヤロー!!』