第88回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01探し物久遠951
02広内唯の昼食騒動土目1000
03恋人へっぽこ982
04介護の人磯原煩助1000
05自習室ほし825
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ01  探し物     久遠


 探し物はなんですか?

 携帯電話をなくした。新しい携帯に買い替えはしたから、もう昔の携帯はただのガラクタにしか過ぎない。それでも、探さずにはいられなかった。
 昨日の記憶を辿ってみる。たしか昨日は朝起きて携帯を充電器から外して、顔を洗って着替えをして、ちょっと寝坊したから化粧はしなかった。朝御飯も食べなかった。Gパンのポケットに携帯電話の感覚があったから、私は必要な物だけを持って家を出た。
 ないのに気付いたのは電車を待っているときだった。まだ半分眠っていたから、きっと家に忘れてきたんだろうと思って、電車に乗った。ポケットの携帯の感覚は気のせいだったんだろうと、決め付けて。
 家に帰ってから携帯を必死で探した。家の中、こんな所にあるわけがないと思うところまで、ひっくり返して探した。それでも私の探している黒いつるつるのボディの携帯電話は結局見つからなかった。
 家から駅までの道のりも探した。暗かったから懐中電灯を持って、道の端から端までもどかしいくらいゆっくり歩いて。それでも見つからなかった。
 あの携帯電話の中には大事な物がたくさん入っていたのに。大切な物が、たくさんたくさん入っていた、はず、なのに。
 私が探しているのは携帯電話。それでもそれはただの箱で、私が探しているのはその小さい小さい箱に入っている、要領オーバーしそうなくらい大きな大きな宝物。
 一日が終わって、くたくたになって私は新しい携帯を虚しく見つめながら眠った。
 そしてその日に夢を見た。夢の中で、昔の彼氏が私の黒いつるつるのボディの携帯電話を持っていた。
「返して」
 私は彼にそういった。彼は私を見ると、寂しそうにふわりと笑った。
「俺のメール、まだ保護していたんだね」
 そういわれて、私はただ頷いた。消すことなんて出来なかった。だって本当に大好きだったから。
「探し物はこれ?」
 彼は黒携帯電話を示した。頷くと、彼はもう一度尋ねた。
「本当に?」
 そう聞かれて、私は盛大に困ってしまった。だって、彼の持っているその携帯電話が、ただの箱だったら、私はそんなものはもういらないのだから。
「君の“本当の”探し物はなに?」
 彼が再び尋ねた。
「…わからないよ」
 私は泣きそうな声になっていることに気付いた。
 探し物なんて、私が聞きたいくらいだっ!







エントリ02  広内唯の昼食騒動     土目


4時間目のチャイムが鳴り終わった時
其れ即ち昼休みを告げる時…

そして昼休みとは私、広内唯の戦いの時間である!

ガタンッ!

教室内で一斉に数人が椅子から立ち上がる音がする
全員がハコナシと(私の脳内で)呼ばれる弁当不持参購買愛好者である
もちろんそこには私も含まれる
ある者は扉からある者は窓からある者は通気口から
教室からいち早く抜け出さんと駆け出していく


バァンッ!

早くもクラッシュが起きた
教室の後ろ側扉で数人が詰まったのだ
教室を出て直ぐに直角に曲がるためどうしても減速時に衝突が起きてしまう
先に出れば有利と言う訳でもないのがこの世界の奥深いところ
潰れた男子生徒三人と尚も起き上がろうと奮闘する小柄な少女を飛び越え廊下に躍り出る
勢いのまま壁にぶつかりその反動を両腕で前進する力に押し変える
人を飛び越えるほど加速しても勢いを殺さない
この一年で身に着けた技の一つである


購買のある中央渡り廊下はH型の校舎のど真中に位置する
学生棟は縦棒の部分であり反対側の縦棒は教員室と音楽室など特別教室である
三階建ての学生棟は三学年に割り振られ
教員達の憂慮か昼の時間、普段一階でしかやっていない購買が
昼食販売の時だけは露店のような形で二階三階にも設営されるのである


ゆえに、

「こううちぃぃ!」

渡り合う好敵手(ライバル)達は三年間で同じという事になる

反射的に飛び上がった私の足元を濡れた雑巾が滑っていく
後ろを走っていた奴が踏みつけて派手に転倒した

「窓華…」

穂俣窓華
彼女もまたハコナシの一人であり
それぞれA組とD組に組する私達は幾度と無く此処でぶつかり合って来た
学生棟と渡り廊下の接点部分は通路が狭く、擦れ違うほどの幅も無い
つまり相手を完全に振り切った状態で無ければ進めない
そこは一部(主に私)からバビロンと呼ばれていた

一気に駆け抜けたい所だったが
飛び上がったことで崩れたバランスを取り成していた間に
唯が一足分勝っていた差はなくなっていた
純粋な格闘術では窓華には敵わない
勝負を賭けるなら最初の一度だけ…!

瞬間の思考でそこまで考えると後はただ集中することに努めた

…!

加速が最大限に乗った拳がバビロンの前で振るわれた瞬間
私は避けようとも受けようともせず
窓華の振るった腕を鉄棒のように使いバビロンの中へと滑り込んだ





後ろで窓華は新たに追いすがったハコナシと乱戦をしていることだろう

だがそんなことは私には関係ないので

「おばちゃん! 焼きそばパン!」







エントリ03  恋人     へっぽこ


 生きることが楽しくなく、私は不幸だった。全てが妬ましかった。そんなある日、突然大家がブチ切れた。理由は8ヶ月滞納した家賃。  「金はらわねぇやつをずっとここに住まわせとくわけにはいかねぇんだよ!!」  語気荒く大家は私を放り出した。マンションの合鍵を使って私の部屋のドアを勝手に開け、文字通り放り出された。部屋の外には私、少し後に服や携帯などが放り出された。  「他のものについては家賃代わりにもらっとく!せめてもの情けだからさっさとどこかへいきやがれ!」  大家はそういうとドアを閉め、がっちゃんと内側から鍵をかけた。私は鍵を持っていたからたやすく入ることは出来たのだけど、物理的な鍵よりも強い拒否にとても入ることは出来なかった。行き場を失った私は途方にくれた。職も金もなく、住むところも失ってしまった。考え、昔なじみの壮士朗の家に転がり込んだ。穏やかで何に対しても逆らわない壮士朗。私は彼が私に好意を持っていることを知っていた。拒否されることはないだろうという打算があった。  「いいよー、泊まってけば?」  私の思惑通り、壮士朗は私を受け入れた。私は居候させてもらう代わりに彼のために食事を作り、部屋を掃除し、洗濯機を回した。それは思っていたよりも充実した日々だった。一人で暮らすよりも壮士朗と暮らす生活がこんなにも楽しいものだとは思わなかった。壮士朗といることが楽しかった。  「ねえ、もう少しここにいてもいい?」  「いいよー」  こちらを振り返ることもなく二つ返事で答える壮士朗に私は抱きついた。 「どうしたのー?」 問いかける壮士朗に「ありがと」と返した。  「ねえ、もう少しじゃなくてもっとずっとここにいてもいい?」  「いいよー」  優しい壮士朗。私はこの暖かい空間がとても好きだった。  「なんだか幸せそうな顔ですよね」  「そうだな」  マンションの隣の部屋から異臭がする。そう聞いて踏み込んだ部屋の中には男女2体の死体があった。女性はこの1週間ほど前に死んだようだったが、男性は既に肉はなくなりかけ、骨が露出していた。  「死んだ時期が違いすぎるのが腑に落ちないですけど・・・まるで心中ですね?仲良くくっついてますけど。」  「心中なんてありえないが・・・確かにそう解釈するのが自然だな」  寒々しい部屋の中、白骨の男性に抱きついている女性は幸せの絶頂の中で死んだようだった。


※作者付記:へっぽこです






エントリ04  介護の人     磯原煩助


 今日の泊まりは二人。
 一人が起きて来た。
 何か喋りながら歩いている。
「どうしました?」
 穏やかに声をかける。
「子供が来てるからね、全然ダメなんだよ、本当に嫌だ」
 表情が険しい。不穏状態だ。
「嫌ですか? そうでもないですよ」
「そうかい。でも学校行ってるのかい」
「学校行ったのは大分昔ですねー」
「それじゃ駄目だ。私は帰りますから、さいなら」
 またぶつぶつ喋りながら、歩いている。
 過去の記憶が断片的に現れ、反射的に口にしている、という感じだろうか。
 個室のドアに手をかける。
「他の方休んでますからね」
 やんわりと言いながら、手を引き離す。
「いいんだ、ここは」
「入らない方がいいですよー。トイレ行きたいんじゃないですか? 行きましょう?」
「こんなのじゃ、ばーっと行って、蹴飛ばしてやるよ」
 全く意味が分からない。
 まあ、いつもの事だけど。
「はい、トイレ行きましょ、トイレ」
 身体全体で押すように、遮るようにしつつ、トイレへ誘導する。
「いやー、なかなかいいね」
「いーでしょう?」
「いらないんだ、あたしは」
「そういう気分の時もありますけどねー」
 ぐいぐい押してトイレの中まで誘導。
「はい、ズボン下ろしますよ」
「そんな事やめなさい! こら!」
 構わずスボンと紙パンツを下ろし、膝カックンの要領で便器に座らせる。重たくなったパッドを無理矢理引き抜き、紙パンツの端を破って引っこ抜く。
 小規模多機能施設は泊まりの利用しかないけど、この人は泊まりっぱなし、入所と一緒だ。一ヶ月に一回だけ『帰宅』する。これで、連泊三〇日という基準を逃れている。まあケアマネか社長に米の一俵も差し入れてるんだろう。
 入所すれば、家族にとっていない人、死んでいる人と変わらない。
 過去の記憶が錯綜し、今の場所が分からない。初めての場所で、初めての人に、ズボンを下げられる。家族からは死を望まれる。人生の終わりが、こんな風にやって来るなんて、想像していたのだろうか。
 いや、それ程深刻な事ではなくて、ただ、生き物がいて衰えて死ぬ、それだけの事なのだろうか。
 家族でもない、誰と認識されてもいない、味噌汁に味噌を入れている途中に歩き回られて、「ぼちぼち死なねーかな」なんて思ったりする程度の他人が気にしても、仕方がない事だけど。
 音がする、排尿したようだ。

 さあ、紙パンツを穿かせよう。
 そろそろ夜明けだから。
 パッドは入れなくても良いかな。







エントリ05  自習室     ほし


さて

二人の出逢いは図書館だった。同じ本をとろうとしてあの娘が持っていた本の束を落としてしまったことから始まる……

『ありきたりだね』

じゃこれ?

あの娘は遅刻しそうになって走って曲がり角を曲がったら…

『いい加減にしなさい。真実だけを話しなさい!』

はーい(*"へ"*)



あの娘は今日も塾に行く。なぜって……大好きな人に逢うため。そして、見つめる、あの真剣な顔。話を聞いて笑いつつ心の底は貴方の入れるコーヒー(間違っても淹れるじゃない)のよう。底はドロドロ。でも最近気付いた。彼は二重や三重に重なって人格が形成されて、いちばん深いところは外側とは真逆。外側では冷たい、ぶっきらぼう、鈍感……いろんなフリをして底にいる自分を守ってる。繊細で綺麗で敏感……

繊細さは貴方の手を見れば、綺麗さは数式を見れば、敏感さは表情から……

貴方の表情から一番感情を読み取れるのはこの私。
一番近いのもこの私。

一番遠いのは…この感情と………歳

そこまで思考が及んで勉強しなくちゃっと思った。



それにしてもここは暑い。チョコになれそうだな…






で彼女は自習室にいた。



だれか自習室に入って来た。暖房が効きすぎていて暑い。
私は寝ているようだ。
揺すられる。


「寝ちゃったみたい」弁解するように言った。

「先生、私のこと好きですか?嫌いですか?」

「嫌いじゃないよ」

「それは答になっていません。」

「どっちなんですか?」

「好きだよ」

「ライク?ラブ?」

「それは答えられないよ」

先生はいつだってハッキリしないのだ。
そこが悪い点。





自習室に入る。暖房が効きすぎていて暑い。
彼女は寝ているようだ。静かに寝息をたてている。
揺する。むくっと起き上がった。瞼が重いという声が聞こえてきそうなくらい目が細い。まあ自分も人のことは言えないが……
顔を覗き込む。不思議そうな顔をしている彼女にむかって

「暑くない?」

「あれ…あたし寝てたの?」

「明らかにね」



『これ真実なのかい?』

大好きな先生が聞いた。


                    《了》














※作者付記:初投稿です。
夢と現実が区別して読んでいただけると幸いです。