□ 第5回バトルお題(深sachiさん出題)
テーマ
『光』『手』の二文字と『何の得もない』という文を用いて、平凡な 幸せを表現してください
注)・必ず、各自で題名をつけること。
・通常の詩人バトルの規定に則すること。
・テーマを基に、自由な発想で書くこと。作品自体は、平凡な幸せを意図しなく ても構いません。
なお、チャンピオンとは別に、優秀作品は書籍化することも検討しております( もちろん、書籍化を希望しない方の作品は書籍化いたしません)。
以上、深sachi様より
形式制限:詩 一行40字×60行以内 投稿期間:2002年7/7〜7/21(24:00) 作品発表:7/22(0:00 一斉発表) 投票期間:7/22〜7/28(24:00) 結果発表:7/29(1:00)予定
□ バトル参加作品 ■
entry 1
暁昏賦 橘内 潤作
光り
陽光に翳す手
月光に透ける手
翠の髪
蒼い唇
そこには
何の得もない
何の取得もない
感謝も
笑顔も
何もない
何か欲しい
何が欲しい?
きっと
ううん
何も
握る
開く
手には
眼には
掴め
映ら
ない
■
entry 2
いつもここから モク作
そこに居たってもう
何の得もないの、よう!
なげやりになったこころに
出て行かれてしまうと
歩道橋のうえから
青や赤などの
光りがつらなるのをみやる
街の音はしだいに遠のいて
絶えまなく移ろう
ひたむきな光りとその熱が
わたしのたよりないまんなかに
まっすぐとどいてみちてくる
ひとつ ひとつ なぜるように
光りにやさしく手を振れば
やがて満足げなこころが
やっぱりここしかない、ね!
おだやかにふきあげる
風にまぎれてかえってくる
ね
ここしかないよね
わたしはのんびりと
すっかりやわらいだわたしにひたる
■
entry 3
(作者の要望により掲載終了しました)
■
entry 4
平和 ユキコモモ作
静寂の中 とぼとぼ
街灯は頼りなくて、そぞろ歩き
目に映る鮮やかな光――それ、自動販売機たち
私の道しるべになる
白く照らしている
「タバコはきらいなの」
最後まで言えなくて、別れた
あの人の左手とピースの香り
それだけを覚えている
けむりの向こうで
まだ揺らいでいる
何もかも けむりの向こうに追いやって
気にしていたのは
あの人の左手じゃない
もてあそばれた吸い殻の行方
そうだ タバコ買ってみようか
何の得もないけど
吸い殻の行方
今なら全部 思いどおりに出来るから
何の得もないから
たどり着いた自販機は既に終わって
売り切れ印
試しに押してみるわーーーっと押してみる
楽しくなった バカみたいって
うふふふあーあ
しょうがないから、缶コーヒー
光の中で自販機を抱きしめて 私は甘い香りを待っている
■
entry 5
オランピア やす泰作
うち振られた手、手、手
ジークハイル
は、やがて神のもとへと差し伸べられ
た アーリア人の勝利
うねる波の手、手、手
ハイル
は、光
ニケの
ハイル
微笑み
そこに出でましたる
は、足曲がり
の小男
ハイル、ハイル、ハイル
砕けたクリスタルが茶色のSAが
ハイル、ハイル、ハイル
ユダヤ人の死体に降りそそぐクリスタル
クリスタル、ハイル、ハイル、ハイル、ハイル
何の得もない
ニッポン、ニッポン、ニッポン、ニッポン
ニッポン、ニッポン、ニッポン、ニッポン
「ねぇ、今日さぁ、家帰ったらサッカー見る?」
■
entry 6
グリーングリーン2002 さかな☆作
ある日パパとふたりで、と
そのような始まりだったと思う。
小学校4年生のとき習ったその歌。
マキノくん、という男の子がその曲を好きで
いつもうれしそうにそればかり歌っていた。
どこかひょうきんな顔付きの子で、転校生だったと思う。
グリーングリーン、とかすれた声を張り上げてサビを歌うのが
なぜかまだ耳底に残っている。
ある日突然、思い出した。
あのマキノくん、そういえば母親がいなかったのだ。
マキノくんには1学年か2学年上にお姉さんがいて
そのお姉さんとわたしの友達のイッチャンが何かの拍子に仲良くなって
わたしもマキノくん(のお姉さん)の家に誘われたことがあった。
マキノくんのお姉さんの家には当然マキノくんがいて
同級生の女の子が2人も家に上がり込んできたことにひどく困惑していた。
(しかも自分の姉の威光を借りて偉そうに振る舞われるのだから!)
玄関のチャイムがピンポンと鳴って、マキノくんが出た。
お母さんいますか、とその男の人は言って
「いません」とマキノくんは小学生の男の子らしく、「せん」のところを跳ね上げて
ゆっくりと答えた。
男の人はそれで帰ったけれど、わたしはその「いません」に含まれた
二重の意味に気付いて立ちすくんでいた。
男の人はね、ただ今ちょっと「いない」だけだと思ったでしょ。
だけどマキノくんにはほんとうにお母さんが「いない」のだ。
当時のわたしはその事実を前々から知っていたように思う。
わたしの夫になる人が小学校のアシスタント教員で、ある日のデートで
子供のことについてこんな風に話した。
−何だかべたべたと甘えてくる子がいると思ったら、父親がいない子だそうだ。
−その子、男の子?女の子?
−男の子。
その子、"グリーングリーン"を愛唱するぐらいの度胸があればいいのに、と
わたしは言おうかと迷って結局言わなかった。
少し黙ってしまったわたしに、何を考えてるの、と彼が尋ねて
ううん何でも、とわたしは答えた。
わたしたちはコーヒーショップのカウンターの下でそっと手を握り合った。
この人はいい父親になるだろう、と改めて思った。
光が窓越しに射し込み、風がカーテンを揺らす。
南向きの部屋では赤ん坊がすやすやと眠っている。
赤ん坊には父親がいて母親がいる。
多分この、ごく普通のようで実は普通でないそのことを
しあわせの4文字で語ってしまう傲慢さを
わたしは持ちたいようで持ちたくないようでいて。
そのくせ時々マキノくんのことを思い出したりして。
−平凡な幸せとやらを自己確認するために?
わたしの道徳的潔癖を弁護したって何の得もない、けれど
彼はきっとそれなりに強く生きたのだろうと思うのだ。
■
entry 7
まぶしい世界 空人作
こんな世界は 何の得もない
僕が欲しいのは もっとまぶしい世界なんだ
少年は昼でも夜でもない 灰色の砂地を歩いていた
目を凝らさないと 自分がつけた足跡も見逃してしまうほどの
灰色の世界は 常に無刺激だった 少年は歩き続けた
そのとき遠くに光るものを見つけた
灰色の空を集めて光るもの それは深い沼だった
少年は自ら刺激を求めた 沼に飛びこんだ
少年はまぶしい光に気がついて目をあけた
そして このまぶしい世界に向けて 大きく腕を広げた
少年は走り出した この先にあるもっとまぶしい場所を求めて
走る姿に 灰色より濃い影が 迫っていることも知らずに
光を遮る手が 顔を黒く覆っていることも知らずに
■
entry 8
飯粒の光 佐藤yuupopic作
歯噛みする気力もなく
今日は一日寝ていた
それでも腹は減って
もそもそ起き出して
この間までおまえがいた場所で
ただ
ざくざくと、米を研いでいる
他の誰もが簡単に飛び越えていくその高みを
どうして俺だけうまく越えられないのだろう
欲しいのはけっして特別なものなんかじゃない
何の得もない、
ほんの小さな、普通のやつでいいのに
ちょっと前まではつなぐためだけにあると思っていたこの手で
ただ
ざくざくと、米を研いでいる
薄汚れた排水溝にこぼれ落ちても、なお
白くあろうとする
光り輝こうとする
飯粒に、
少し励まされながら
□ 結果発表
■
entry 0
愛娘とオレンジ 深sachi作
ピカピカに光るオレンジを買って帰ろう
西の太陽の色に似た
ピカピカのオレンジを1つ
私はオレンジが好きじゃないけれど
あの子はこれを小さな手で包み
ピカピカの笑顔を見せてくれるんだ
私にとっては何の得もないこの果物が
あの子の顔を輝かす
ピカピカのオレンジが入った袋をぶら下げ
ピカピカの笑顔を早く見たくて
自然と急いでいる足が
まっすぐ我が家を目指している
●チャンピオン決定
第5回テーマ付き詩人バトルチャンピオンは――――
佐藤yuupopicさんに決定です。
佐藤yuupopicさんおめでとうございます!
次回のテーマ付き詩人バトルのお題をお願いいたします。
投票してくださった皆様、投稿してくださった皆様、本当にありがとうございました!
次回バトルもお楽しみください!!
作品名 作者名 票 飯粒の光 佐藤yuupopic 7 まぶしい世界 空人 2 平和 ユキコモモ 2 暁昏賦 橘内潤 1 オランビア やす泰 1 いつもここから モク 1
感想票
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:「ざくざくと」にやられました。
お題を全て無理なくこなして、しかも自分の世界が表現できているという点で すばらしかったと思います。
しかし、「何の得もない」が難しかったですね。
「何の得にもならない」だったらだいぶ違ったんだけど。
■
推薦:まぶしい世界 空人作
感想:少し悩みました。
実を言うと、消去法的な感覚です。
でも「まぶしい世界」が一番おもしろい詩だと思いました。ただ「平凡な幸せ」というテーマに合っているのかな、という疑問があったのですが、でも考えてみればこれも皮肉っぽく「平凡な幸せ」を表してるな、と思い、これに投票です。
■
推薦:暁昏賦 橘内潤作
感想:詩が横書きになったことで、視覚的表現がどうなるかという
課題は残っていると思う。それに取り組んだ橘内さんに一票。
ただし、G・アポリネールの『カリグラム』は、読んでね。
■
推薦:オランビア やす泰作
感想:やす泰さんの「オランビア」に一票
なんと言っても最後の一行にやられました。
上手い!です。
■
推薦:平和 ユキコモモ作
感想:ユキコモモさんの「平和」を推す。
今回投稿作品中、この人のだけが、妙な格好もつけてないし、
押しつけがましくもない。自然な感じ。
巧拙はべつにして。
■
推薦:平和 ユキコモモ作
感想:「平凡である(あった)こと」に気づくとき、どちらかというと、よくない感情が伴 う。
変に安心したり、卑屈にひらきなおったり、たまに、絶望が押し寄せたりさえする。
それってなんだかせつない。
だからなるべく、ただの「平凡」を、想っていたい。
あんな、自販機を抱きしめたりして、でも彼女はなんて幸せそうなんだろう。
彼女のように、「平凡」を、慈しみたい。
■
推薦:いつもここから モク作
感想:橘内 潤さんの「暁昏賦」は光を感じました。太陽の光を鏡に反射させて、リクライ ニングチェアーで昼寝をしているひとの顔にちらちら当てるようなイメージ。映画の 導入部分みたいできれいです。
entry 2
モクさんの「いつもここから」は独特のリズム感で楽しめました。声に出して読みた い詩です。
entry 5
やす泰さんの「オランピア」もやはり、この繰り返しによるリズム感と、西洋の香り といいますか、短編映画のような味わいです。だた最後のニッポンコールが、意図さ れているとは思うのですが、前半のよさを壊しているような気がします。
entry 8
佐藤yuupopicさんの「飯粒の光」は後半の排水溝の米粒に注目した点がぐっと詩を盛 り上げていると思います。しかしながら、前半の展開が深く描かれているだけに悲し さを醸し出しすぎているかな? と思いました。
というわけで、最終的に「いつもここから」か「飯粒の光」で迷いましたが、 <すっかりやわらいだわたしにひたる>、という文に一撃されたので「いつもここか ら」に投票することにします。
■
推薦:まぶしい世界 空人作
感想:空人さんの「まぶしい世界」を推薦させていただきます。
>こんな世界は 何の得もない
>僕が欲しいのは もっとまぶしい世界なんだ
からグッと世界に引き込まれました。
「何の得もない」がささいな日常の事柄にかかる言葉じゃなかったのが新鮮でした。
言葉遣いが美しい中に、少しづつ忍び寄る不穏な影のようなものが 潜められていて、少年が走り出す(と勝手に解釈しました)につれて、 文の方は、対照的に徐々にスピード感を押さえて、 相対する速度感が、絶妙な緊張感を生んでいる、 非常にバランスの取れた高度な詩だと思いました。
「僕」という1人称と、客体の俯瞰的視点が織り交ざって進行していくことで、 世界の全てを客観視している「見えざる存在」を感じました。
タイトルが実は「まぶしいだけじゃない世界」を逆説的に暗喩している ようにも受け取る事が出来て、最後まで読んだ後に再びタイトルを読むと、 全く違った印象を受ける、そんな面白さがありました。なんとも、さすがです。
他に気になった、印象に残った作品は、entry 4ユキコモモ作さんの「平和」です。
逆に非常に日常的な1コマ、23:00過ぎ(表記はないが煙草販売終了の描写で、 わからせてくれている)夜の静寂の中で自動販売機の明かりだけが浮かび上がってい る情景に、 失ったものへの感情を上手に絡められている。
>光の中で自販機を抱きしめて 私は甘い香りを待っている
当てが外れてなんだかよくわからないけど楽しくなってしまって、 寂しさも含めていろんな感情を抱きしめながらほんのり微笑む主体。 読後に残る不思議な温度のようなものを感じ、好かったです。
全く異なった時空にある2つの作品で迷いましたが、空人さんに、ぜひ一票お願いし ます。
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:まさか「しあわせは遅れてやってくるもの」なんて意図があったわけでは無かろう が、登場のし方が一寸ずるい気もした。でも投票しちゃう。
平凡な幸せ――平凡な情景にふと光る幸せという見せ方が、今回のテーマに一番 シックリくると思った。
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:かなり迷いました。
ユキコモモさんの作品と、空人さんの作品と、佐藤さんの作品とで、どれにするか。
最終的に佐藤さんのにします。
最終連が特によかったです。
決め手は、「平凡な幸せ」というテーマを考えると佐藤さんの作品が一番いいんじゃな いかな、と思ったこと。
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:失ったことで平凡な幸せに気づく切なさが胸に来ます。
『ざくざくと、米を研いでいる』
『他の誰もが簡単に飛び越えていくその高みを
どうして俺だけうまく越えられないのだろう』
という文が秀逸でした。
エントリーがちょっと遅くなって...というのはアレですが
私はその辺のエピソードを知らないので見逃し三振(笑)
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:☆ 「いつもここから モク作」は、「ね」の使い方なんかがうまいなーと思いながらもやっぱりものすごく普通過ぎるのでなんだか惜しい。
☆ 「平和 ユキコモモ作」は、途中までは平凡な人生を丁寧に切り取ってるなーと思いきや一行取り出したりわざわざ長音をみっつつけたりする辺りでなんだか酔ってるんじゃないかしらんと思ってきてそれで最後の一行が極めて要らないような気がした。
☆ 「オランピア やす泰作」もやっぱり最後の一行要らない。あのまま終わるのは嫌だけどあれはちょっとひどい。
☆ 「まぶしい世界 空人作」は、詩の作り方がだんだん玄人じみてきてるけれどもしかし今回は取り上げた題材がちょっと平凡に過ぎすぎた。いくらテーマが平凡でも読者は平凡な詩は期待していない。
☆ 「飯粒の光 佐藤yuupopic作」は、石垣りんのようなにおいを漂わせながら書いている。悪くない。いや、いい。解説すると詩のイメージに手垢がつきそうなので書かない。いい。
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:佐藤yuupopicさんに投票します。
前向きな感じと、遠回しな表現なのに、ちゃんと恋愛関係で失敗したんだってこ とが見えてくるところが好きです。
「何の得もない」は意味が合っているのか疑問ですが。
テンポがいいですね。見た目は短い行と長い行が隣接していてデコボコなんです けど、それがこの男性の気持ちを表しているのだと思いました。
さかな☆さんのは、小説なら読めるんですが、詩としては無意味な説明が多すぎ るように思います。内容がいいだけに残念。
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推薦:飯粒の光 佐藤yuupopic作
感想:お題に対し、いちばん自然な感じで詩にされているような気がします。
小道具に米粒を選んだセンスも素敵だと思います。