第97回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01木霊イエイツ1000
02まだらやぎのゆうびんやさんはごろも1256
03自殺願望ナキ947
04失レンアイ曲土目1000
 
 
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エントリ01  木霊     イエイツ


森の中一人大樹に触れてみる
神の国へと至る道筋

 近所の小さな神社、公介は高いコナラの木を見上げていた。
 春の木漏れ日がきらきらと降り注ぎ、公介は遠い子供の頃の自分を思い出していた。あの頃はよくこの木に登ったものだ。そしてそんな時はよく、じいちゃんが見守っていてくれた。
「そう、その右の枝に手をかけて」
 今もあの声が聞こえるようだ。
 ついさっき、じいちゃんの葬式が終わったばかり。
 葬儀場からお骨とともに、やっと自宅へ帰ってきたところだ。
 時刻は5時を回ったところだが、まだ日は沈まない。
 じいちゃんは職人だった。そのごつごつした手から生み出される美しい工芸品は、小さな子供の目にも芸術品と映った。晩年は、わら細工や民芸品はあまり大きな収入源ともならず、ほとんど趣味という範囲で、ほそぼそとやっているにすぎなかったが。
「金にはなんねんだけどな。ま、ほしいって言ってくれる人がいるから。なかなかやめられねんだ」
 じいちゃんはそう言って笑ったものだ。
 木に触ってみた。あの頃と感触は少しも変わっていない。
「木には魂が宿っていてな。たとえ切られても、こうして丹誠込めて使えるものに仕立ててやりゃあ、いつまでも生き続けられるんだ」
 その手には温かみのある木彫りのおもちゃが乗っていた。
 この木にも魂があるのだろうか。
 公介はふいに登ってみたくなった。
 ワイシャツにネクタイ、礼服のズボンという体だったが、構いはしない。革靴だけは脱いで、記憶を頼りに木にしがみつく。
 行けそうだ。
 あっちのこぶ、こっちの枝と、記憶を頼りに登ってゆく。さすがに子供の頃と同じようにはいかないが、少し登ると、だんだんと手足に感覚が戻ってきた。
 そうだ。この感じ。
 半分まで登ると、終点まではあっという間だった。
 終点。これ以上行けない細い枝の分かれ目をそう呼んでいた。
 だいぶ窮屈ではあったが、なんとかそこに座り込む。
 周り中に同じような背丈の木があって、特別よい景色を望めるわけでもない。
 しかし公介は感じていた。木に魂というものが本当にあるのなら、木から直接体に伝わってくる、この感覚かもしれないと。
 それは自分を遠い昔の子供の頃に引き戻す、不思議な力。
「ありがとうな」
 ふいにじいちゃんの声が聞こえた気がした。
 そうか、じいちゃんの魂も、木や森にとけ込んだのかもしれないな。
 木の温もりに抱かれて、公介の目から、涙が一筋流れた。







エントリ02  まだらやぎのゆうびんやさん     はごろも


 遠くの街に住んでいるお友達の白ヤギさんから黒ヤギさんにお手紙が届きました。
 黒ヤギさんは早速それを読もうと手に取ったのですが、どうにもその封筒がおいしそうに見えてしまい、堪えきれずにむしゃむしゃと食べてしまいました。
「ああ! なんて事をしてしまったんだ! 困った、どうしたものだろう。知らんフリをしてごまかそうか? それとも、知ったようなフリをして返事をしようか?」
 黒ヤギさんは考え込みましたが、手紙の内容がさっぱり分からないのでは、どうにも話になりません。
「仕方ない、素直に謝ろう。許してくれるか分からないけど……」
 黒ヤギさんは手紙を食べてしまったお詫びと、内容をまた教えて欲しいという内容の手紙を書き、封筒を出来るだけ見ないようにして郵便屋さんに渡しました。

 黒ヤギさんからのお手紙が、白ヤギさんの家に着きました。
「やあ、あの手紙の返事かな? それとも、全くの行き違いで別の手紙が来たのかな?」
 白ヤギさんはワクワクしつつ封筒を手に取りましたが――。
 どうにもその封筒がおいしそうに見えてしまい、むしゃむしゃ食べてしまいました。
「し……しまった! ついうっかり!」
 白ヤギさんは頭を抱えます。
「大体、手紙ってものが、こちらの全然予想してない時間に届くのが悪いんだ。いつ来るか分かっていれば、ぼくだって小腹を落ちつけるとか何とか、やっておくのに!」
 そんな事を言ったって、黒ヤギさんからの手紙はもうありません。
「ううっ、仕方ない……謝って、また送って貰おう」

 白ヤギさんからのお手紙が、黒ヤギさんの家に着きました。
「……あの手紙の、返事……か。怒ってるかな……いや、怒ってるに決まってるよ。だって、一生懸命書いた大事な手紙を、どんなにお腹が空いてるからって、読みもしないで食べちゃうなんて。ヤギとして、ママから一番最初に習うマナーじゃないか。お金と公文書とお手紙は、絶対に食べるなってのは」
 そんな事を考えながら黒ヤギさんはお手紙を見つめ続け……。
「あ、あれ、ははっ、なんかとてもお腹が空いてきたなー、こりゃあうっかり食べちゃうかな。うん、食べちゃうかも知れないな。ちょっとかじっても平気だよね、封筒だしね。あれ、思ったよりいっぱいかじっちゃった。は、はは、出さないと、あれ、あれ? うっかりだ、本当にうっかりだ、口の奥に入れて、しかも噛んじゃった。いやぁ、困った。食べちゃってるぞ」
 食べてしまいました。
「仕方ない、また同じ手紙を出すとしようか。怒るかな? 怒るだろうな……一度ならず二度までもって……でもほら、そこでキレて、もう絶交、って事になるかも知れないし、それはもう、縁がなかったって思うような事であるし、それからそれから……」

 白ヤギさんのところも、まあ似たようなものでした。
 こうして、白ヤギさんと黒ヤギさんは、互いへの不信を募らせつつ読まれぬ手紙のやり取りを続けました。
 その手紙の郵便代を受け取っていたまだらヤギのヤギ助さんは、大金持ちになって幸せに暮らしたそうな、めでたし、めでたし。







エントリ03  自殺願望     ナキ


面倒臭いから、死ぬことにした。


別に嫌なことがあった訳でもないけど。
家族は仲良いし、部活はレギュラーだし、友達はいるし、勿論いじめなんかにあっているわけでもない。女の子に振られたとか、未来に希望が持てないとか、そんな理由もない。勉強だって大目に見れば許せる範囲。自分に失望なんて持っての外だ。

じゃあ、死ぬ理由なんてないだろ、って?
だから言ってるだろ。理由は一つ。「面倒だから」だ。

何が面倒って
話すこと、
笑うこと、
食べること、
起きること、
歩くこと、
息をすること、
生きること。

全てが面倒に感じられて仕方ない。
別に耐えられないほどでもないけど、
別に耐えなくたっていいだろ?

ただ、どうせなら俺は最後に空を飛んでみたい。
死に方は飛び降り自殺に決定だ。

マンションの屋上へ続く階段を上ると、靴底がコンクリートを蹴る冷えた音がタァンと響く。「立ち入り禁止」の張り紙を無視して古いドアノブを捻ると、錆びた金属が擦れながらゆっくりとドアが開いた。鍵は数年前から壊れたままだ。
今日は風が強い。
楽しい最後になりそうだ、と少しワクワクしながら高いフェンスを越えようとした時、俺はふと考えてしまった。

もしも俺がここから死んだら、家族はどこに住めばいいんだろう…。大体、俺がここから飛び降り自殺をしたら、このマンションに住んでいる人は気味が悪いだろうし、新しく入居しようとする人だって減る筈だ。当然、家族は周りの視線が痛いだろうし、大家さんにだって申し訳がたたない。
死んでから迷惑をかけるのは嫌だな…。

学校の屋上だって、学校にとっては大迷惑だ。いじめがあったのではないかと疑われるだろうし、入学志願者だって減る。今現在通っている生徒だって、人が死んだ校舎で暮らすのは嫌な筈だ。

海にそびえる崖は、その地域の人に迷惑がかかる。自殺の名所なんかになってしまってはたまったもんじゃない。

それはビルの屋上も、
電柱も、
電波塔も、
人の家の屋根も、
山の中にあるきりたった壁も同様だ。

人に迷惑かけなければ俺は死ねない。
どこならひっそりと死ねるだろう…。

例えば船から海に転落するとか、
橋から飛び降りるとか。



あぁ、ダメだ。
ひっそり死ぬことなんてできない。

もう考えるのは止めよう。
考えるのは面倒くさいし。
やっぱり死ぬのは止めよう。


だって面倒臭いしな。







エントリ04  失レンアイ曲     土目



拭っても拭っても涙は溢れ、どうすることもできない私は、
せめて口からこぼれる不協和音を打ち消すためだけに想いっきり鍵盤を叩いていた。

数時間前に始めて見舞った失恋と言うものは予想を遥かに超えるほど胸に痛く、
ずきずきじくじくと何時までたっても痛みが引くことはなかなかった。
何とか視聴覚室まで涙を堪えてこれたのだが、一度あふれ出した涙は何時までたっても引かず、むしろ時間がたつほど溢れかえってきた。
逃げ込んだここには幸か不幸か誰も居らず私の傷はただただ広がっていく一方だった。
声を押し殺したくて机にうつ伏せになるが、溢れる一方の気持ちはどこまでいっても尽きなかった。
視界が閉ざされるとなぜか彼の笑顔が頭をよぎった。
それも一瞬、つい今しがたの困った顔が浮かんだ。

 ゴメンって何さ

気づくと涙がすごいことになってきた袖口がべとべとだ。
なぜハンカチを使わなかったのだろうと自分にあきれる。
いつもなら笑い出しそうな馬鹿をやってはずなのにどうしても笑うことができない。
顔だけ笑って涙が止まらない。

 こんなに好きだったんだ

今更気づくなんて。
今度こそ声を出して笑った。
それでも涙が止まらない。
喉から出た声はまるで壊れたみたいに笑い声を上げていたが。
やがてそれがしぼむとしゃっくりが止まらなくなった。
これはびっくりした時とかになるやつなんだ
そう言い聞かせるほどに肩が震えだして、肩を抑えるほど喉がしゃくり上げ…

「うぁ…」

とうとう声を漏らしてしまった。
抑えようにも声はどんどん大きくなって行く。
そして私は自分が体を預けているものに気づく。
古いオルガンだ。
けれどその古めかしさがなぜか私を許してくれているように思えた。

私は力いっぱい蓋を開けると勢いのまま鍵盤をかき鳴らした。
自分でもなにを弾いているのかわからない。
感情のままに時に激しく時に切なく、思い浮かんだメロディをそのまま指に乗せている。
ポタポタと涙が鍵盤を叩く、私にしか聞こえないその音に合わせる様に指を走らせる。

「うっうあぁああ」

私にしか聞こえない叫びを掻き消す様に鍵盤をかき鳴らす。
指が踊る、喉が叫ぶ、涙が流れる、肩が跳ねる。
てんでバラバラの演奏会が開かれた。

どれぐらいそうしていただろうか?
下校時刻に程近くなった頃、
力尽きた私は腕を振り上げた勢いでそのまま後に倒れた
仰向けになった私はやっと止まった涙を拭い、
意思どおり動くようになった喉で呟いた。

「こりゃ振られるわ」