第96回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01彼女は今日も全力登校土目1000
02熊 vs 二人の旅人津山浩平788
03僕の視界ナキ879
 
 
 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。
掲載時に起きた問題を除き、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

あなたが選ぶチャンピオン。
お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にあるボタンを押すと、その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。その場合はこちらから投票ください → 感想箱

エントリ01  彼女は今日も全力登校     土目



現時刻8時30分現在。
三丁目タバコ屋角を約18キロメーターパーアワーで駆け抜ける藍色の存在が居た。
オーバーランを気にせず許容速度限界で駆け抜けた彼女によって、
塀の上で寝ぼけていた猫があわてて飛び退り、出会い頭の自転車と衝突しかけ、電話中の主婦が息を詰まらせた。

「に”ゃー」

「ちょ、ちょ、ちょおおお!」

「!」

「ごめんなさーい!」

抗弁に対し詫びもソコソコ船橋中学の遅刻魔は今日も走っていた。

 あぁもう! どうしていっつもネクタイだけ見つかんないのよ!

彼女の遅刻の理由は大きく分けて三つ。

@睡眠不足から来る寝坊
A休日と勘違い
Bネクタイが行方不明

そしてどの理由も飼い猫のミーが関与している事にはまだ誰も気づいていない。
そんな根本なところは3年間続いてしまうのだが、彼女の遅刻率は年々減っていく。
変われない生き物は生き残れないのである。

 ホームルームまで後約20分、余裕は5分ってとこか!

入学祝に兄にねだった腕時計はもはや手放せない代物である。
だがそれでも常人ならば間に合う時間ではない、綿密な計算と経験ゆえの判断だ。

 あの角曲がって信号青なら直進! !?

標識のポールに手をかけて曲がるとそこには大きく工事中の文字。

 「うっそぉ…」

なんて言っている暇はない、一瞬で思考を切替えると最短ルートを修正。
所要時間は+5分、間に合うかどうかはギリギリの線だ。
それでも彼女は駆ける事をやめない。
すれ違う顔見知りのニートに囃されようと。
同じ藍色制服の誰かが諦め顔で歩いていようと。
膝丈のスカートが翻ろうと。

そこに時間があるのなら、まだ刻限でないのなら、その一歩を大きく踏み出していく。

キーンコーンカーンコーン…。

 やばい! 間に合わない!

最終の鐘の音が鳴り始める。
四つで終わるその音の最後の最後まで彼女は駆ける。
視界の校門は遥か遠くとても人の足で間に合う距離ではない。
しかし彼女は諦めない。
間に合うか間に合わないかじゃない、走るか走らないか、
ただそれだけの思考を選択し彼女は走った。

…キーンコーンカーンコーン。

だが間に合わなかった。
あえなく門の前には警備員が立ちはだかり帳簿に×が付けられることになる。

「ぜぇぜぇぜぇ…」

「全くお前はいつも全力疾走してきて、見逃してやるさっさと通りな遅刻魔」

「ぜはっまっちゃん、はぁはぁ、愛してるっ!」

投げキッスのオマケつきでラブコールを安売りして教室へと駆けて行く。
彼女は今日も全力登校。








エントリ02  熊 vs 二人の旅人     津山浩平


 二人の旅人が連れ立って歩いていました。二人は大変仲が良く、行程は笑いが途絶えませんでした。
 そんなある日、二人は山越えの道に差し掛かりました。
 鬱蒼と茂る薮が、がさりと動いた後、突然熊が現れました。
 一人は木に登り身を隠しましたが、もう一人は慌てていたせいか、木に登る事が出来ず、その場で死んだフリをしてやり過ごそうとしました。
 熊は、死んだフリをした旅人の耳に口を寄せました。
 そして。
「友達が危機に陥っている時に、独り逃げるような者は――」
「きええええええ!」
 次の瞬間、もう一人の旅人が飛び降りて来ました。握っていたナイフを、熊の首に突き立てます。木の上から、熊のスキを伺っていたのです。
「うおおあああああ!」
 死んだフリをしていた方の旅人も、立ち上がって杖を振り上げ、熊に打ちかかります。
 しかし。
 熊の毛皮は分厚くナイフを通しません。骨は太く、打った杖の方が折れてしまいました。
 熊は、折れた杖を構える旅人に突進すると、肩に噛み付きました。骨ごと肩を噛み砕きながら、引き倒し、首を振って振り回します。地面に、岩に、木にぶつかり、旅人の皮膚が裂け、肉がちぎれ、骨が露出します。
 ナイフを持った旅人は、熊にしがみつき、ナイフをまた突き立てようとします。
 熊は杖の旅人を捨てると、前肢の一撃でナイフの旅人の背を抉ります。
 杖の旅人は血まみれになりながらも、熊にすがりつき、自らの歯で噛み付きます。
 二人とも、熊から友達を助けようと、最後まで逃げる事をしませんでした。

「ふん」
 肉片と血溜まりになった旅人二人は、どちらがどちらだか、もうすっかり分かりませんでした。
「小賢しい真似をしなければ、助けてやったものを」
 熊は血に濡れた口を拭い、上から目線で言いました。
「自分の力も考えず、友達を助けるフリをして状況を悪化させる行為は、自己満足であって本当の友情とは言えないのだ」







エントリ03  僕の視界     ナキ


眼鏡を買った。
最近目が悪くなってきたから。



眼鏡を買った翌日、僕は早速眼鏡をかけて登校した。
「おはよう。」と言う声と、笑顔の君。
いつもより可愛く見える君は僕を見つけるやいなや、目を輝かせて駆け寄ってくる。
君は僕の眼鏡に興味津々。
僕の顔から眼鏡をさっと奪ってかけている。
眼鏡をかけながら君はぱちぱちと瞬きをする。

「うわ!度、キッツイね〜。」

黒い太めのフレームの、少し大きな眼鏡が、君が小顔なことを強調している。
「君は赤が似合うよ。」
そう思ったけど言わなかった。
何より君は目がいいしね。
呑み込んだ言葉が心の中でゆわりと巡る。
だけど赤い眼鏡をかけた君を見たいという思いが残る。
呑み込んだ言葉は相変わらず僕の中を廻っている。
だけど君は知らないだろう。
僕が言葉を呑み込んだことを少しだけ、本当に少しだけ後悔していることを。

僕の眼鏡で遊ぶ君をぼやけた視界から見守る。
ぼやけていても分かるよ。
君は今笑ってるんだろ。

眼鏡を買ってよかったと僕は思った。


「おはよう。」

そう言いながら僕は教室のドアを開けた。ざわつく教室で僕の目は無意識に君を映そうと、君の姿を探す。

「おはよう!」
と、いつもどおり君の元気な声が聞こえてくる…
筈だったのだけど。

「へぇ〜。コンタクトなんだ。」

と、少し遠くで君の声。
窓際で君と、もう一人。男子の姿。
眼鏡のせいでやけにはっきりとしてしまった視界の中で、僕ではない男子に笑みを向けている君が見えてしまう。
僕は眼鏡を外した。

ぼやけた視界で君から目を逸らせずにいる僕。
ちょっとだけ背伸びをして、そいつの目をじっと見つめる君。

「あ!見えた見えた!」

奴の目の中にコンタクトを見つけて君はご満悦だ。

「すごいな〜。私は怖いよ〜。」

と君は苦笑する。

君は目がいいじゃないか。
僕もコンタクトにすれば良かった。

嫉妬。
かっこ悪いだろ?
呆れてくれてかまわない。
こんな光景を見るくらいなら眼鏡なんて止めればよかった。

呆然と立ち尽くす僕に

「あ!高橋!おはよう!」

と微笑む君。

あぁ、ちくしょう。
自然と口角が上がってしまう。
呆れてくれてかまわないなんて嘘だ。

ちくしょう、ずるい。
君はずるい。