形式制限:詩 文字数・行数ともに自由
投稿期間:2002年2/25〜3/10(24:00)
作品発表:3/12(0:00 一斉発表)
投票期間:3/12〜3/19(24:00)
結果発表:3/20(1:00)予定
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entry 1
scenery is a innocence. kurusu作
影を見ていた
長く伸びる影
其れが在るから陽は最も鮮やかだった
双つの影が
指切りをするように
褐色めいた陰影で象られた手の隙間に夕暮れは落ちて居た
在りし日の約束
未来を消耗する焦りもなく
又、不安すら手に入れずに
双つの影は仔と親は仲良く画の中で繋がれていた
嗚呼、永遠にしよう
憧憬めいた悲しみが其の指先を押したに違いない
ぱちり、と
光を召ぶ音がして刻まれた陽と闇
結ばれる双つの指
プリズムが其の情景を何よりも濃くした
胸を刺す、影を視ていた
無為に背を灼く、陽を受けながら
在りし日の歌を
その耳に刻ませて呻いて居た
此の指が何よりも憎い。
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entry 2
来須トキヤ作
影が 落ちて
永遠に成ればいいと思っていた
あの頃の隙間に
今 僕たちは居る
ほんの少し、 苦く微笑って。
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entry 3
ユキコモモ作
なぜだか解らないけれど
ときどき無性に不安になる
特別不幸なこともないし
特別不便なこともないのに
2人で出かけた午後
「わあいつ来ても、眺めがいいよね」
「みてみて、あれ何だろうね」
頑張って話す
けれど
カラカラ音たてて回る
言葉だけ
それは削り終わっても回しつづけているエンピツ削り機のように、だった
回せば回すほど
手がかりもなく
記憶は遠のき
気付くと自分が分離していて
ハハを演じる私をずっと昔から私だった私が見ている
そのヒトに問う
「ちょっとお聞きしますが
私は本当にこの子どものハハなのでしょうか?」
このままどうにでもなれ
このまま放棄してしまいたい
湧き出す思いを次々に飲みこみ
胸の内でうごめく何かが
これ以上
神経に触りませんように、と
ただそれだけを思った
ビルとビルの屋上を繋ぐと
ぼんやりと路になるの
すごろく遊びみたいに
さっきから
サイコロ何度振っても
ふりだしに戻るばかりなの
見兼ねて
ふいに握られる私の手
そのヒトが答えた「ママ、だいじょうぶかい?」
重ねられた小さな手が
あたたかくて、ごめん
もう一度
サイコロを振ろうと思う
所詮、私の為にだけど
今度は必死に振って振って振って
振りまくるから
ふりだしに戻っても
振りまくるから
お願いがあるの
その間ずっと
私の手を握っててくれませんか
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entry 4
カピバラ作
これは私のたからもの
ちいさな銀の写真機が
コンクリートの瓦礫の下で
密やかに記憶していた
息子と妻の
幸福な
最後の
笑顔
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entry 5
春陽景 空人作
きっとキミは
東京が一望できそうな高い場所で
春の始めの すこし霞んだ景色を見たことなんて
忘れてしまうんだろうけど
でもね
私はおぼえているのよ
キミが私の中から生まれてきて
そして
この大きな窓の前で
小さな親指に 小さな棘が刺さったと
涙で訴えているキミの そんなささいなことまでも
いつかそれが
大きな親指になり 大きな棘が刺さることもあるだろうけど
キミがその棘を それこそ今みたいに
私に見せない かもしれないけど
そんなとき
私はきっと 東京が一望できそうな高い場所で
春の始めの すこし霞んだ景色を見たことを
ゆっくりと 思い出すんだろうね
●チャンピオン決定
第3回テーマ付き詩人バトルチャンピオンは――――
空人さんに決定です。
空人さんおめでとうございます!
次回のテーマ付き詩人バトルのお題をお願いいたします。
第3回テーマ付き詩人バトルは、QBOOKS外でも珍しい「写真」でしたが良作がそろいました!
投票してくださった皆様、投稿してくださった皆様、本当にありがとうございました!
次回バトルもお楽しみください!!
作品名 | 作者名 | 票 |
春陽景 | 空人 |
3 |
無題 | ユキコモモ |
2 |
無題 | 来須トキヤ |
1 |
感想票
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推薦:春陽景 空人作
感想:
写真の色合いからして、せつない系になると思っていましたが、空人さんの作品はせつないあったか系でダントツです。
参りました。
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推薦: 来須トキヤ作
感想:
来須トキヤさんの作品に一票入れたいと思います。
この作品が一番分かる気がするし、無駄がないところがいいと思うからです。
右端に写ってる人は誰なんでしょう。邪魔な気がするんですが。
投票締め切りの今日は、カメラ発明の日だとか。
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推薦: ユキコモモ作
感想:
entry 1
scenery is a innocence.
kurusuさん
どこか、写真に写る母子と写真を撮る父親、というようなイメ
ージがあります。そしてこの夫婦はじき別れてしまうんだなぁ
、と。勝手な想像ですが。
entry 2
来須トキヤさん
あの頃の隙間に、という部分がフックなのだなぁ、と思いつつ
、しかし、その“隙間”という部分にいまいちイマジネーショ
ンが湧かなかった。
entry 3
ユキコモモさん
リアリティを感じます。ハハであることの現実と、実は母にな
りきれていない自分の間に生まれる不安感。それが率直な言葉
で、ときに感性豊かな比喩で語られていると思う。
entry 4
カピバラさん
毒がありますねぇ。「最後の」という部分が、ほほえましい風
景のカウンターパンチ。
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推薦:春陽景 空人作
感想:
一枚の写真をテーマにしても、これだけ多様な作品が生まれる事をとても面白く感じました。写真の構図にも起因すると思いますが、親子関係を取り上げた方が多かったようですね。今回は、その中でも特に季節感と優しさを感じられた空人さんの作品に投票します。
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推薦: ユキコモモ作
感想:
自信がもてないまま子供と向き合う母親のとまどいと
それを乗り越えてゆこうとする前向きさが
胸に迫ります。
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推薦:春陽景 空人作
感想:
ユキコモモ作品か、「春陽景」空人作のいずれかでしょう。前者は振っても振っても振り出しに戻すサイコロが光る。後者は作品全体に満ちている暖かさとそして「棘」。過去の苦い記憶だろうか。
両者とも手放しですばらしい。ただ若干、ユキコモモ作品に、最終連での「まとめ」が見えてしまった。
余興
せっかく出題者のイグチさんも詩を書かれる方であるということで、出題者ご本人にも詩を書いていただきました。余興としてここに掲載いたします。
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entry ?
KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR イグチユウイチ作
天国が見えるここで 僕らは笑い合うとしよう
幸せな人たちに そろそろ心を許すとしよう
愛ある風景を笑い続けてここまで来たのに
今はただ あなたに触れていたい
嗚呼 花を受け取って下さい
嗚呼 鐘を鳴らして下さい
●そして余興ついでに、これが「詩」ではなく「詞」であるということでしたので、
テーマ付き詩人バトル管理人三月が曲をつけてみました。よろしければ感想などお聞かせ下さい。
(スタッフ注:ファイルが削除されたためリンクを外しました。なお、三月は現在スタッフとして活動しておりません)
◇ midi PLAY(20KB) ◇ mp3 PLAY(1.54MB)
たまにはこういうのも面白い……かな(笑)?