Entry1
空き缶
社本アン
文字数512
僕は空き缶を拾っている。毎日空き缶を拾っている。
空き缶を集めると車椅子が出来るんだ。
僕も車椅子に乗っている。
小学生の時、車にひかれて足が動かなくなったんだ。
もう5年も乗ってるんで、大体のことは自分で出来る。
どこへでも行ける。
思ったよりみんな親切だ、ということも分かった。
缶を拾うのは、自分で改良したマジックハンドを使う。
先の掴むところに、布を巻いてすべらないようにした。
缶は、車椅子のうしろっかわに袋をかけてそこに入れる。
僕の車椅子も、誰かの拾ってくれた空き缶で出来たんだ。
だから僕も集めることにしたんだ。
車椅子一台作るのに、3万個の空き缶だ必要なんだ。
だから毎日集める。
「キミは意味のある事をして立派だ」
担任が言った。
意味?
人生の意味?
やたらと意味、意味って言う人がいる。
意味なんてどうでもいいんだ。
そりゃ僕も意味を考えた。
足が動かなくなって、考えて、考えて、考えて、考えて
・・・・・そして、死にたくなった。
だから僕の思考のすべてを、マジックハンドの先に集中することにした。
晴れの日も、雨の日も、秋も、冬も
今日も集める。
明日も集める。
今、遠くから僕に空き缶を投げるマネをする人を見つけた。
周りの何人かの笑い声が聞こえた。
Entry2
白の世界
yakko..
文字数838
チャリンチャリンチャリン..っ チャリンチャリンチャリン..っっ
「開けとくれ!帰してくれ、私を。私は何も悪いことなんてしてないんだ!」
男が“フォルロード”を通ろうとしている。2時間くらいベルを押しつづけ粘っているが、おそらく無理。私が何百回、この男と同じ行動をとっただろう。帰れたのは、特別な1回だけで、あとは1日粘ってもダメだった。
特別な1回は、大切な翔紀の写真を、白い世界“天国”まで持ってきてしまったからだった。『下界のことを思い出してはならない』この、たった1つの掟は、白い世界へ来てすぐに言われた。ずっと隠し持っていた写真を、置いてくることは、私にとって、白い世界での生きる糧を失うようなものだったけれど、下界にいけることが嬉しくて、写真を置いてくる条件を飲んだ。真っ先に、翔紀を見に行った。電話みたいな機械にアルファベットが並んでいて、KOKIと押した。しかし、ついたのは翔紀の家じゃなくて、病院だった。翔紀は、私と同じく青白い、血の気の無い顔をしていた。翔紀のお母さんは、廊下で崩れるように泣いていて、翔紀の側にいたお父さんも、肩が震えていた。何か話している。
「翔紀・・・。お前は、あと2年半しか生きられない。今の技術でもどうにもならないって・・・。だから・・・//」
翔紀は、余命2年半と宣告されたのだ。お父さんは、声にならない何かで、声が出なくなってしまった。・・沈黙が続いて、私はその場を立ち去ろうとした。翔紀が
「俺は、お父さんとお母さんの子で良かった」とつぶやいた時、私は、はっと自分が何をしたのかに気づいた。私は、写真を持っていたばかりに、思い出したばかりに、翔紀の命を削ってしまったのだ。
私は、翔紀の写真をお母さんのカバンにこっそりいれて、上界へ帰った。
・・・もう二度と下界を思い出さないと誓った。もうすぐ死んで6年。下界に戻る時がせまっている。完全に記憶が消えたら、新しい命として生まれ変われるんだ。
もし、願いがかなうなら・・・翔紀と次の人生で会えますように。
Entry3
TadaIMA
TakashiOkano
http://www.geocities.co.jp/Milano-Aoyama/8806 Skyez-Jmode-WeB
文字数650
帰る場所を、さっき映した。駅の階段を上がったところが、一番高い場所かな。これから帰るところが、一番低い場所。イツマデモ歩く。ちぎれた羽の様な心。ばらばらだけれど、飛ばないで歩く本日。休業。動いている周り、地下道に下りる階段。新宿駅東口でギターを酔う人。2002年も後わずか、2003年が後少し。自分は帰る場所がないと、つめたくなる季節。
上記文章のメールが僕の携帯とPDAとPCに届いた。
僕が去年、間違って送ってしまった30件の b c だ。
明けまして・・のファイルと、メモ書きのファイルを間違えて、送信してしまった。
おかげで2003年は、「変なメール来たよ」メールからのスタートとなった。
今僕は、2004年に居る。帰る場所を間違えそうになったけども、一通の e-メールがここに届いたから大丈夫。
「明けましておめでとう2003年元旦」
今、僕は一番低い場所に居る。
待って
2003年のメールは、よく考えてみると2002年に僕が e-メールセンターへ送信したのだから、2002年のメールだ。
だから2003年の混乱を逃れて、かろうじて2004年にここ、ジブンの手=PCに届いた。
2003年=一年365日、多分僕だけのデジタルが壊れて、僕は一番高い場所に居た。繋がるものが自分の帰る場所で、繋げることが僕の、毎日だった。でもあの一通のバックカーボンメールが、僕のデジタルを壊して、僕の言語で僕の時計を壊し、僕を一年分ループさせた。
今日2005年の元旦。
僕は2004年の元旦。
なんで一年は、自分じゃないんだろ。
一年は季節で、季節は、自分なのに。
上記文章のメールが僕の携帯とPDAとPCに届いた。
Entry4
むかしがたり
ナシゴレン
文字数1000
真は小学校の頃から少し変わってたんだよね。双子なのが注目されて人は集まってきたけど、かといって常に誰かとつるむでもないっていう周囲との距離感が当時からあった。
こんなことがあったんだけど。真のクラスの生徒が林檎を一箱、田舎から山ほど送ってきたとかで、皆に配ろうと学校に持ってきた。林檎の詰った木箱は全員が四、五個ずつ貰ってやっと底が見えたくらいの大きさだった。子供一人くらいは入りそう。真はその木箱が無性に気になって、休み時間に皆が外へ遊びに出たのを見計らい、コッソリ中に入ってみた。しゃがむと木箱は真の身体にピッタリだった。微かに残る林檎の匂いが心地よく、真はそこにじっとうずくまっていた。
クラスの連中は戻ってきて吃驚したろうよ。何を思ったか箱に収まっちゃってる奴がいるんだもの。特にフクイっていうちょっとイジワルなのがいてね、そいつが面白がって箱の蓋を被せちゃった。真は箱の中で身動きとれないから、自分から外には出られなかったんだ。真を箱に仕舞い込んだクラスメイト達は、姿が見えなくなったもんだからってそのまま真の存在自体サッサカ忘れてしまった。
真は前後左右天地を塞がれ、独りになった。暫くは箱の外でやいやい話し声も聞えたが、やがてそれも遠くなっていった。暗闇と孤独と林檎の匂い。これもある側面では正しい姿だと真は思った。誰が何時ここから出してくれるのかということもさして気にはならなかった。
――そして何時しか真は眠りに堕ちていた。
ガタゴト、鈍い音と衝撃で真は目を覚ました。あろうことか、真が中にいることなどすっかり忘れ去られたまま木箱は焼却炉行きになっていた。煤けた臭いが近づいてくる。真には、何が起きているのかはわからなかったけど、聞えてた。木箱を運ぶ荷台を牽いていく、知らぬが仏の用務員のおじさんの口笛。
Conquistador, there is no time ……
「……ってところで俺登場。あわや生きたまま火葬されんとする弟を救い出したのだった。いやあ、よくぞ見つけた俺! メデタシメデタシ」
希は満足そうにふんぞり返って話を締めた。
「うん、それはエライ、さすが双子!」
僕も合わせて拍手喝采やんややんやと贈ってみた。が、ハテ? ――今の話は結局、双子って素敵ねという結論でよかったのだっけ? 何しろふと強引に物事を誤魔化したりするのだ、この兄弟は。
真は僕の隣で呟いている。「俺、そんな記憶ないけどね」
※文中に「おじさんの口笛」として記述した英詞はプロコル・ハルム/CONQUISTADOR(征服者)からの引用です。
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