第106回体感バトル1000字小説部門

エントリ作品作者文字数
01同居人空津1000
02SHI☆GO☆TO GOTO GOTO燻製王子741
03しったかたん!土目1000
 
 
 ■バトル結果発表
 ※投票受付は終了しました。
掲載時に起きた問題を除き、訂正・修正はバトル終了まで基本的に受け付けません。
掲載内容に誤り等ございましたら、ご連絡ください。

QBOOKSは、どのバトルにおきましてもお送りいただきました作品に
手を加えることを避けています。明らかな誤字脱字があったとしても、
校正することなくそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

あなたが選ぶチャンピオン。
お気に入りの1作品に感想票をプレゼントしましょう。

それぞれの作品の最後にあるボタンを押すと、その作品への投票ページに進みます (Java-script機能使用) 。
ブラウザの種類や設定によっては、ボタンがお使いになれません。その場合はこちらから投票ください → 感想箱

エントリ01  同居人     空津


 『彼』と出逢って、一年になる。
 先輩が留学して初めての日曜日だった。泥棒に入られた。就職試験を控えて実家で勉強にいそしんでいたわたしは、勝手口が開く音にも気がつかなかった。
 お茶を飲みきり、畳に直座りは辛くなり、日が傾いて手元も暗くなった。飲み物と座布団と灯りとを求め、腰を浮かせたときだ。廊下と部屋を隔てる戸に影がさしていた。下半分のガラスに両足が見えた。
 動けなくなった。息を殺すわたしに、相手は気がついているらしかった。微動だにせず、襲いかかるでもなく、部屋の外にたたずんでいた。
 目を動かし、足をみつめた。ジーンズの裾は擦り切れ、裸足の甲や指には剛毛が生えていた。男だ。
 そして、腰から上が、無かった。夕日に染まる障子には腰の断面の平らな影だけがうつり、あるはずの胸や肩や首や腕の影は、どこにも無かった。
 静寂を『彼』とわたしは共有していた。と、『彼』とは別に靴音が聞こえた。板廊下をゴム底が擦っている。
 ──泥棒! 身の危険に気がつき、息を止めた。泥棒が強盗になりませんように。願って、目を瞑った。
 勝手口の軋る音に安堵し、目を開けたときには、『彼』は居なかった。
 それからというもの、頻繁に『彼』に出くわした。家だけではない。路地で雑踏で大学の大教室で。ひやりとするできごとの前には、必ずといっていいほど見る。
 どこかで見たことがある足だった。あの親指の爪の痣や、小指の曲がり具合。だれだったかしら。
 答えが与えられたのは先々週。
 家の台所で、戸棚に足をぶつけて転んだ。体当たりに近かったらしく、戸棚のうえの土鍋やらホットプレートやらが落ちてきた。
 あ、わたし、死んだ。
 そう思った。でも、死ななかった。
 かばわれていた。『彼』に。下半身しかないはずの『彼』に、頭から覆いかぶさられていた。やわらかくあったかい感触がした。
「先輩……?」
 つぶやいていた。あの足、先輩のだ。気づいて、笑ってしまった。留学の見送りのとき、就職活動がんばれと逆にお守りをもらい、照れてまともに顔も見られなくて。
「だから、足だけなんですね」
 わたしが、足しか覚えていなかったから。
 わかってしまったからか、人違いだったからか、そのあと『彼』には逢っていない。
 先日、留学から戻った先輩に「おかげさまで就職も決まり、命拾いもしました」と礼を言ったところ、怪訝な顔をされたので、やはり、人違いだったのかもしれない。







エントリ02  SHI☆GO☆TO GOTO GOTO     燻製王子


 ほんぎゃっ、ほんぎゃ! ほんぎゃっ、ほんぎゃっ!
「――お客様」
 開演間近、劇場係員が赤ん坊を抱いた母親に声をかける。
「なに?」
「保育室のご用意がございますので、ご利用下さい」
「うちのキラルがうるさいって言っての!? だったら、音上げればいいでしょ? 全部マイク通してんだから!」
「ご安心下さい、専門のスタッフが常駐しておりまして――」
「ざっけんな! あたしはキラルに見せてやりたくて連れて来てんの! あんた何様のつもり!?」
「あー、チミチミ」
 一人の紳士が係員の肩を叩く。
「あなたは……」
「なによ、関係ないヤツは引っ込んでてよ!」
「いやいや、岡目八目、関係ない者の意見こそが、役に立つ事もあるのですぞ」
 紳士はドジョウヒゲを指先でくるくると動かす。
「思うに、HEは赤ん坊、泣くのが仕事だと思うね」
「え? そ……そうでしょう!? それをうるさいなんて、男の勝手な言い草だわ!」
「そしてYOUは係員!」
 紳士はステッキで係員を指す。
「観客に良い環境で演目を見せるのが仕事」
「は、はい」
「さらにYOUは母親!」
 母親を手で指す。
「赤ん坊を健全に育てるのが仕事!!」
 次の瞬間、紳士は座席を踏み台に、高く跳び上がった。
「そしてIはモデル!」
 一気に衣類を脱ぎ捨てる。
「芸術を作り上げる為に、人々に隅々まで肉体を見せるのが仕事ッッ!」
 座席の背もたれの上に片足立ちしたその姿は、ギリシャの神像を思わせる神々しさに満ちあふれていた。
 観客の誰かが手を叩き始めた。
 続いて別の誰かが手を叩く。
 そして、いつしか、劇場全体が拍手に包まれていた。

「――で、公然猥褻の動機は?」
「ほっほっほ、最近景気が悪いせいかモデルの仕事もさっぱりでしてな。刑務所なら仕事さえしていれば、食うに困らないでしょう?」







エントリ03  しったかたん!     土目



「つまり、密室殺人というわけね」
「いや違います、密室でなければ殺人でもないです、ただの盗難です」

今日も残念な方向で絶好調な先輩にゲンナリしつつも下っ端一年の僕はカメラを切っていた。
我らが新聞部のぶっ飛んだ部長はというと探偵を自称しているぶっ飛んだお方だ。

「情報は足で稼ぐ!」がモットーらしく現場に急行するのはむしろ好ましいのだが、
ドラマの見すぎか結構な無茶もやるので、それにつき合わされる部員は僕の他いない。

「で、害者は?」
「ですから盗難ですって。テニス部1年篠山昭子女史のソックスが紛失したようです」
「ソックス、それはまたずいぶんとコアな犯人だ」
「ただ無くしただけでは?」

「ふっそれはコレを見てから言うんだな!」

ズバーン! と言う効果音を口で言いながら先輩が突き出したメモ帳を覗き込む

「ミミズがのたくってますね」
「バカ! 私の調査録をちゃんと読め! 害者の私物がここ何日かで続けてなくなってるんだ!」

ちゃんと読みましたと言いたいのは堪えて話を進めた。
「なるほど、不特定多数ではなく個人を狙っているなら、確かに事件性が考えられますね」
「太くて?」
「……」
「まぁいい! 調査を進めるぞ!」
ここで一つ問題だが一男子である僕が女子の部室をくまなく調べると言うのはマズイ気がする。
あまつさえ僕はカメラマンだし。

「あのー先輩ここで提案ですが」
「ボーっとするな! さっさと中に入れ!」
「ちょっと聞」

台詞途中で部室に引っ張り込まれた僕は顔の温度の急上昇をあぁなんか良い匂あばばばばばば
「さぁとっとと調べるぞ!」
先輩は部室を入念に調べだし、見つけたものは詳しく調べるためか机の上に並べていく。
手帳、ボールペン、写真、縦笛、リボン、靴下、スカーフ、パン……これ以上は見ていられない!
「何をしてる! 早く撮れ! お前はそのために来たんだろうが!」
「無理です勘弁してください! こんな犯罪臭のする物ばかり撮れません!」
「撮れ! お前はこのシボリタテスパソ紛失事件を解く義務がある!」
「? 何スか搾り立てスパソって」
「今までの紛失した害者の私物だ、
彼氏とのツーショット写真、
家にもって帰るつもりだった縦笛、
お気に入りのボールペンと手帳、
制服のリボンにスカーフ、
部活の着替え用のソックスとパンツで
盗られた順に並べてシボリタテスパソだ!」

無意味にややこしい……って

「全部あるじゃないですか」
「……」
「……」

「これにて一件落着!」