深夜二時過ぎのとある密室でジミーは殺されてしまった。 果たしてこんな事実を、話の冒頭に投げ打ってしまっていいものかと一瞬ためらいはするが、事実なのだからしょうがない。 逆にこれをいわねばこの話は始まらないのだから。 彼は薄暗い四畳ほどの広さの部屋の中で、椅子に浅く腰掛け両足を伸ばしきったままの状態で動かなくなっていた。 顔は斜め下にうつむいた状態で、よく見れば口もとから血のような赤いものが流れ出ているのだ。 その夜、ジミーはいつも通り彼の職場である工事現場に隣接された駐車場警備室にいた。 そして、九時過ぎから職場についた彼は、午前三時の休憩時間を待たずに息をひきとった。 ところがここで問題なのは彼が誰によって、どのような手法で、または因果でもって殺されたのかではなかった。 むしろ、この話の主旨はそこにまで辿りつけない。 それよりも、目を細めて見るべき事実が、その後の彼の周囲の様子にあったのだ。 午前五時過ぎのおぼろげな朝日の明りを頼りに、スティーブの野郎が警備室の横を通りかかった。 スティーブはこの近所に住む中年アル中の浮浪者なのだが、仕事の暇なジミーは、よく勤務中に彼と酒を交わすことがあった。 不意に現れては、突然用事があると言って去っていく気まぐれなスティーブは、今朝は寝起きの様子で警備室に近寄ると、ジミーの死体に軽く会釈をし一言二言声を掛けてそのまま去っていった。 午前八時を回ると、トラックが何台か爆音とともに警備室を通り過ぎて行った。 警備の主な役割はこれらの車の通行確認をすることなのだが、柵は自動で上がる仕組みなので実のところジミーが生きていようが、死んでいようが関係ないのだった。 運転手の何人かは、運転席から見下ろすように警備室のジミーの死体に向って手を振ったが、それの返事がないことなど誰も気にもしないのだ。 昼過ぎになって、工事現場の清掃係の老婦が警備室の横で足を止めた。 老婦は周辺の工事関係建物の清掃をするのが仕事なのだが、働く様子は労働意欲を微塵も感じさせず、隙があれば仕事を途中で切り上げ逃げ出そうとする癖のある人だった。 今日も昼過ぎには逃げ出そうと試みたこの老婦は、誰にも気づかれずに警備室の前までこれたことに安心しながらも、最後の警備員の存在には慎重にならざるを得なかった。 ところが、彼女が恐る恐る警備室を覗き込んでみると、椅子に腰掛けた警備員はどうやらぐっすり寝ているようで動かない。ホッと胸を撫で下ろした彼女は、そっと忍び足で警備室を通り過ぎていった。 そうして午後九時の暗闇は、いつのまにか周囲に再び静寂をもたらした。 付近にはもう人の姿はなく、山から流れる虫の鳴き声が周りにこだまするぐらいである。 どうやら明日もジミーの死体はこのままであるに違いないという予感が警備室周辺に漂う。 なんとも奇妙である。 誰かが彼の死体を発見してくれなくては、密室で彼がいかに殺されたかなどの追求も始まるはずがない。 夜は深けていく一方である。 その時、 月に照らされた道脇に、 佇むキツネの影がひとつ、 ジミーの姿を見て、小さく鳴いた。 享年五十三歳三ヶ月 ジミー・クレイグ死す。
実家には野菜や果物を収納するためにキッチンに小さな床下収納がある。 よくねぎやジャガイモ、お米なんかを母がしまっていた。秋になると親戚が送ってくれる林檎が段ボールごとしまわれていた。 面倒くさがりのあたしの唯一の趣味は家の中を探検することで、幼い頃は毎日床下収納の扉を開けては中に何が入っているかをカレンダーのうしろに書き留めておいた。 三年ぶりの実家は何も変わっておらず、家族は仕事に出かけていたので、あたしは暇を持て余していた。東北の小さな町の外れにあるここからではコンビニに行くにも車で10分かかる。近所に友達もいない。しかもあたしは免許を持っていないからどこへもいけない。 だから毎日眠ってばかりいたけど、それにも飽きてしまい幼い頃のように家の中を探検することにした。 まずは玄関、そして押し入れ、、、とすませ後は床下収納だけになった。 床に座り茶色の金属の取っ手に手をかけ静かにもちあげる。 そこには白く白骨化した死体が両手で膝をかかえるようにしてうずくまっていた。 あたしはのろのろと扉をしめる。 あれは誰なんだろう。 誰がかくしておいたんだろう。 父か母がやったんだろうか。 いつからかくしているんだろうか。 いつまでかくしておくのだろうか。 キッチンから離れあたしは縁側に寝転んだ。 あたしは大人になった今でもとても面倒くさがりだ。 日差しをまぶたにうけながら昼寝をはじめる。 あたしは何も見てはいない。 うとうとと眠りながらそろそろ林檎が送られてくる時期だなと思う。 その時はどこに林檎をしまうんだろう。
行く宛もなく、ただ歩いていた。 ふと、電気屋の前で足を止めた。ガラスの向こうには、新作から激安までの様々なテレビが所狭しと並んでいる。眩しいくらいの高画質と、うるさいくらいの高音質だ。 そのうち、果物屋に目を奪われた。薄暗い店内の奥まで、色とりどりの果実がひしめき合っている。ごちゃごちゃとした圧倒感と、ひどく鼻をつく匂いだ。 こうして僕は歩いていた。時折立ち止まっては目に写る何かに文句をたれ、また歩いてはそれを繰り返した。 自分が一体何をしたいのか、何に向かっているのかさえ分からない。いや、忘れてしまったのかもしれない……。 雑踏をかき分けながら進むと、募金活動をしている少年少女に出くわした。どうやら、クラスメイトの手術費用が足りないらしかった。僕はGパンのポケットを探り、ようやく五円玉をつかんだ。それを乱暴に募金箱に放ってやった。「お兄ちゃん、神社のお参りみたいね。由美ちゃんが無事に治りますようにって、お願いしてくれたの?」一人の少女が満面の笑顔で僕に訊いた。「……大丈夫、心配ない。」無愛想にそう答えて、僕はまた人混みの中に紛れ込んで行った。 妙に気持ちが悪くなった。さっきまでは平気で悪態をついていた自分が、ふいに哀れに思えた。 気がつくと自然に足が動いていて、辿り着いた先は病院だった。顔も知らない看護師に呼び止められ、連れられるままに奥へと進んで行った。慣れたように洋服を着替え、消毒を施し、さらに奥の部屋へと進んだ。そこには、異様な台に寝かされたとある少女が、緑の布を被っていた。幼気な少女の身体に刃物を差し込んだことが、まるで無意識のうちの出来事のように思えた。 汗を拭いながら自動ドアを抜けると、中年の男女が走り寄ってきた。「大丈夫、心配ない。」僕が口癖のようにそう言うと、背中越しにしきりに礼を言われた。 普段着に着替え、待合室を抜けて帰ろうとすると、聞き覚えのある声に呼び止められた。「五円玉のお兄ちゃん、さっきはありがとう!」募金活動をしていたあの少女だった。 さっきからやけに礼を言われると思ったら、何だ、五円玉のことか。 僕はまた、延々と歩き続けた。ただ、ポケットにはいつも五円玉を入れておくようにしている。
おじいがまたいそいそと出かけてゆく。あたまに髪の毛が一本もないのに、どういう因果か、床屋の奥さんに恋をした。 「あそこの床屋、髪の毛切りに行くとね、奥さんのむねがふっと当たるらしいんだわ」 「そうかそうか、それはわしもあんたも行かなあかんね」 思えば、半年前、茶のみ友達の渡辺のじーちゃんと交わした縁側でのたわいもない噂話が、おじいの枯れたこころに火をつけたようだった。 床屋の奥さんは、50を過ぎていた。旦那さんは単身赴任で地方に行ったっきりである。見た目は恰幅のよい普通のオバちゃんだったが、どういう訳か、70を過ぎた街のジー様方にはフェロモンがあるらしい。人気があった。 おじい達は、年金を使って寂しくなった頭をいじくりに、こぞって床屋に通うようになった。街のバー様方は床屋のオバちゃんを「魔性のおんな」などと言うようになった。 そんなある日、とこやのオバちゃんが、ふかわきよしなる演歌歌手に夢中になり、おっかけを始めた。店の中は全部ふかわきよしで、はっぴまで着込んでジーさま方の頭を刈るようになった。しかも、全員ふかわきよしそっくりのカット。禿げ頭には、強制的にずらをかぶらせて「きよしちゃんカット」を街中に大量生産した。おじいも2万出してきよしのずらをかぶる羽目になった。とたんに店の客層は変わり、今度はきよしちゃんファンのおばちゃんが入り浸るようになった。「ずんずんずんずずどこ〜〜きよしいい〜♪」おじいはテレビでふかわきよしが流れる度にパチンとテレビを消した。きよしちゃんのずらはたまに来る姉の所の甥っ子が面白がってかぶったまま帰ってしまった。二万もするのにおじいは何も言わない。おじいの恋は終わったのであった。
朝の太陽がまぶしくて、休日だというのに誰にも起こされずに起きてしまった。今思えばそれが全ての始まりだったように思う(いや、違うかも)。目を開けるといつもなら天井が見えるはずなのに、今は青く透き通った空しか見えない。 一瞬の思考。 ―あぁ、だから起きたのか。いつもなら遮断カーテンで覆われている部屋は暗いから、夜とそれほど明るさに変化はない。 そう納得し上半身を起こす。もう一つのことに気づく。周りの地面が平均台の上にちょうど乗っているかのように、スペースがない。 ……寝返りがうてないな。まぁ、もう起きるから別に良いけど。 ゆっくりと立ち上がり、自分が地上より遥か高い位置にいることを認識する。どうやらここは、建設中のビルのパイプの上のようだ。 ん〜部屋は何処へいったんだ? …まさか泥棒!? 思考はどんどん活発に動き始める。パイプの上に座り込み足をぶらぶらさせながら。部屋の中には大切な物がいくつもあったし、人に見られてはやばい物だってたくさんある。 捕まえなくてはっ! 警察に頼るのは簡単だけど、秘密のものが暴かれてしまう危険性もあるし。 運動神経はあまり良いほうではないが、火事場のバカ力というやつでジャングルジムの上から降りるように、地上まで降りていった。それほど必死なのだ。しかし、ふと気づく。どうやって部屋を盗んだやつを捕まえるのか? 手がかりは何もないのに。 こういう時の教訓は確か、現場百回。……だったはず。でも、現場って? 思考。思考。思考……。 そうか、犯人は現場を盗んだのだから現場イコール犯人の場所。う〜ん、探しようがないじゃないか。……いや、待てよ。 ばらばらに拡散されていた思考の破片が形を成す。 それを頭に描きながら走り出す。目的地は……自分の家! いや、馬鹿げていると思われるかもしれないが、犯人が家ごと盗んだのかを調べなくてはと思ったのだ。 その場所へ着く。 ……良かった、家はある。 ゆっくりと鍵を開け自分の部屋があった場所まで階段を上っていく。音をたてずに……。 !? 部屋がある。犯人は部屋を返しに来たのだろうか? そっとドアを開ける。「おかえり」 ニッコリと微笑んだ犯人……いや、彼女がベットの上に座っていた。「た、ただいま……」 彼女はゆっくりと立ち上がり俺の後ろのドアを閉めた。そしてその後、俺がどうなったかは言うまでもない。……げに恐ろしき部屋泥棒。
もう、いい加減暗いンだけど、と言っても仕方のないボヤキを発する。 標準より大柄な彼は、だからついて来て貰ってンじゃんと口を尖らせて律儀に応えた。 てゆかフツーに考えて有り得ない、もう高校二年生になろうと言う男の子が、忘れ物を取りに帰るのに同伴者が必要だなんて。 いつもどおり夕方遅くまで部活やって、帰りにコンビに行って雑誌立ち読んで。 湯船が本買うって言うから傍で待ってたら、鞄の中かき回して、あ、だって。溜め息吐いてお金払ってあげて、今。 街灯だけが光源の、薄暗い道を二人で歩く。薄情な友人たちは、爆笑のみを残して帰ってしまった。中には、頑張って、なんて言ってくのもいる始末で。一体何を、よ。「ワリィ、今日、何か用事あった?」「…んァ?別になんもないケドさァ。 アンタ、こんなんじゃいつまでたっても彼女なんかできないよ」 並んで歩く、通い慣れた道。馬鹿にする気もなく笑えば、見上げる位置のシルエット、小さく口を尖らせたのがわかる。「あんま、見えねーんだよ、くれーと」 でっかいくせに、小鳥みたいね。 揶揄えば、ウルセーとキックを飛ばすフリ。「きゃー。 ついてくの、止めるぞォ?」 声が笑ってるのは、自分でもわかる。湯船も本気だとは思ってない。 多分、二人きりじゃなかったら、もっとテンション上がってた。ワケわかんない言い合いとかしてただろう。 けど。 今はどうしてか、そんな気分じゃなかった。 不機嫌になるのが勿体ないって、どっかで思ってたんだと思う。 それはもしかすると、湯船も同じだったかも知れない。「…うわ、マジ暗いし、全然見えねー」 学校についた途端。 もういい加減グランドの照明も落ちていて、光っているのは非常灯ぐらい。赤い光が余計に不気味。 何でか出鱈目な造りの学校は、二階に一階と二階を繋ぐ階段の電気があって、どうしたって途中で真っ暗になる。 階段の途中で、湯船は立ち往生した。「…ったく、しょーがないなー。 ホラ、手」 差し出せば、大きな手が躊躇無く握り返してくる。「くれーから、しょーがねーよな?」「…そーねェ」 誰が見てるわけでもないのにそう言い訳めいた事を口にして、ほんの短い距離を手を繋いで歩いた。 湯船がしでかした忘れ物。 偶になら、悪くないのかも知れない。
あちこ、34歳。この年で何故か学生などやっている。クラスメイトは大半が18歳。若いエキスで充満している教室に入ったとたん、鼻の穴はブラックホールと化し、正に、精神的ドラキュラである。あああああああああああ、10代の肌に触れた空気はおいしゅうございます。あちこは看護学校1年生。この頃の医療系学校は、年齢層がとても広い。若作りして毎日学校に通うのもこれまた愉快なものである。今日は、体位変換の授業があって、男の子に抱きつける唯一のおいしい時間だった。しかし、いざやってもらうとなると「巨大な偽パイ」がずれないかとっても心配した。「さあ、やるよ!早くして!」って18歳の同級生、たーちゃん、男の子。「え!待って、待って待って、たーちゃんだめだめ」ってもじもじするあちこ。「だめだめ、待てないよ」会話だけ聞いてると、まるで初体験の男女である。この調子で実習もよい男をゲットしたいものだ。大体、一般には知られてないことだが、患者は看護婦に恋愛感情を持つべくして持つものらしいのだ。おいしい立場である。 横を見ると、デブ専門の体位変換があるらしく、コデブのひでっちが女の子に「デブ専やらして!」って囲まれていた。正にデブ冥利につきる光景であった。だって体位変換は女の子のおっぱいが顔の前にあったりするのだ。ひでっちの顔を見たらもう危ない薬でも打ったように恍惚としていた。看護学校は男の子にしたら良い場所かも知れないな・・・。偽パイの心配をよそに、体位変換の授業は終わった。みんなもうよれよれである。でも、だんなも触ってくれないような賞味期限切れの私にとって、体位変換の授業はちょっとしたアソビみたいなものである。ああ、明日もがんばるぞ! ※作者付記: ☆Ps☆なんで私だけいっつも文字数が出ないんやろ???
何かを見つけた朝。 何かをなくした昼。 そして、 何も見つけられなかった夜。 こうして僕らは毎日を過ごしている。 何をするわけでもなく、 何となく、何となく……。 だがそれが別に嫌ではない。 もちろん好きでもないが、 いや好きかも。 何か突飛的な事が起きるほうが恐ろしい。 昔は何か起きることを期待して、 毎日を過ごし、 わざわざ自分から危ない橋を選んでいた。 そのハラハラドキドキがたまらなく楽しかったから。 周りの大人達が僕の変わりに、 心配し何か起きるんじゃないかと怖がっていたんだろう。 だからこそ、 僕は自由に動き回り、 何が怖いかもわからずに突き進んでいた。 大人に怒られることもあったけど、 別段なんとも思わなかった。 むしろ、 怖がって何もできない大人をバカにしていたのかもしれない。 でも今の僕は、 周りに流されるように何もないことを望むようになっている。 いつからこうなったとか、 そんなことはあまり関係ない。 バカにしていたはずの大人に、 僕はなってしまっていたんだ。 だけど、 それに気づいたからといって、 僕は前の僕に戻りたいとは思わない。 いや、 思えない。 だってどうしようもなく怖いし、面倒だ。 下手に動力を使ってどうする? って思える。 疲れるのは嫌だ。 楽がしたい。 もう、僕は若くないんだ。 ドキドキを手に入れる代償が、 体力や神経なんて考えただけでも馬鹿げている。 だから当り障りの無い行動をとる。 何かを得たいなんて思わない。 何かを失うことのほうが怖いから。 何も手に入れなければ、 何も手に入れようとしなければ、 失うものなんて無いはずだ。 たとえば、 僕が誰かに恋をする。 恋をしてその人を手に入れられたとしても、 いつか必ず別れは来る。 その時の痛みと言ったら言葉にはできない。 痛みは時に傷になり、 それを背負って生きていくことになる。 そんな思いをするぐらいなら、 初めからしなければ良い。 全てに心を閉ざし、 幸せなんかを願わずに、 ただ今という時だけを考えて、 過ごしていれば、 何も感じずに何も失うことさえなく、 生きていける。 それで良いんじゃないだろうか? それが幸せなんじゃないだろうか? だけど、 たまに、 ごくたまにだけど、 意味も無く、 瞳から涙が溢れてくる。 何も失っていないはずなのに、 何も失っていないはずなのに……。
6ヶ月の子供のためにりんごの離乳食を作ることにした。 りんごの皮をむき1センチくらいの大きさに切る。私は料理は苦手だ。この作業に30分かかる。次に煮る。ことことひたすらやわらかくなるまで。1時間もしたころようやくお湯を切りこすのがまたまたたいへんだ。りんごはけっこう繊維が多くこれにまた1時間費やされる。このあと、ひたすらすりこぎすりこぎするのだ。30分後完成されたりんごの離乳食は5分でその役目をおえた。 子供は無邪気な顔して私に最高級の笑顔をくれたが、疲労と脱力感はぬけない。3時間かっかたんだぞ。それを5分で食べてしまうとは・・・・・。もっと味わって食えと言いたい。私は親ばかだ。これにめげもせず、こんどは大量生産可能なかぼちゃで子供の食欲と勝負しよう。絶対に勝つと心に決めた私だった。おわり ※作者付記: 離乳食作ったことありますか?
親の愛情をたっぷりと受けて育った、成美。成美の傍にはいつも両親が居た。何かにつけて世話を焼いてくれた。高校の校門にはいつものように母親が迎えに来てくれる。「今日は高校でどんなことがあった?」「今日の晩御飯は成美の好きなオムライスよ」晩御飯を食べて自分の部屋に入る。閉めた扉にもたれかかった。目を閉じる。父親が買ってくれた壁掛け時計が「カチカチ」となっていた。「フゥ」と息を吐いて机に向かう。リクルートの雑誌を出してパラパラとめくる。両親は四大へ進学を既成事実のように言っていた。「それが成美のためよ」大学に行けば何があるのか、就職すれば何があるのか、でも成美は自分が何をしたいのか全くわからなかった。放任主義の家庭に育った、隆治。隆治は高校が終わるとアルバイトに行く。終わると仲間と喫茶店に入る。毎度のことだがワイワイと他愛もない話が弾んで帰りが遅くなる。家に帰ると既に両親は寝ていた。食卓の上には「チンして食べてね。母より」の手紙。土日になると仲間と遊ぶ。だが今日は仲間に用事があり、一日家に居ることになった。父親は居間で熱心に小ビンの中に船を入れていた。ボトルシップというやつだ。「今どき流行らないからやめろよ」と口では言っているが、隆治はボトルシップを夢中で作っている父親が好だ。父親が珍しく手を休めて隆治に話し掛けてきた。「お前、高校三年だろ」当たり前のことを言う。「ターニングポイントを向かえてるんだなぁ、お前は。」突然の言葉にキョトンとした。「人生を決めるのはお前だ。俺たちはその参考を見せることは出来るかもしれないが、お前の人生を決めることは出来ないんだ。」どうやら父親なりに進路についてしゃべってくれていたらしい。それだけいうと、またピンセットをつかみ小ビンと格闘を始めた。自分の部屋に戻った隆治は「自分の人生を自分で決める……」と呟く。隆治は自分の進路について真面目に考えるのを避けてきていた。改めて父親に「人生」だとか「ターニングポイント」だとか言われると、あの親父が何をわかったようなことを言いやがって、という気持ちと、進路について考えるのを避けてきた自分を見透かされたような気持ちになった。自分の甘さを指摘されて余りある言葉だった。避けては通れない道なんだと気付いた。向き合うのは怖いが、向き合わなくてはならないと気付いた。「明日、リクルート雑誌を買ってみようかな」ここから本当の自分の人生が始まるんだ。
甘い花の蜜の匂いがする美酒。 その酒が入った杯を片手に、私は殺人計画を書いている。 私がこの計画を思い立ったのは、私の忍耐が切れた時だった。“あいつら”が欲望を貪り、肥えた豚のようになっていくのが我慢ならなかった。なにより、私の恩恵を無視し、その法則すら超えて暴走しようとしている。 ――止めねばならぬ! そう思い立った時、私はペンを握っていた。 単純に「殺人計画」と題し、すでに私はいくつかの方法を紙に書き綴っていた。が、どうもピンと来るものがない。一体、何が足りないだろうと、私は何度もその計画書を読み直していた。 計画その1 溺死 この計画の中で、もっとも信頼おける方法と言えるだろう。過去に例もある。何よりこの方法は私の兄に罪をなすりつける事も出来る。 だが、“あいつら”はしぶとい。生き残る可能性は高いだろう。 計画その2 焼死 二番目の候補としてあげたが、残念ながら被害が大きすぎる。他の者まで巻き込む可能性があるのは、計画その1も同義だが、後始末が大変だ。 従兄弟に罪を被せる事も出来るが、一度“あいつら”の味方をしている従兄弟には難しいだろう。 計画その3 地震 確実性から見れば、その1と同じだろう。だが、その2と同じく後始末に苦労する。それにこの計画には、私の祖母の協力は不可欠。しかし、彼女が私の言うことなど聞いてはくれないだろう。 頭を抱え、私は悩んだ。どの計画にも埋めようのない穴があり、決め手がない。 その時だった。「ゼウス様……」 唐突に背後から声をかけられ、私は椅子から飛び上がった。その拍子に鹿角の杯を取り落としてしまった。地面にこぼれた神酒は、甘い蜜の香りを辺りに漂せた。 おそるおそる後ろを振り向く。そこには一匹の蛇が鎌首をもたげこちらを見ていた。「なんだ、ヘルメスか」 私はホッと胸をなで下ろす。そして、椅子に座り直し、居住まいを正すと尋ねた。「どうした?」 天界の伝令使である彼は報告したいことがあると前置きして、こう報告した。「人間が滅びました」「はぁ?」 私は自分の耳の疑った。今まさに私が滅ぼそうと考えていた人間が滅びたと言うのだ。「何故?」「核戦争です。彼らは自滅しました。ついては次世界の構築について他の神々がお話があると」 言葉も出なかった。私はしばし呆然とした後、ヘルメスを下がらせた。 そして、机に置かれた書きかけの殺人計画をじっと睨んだ。
役人に対して接待をしてはいけないということは、百済も十分承知している。しかし、何もしなければ、百済が勤める弱小会社に仕事はあまりまわってこない。そこで百済は、上司の賢島と相談して、一計を講じることにした。 大都市の通勤圏から離れた地方自治体の財政は苦しい。しかし、ある程度の情報化投資をしなければ人口がさらに減少して、裕福な都市との格差は開くばかりである。総務部長の安富は、来年度予算を作成するにあたりIT予算を確保するための名案がないか考えをめぐらせていた。そこへ、以前パソコンを納入したことのあるシステム会社の百済から電話がかかってきた。「安富さん、お久しぶりです。今年もそろそろ予算作成の時期かと思いますが、震災復興も一段落したようなので、何か情報化投資を考えられていらっしゃいませんか。」「いや、やはり予算の枠が厳しくてね。やりたいことはいろいろ有るんだが。」「多分そうだろうと思っていました。当社でも、他の地方自治体さんからいろいろご相談をお受けしまして、いくつかご提案させて頂いているのですが。よろしければ、是非お見せしたいものがあるので、明日の夕方でもお時間を頂けませんでしょうか。」 安富は、他の自治体が考えていることなら聞いておくにこしたことはないと思い、即座に承諾の返事をした。 翌日、安富は定時に退庁して、百済のシステム会社に向かった。「ようこそ、安富さん。地下に会議室を用意していますのでお越しください・」 安富が連れていかれたのは、同じビルの地下にある某レストランであった。(これは、高い授業料になるな。)安富は、一瞬自分の財布の中身を心配した。 百済は、安富の表情を見てすかさずに言った。「ご心配には及びません。私どもの会社の事務所は狭いので、このレストランと契約して 時々個室を会議室として利用しているのです。飲食物も使用料に込みになっているので 払う必要はありません。」 百済は、わかったようなわからないような説明をして、てきぱきとコース料理と飲物を注文した。時間が時間だけに、出されたものは何の抵抗もなく2人の胃袋におさまった。一通りの話を聞いて、安富としても一応の情報収集の成果はあったと判断した。「ところで安富さん。私も含めて、ITの仕事を担当する者は誰よりもITの勉強をし、 家族にも、友達に自慢できるような情報機器を使いこなさせなければなりません。 私は、その面でも安富さんのお力になりたいのです。」 百済は、さりげなく商品券の入った封筒を安富のポケットにねじ込んだ。
篠田操さんは、K市の衛生都市に住む張り切りママである。2人の子供が、小学校・中学校・高校へと進む足掛け十余年の間PTA活動にかかわってきたこともあって、今でも地域のサークル活動には積極的に参加している。或る日のこと、そのような篠田さんへ思いがけない電話がかかってきた。「この度は、えらいご厄介になりましたな。」 電話の男は、ゆっくりと喋りはじめた。「あの・・・どちら様でございましょうか。」 篠田さんは、不安を押し殺しながら尋ねた。「言わんでもわかってるやろ。ワシらの商売にケチつけるんやったら、お前の旦那もこの 町で商売できんようにしたるからな。」「もしもし・・・何のことでございましょうか。」電話の声は、それでぷつりと切れた。 篠田さんには、思いあたることがあった。1週間ほど前、市役所の地域振興係から次の様なお礼のメールが届いたのだった。 「この度は、ご多忙中にも拘わらずアンケートにお答え下さり有難うございました。 当市では、頂いたご意見を参考にして、悪質な業者に対しては断固たる姿勢で対処する所存ですので、今後とも宜しくお願い申し上げます・・・・」 篠田さんは、早速地域振興係に電話をした。地域振興係の話では、数日前に市役所のホームページに不正進入があったという。「現在、被害の状況を調査中でして・・・」 担当者のこの言葉に、篠田さんの怒りが爆発した。「お宅は被害者ではありません。加害者です。」
だから、今日いくのはやめておこうと言ったのに。 迷った時に美容院にいっても、ろくなことにはならない。どんな髪型にされても、後悔が残るだけだ。不機嫌そうな友香の横顔を尻目に、僕は空を見上げた。 6月の梅雨の晴れ間は、もうすっかり夏の匂いだ。晴れ渡った空から、目に痛いほどの日差しがふりそそぐ。 「さっきの美容師、へったくそだと思わない?」 始まった。ここから、友香の罵詈雑言が、家に着くまでの二十分間は続くだろう。 「そう?」 「そうよ!雑だし、私の意見なんてまるで聞いてないじゃん。あごぐらいの長さって言ったのに、見てよ、これ。ショートカットじゃん。最悪!」 切りたての、きれいにセッティングされた髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。 「あーっもういや、死にたい」 美容師の専門学校に通う僕を連れて、友香はしょっちゅう美容院に行く。勉強だと言っているが、要は一人でいくのがいやなのだ。気が強そうに見えて、実はすごく気が小さい。それで、してもらいたい髪型をうまく伝えられないこともある。そんな彼女の夢は、早く僕が一人前の美容師になって、僕に彼女の髪を切らせることだ。 「な、マック寄ってかない?」 「なによ、人が落ち込んでるのに」 「だって俺、マックシェイクのみたいんだもん」 「……」 すると彼女はすごい形相で僕を睨み、「バカ」と言い捨てて、さっさとマックに入っていった。熱い日差しの中にいるよりクーラーの中にいたほうが、少しは気もおさまるだろう。 平日の昼下がりに客はまばらで、僕たちは一番奥に座った。 シェイクを何口か飲んだあとも、彼女はむっつりと黙りこんでいる。左の指で、何度も短くなった毛先をつまんで引っ張る。 「引っ張っても伸びないよ」 「わかってるよ」 ほっといて黙っていると、次第に彼女の目がうるんできた。 「ちょっと、鏡ある?できればクシも」 このあいだ、学校で習ったセットを彼女の髪に施す。まだうまくできないけど、さっきの山姥のように掻き乱された状態より、いくらかマシになった。 「ほら、かわいくなった。似合うじゃん」 鏡をじっと見つめ、友香が顔を上げた。 「髪、短いと、悠介、練習できなくない?」 「何いってんの。短くても練習くらいできるよ」 やっと少し笑った。 夏がこようとしている。その頃には、僕は学校を辞めようと思っている。美容師になるのをやめたと言ったら、彼女はどうするだろう。また他の、美容師の卵と付き合うのだろうか。彼女の笑顔は、僕ではなく、僕の未来に向かって投げかけられているのだ。
大吉システムの徳谷社長は、押しの強い営業で知られている。当社では、3年前に取引先の紹介で第三システム部からソフトウェアの制作の発注を開始したが、今では、第二システム部と第一システム部からの発注も増えており、社内の到るところで徳谷社長の姿が見かけられるようになった。 第一システム部の横山部長は、親会社から出向してきた律儀な性格の持ち主である。師走も半ばをすぎた頃、徳谷社長から横山部長宅に小包が届いた。一見してお歳暮とわかる包みであるが、品名と大きさから判断するとかなり高価なもののようである。横山部長は直ちに郵便局から小包を返送し、徳谷社長に丁寧な詫び状をしたためた。 同じ頃、第二システム部の丸山部長の所にも同じ商品が届けられた。丸山部長も、その商品がかなり高価なものであることに気づき、気が重くなった。しかし、送り返すのも失礼と考えて取りあえず開封した。商品番号をもとに百貨店のカタログで値段を調べると、果たしてその商品は3万円もするものであった。丸山部長は暫く考えた挙句、百貨店に赴き、3万円相当の商品券を徳谷社長へ送ることにした。そして、礼状には、当社の倫理規程には取引先から高価な贈答品を受け取ってはならないことが定められていること、今回はたまたま前から欲しいと思っていた商品だったので自分で買ったことにしておくが、今後はこのような気遣いはして頂かないようにと書き記した。 一方、第三システム部の角田部長宅でも同じ商品が届いたが、家族が喜んで開封し、角田部長が帰宅した時には、すでに一部が消費されていた。角田部長は、あまり気にとめず時間がたつとそのことを忘れてしまった。 年が明けて決算期が近づくと、どの部門も各受注の完成納期が重なるので社員だけでは手が足りなくなる。当社のシステム3部門は、一斉に大吉システムに応援のための外注を依頼した。しかし、大吉システムでもいくつかの取引先で手が足りなくなっていたため、当社にまわせるSEは二人しかいない。徳谷社長は考えあぐねて、まず第二システム部と第一システム部の仕事から受注することにした。
「ねえ、絵を描いて」 時々、私は友人に絵をねだる。 友人は絵が上手い。と言うか、絵描きバカだ。いつもスケッチブックを持ち歩き、その気になると仔細構わず描き始める。 一年の時なんて授業中でも描いていて、そういえば1度英語の先生にスケッチブックを取り上げられてから、少なくとも堂々とは描かなくなったけど。 その代わり、気が乗らないとトコトン描かない。絵筆など忘れたかのように、静かに読書に耽っている。「ねえ、描いてよ」 そんな時、私はわざと絵をねだる。友人の嫌そうな顔など気にしない。「描いて」 ほぼ強制だ。友人は渋々、本当に渋々とスケッチブックを開き、しばらく考えた。 最初に描いてくれたのは桜。次は藤。その次は小手鞠。「花ばっかりだね」 言うと、また嫌な顔をする。けれど気にせず、要求する。「私、百合が好きなの」 ニッコリと笑ってスケッチブックを返す。友人は嫌な顔をして、嫌そうに、渋々、百合を描いてくれた。 それから絵をねだると、友人は百合を描いてくれた。 ◇「ねえ、絵を描いて」 いつものように絵をねだると、友人は(珍しく素直に)スケッチブックを取り出した。 白いページを開き、しかしソコで嫌な顔をした。「百合でいいから」 催促してもなかなか描かない。「別に、いいのに」 言って、私は広くもない病室を見回した。 高校2年の夏休み、私は冷房が効いている以外は面白みのない病院に入院していた。 今は空きがないとかで個室に入っている。大部屋より良いけど、ちょっと寂しい。 第一、ただの胃潰瘍では誰にも自慢できない。「ねえ、描いてよ」 夏休みなのに見舞いに来てくれた友人にワガママを言う。 入院患者に百合なんて縁起が悪い、とかいうのは知ってるけど、私が百合を好きなんだからイイじゃない。 友人はかなり迷い、結局、ヒマワリを描いてくれた。「百合でいいのに」 ごねる私に、友人は溜息をつく。礼儀正しいのは良いコトだけど、ここまでだと天然記念物クラスだ。「ま、いっか。退院祝いに描いて」 妥協案に、やっと友人は頷いた。 それから友人は、毎週見舞いに来ては、絵を1枚描いてくれた。最初は鉛筆のラフ。次第に色彩がついて、そうやってもらった画用紙がブ厚い本並になった頃―― 最後にくれたのは、約束通り、百合の花。 百合の花束を抱いて笑っている私。 元気一杯に、健康そうに、笑っていた。 ――笑って、いた。終わり
彼について説明するのは簡単だ。「一体どんな人?」これ以上答えやすい質問はない。そう、彼はとても単純な人。彼の中にある無数の糸は、一本たりとも絡まりもつれることはなく、きれいに真っ直ぐ伸びている。下睫毛の長いその瞳は、常に今の自分をしっかりと見ていて、何か少しでも足りないものはすぐさま求め始めるし、多すぎるものはすぐさま切り捨てる。 限りない 欲望、果てしない簡潔さ。彼の正直さ、素直さは時に人を傷つけ、苦しめる。けれど皆、彼を憎んだりはしない。憎んだってどうしようもないことを、聡明な人はすぐに理解できるからだ。けれど、小さな赤ん坊に、泣くのをやめろということがどれほど無知なことかを、ごくわずかの聡明でない人は理解できない。 冷たいウーロン茶を飲みながら、小さなカフェの真っ白なテーブルで彼を待っている間、例え二時間一人ぼっちにされていたって、私は彼に腹を立てたりしない。きっと彼は、新宿駅の改札を出た瞬間、買おうと思っていたCDの存在を思い出すだろう。私には全く分からない、どこか東南アジアの民族音楽。それを探そうと、真っ直ぐにタワーレコードに入っていく。エレベーターは混雑していて、なかなか彼を迎えには降りてこない。3分以上経過すれば、彼はそそくさと階段を上り始める。頭の中はCDのことしかない。それを見つけ出すまでは、店中の棚を調べ、全ての店員にその在りかを尋ねるだろう。やがて手に入れた一枚のCDを、財布の中身全てを使って購入し、その場でポケットから出したプレーヤーにセットする。きっと彼は人目もはばからずに大喜びでヘッドホンから流れる音楽に聴き入ることだろう。タワーレコードの階段に座り込み、気が済むまで繰り返し聞き続けるだろう。その頃私はすでに一滴の汗も残らず乾いてしまった空のグラスをテーブルの隅に押しやり、時間つぶしに開いた手帳を何となく眺めている。友達の誕生日を暗記しようとしたり(私は人の誕生日がどうしても憶えられない)、来月の休日をどう使うか考えたりしながら、店員に新しい飲み物をオーダーする。ついでにフルーツケーキも。手帳を仕舞い込み、12本目の煙草に火を着けると、ようやく彼が私のそばにやってきた。「ReminのCDがやっと買えた。」 長い睫毛をパチパチさせて彼が言う。「良かったね。」 私はにっこりと笑い、運ばれてきたフルーツケーキを彼の前に押しやった。
ハイ、3・・・2・・・1・・・スタート。岸田「えー、それではこれより『川中 耕太に聞く。恋愛とは何か』を始めたいと思います。インタビュアーは私、岸田でお送りいたします。よろしくうっ!」川中「無理にハイテンションにするな痛いぞお前、それに何だこの企画は、あともう録音機入ってんのか」岸田「もう音は入ってる、この企画ほどうけそうなのはないだろう、それに俺は全然痛くなど無いわたわけがっ!」川中「あー、はいはい」岸田「で、どうよ?」川中「恋愛ねえ、聞く相手間違ってるだろう?」岸田「いや、女に興味ねえって奴の考えてることのほうが知りたい。さあ語れ」川中「なるほど。んー、恋愛ねえ正直に言うぞ。よく分からん」岸田「完璧に分かっている者なぞいるかたわけが! なら印象を言え印象を」川中「お近づきにはなりたくない」岸田「貴様それでもおとこか!!! 修行が足りん!」川中「だからお前のそのハイテンションの原因は何だよ」岸田「酒。ヒットマン」 川中「安い酒を・・・。まあそれはいいとしてお前も何か語れよ初恋とか失恋とか特殊な性癖の話とか」岸田「・・・初恋ねえ・・・。ある所に一人の中坊がいた、まあ名前は仮にリーとしよう」川中「いや、まさとだろ。ハリウッド映画の中国人かお前は」岸田「るせえ。 リーはその頃から少し普通とは言い難い奴で、クラスの女に魅力を感じられませんでした。そしてある日リーは図書室でサナダムシの本を探している女を見つけました。まあ仮にジャネットとしよう。リーはジャネットと意気投合、何かいい感じになりました・・・っとこれが初恋」川中「どんな女だったんだ、変な女なのは分かったが」岸田「少々俺に似てた。メスがほしいとか人間の解剖してみたいとか言うそんな女。ついでにそいつ看護学校に入った。入院患者は深夜の病院に警戒するように、ジャネットがでるぞー」川中「失恋と特殊性癖は?」岸田「・・・くくっ、は、ははははっふはははははっ!! あはっ、あーーーっはははははっはははっはははははっはは!!!!」川田「怖いから急に泣きながら笑い出すのはやめろ」岸田「ーーーっはっはっはっ・・・笑わずにいられるか・・・。 リーはある日自分の特殊な性癖に気付きました。ペドフィリア、つまりロリコンだったのです。さらにジャネットは年上のいわゆるナイスミドルが好みでした。こうして二人は、自分の気持ちを理解してくれる者に出会いながらも、ついにはそれ以上関わることをせず決別したのでした・・・。めでたしめでたしって全然めでたくねーよ!っははははははははははははははは!」 狂ったように笑い続ける友を見ながら、川田もヒットマンに口を付けた。「性癖・・ねえ?」 ※作者付記: 三分の二ほど実話です。
我が道を行く。世の人ごみを歩くもののたとえなり。人としてそれなりに生きて過ごすのは面倒だ。掻きわけ掻きわけ道の先、何があるかは予想がつかぬ。面倒御免と言いながら、ついに人が踏んだ道をゆく。老いて気づくはありふれた、道に迷うた人のあと。その足跡だけが必死の下り坂に喰いついている。こそばゆい夢の囁きの感触を思い出しながら、日の中に座して伸びをする。もう伸びもしない背骨をぱきぱきとさせながら、サテ、今日は何をするかと思うてみる。なにたいしたことなどあるはずがない。いったいいまの自分にすることなどあっただろうか。振りかえって過去をみても、そんなものはなかったように思う。することのない日々のよろこびを、春のように感じることが出来たのもほんのわずかのことだった。結局、日々追われるように感じながら秋が来たのとおなじことだった。もうすぐそこに暮れがある。やろうやろうと思ったことはついぞ出来ず、やりますやりますと約束だけをとり交わし、時効を通過するまでただ黙って我慢した。ハテ、自分が来た道はいつも逃げ道だったのか。いま振りかえれば、まるで逃亡者のような。いやいや、そんなつもりではここまで来れるはずもない。己はここまで生きた。逃げてきたとしても、それはそれで立派ではないか。過去を振りかえれば振りかえるほど、覚束無い。もう何も自分を象徴するものが残っていないというのは、なんともやりきれないことだ。道に逸れた。いま、今日なにをするかを思うていたところだった。どうも、この季節じゃ調子がでない。時節とともにこの老いた思考が痴呆の人みたく、忘却の道へと徘徊を始めるのだ。ほんとに困ったものだ。人が散歩している。あれ、供するは犬だな。いや、あの人は袋とスコップを持参している。ならばあれは犬の供だな。犬の散歩の供が主人。などと他愛もないことにやや面白味を感じる。そして今の自分の他愛なさも面白い。やがて私はこれ以上、歳をとるのだろう。我が道を、なにも記録に残さないできたこの道を、生来定まっていたもののように感じながら。
あたしは点滅している。 あたしの心の真ん中が、点滅している。嶋村のせいで、ここのところずっとだ。 目の前にいる嶋村の、口元から突き出たタバコを眺める。部室代わりに使っているプレハブの一室で折りたたみ椅子に座り、内心あたしは苛々していた。 あたしはどう見られているんだろう。 あたしは、嶋村にどう見られているんだろうか。 部屋にはふたりだけだ。嶋村と、ふたり。 こいつとは半年くらい前、大学に入ってすぐの講義中に話したのが最初だ。何の講義だったかは忘れてしまった。 それから同じ部に入り、大抵の日には近くの駅まで走る市バスに一緒に乗って帰ったが、しかしそれだけだった。こうして部屋にふたりきりでいても、嶋村は自分からは積極的に何もけしかけてこない。時々あたしの胸元を見ているのは知っているけれど。 こいつは何なんだ? 乳を見る暇があったらデートくらい誘えよ。あたしはいわゆる清楚で真面目な女の子だと見られているんだろうか。それともすでに彼氏のひとりやふたりいるとでも思っているのか。ああもう何でもいいけれど、ともかくそういう想像や妄想や思い込みなんかの末、あたしは男になど困ってない、男を欲したりはしていないと嶋村はそう勝手に判断して自己完結しているんだろうか。アホくさ。素っ頓狂の鈍感の意気地なし。 あたしは嶋村のことが好きだ。今あたしの前にいるこの男が欲しい。 嶋村が立ち上がり、奥にあるスチール棚の方に向かった。灰皿として使うために置いてある空き缶を手に取る嶋村の背中を、あたしは睨みつける。 不利だ。あたしがこいつのことをメチャメチャ好きなだけに不利だ。このままでは明日にもあたしの心は弾けて飛び散ってしまう。あたしの心であったはずの無数の破片はそうして東京湾や大学のテニスコート、3駅先のタワーレコードの前やなんかに思いっきり降り注ぐのだ。 椅子に再び座り、タバコの灰を落としながら、自分のアルバイト先の店長がいかにエキセントリックな人物であるか(そんな話どうでもいいよ)について嶋村があたしに語りかけている。あたしは興味ありげな顔をしながら頷いて相槌を打ち、時には大げさに手を叩いて笑いながら、思う。 嶋村は今日帰ったら何をするんだろう。自分の部屋で雑誌を読みながら、風呂で体を洗いながら、あるいは寝る前やなんかに、あたしのことを思い出したりはするのか。 畜生。今夜あんたでしてやるから。
我社が生き残る為に 俺の所属は人事部だ。主な仕事は人員整理、つまりリストラである。 一昔前の「肩たたき」なんて生やさしいモノじゃない。法律に引っ掛からない程度に、有無を言わせぬやり方が会社の方針であるから… 最近の俺の口癖は「我社が生き残る為に…」である。 俺のセリフを聞いた瞬間、ある者は憎悪に満ちた表情で俺を罵り、ある者は俯き唇を噛み締めて悲嘆に暮れる…そんな光景を幾度と無く目にしてきた俺も、最近ではあまり心が痛むということが無くなってしまっている。 そんな俺のことを、上司は「お前も成長したっていうことだ」 なんて言葉で励ましたりするのだが、本当にそうだろうか…さすがに俺もすっきりとした気持ちにはなれはしない。 今日も一つ仕事が済んだ。 俺は上司に報告書を提出しに行った。「やあ、長い間ご苦労だった。君のお陰で我社のリストラも一段落着きそうだ。そろそろこのプロジェクトも最終段階を迎えそうなので、そのつもりでいてくれたまえ」 俺はハイとだけ答えて、そそくさとその場を後にした。「我社が生き残るため…」 俺はそのフレーズを口にしてみて、改めて人情味の無い冷たい響きに、背中を冷たい汗が伝って落ちるの感じていた。 翌日、出社してみると、いつものように次のリストラ候補を記した極秘資料を持ってきてくれる秘書課のOLが俺を待ち構えるようにして立っていた。 俺はいつもと違う胸騒ぎを覚えながら、受け取った茶色い封筒の中身を確認した。 案の定、そこにはただ一人、俺の名前が記されていた。「我社が生き残る為に…」 俺は呟いた。 しかし、不思議とその時、俺は笑っていた。 ※作者付記: 前回はジューンで投稿いたしました。よく似たPNがあったので、改名いたしました。
昨夜はお疲れ様でした。 無事に帰れましたか? 俺は結局終電を逃して先輩の部屋に泊まりました。酒臭くて大変でした。 喧嘩別れになっちゃったけど、途中までは楽しかったですね。台無しにしてしまって申し訳ないです。先輩も謝ってました。 だからこんなことを蒸し返すべきじゃないのかも知れない。あなたをまた怒らせてしまうかと思うと気が沈みます。でも、誤解されたままなのはもっと嫌なので、どうか最後まで読んでください。 「死体の顔を叩き割る」というのは本当のことです。悪ふざけでも冗談でもなく、それが俺たちの仕事です。 どうかわかってほしいのは、それは全然リアルじゃないということです。俺は現実の人間をバットで殴ったことはないけど、それでもわかるくらい違います。手応えもまるでないし、血も出ない。ただ、割れた顔から紙が飛び出すだけです。ものすごく長い、クシャクシャのFAX用紙みたいなやつです。その紙を伸ばしてきちんとたたむのが俺たちの役目です。紙には死んだ人が考えていたことが全部書かれていて、それを機械が読み取ってデータにします。そこまでの工程はどうしても人の手でやる必要があるんです。概念上のバットで概念上の死体の顔を叩き割る。それが一番効率のいい処理方法なんです。 死者への冒涜だとあなたは言ったけれど、俺たちの依頼主はその死者たちです。遺言と遺族の同意と面倒な審査が揃った上で、俺たちと死体は仮想空間に入ります。俺も先輩も正規のライセンスを持っているし(国家資格です)、検査も毎週受けています。少しもやましくない、まっとうな職業なんです。 でも、本音を言えば、それはむなしい仕事です。 先輩が言っていた通りです。死んだ人たちはたいてい、大したことは考えていません。サイトに載った自分の思考がいつか誰かを感動させるなんて夢見てるけど、実際はあんなもの誰も読みやしない。だいたいこんなシステムを使おうなんて考えてる時点で小物なんです。でも、もう死んでるから説教もできない。先輩だってあんな風に茶化すけど、本当は悲しいんです。 うまく言えないけど、それだけ知ってほしくて手紙を書きました。 もしよかったら、また会ってもらえると嬉しいです。生きている間は言葉で語り合うしかないけど、その方がずっとましです。あなたとくだらない話をいっぱいしたい。返事、待ってます。 追伸・おみやげの奈良漬け、おいしかったです。
夕方の駅で、僕は肩に掛けられた鞄の重さを感じながら東の空を見上げた。雲一つない東の空にべったりと塗られた茜色が見えた。僕の後ろでは疲れた顔をしたサラリーマンがネクタイを緩めながら急ぎ足で帰っていく。僕は前に進むことをせずに、ただ空を見ていた。(僕の心みたいだ。)夕闇に侵食されていく空を見ながら、僕はいつもそう感じる。僕は誰も居なくなった駅から足を踏み出した。 僕は毎日坂を上る。「反省の坂」と呼んでいる坂に、僕はいくら反省を込めただろうか。苦しさも嬉しさも悔しさも全て、この坂で思い起こしてきた。自分を押さえつけ、どれ程辛いことがあっても、この坂で歯を食いしばって耐えてきた。「もう限界かなぁ…。」坂を上る時につい零してしまった。言えば辛くなるから、言えば悲しくなるから、言えば…耐えられなくなるから決して口に出さないようにしていたのに……。「辛いなぁ…。」言葉が湧水ように溢れてくる。とめどない思いが僕の胸を貫いていく。「ふぅ。」ようやく坂を上りきり、家が目前に迫ってくる。灯りが点いていることは決してないけれど…。 僕は後ろを振り返った。太陽が、地平線を背に最後の抵抗をしていた。(沈むな。沈まないでくれ。頑張ってくれ。)いつも僕はそう思うのだったが、それがとてつもなく愚かであることは自分自身分かり切っていた。結果は決まりきっているのだが、僕は目を離すことが出来ない。「綺麗だ…。」僕は無意識に口を開いた。幸い辺りが薄暗くなっていて、誰も居なかった。「綺麗だ……。」太陽は残り僅かとなった。最後の最後になって、それまで以上の輝きを見せながら沈んでいく。僕の背は侵略者に染められていた。(僕も、いつかあんな風に喰われてしまうのだろうか。)僕は時々自分の中に誰かがいるような気がしていた。いつもはそれを無視しているのだが、こんな場面に出くわすと、嫌でもそれを感じざるを得なかった。「弱いよなぁ……。」どこからかそんな声がした。日はとっくに沈んでしまっていた。が、僕は目を逸らさずにじっと見続けていた。(明日になればまた昇る。きっと昇るさ。大丈夫…。大丈夫だよ…。)自分に言い聞かせるようにして息を整える。僕は目を閉じて大きく息を吸い込んだ。(僕だって、沈んでばっかりじゃない。きっと昇れる。昇れる。大丈夫だ。大丈夫だよ…。きっと…。)僕は体の中のものを吐露するように息を吐いて、家に足を向けた。
とにかく僕は、電車を待つ真夏のホームに立って、ブルーペプシを飲み干した。電車は一人の横並びの椅子のスペースに調度良い日差しを投げている。僕は無意識に大きなあくびをした。202階マイクロコムビルの喫煙コーナー。ホームページコンテンツ製作のデザイナー達が煙草の灰を落としながら立っている。僕もこの中にいつも登場するのだ。今僕は、自分の趣味ページのホームページ更新について同じフロアマネージャーと意見を交換している。「電車を待つ真夏のホームに立って、ブルーペプシを飲み干したって、博報堂出版のペプシのCMだろ?」デジャブー担当のコバが言う。「違うよ俺のキャプテンセンシブルHPの見だしだよ、それ」意味の無い会話が続く。僕はこのプランの音楽担当だから容赦しないんだ。「俺最近、音楽聴けなくなった、歳のせいか。もっぱら音楽のネタは俺が見る夢の中のテキストから作ってんの。デジャブー担当のコバが言う。「お前の音、雨っぽいもんな、でも嫌いじゃないよ」コバは笑って言った。電車は一人の横並びの椅子のスペースに調度良い日差しを投げている。僕は無意識に大きなあくびをした。また同じ夢を見た。大きな蛾の羽のような模様の服。一人で見る夢はいつも僕を判らなくさせる。303階三菱食堂の窓際。漫画の主人公の僕はサブキャラクターのもんじ君とオムライスを食べている。精神病持ちのもんじ君は、僕に時計の生る木を栽培している自分の部屋の話をしてくれる。めしを食ったら、ヨコシマ運輸のバイトに戻らないと。ここの食堂のオムライスは最高だ。もんじ君に貰った時計を見て僕はトイレに立った。着信音に起こされて通勤途中の僕は、マナーにしてない事に焦りながら電話の着信を確認してみた。あれ?僕からだ。僕に折り返しかけなくちゃ。202階マイクロコムビルの喫煙コーナー。ホームページコンテンツ製作のデザイナー達が煙草の灰を落としながら「違うよ俺のキャプテンセンシブルHPの見だしだよ、それ」意味の無い会話が続く中僕の携帯がなった。「もしもし・・・・・・・」「夢の中は大変だよなんだかんだ、今電車乗り継ぎで太平洋にいるんだけど」「おうっ、俺今昼休み煙草吸ってたよ、太平洋かぁ、俺もそっちへ行きてえよ。今日は夜どこ?部屋戻んの?」「三菱ビルからもさっきメールきたよ、漫画明日に間に合うように動」「じゃあ夢の中で3時に集合ってことで、宜しく」とにかく僕は、電車を待つ昼下がりのホームに立って、ブルーペプシを飲み干した。電車は一人の横並びの椅子のスペースに調度良い日差しを投げている。僕は無意識に大きなあくびをした。
「この小説の主人公はまるで君自身を描いてゐるやうで大変面白いから暇があつたら是非いちど読んで見給へ」 生物の先生はときどき、こういう変な文体で書かれた大学ノートの切れ端をわたしによこす。 夕方というよりは夜の準備室で、ブラウスのボタンを留め直しているわたしを見下ろし新品の文庫本を差し出して、先生は何も言わずに生物実験室を出ていった。わたしの好きな真新しい紙の匂い。面積の広い窓から弱々しく差し込んでくる外灯のあかりに活字が浮かび、暗いところで本を読むなとわたしを諭す母親を思い出して苦笑した。 しばられるなんて考えられない。いままでわたしはたいした理由もなくそう思っていたが、昏い眼をしてわたしの瞳の奥を覗き込む先生の誘導尋問がなければ、わたしは原始的な自分の望みさえ表現できなくなっていた。自由な動作を奪われないと手に入れられない精神の自由な高揚は先生に与えられるものなのか、わたしが先生に預けた自由を返してもらう手の込んだ作業なのか、起きている時間の半分ぐらい、そのことばかり考えている。 その小説の主人公は考えない。反射していた。でたらめに反射する水面ではなくて、神経質なぐらい正確で平坦で垂直で、よく磨かれたガラスのようにあらゆるものを透過し、反射して美しく生きていた。先生はわたしを、考えない、しどけない種類の人間だとでも思っているのだろう。 わたしが何もしゃべらなくても、退屈しているのではないことを察して放っておいてくれるひとでないと、いま話さなくてもいい話題に退屈し、またその無駄な安い努力に同情してしまうので、わたしはついそのつまらない仕掛けに乗って退屈を紛らせてしまう。 その時わたしは、ただ透過し反射するだけのガラスで、ときどき引っ掻かれて甲高く自分で聞くのも嫌な音を立てたり曇ったりもするけれど、いつも冷たく乾いていて可愛げがなく、よごれたら拭き取ればまた元通り、朝を迎え太陽の熱に暖められて、人間の体温を取り戻すのだ。 先生はわたしを支配していると思っているが、準備室の「実験」を続けるためには、わたしが望まないことは出来ない先生の方が不自由で、常にわたしが自由であることをたぶん知らない。 わたしは先生に枠をはめられ束縛されて生物準備室の窓ガラスになり、透過したり反射したり、ぜいたくな退屈しのぎをしている。 青鬼が戻って来る足音がした。この準備室には本当は窓はない。 ※作者付記: 安吾の「青鬼の褌を洗う女」がモチーフです。やっぱり天才の真似は出来ませんね。