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第36回1000字小説バトル Entry22

名なし

 待合室で待っている。血を採るだけだ。同じ検査を受ける人が五、六人いる。受付で番号フダをもらう。名前では呼ばれない。番号。渡されたのは三番のフダだ。
 周りを見渡す。検査を受けない人も待合室にいる。番号フダを持っていそうな人を目で選別する。こそこそ話している中年の背広の男達はそうだろう。壁際のチノパンの男もそう。そして一番前に座っていた白いワンピースの女も。色っぽい顔をしているなあと妙に納得する。呼ばれるとスカートをひらひらさせて検査室に入っていった。

 三番の方、と呼ばれたので中に入る。

 検査室には人間が二人、並んで座っていた。
医者らしき人がぶ厚いファイルをめくりながら事務的に、
「結果は七日後出ます。同じ時間十時までに来て下さい」
 という。
「十時ですか?」
 と聞き直す。
「来れないんですか? 電話で問い合わせは出来ませんよ」
 と冷たく笑う。ああこれが冷笑というものなんだな、と思う。
 医者らしき人と話している間に、白い布を頭につけている女の人が右腕を出せと言い、消毒をされる。腕に注射器が刺さる。血が汚いかもしれないから女の人はゴムの手袋をはめている。どす黒い血が注射器の中に勢いよく収まる。試験管は雑巾を触るように摘まれ、三番のシールが貼られる。確かに三番と目で確認する。こっちはそれくらいしか、出来ない。


 七日後なんとか時間を作り結果を聞きに行く。この前と同じ顔ぶれだ。皆生きていた。背広の男達は何と言って休みをもらったんだろう?
番号を呼ばれるのを皆、目を閉じて待っている。こういうの、仲間だと思った。
 最初に呼ばれた男がなかなか出てこない。待合室に緊張が走る。
その後出てきて少しくらくらしているみたいだったが、誰かに連れられ行ってしまった。
 白いワンピースの女は今日は茶色のスカートをひらひらさせて中に入っていく。以外に早く出てきて、ありがとうございますとドアに顔だけ突っ込んでお礼を言う。

 三番、と呼ばれる。
初めて見る女の人が三番ですね? 陰性です。何か気になることは? では結構ですと早口で言い、パンフレットをくれる。一応お礼を言って部屋を出る。全員が聞き終わるまで観ていたかったが、仕事があるので帰る。背広の男達はどうだったのだろう。最初の男はどこに行ったのだろう?
 
 外に出た。パンフレットは建物を出る前にゴミ箱に捨てた。
名前を返してもらった途端、さっきの女の顔は忘れてしまった。

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