Entry1
僕らは何も知らないで
朝倉さくら(旧・少年さくら)
僕らは何も知らないで
桜咲く四月
起き上がることを拒んでいた
僕らは何も知らないで
大人になるということ分からないで
いつ子ども時代が終わるのかということも知らないで
唯一のものですら
世の中にたくさんあるんだと言い張って 聞かなかった
僕らは何も知らないで
誰が自分を愛していて
自分は一体誰を愛しているのかということ
知らないふりをした
僕らは何も知らないで
気だるい日々を「自由」と呼んだ
もたらされる恵みをひどく厭った
僕らは何も知らないで
飾り 騒ぎ 驕り 昂り
紛れも無い青年だった
僕らは何も知らないで
生きていた
僕らは何も知らないで
死んでゆくのか
死んで ゆくのか?
僕らは 明日は晴れだと決められない
僕らは 明日は雨だと決められない
僕らは大きなものに対しては 何ひとつ決めさせてもらえずに
意地を通し 背き やがて項垂れた
僕らは何も知らないで生きることをやがて我慢できない
僕らにはそんな器用なことなどとてもできなくて
気が付けば握っているだろう
だれかの手を そのぬくもりを
そして言う 愛を
そして聞く 愛を
そして見る 愛を
そして知る 愛を
やがて僕らはたった一人のためにいつまでも生きたいと言い
なおかつ
そのたった一人のためならば いつだって死ねると言うだろう
ある人は言う そんな君のことを 滑稽だと
君は答える 滑稽でかまわないと
ある人は言う 君は「自由」を失ったんだねと
君は答える 「自由」などなかったと
どこにもなかったんだと
そして君は言う ひとを愛するっていうことは
君が案じているほど 辛いことではないよと
だから君も 愛せばいい
僕らは何も知らないで別れていたんだ
四月や 君や 「自由」や 僕ら自身から
僕らは否定できない 何も知らなかった日々のことを
そして 今もそうであるのかもしれないという可能性を
僕らはね 丈夫な翼なんて持たないんだ
あるのは二本の脚と腕
どこまでも飛べる翼なんて持たないんだ
産まれた時とおんなじで ずっとずっと
人間なのさ
僕らは何も知らないで産まれてきたんだ
死ぬときもきっと 何も知らないだろう
魂はいつだって 綺麗でありたいのさ
僕らの過ごした時間は あっちにまでは連れてけないのさ
僕らはとても不安だろう それゆえに
僕らは意味を見失うだろう それゆえに
僕らは人を傷つけるだろう それゆえに
僕らはおそらく もっとも自分を傷つけるだろう ただそれゆえに
僕らは言葉を用いるだろう 伝えたくて
僕らは誰かに触れるだろう 抱きしめたくて
僕らは大声で泣くだろう 聞いてほしくて
僕らは命がけで歌うだろう 届けたくて
僕らは生きているあいだに いくつの手段を使って
いったいどれだけの願いを かけるだろう
星や 神や 運や 人に
僕らは何も知らないで生きていくことができる
僕らは知ることを強いられず
無知なまま死んでゆくことを誰にもとがめられない
僕らが何も知らないで産まれてきたように
僕は何も知らずに死んでゆきたい
Entry2
さくらいろ
麻羽たんぽぽ
恋ごころ さくらいろ 花咲く
すこしの 風にも 揺れて
その香りを ばらまく
花片は あちらこちらに飛んで
はずかしいわと おもっても
かくせやしない
酔った勢いのともだちは
やんややんやと 騒ぐけど
さくらは
いまが はかないことを しっているの
恋ごころ さくらいろ 花散る
すこしの 風にも おびえている
Entry3
はがメタル
青竹ふみ
キラリン
あたしの歯はメタルなの
だからドキドキするのよ
ぴかぴかしててきれい そんで つるつる
磨きすぎるから鋭くて舌が切れそう
わめくくらいなら 笑うの
口の中 真っ赤 ダリアの花
ぽろぽろと砂まみれ
親知らずもメタルなの
だけどズキズキするのよ
ぴきぴきする神経 なのに うきうき
合図もないのにいきなり痛いのがいいの
空をみあげたら 青空
踏んでく 透けた オゾンのうえ
ミニスカートがひらり
あたしの歯はメタルなの
だからドキドキするのよ
ぎらぎらしてて無気味 そんで すかすか
追い掛けてどこまでも止まらないから不思議
棺桶にはいっても セクシィ
ゴールド きらり 宇宙の果ての果て
飛ばすのよあの世まで
はがめたる はがためやる かためはやる
キラキラ キラキラキ ラキラキ ラキラキラ
Entry4
ねがい
鈴音
理解出来ない現実が多すぎるのです
悲しい出来事が多すぎるのです
自分ではどうする事も出来ない
そんな事が…多すぎるのです
この一週間 同じ事柄をグルグル考えていて
とても仕事など 手につかなくて
それでも毎日が 目まぐるしく過ぎて行くのです
思考回路が絡まるのです
同じ回路ばかりが続くのです
自分の想いは伝わらないのかと
それがとても…もどかしいのです
幸福な人と 不幸な人がいたとして
いったい自分はどちら側の人間なのかと
二十数年間生きて来て 始めてそんな事を考えました
願わくば 前者でありたいと想わずにはいられないのです
Entry5
ゆでがえる
葉月イロ
あたしの
あたしは
あなたのあたし
ぬるいお風呂であったまろ
ゆっくり ゆっくりあっためて
伸ばした指先水しずく
あたしのお肌は薔薇の色
ずうーっとずっとこのままで
もうーっともっとあっためて
解るの
あたしはゆでがえる
あなたの知らないゆでがえる
Entry6
まよい道
織アヤ
過去のものは、すべて捨ててやろうかとも思う。
カタチ有るものも、無いものも。
すべての過去を捨て去って、
忘れ去って、
立ってみたいと思う。
どんな景色が見えるだろう。
何が見えるようになって、
何が見えなくなっているだろう。
崖の手前で、今わたしの両手は過去でいっぱいで。
ここに置き去りにしたら、
眼下の海は何色だろう。
このまま持って進んだら、
目前の空は何色だろう。
いっそ捨ててしまおうよ。
でも躊躇う自分はここにいる。
捨てきれない何かが
まだ手のひらに残っているから。
Entry7
人ゆえに
秀真武流
考えることの苦しさ
考えることの悲しさ
考えることの楽しさ
考えることの難しさ
考えることを覚えた人間
善悪の区別をつけなければならなくなった
人間
人を裁く
人が裁かれる
人が決める
人にだけの善悪
自然にはない善悪
人は善悪について考える
哀しい
人
人、ゆえに
Entry8
戦争が背負うもの
真紅雪奈
悲しみは
憎しみで消えますか
喜びは
血であがなえますか
血で
人を不幸にすること
涙で
人の心を壊すこと
刃で
人の命を奪うこと
火で
人の家を奪うこと
出来るでしょう
出来ないことはないでしょう
けれど
人を幸せにすること
人を笑わせること
人を生き返らせること
人を
安全な住居に戻してあげること
本当にできますか?
Entry9
THANK YOU
真田由良
神様ありがとう。
私達に怒りを教えてくれて、鼻では匂えないものだけれど
母に叱られている時が大好きです。
神様ありがとう。
私達に笑いを教えてくれて、口では味わえないものだけれど
友達と笑っている瞬間を幸せに感じます。
神様ありがとう。
私達に悲しみを教えてくれて、手では触れ得ないものだけれど
サチコが残した羽が一番の宝物です。
「自分がどんなに幸せかわかっている?」
祖母に言われたこの言葉が今なら本当にわかる気がします。
私は・・私は・・幸せです。
本当にありがとう。
Entry10
無題
渡辺雅人
黙れ我が杞憂の使徒 汲み尽せぬ瞬間の移ろいを
視覚の行間に満ちる真実の病魔め!
呟きに変えて 欺瞞を零し果て尽きろ
見うる世界の 己が世界の 混乱を
差異を我等は凌駕した
見せる姿は哀歓なり
叫べ我が真実の飽和 聞け我が玉響な瞬間を
Entry11
コール
歌羽深空
でない、でる。でない、でる。
受話器の前で。
不思議なほどたくさんの花びらのついた花で
花占い。
このコールに答えたら、
私は吸い込まれたりしないよね。
このコールに答えたら、
私は死なないよね?
出る、出ない。出る、出ない。
電話が途切れて、ピー――と鳴って。
鳥が鳴いて日が暮れて
さっきの電話の、御用事なあに?
誰からかわからないから、知らない。
うちのコールは、古いから。
出る、出ない。出る、出ない。
結局今日も。
出る、出ない。出る、出ない。
外に出る、勇気が出ずに。
コールに応えず、瞳を閉じる。
Entry12
恋文
月子
雪舞う日はいつでも
百合でありたい
純潔でいたい
花咲く日はいつでも
紅梅でありたい
純愛でいたい
光差す日はいつでも
向日葵でありたい
光輝でありたい
風吹く日はいつでも
桔梗でありたい
誠実でいたい
わたくしの想いは 雪であります
わたくしの想いは 花であります
わたくしの想いは 光であります
わたくしの想いは 風であります
あなたをトリマク全ての想いは
わたくしの全てでありました
Entry13
届かぬ想い
山吹優
堕ちていく意識 繋ぎ止めるように
手を差し伸べる君が あまりにも遠すぎて
沈んでいく想い 振り切るように
触れる指先 今は冷たくて
目を閉じればこんなに近くにいる君が
目を開くと指先さえも届かない
過ごしてきた過去の日々が 僕の中で消えてゆく
少しだけ、君の時間を下さい
いつの日かまた
二人で同じ時を過ごせるように……
Entry14
無題
夏目流水
もしもピエロが喜べば
お前は代償を払えるのか?
日陰にうずくまる僕をあなたは無理矢理引きずり出す
目を開ければそこは大合唱団
彼らは私に近づく
もっと近づく
肌と肌が触れ合う
私はいつの間にかその場から消える
大草原の羊を抱きながら
静かに眠る
Entry15
優しさってプラスばかりじゃないんだよ
夏
さりげない言葉
そのひとつひとつが僕にとっては大きな力なんだ
泣きだしそうな時に聞く言葉は、まるで微笑んだ天使が差し出したひとつぶのこんぺいとうのよう
悲しみも苦しさも涙さえもその輝きに消されていく
僕の心に残るのは、温かな君の心だけなんだ
...だけど....
最近は素直になれないんだ
君の優しさを素直に受け取れなくなってる
だって、その優しさが僕を苦しめるから
一粒のこんぺいとうはただの石へと変わっていく
輝きを失い、何も感じないただの石へと...
でも本当は君の優しさを知ってるよ。すっごくぬくもりがある心を......
僕はいつもその心に助けられたよね
Entry16
:君のシックスティ(60)
基史
人間の弱さが占める割合を40%だとしたら
残りの60%は何だろう?
愛
友情
食欲
性欲
・・・強さ?
あなたの中の その60%が
すべて 僕だったらいい。
独占欲の塊の僕を 君の暖かい手で殺しておくれ
あなたのぬくもりを抱いて
僕は旅立つから。
Entry17
慾集
卯月美羽
" 消える前の言葉に重ねた慾 "
髪、 未練と謂う名を愚かしむ 伸ばし続けた髪の黒
唇、 貪り喰ら入たは何時の過か 咽喉の奥の紅よ
頬、 乾涸び尽くした過の想い 泪の筋と残白粉
「貴方ハ 何ヲ求メテイラシタノ デスカ?
私ハ貴方ノ存在ガ 欲シカツタ」
____残り香残して去った男へ 後に吐いた詞だったと聞いております。
"凍えた月の許でぼんやり灯っていた慾"
「爪、やがて紅佩びた 綺麗に紅色帯びました。
ねえ観て下さいな、指拾本に桜が咲きましたよ。
何処よりも美しい花ですよ。」
桜に埋もれ、朽ちた体躯に佇む娘はそう言って哂いながら泣いていた。
「貴方も狂ってしまえば良かったのにねぇ」
____其の体躯は、最早桜の床すら押し抉ることさえ御座いませぬが。
"結"
有か無か。かの娘らにはそのどちらかしか存在せぬ世界。
醜くなんとせつないものよ。
「慾の果てに全て放棄してしまった者達へ」
Entry18
バスに乗らず国道を歩いた
光通信
流れ
る
川
に
月
は
映ら
ない
Entry19
午後の最後の夏
伊藤靖則
夕焼け
借りっぱなしの
サザン
Entry20
・・・
・・・
1人に届けば・・・届かない手の平
Entry21
ひらめき
ハイペリオン
丸まった蛇はいびきを欠いた
拾い忘れたように雨が降った
筋向かいの家で子供が泣いた
長袖を着た女性が傘を差した
蛙が私を見つめたかと思うと
溜息をついて田んぼに飛んだ
時ばかり世界は美麗に見せた
突如眩い閃光が脳裏を疾った
怪しいその男はにやりとした
変遷と四季こそが言葉を生み
釜底から灰汁を払って弾けるのだ
Entry22
彼と大量の消しゴムと僕
ショウ
彼はもうなんかすっかり変わってしまっていて
金髪でアロハシャツで片方のレンズが割れたメガネを平気でかけて
下駄を履いていたりして
だから僕は彼が彼であることに気づかなくて
だけど彼は僕が僕であることに気づいたらしくて
彼は僕にスルリと近づいて僕の背中をスッと押して
僕は線路の上に倒れこんで
上を見上げると彼が大量の消しゴムを頭に載せていて
「どうだろう?どうだろう?」と言うので
「はい、見事です。すばらしいです。」と僕は言って
確かにそれはもうとっても見事なバランスであったので
なんだか感心しちゃって
だけどその消しゴムが だんだんと崩れていって
まるで字を消すかのように彼の頭を消し
首を消し 体も消して 足も消し
とうとう靴と大量の消しゴムだけが残って
僕はまるで自殺の跡の光景のようだと思ったりして
でも自殺の跡に靴を残す場合はあっても
消しゴムが残ることはないなと思ったりして
そんな時
遠く暗闇の中に小さな光が見えて
電車が来たらしくて
僕は慌ててプラットフォームに上がろうとするんだけど
一面に広がった消しゴムのせいで足を滑らしてしまって
再び線路に倒れこんで
電車が入ってきて僕は吹っ飛んだ
でも僕は電車になど吹っ飛ばされていなくて
ふと気がつくとプラットフォームに立っていて
ふと右の方を見ると彼が近づいてきていた
Entry23
モトカレ
ウィル
どんな唇だったかとか
鼻の形とか
指の一本一本から
耳も
目も
全部全部はっきりと覚えてるの
覚えてるっていうか、知ってるの
たぶんそれはあたししか知らない
何十回何百回って触ったわ
何千回何万回ってキスしたの
そしたら胸がきゅうってなって
イヤホンから聴こえてくる音楽が
あたしをぐるぐると内側から締め付けたの
あたしには分からないから
見えればいい
見えればいいのに
愛が目に見えたらいい
そして抱きしめてほしいときに
抱きしめてほしい
Entry24
水の鏡
みゆ
やりきれない
やりきれない
夕焼けが最後の光を放つ、夕刻
真っ赤に染まった雲が水田に映っていた
それは偶然だろうか
私がきっと
何も知らないと、そう思う?
私はなんでも知っている
だから、どうしたってやりきれない
知りすぎることは罪だと
あいつは言った
あいつは責めた
そしてあいつも知りたがった
何でも知りたがった
それは、都合の良過ぎること
赤い雲が落ちた
あいつの右手は私の左手
あいつの左手は私の右手
私とそっくりなあいつ
ようやく暗闇に浮かんだ赤い眼
まばたきすら忘れてじっと見ていた
水の鏡
Entry25
遠く、遠くへ
ayumi
その目が好きだった
他の事は全部忘れても
その目だけは
忘れたくない
あなたの事は
キライになっても
その目だけは
愛してる
Entry26
背中の学校
フラワー・ヘッド
背中に貼られて気付かず歩く。
気付かず、気付かず、気付かず、歩く。
背中がついに堪りかね、
貼られているぞ、と親切みせた。
そしたら、みんなに言い返された。
あんたも「背中」を貼られているぞ、と。
背中は二度と親切やめた。
|