マルチ商法やっつけろ
ごんぱち
「確かにビジネスで儲かるって話が書いてあります。あります、けれどほら、欄外に、効果に個人差がありますって書いてあるでしょう? 小さくて読めない? あなた、だったら最初に言えば良いでしょう? 世の中には様々な視力の方がいらっしゃいます。この契約書は一般的な視力を持つ方なら当然読めるサイズの文字とインクを使用しているのですよ。もし万一ですよ、契約書に視力的に読めない字があったら、説明してくれとかより分かり易い大きな文字の書かれた契約書にしてくれの一言……まあ、この場合二言三言ですが、あって然るべきでしょう、それが世間の常識、大人の嗜みってものでしょう? いや、マナー、人として当たり前の事でしょう。お金を返せ? 勿論です、嘘は言いません。いや、返します、返しますよ、お金は返します。新品の商品と引き替えに、間違いなく返します。一応聞いておきますけれど、パッケージから出してしまったなんて事は――え? ええええ? 開けた? 何を? パッケージ? 商品の? 本当に? 冗談抜きで? パッケージを開けたぁぁあ? そんな事したら、商品価値がゼロでしょう? ゼロはやり過ぎ? 何言ってるんです、あなた、レトルトカレーの蓋開いてたら買います? 意味が違う? 全然違わないですよ。我が社は、生産ラインが少なくってですね、新しい商品を作るので塞がってるんですよ。そんなあなた、開けて劣化した製品を再パッケージする事に使う余裕なんてないんですよ。良いですか? 分かりましたか? ええ、分かって頂ければ良いです。それだけの分別のある方でホッとしました。やはり、物事を落ち着いて正確に判断出来る眼力が備わっている人は、尊敬も信頼も出来ますね。あなたの事ですよ? いや、本当、あなたには感心しました。男が男に惚れたって言うんですかね? 感服しました。あなたを、あんな半端なビジネスに誘ったこの私が馬鹿でした。大変申し訳ありません! あなたなら……軽々しく教えるなと厳命されているのですが、あなたになら良いでしょう。本当は、我々の会社を大きくしたビジネスは、もっと良い商品を取り扱うものなのです。これからその細かい方法をお教えしましょう――」
「――四谷、この前のマルチ商法の会社にねじ込んだんだったっけ? いやぁ、早めに気付いて良かったな」
「おお蒲田! このコラゲンザムデインA一〇器官ホグホグが、今なら十個で七万円だぜ!」