空メールが届く。 これはあと30分で家に帰るよという知らせだ。 恋愛結婚なんてするもんじゃない。 幻想にだまされてしまう。 「結婚は人生の墓場」とかいう人がいるらしいが、 私にしてみれば「結婚は恋愛の墓場」と言うほうがぴったり。 テレビでは塩キャラメルが流行とかやっている。 ご飯を催促する空メールは、そんな優雅なお茶の時間を私から奪うんだ。 冷蔵庫を開けるとぷっちんプリン、私がぷっちんとなってしまいそう。 だけど、ぷるぷる震えるキャラメルソースをみてちょっと考えた。 キャラメルソースって確か……砂糖と水のみ。 煮詰めて、でも焦がさないように。 煮詰めすぎると鼈甲飴になってしまって、それもうまいことはうまいんだけれども、「動けない」状況に落っこちる。 ちなみに恋愛歴7年で腐れ縁みたいに結婚した旦那との新婚生活3ヶ月。 「今会いに行くからね」の空メールは、「ご飯食べにかえる」の空メールに変わったわけだ。でもこれは煮詰まりすぎたのかも知れないな。 恋愛も結婚も単に材料は私と旦那。 ちょっと距離を置くべきかも。 さくさく料理を作りながらそんなことを思った。 がじゃりとノブの回す音がして、ドアがをぐぁっちゃんとしまる音がして、くぁちゃりとチェーンを掛ける音がする。 距離を置こうかなとか思ったのを見透かされて、閉められたようだ。 「ただいま」 と鈍い声がして、料理の手を休めて荷物を持ちに出迎える。 「あれ?今日は何があったか聞かないの?」 「ん、ちょっと考え事していたの。」 「ふーん。あ、そうそう、美味しいプリン買ってきたんだ。」 「ぷっちんプリン?」 「違うよ、モロゾフ」 「高かったんじゃないの??」 「だって三ヶ月記念だからさ、結婚して。」 妻の言葉に「何かしたかな」と心配になった。 恋愛していたときには、彼女のほうが「何ヶ月記念」とか「何年記念」とかよく飽きないなと思っていたのだが。 恐る恐る尋ねてみる。 「ぷっちんプリンの方がよかった?」 「え、なんで?」 「いや、家計に響いたかなとか。」 と、妻は笑って答える。 「ぷっちんプリンはあるけどね、それに家計にも響かないよ、お小遣い制じゃない。それに、たまには同僚の人と呑んできてもいいよ。」 確かに。じゃあ、何でと思って考え込む。男か?うーん??まあ、同僚にも「かかあ天下になっちまってんじゃねーの」と言われた日なので複雑ながら妻に感謝する。 あと意味深に「空メールとプリンに感謝して」といわれたけども。 作者付記:1000字達成。
エンドウの種を蒔いたところを次の朝に見てみると、すでに一メートルほども育って、お互いの蔓を絡ませあっていた。驚いたけれど、仕事があったのでそのまま出かけたら、帰ったころには、大木のように数本が束となって、まっすぐに天へ向かって伸びていた。まるで――。 「ジャックと豆の木ですよ」 やっぱり。ていうか、あんた誰? 「竪琴とか金の卵とか、欲しくありませんか?」 いや、いらない。 斧はなかったけど、物置からチェーンソーを持ち出した。 「東へ倒すとあなたの家、西へ倒すと隣の家、南へ倒すと畑、北へ倒すとあなた自身が潰れます」 き、北? じゃあ、南に倒すか。仕方ない。 「おおっと、それは出来ないな」 なぜ出来ない? あと、口調が変わったのもなぜ? 「私が畑にいるからだ」 えー、どこに? だったら、どいてよ。 「やだ」 なんだと。 「のっぼっれ、のっぼっれ、それ、のっぼっれ!」 じゃあ、三メートルくらいなら。 「馬鹿言うんじゃねえ、大男の家までだ」 つーか、ほんとに大男いるの? 「信じる者は救われる」 うそ臭いな。 「いや、マジで、大男が私の竪琴とか持ってるから!」 あんたのかよ。なら、自分で行けばいいじゃん。 「大男、怖いもん」 南へ倒すとするか。 「待って! 待ってくれ! ほんと、お願いだから!」 まあ、いいや、すばしっこさと腕っぷしには自信があるからな。 「よろしくお願いします、ジャック様」 ジャックじゃないし。 大男の家は意外と遠くなくて、天高く聳えている豆の木の途中に建っていた。 「雲の上まで登ったら疲れるかと思って」 思って? あんたが建てたの? 「さあ、早く入ってくれ」 戸のすき間から侵入して、辺りを窺いながら奥へ進んだ。どこまで行っても部屋があったけれど、だれの気配もないし、竪琴なんかも見当たらない。次第に疲れてきたので、余力があるうちに入り口へ戻ろうと思った。 「さっがっせ、さっがっせ、もっとよく、さっがっせ!」 もしかしたら、大男が持ち出してるんじゃないか? 「それはない」 なんでだよ? 「いいから、さっがっせ!」 迷路のような家を、探して探して探し回った。もう、ほんとにへとへとだ。 「もう降りていいよ」 え? だって、何も見つかってないよ? 「大男も竪琴もみんな、うそぴょーん」 なんだよそれ、ムカつく。じゃ、その辺のベッドで一休みするかな。 「一時間三〇〇円です」 最初に言えば、泊まってあげたのに。