Tsu-Yo

救いについて(総武線にて)

JR総武線は今日も素敵な形で走っていて
俺は運転席と客席を隔てる壁に
もたれかかる感じで車内を眺めている
隣ではカップルが終始くだらない話しをしているのだが
ふと見てみれば
女の方はこの世の終わりのような顔をしている
俺は急にいたたまれない気持ちになった

中野駅にさしかかる手前でいつも通り
電車が右に大きく傾く
車内の人もつられて傾く
俺はその勢いに乗って
世界の終わりに佇んでいる女へ
フランス人のようなキスをしてやったんだ
そうしたら
キレたね
男も女も同時にキレた
左頬に女の平手
顔の真ん中に男の拳
反射的にカウンターを入れる俺
こう見えてもガキの頃から
元ボクサーで今アル中の親父に
さんざん鍛えられてきたからさ
ボコボコのボッコボコにしてやったよ
男も女もボッコボコにね
奴ら鼻から口から薄汚い血を垂れ流しやがるから
車内が汚れちまって
それを見た俺は猛烈に悲しくなった

社会性は意外とある方なんだ
床を拭こうとバックの中からティッシュを取り出して
腰を屈めたとき
誰かが後ろから俺を蹴飛ばしやがった
前につんのめりながら振り返ると
顔面に蹴り
さらにバランスを崩す俺
さっきまで居眠りこいてたはずの乗客たちが
いっせいに襲い掛かってきた

なめた話だろ
だが俺は負けない
電車の中なんて狭い空間じゃ
相手が何人いようが結局は一対一だ
向かってくる奴らを
冷静に一人ずつぶん殴っていく
「ぐちゃ」っと何かが潰れる音がして
人間が吹っ飛ぶ
赤黒い血が綺麗な放物線を描く
快感だ
爽快感だ
不快感だ
俺の身体がアドレナリンに支配される
殴る「ぐちゃ」
殴る「ぐちゃ」
殴る「ぐちゃ」
一人またひとりと目の前に倒れる
人、人、人

HAPPYになる寸前、偶然にもGO

俺が完全にイキかけた
その時
電車が止まりドアが開いた
瞬間、ダサい制服を着た奴らが
乗り込んでくる
どうやら最終決戦というわけらしい
俺はバッグから日本刀を取り出し構える
慎重に奴らとの間合いを計りながら
すり足で近づいていく
息をのむ
さらにすり足
あと半歩で奴らの間合いに入る
と、思ったその時
あいつらふざけたことに
散弾銃なんかぶっ放しやがった

一瞬の後
頭に入り込む銃弾
脳内で破裂するダムダム弾
俺の眼球その他もろもろの肉片が
無遠慮に飛び散る


パレード
観覧車
祈り
季節はずれの歌

あぁ、また車内を汚しちまった
俺は本当に悲しくなっちまうんだよ
だけど頭がぶっ飛ぶ寸前に
俺は確かに見たんだ
あの女が電車から降りるとき
ふと振り返り
俺に微笑みかけてくれたのを
俺は確かに見たんだ

ちくしょう
いつだって
救ってやりたい気持ちでいっぱいなのに
救われるのは俺ばっかりだ


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