←前 次→

第36回1000字小説バトル Entry9

秘密ロボット

とある研究所での出来事。
助手が完成したロボットを前に。



博士、ついに完成しましたね。
ふむ、ついに完成だな。

50年間これを作るために生活を犠牲にしてきた甲斐がありましたね。
ふむ、犠牲にしてきた甲斐があったな。

これを発表すればノーベル賞、、いやそれどころではないかもしれないですよ。
ふむ、それどころではないかもな。

これで私の妻も戻ってくるでしょうか。
ふむ、ノーベル賞ならな。

しかし、この50年間ほんとに辛かったですね。
ふむ、辛かったな。

ほかの研究者には馬鹿にされっぱなしでしたね。
ふむ、馬鹿にされっぱなしだったな。

でもやっぱり博士の理論は正しかったですね。
ふむ、正しかったな。

博士、20年前の出来事覚えていますか。
ふむ、覚えているな。

あの時、食べるものがなくて床に生えたキノコを摘んで食べたときは大変でしたね。
ふむ、笑いが止まらなくてな。

これを世界に発表したら世界中の人が博士を尊敬するでしょうね。
ふむ、尊敬するだろうな。

では、少し動かしてみますね。
ふむ、前進しているな。

次は後ろに。
ふむ、後退しているな。

少し走らせてみましょう。
ふむ、走っているな。

次は音楽に合わせて踊らせてみましょう。
ふむ、イカス音楽だな。

それではこの難しい問題を解かせてみます。
ふむ、難しい問題だな。


ロボットは渡された問題用紙に向かい、カリカリと鉛筆で解答している。


やや、100点満点ですよ。
100点満点だな。

うーん、我ながら最高ですよ。
最高だな。

しかしこの15年間、本当に孤独でした。
ふむ、孤独だったな。




助手は満足げな様子でロボットを眺めた。
そしてふとつぶやく。


高度な知能を持ったロボットを完成させて、15年前に死んだ博士も満足だろう。
でも、ロボットのモデルが博士本人だと知ったらさぞ驚くだろうな。

そう言って、助手は目の前のロボットの電源を落とした。
博士、ほんとうにありがとう。

博士はもう何もしゃべらない。

←前 次→

QBOOKS