第98回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01理論的少女蟹味噌799
02一人舞台の彼女土目1000
03流行スカッド1253
04翻案・謎かけ料亭板場1283
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ01  理論的少女     蟹味噌


 家の近くのショッピングモールで、映画館の前を通り過ぎる。
「ねぇねぇ、私が危なくなったら助けてくれるよね?」
「ああ、当たり前だろ」
映画館から出てきたカップルの会話。
「……バカみたいだな」
人間なんていつ災害に巻き込まれるかわかんない。第一、人間は弱いから、すぐ死んじゃうのに。

 棚のチョコレートを1つ手に取り、レジに並ぶ。
「包みますか?」
「いえ、いいです」
「承知しました」
袋をもらって、私は出口に向かった。

 寒い外。ふと顔を上げると、私と同じくらいの年齢のギャルが、携帯とうるさくしゃべりながら歩いてきた。
「っていうかさー、赤い糸? そうそう、まだ信じてんのよねー」
足を止めて振り向く。
「……バカみたいだな」
運命の赤い糸なんて、この世に存在するはずがない。ましてや、そんなものがあったら浮気や離婚なんて起きないじゃない。

 家を通り過ぎ、バス亭のある公園へ。白くコーティングされた景色を眺めながら、噴水の横のベンチに座る。私の他には、誰もいない。寂しい。だけど、胸にある微かな希望を信じてみたくて。
「…………」
袋からチョコレートを出して、雪の上に置く。赤い包装紙が鮮やかに見える。
「包装紙が鮮やかに見えるのは」
言いかけて、口を閉じた。
「なんでも理論的に説明するのは、私の悪い癖ですね」
自分でも良くわからない感情が、雪のように胸の奥に降り積もる。
「バカだな……って、あなたも笑ってください」
あなたが行方不明になって、もう何年? 既にあなたが亡くなってるだろうことは、理論的に説明できるのに。……頬に、冷たいものが流れた。
「来年は来るって、信じてます。だって今日は、あなたが私に初めてキスをしてくれた日。一年に一回のバレンタイン。記憶力のいいあなたが、この日を忘れるはずないのですから」
立ち上がって、私は公園をあとにした。

 チョコレートは、砕いて食べることにしよう。


※作者付記:はじめて参加させていただきます。
蟹味噌と申します。
自分の能力がどれくらいなのか知りたくて投稿しました。
よろしくお願いします。






エントリ02  一人舞台の彼女     土目


彼はショートカットが好きらしい。
そんな他愛もない噂話が始まりだったと思う。

その話を聞いた翌日、私は短く髪を切り揃えていたが、
それでも彼の視線を捉えることができなかった。

自分の性分もあるが、ショートカット=活発と言うイメージで明るく過ごしていた。
彼も社交的で明るいタイプだったのできっとその方がいいと思い込んでいたのだが、
聞いたところによると、どうにもそれがいけなかったらしい。

彼は騒がしい女性が得意でない。

彼は一人で居ることは少ないが自分から話題に入っていく事は少なく、
暇な時も本を読んでいることが多いようだった。

それから私はある程度の社交性は維持しつつも、
他人と接する機会を減らし、彼の居る図書室に篭る用になった。
正直、他人の輪の中に居るとつい話題に突っ込んでしまいそうになるが、
それも自制して、勤めて大人しくあった。

しばらくして、図書室に居る彼に声をかけられた。

「横井さん、最近良く図書館来るね。」

「本、好きだから」
なるべく短い言葉で返した。
あなたの顔が見たいから、なんては言えない、言わない。

「そーなんだ」

彼と向かい合って本を読む。
静かな時間が流れる中、一言二言だけ会話をする。
そんな日々が一年近く続いた。

そしてとある日私は彼に告白した。
ずっと前から好きだったと。
ホントはお喋りな私がたどたどしく。
ナゼカそれが必要なことであるかのように幾度もつかえながら。

そして、彼から了承の返事を得た。
この返答もすでにリサーチ済みのものであった。

付き合い出し、彼のことをよく知るほど私も少しずつ変わって行った。
一日中彼のことを考えるようになり。
ちょっとしたことで嫉妬したり、少し離れているだけで不安にいなったりした。

ホントの私は今でもお喋りで騒がしいどこにでも居るような女。
間違っても五分おきにメールをするような女ではない。

世間で言うイタイオンナになっている気がするのは認めるし、
当初はそんな所も可愛いと言っていた彼が若干引き出しているのも肌に取れる。
彼の望むように変わってきたつもりけれど、今ではもう彼の望む事が解らなくなって来た。
でも大丈夫、ほんとの私は極めて理性的だし、今でも戻ろうと思えばお喋りだったあの頃にすぐ戻れる。
あなたが望むならすぐにそうする。
あなたはまだ私に今の状態で居て欲しいんだよね?
だからそんなにツレナクスルンダヨネ?

でもね、あんまり私にそっけなくするともっとヒドイコト演じちゃうよ?







エントリ03  流行     スカッド


【流行】

11:59分
全世界の人間はラジオに聞き入っていた。
12::00
「本日の放送を開始いたします。本日はキャベツでございます。キャベツはビタミンC、カロチンのほか、胃潰瘍(いかいよう)などを治す効果のあるビタミンUなど、体の抵抗力を高める物質を多く含んだ万能野菜でございます。ストレスの多い現代社会、健康のためにキャベツをたくさん食べましょう」

12;03
放送終了

ラジオを聞いた人々は我先にとスーパーや生果店へ走った。瞬く間にキャベツはあらゆる店頭から消えた。
買えなかった人々は農家に押しかけキャベツを売れと迫った。皆必死の形相だった。
農家からもキャベツは姿を消し、それでも手に入らなかった人々は輸入商社へ押しかけた。
「やい、キャベツを売れ」
「ここは本社でございます。在庫は港の倉庫に保存してあります。明日になれば店頭に並ぶよう至急手配いたしますので・・・」
「明日じゃダメだ!今すぐ売れ!」
「そうだそうだ!今日じゃなきゃダメだ!」
「しかし手配をせねば・・・」
「うるさい!倉庫はどこにある、教えろ!」
「そうだそうだ教えやがれ!教えないとここで暴れてやるぞ!」
皆目が血走っていた。
商社の担当者は身の危険を感じ、倉庫の場所を教えた。
民衆は港に殺到、倉庫をしらみつぶしに探し回った。もはや暴動といえた。この現象は世界中で起こっていた。
世界中のありとあらゆるキャベツは奪われた。
それでも手に入れることのできなかった人々は嘆いた。その嘆きようは世界の終末がきたような嘆き方であった。中には自殺する者までいた。

このような現象は30年ほど前からだった。

50年前に開発されたスーパーコンピューター。

それは【マリア】と名づけられ、試験的に運用が始まった。
マリアは優秀だった。
様々な助言や警報を世界中に発信し、それは100%の確率の的中率であった。
ある日マリアはこう言った。
「隕石が地球に接近中、このままだと確実に地球に衝突します。場所はアメリカ合衆国ワシントンDC、日時は○○月○○日○○時、今すぐ避難してください」
科学者達はあわてて調査した。しかし隕石など発見できなかった。
人々は「ついに壊れちまったかな、人間でいう過労死だ」
信用する者は誰もいなかった。

しかし隕石はマリアの警告どおり、正確な場所、正確な日時に衝突した。
多くの死傷者を出し、科学者達は調査の結果宇宙望遠鏡で確認できないほどの小さな隕石であったが未知の物質で質量が何億トンもあったため、大爆発を引き起こしたのだった。

その事件以来誰もマリアの言うことを疑わなかった。
今やマリアの発言は神の言葉に等しかった。

マリアは毎週月曜日12:00正午に放送を行う。

その日は世界中の人間がラジオに耳を傾ける。

「本日の放送を行います。」

「本日のオススメは殺人です。世界中で人間が増えすぎました。このままでは資源不足で近い将来人類は絶滅してしまいます。みなさんそれぞれ武器をお持ちになってください、オススメの武器は・・・」

放送が終わらないうちに人々は武器を持って表へ飛び出して行った。







エントリ04  翻案・謎かけ     料亭板場


「ねえ、八っつぁん、なぞかけしようよ、あたいと」
「与太郎、お前が謎なんて考えたって無駄なこったぞ。お前の頭は考えるようには出来てねえ。風に飛ばないための重石みてぇなもんだからな」
「えへへ、じゃあ、いくよ?」
「聞いちゃいねえ。まあ、言ってみろよ」
「ええとね、やわらかくってね、毛が生えててね、ニャーンてなく猫はなーんだ?」
「猫は……猫だろ」
「すごい、当たりだ」
「お前、自分で猫って言ってたろ」
「あ」
「言わんこっちゃない」
「ちょっと油断した」
「いつもの事じゃねえか、お前のそれが油断なら、世界は千年も前にオイルショックだよ」
「分かり難いね」
「うるさいな」
「じゃあ、つぎいくよ」
「止めろ止めろ、馬鹿馬鹿しい。相手をするのも疲れらぁ。いくら暇で散歩してたって言っても、お前と縁側で夕方までいたらおれまで同じだと思われちまう」
「じゃあさ、なぞかけといたら、五銭あげるよ」
「……む、そうまで言うならまあ、聞いてやらねえ事もねえけど、あんまりくだらねえ事ばっかりだったら」
「大丈夫だよ、あたいだってバカじゃあない、お金がかかれば油断はしないよ。今後、あたいに、油断によるミスは決してないと思っていただこう!」
「何京院だよ……まあ、言ってみな」
「えっとね、えっとね、首が長くて、動物園にいて、茶色と黄色の模様が付いてるキリンって、なーんだ」
「キリン」
「ええーっ、すごい、なんで分かるの? はい、五銭」
「目一杯油断してるよ、銭がかかっても何の意味もねえよ!」
「よぅし、こうなったら、すごいんだよ。とっときを出すよ」
「そんなのがあるのか?」
「うん。相手がいい気になってレートを釣り上げて来たら使えって、佐兵衛が言ってた」
「……そんなこったろうけど、ロクな事を教えねえな、あの大家は」
「受けて立つ!」
「それはおれが言う事だろう。まあいいや、おれが負けたらこの五銭返してやるよ」
「たった五銭ー?」
「そういう勝負だったろう」
「あたいの計算では、いい気になった八っつぁんは、五円にレートをつり上げるんだけど、貧乏だからお金は払えないっていう事で、指一本に付き一円にして、払えなかったら切断するっていう流れだよ?」
「どうしてお前相手にそんな命懸けのギャンブルしなきゃいけないんだよ。五銭よりも増やしゃしねえから、さっさと言ってみな」
「ちぇっ、ケチ」
「大体、おれが指切ったってお前は何の得もねえだろう」
「あ……そうか。そんな見世物、一銭の価値もないね」
「それはそれで腹が立つだろう、この野郎!」
「んとね、謎だよ?」
「……まあ言えよ」
「相手の事が気になるんだよ、でも、面と向かっては言えないんだよ。あの人の行きそうなところを調べたり、名前を曖昧にして電話したりメールを送ったりするんだ。なーんだ?」
「この野郎、入れ知恵されただけあって、面倒な問題だな。お前、おれが『答えはストーカーだ』って言えば『純愛だ』、って言うし、おれが『純愛だ』って言えば、『ストーカーだ』って逃げるつもりだろう?」
「うふふ、なら、両方言っていいよ」
「じゃあ、答えは純愛もしくはストーカーだ!」
「えへへ、フィッシング詐欺だよ」