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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第53回バトル 作品

参加作品一覧

(2013年 12月)
文字数
1
サヌキマオ
1000
2
野乃
1000
3
小笠原寿夫
1000
4
深神椥
857
5
ごんぱち
1000
6
石川順一
1002
7
待子あかね
1000

結果発表

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IXI
サヌキマオ

 どういうわけかIXIと名付けられた子供がおった。イクシィと読むんじゃが、I-XI、つまり1-11だったかIX-I、9-1のどちらかが由来であったろうと云われておる。海辺の港町、男どもは腰履き一つで闊歩するような町の話じゃ。
 脇腹にIXIという痕跡があるからだという噂もある。傷跡か焼き鏝なのか――IXIという痕跡があったからIXIという名前になったのか、IXIという名前ゆえにIXIという痕跡が刻まれたのかがはっきりせん以上、議論しても詮無いことであった。本人は「さあ」と答えるばかりである。うながされねば物を言わぬ男じゃし、もうみんなこの件については質問し飽きておる。IXIの父親は海で死に、母親は街を出て行方がわからなくなっておる。
 何よりも、IXIの背中には大きな目玉の模様があった。刺青のようであった。この奇蹟が「IXIは異端である」という議論に人を駆り立てる要因となっておる。本人はむせるような筋肉の張った美丈夫となったため、村でも恋する女どもがあとをぞろぞろついて歩いた。若い娘はおろか、街で最も古いとされる老婆までIXIの日々の暮らしに精通しておった。あれは辺土(リンボ)から遣わされた天使だ、ということになっていた。あれだけ美しい者が天使でないわけがない。仮に百歩譲って、IXIの背中の目玉が人々の心を射すくめるような恐怖の代物であったことを勘定に入れたとしても、でも天使には違いない。リンボというのはなんだかわからないけれども。司祭は文盲だったし。

 天使は今日も今日とて漁から帰り、魚網を繕い、
 床について朝になると、魚網と同じ色の塊になっておった。

 像とも呼べぬような柔らかな塊である。まるで死んだように見えないので、町の司祭も扱いに困った。なによりも、村の女達が埋葬を拒み、IXIだったものを担いでどこかに連れ去ろうとする。仕方なく、塊は教会の入口に据え置かれ、花に囲まれることとなった。

 さて日がのぼり日は落ちて、ある日の朝早くである。教会の下男がIXIの塊が中心から真二つに裂けておるのを見つけたのじゃ。これは一大事、とうろたえていると頭に影が差す。ぎょっとして見上げれば暁を遮るように、一匹の大きな蛾が教会の屋根の周りを羽ばたいておった。鱗粉があたりに降り注ぐと、朝の光に反射してたいそう美しかったそうな。
 なお、IXIは食物を取る口を持たなかったので十日ほどで道端に落ちた。今度は塊がごみ捨て場に運ばれるのを、誰も止めなんだ。
IXI サヌキマオ

宝石だった石のはなし。
野乃

「いいかい、お嬢ちゃんはまだ『これ』なんだ」

夕暮の近づいたある日、ある時、ある公園で。
石をつまんで、男は隣に座る幼女に話しかけた。
幼女はまんまるな瞳をこちらに向けて、首を傾げた。

「『原石』ってことだよ。お嬢ちゃんは磨けばきっと綺麗な宝石になるぞ。
いいかい、みんな原石なんだ。なのに、磨かないから、『ただの石』のまま。
そのへんに転がっている、『ただの石ころ』で終わる。
もったいないよな。しっかり磨けば誰だってこんなに輝くことができるのに。」

男は、胸を張った。

「みんなみんな、宝石に成れるんだよ。ボクのように。そうだよ、ボクは磨き上げて宝石になったんだ。誰よりも輝く宝石にね。そう、僕は選ばれた人間だったんだ。」

「わー、すごい」
幼女は手をぱちぱちと叩いた。

「大学を中退して創った会社が上手くいったから、お金に困ることもなかったし、彼女もほぼ日替わりでいた。おかげで名前が覚えきれなかった。毎日違う女性が告白してきたからね。そのすべてと付き合うのはとても難しかったけど、とりあえず一晩は過ごしてみたよ」

容姿に恵まれ、才能に恵まれた男は、
社会に愛され、お金に愛され、女に愛されていた。
男の周りはいつも人で溢れていた。
男はいつもその中心にいた。
男は次第に自信をもっていった。

「なのに」
男は目を曇らせた。

「みんなみんな、馬鹿なんだ。ボクが正しいのに。ボクの言うとおりにすればいいのに。ボクは正しいことを正しいと言っているだけなのに。なのに、正しい事を正しいといえばいうほど、みんなは僕から離れていった!わからずやどもめ!ただの石ころのくせに……!!どいつもこいつも、昔はあんなにボクにへこへこしていたのに!媚び売って、ボクの気をひこうとしていたのに!みんなボクを必要としていたのに……!!!」

「いまは?」
幼女が聞いた。


男は、はっとした。
「い、ま……は、今、は…………」


――今は。


わからなくなっていた。
手に入れることが簡単すぎて、その苦労を。

気づかなくなっていた。
自信が、ただの傲慢に変わってしまったことも。


「あたりまえ」のことが「あたりまえ」であった「ありがたさ」さえも。


迎えにきた母親の声に、幼女が駆けていく。
あっけなく、男はまた独りになった。





その夜、男は久しぶりに鏡を見た。
そこには、『ただの薄汚れた老人』が映っていた。

――磨かなければ『ただの石』
そのへんに転がっている、『ただの石ころの1つ』だった。
宝石だった石のはなし。 野乃

うどん
小笠原寿夫

閑散とした店内には、白髪頭の大将と、そのお弟子さんと見られる体格のいい男と私しかいなかった。
私は、品書きと睨めっこしながら、大将に尋ねた。

「木の葉丼って、どんなんですか?」

四季を感じさせる、その名前を見つけ、不覚にも尋ねざるを得なかった。

「蒲鉾の。」

恐らくは、蒲鉾を玉子でとじた丼が提供されるのであろうが、私は、旅館で提供される様な、紅葉を天ぷらに揚げた、風流な丼を、想像していた為、注文を諦めた。

店の前のショーウィンドーを見てから、店内に入ったので、店の値段の相場が、そこそこのものだ、という事は、分かっていた。「じゃあ、玉子とじうどん。」

安い。静かな店内に、料理をするお弟子さん。注文を受ける大将。
そして、テーブル席に座る私。
爪楊枝が、数少ない。夕暮れ時にこの客足。平日の昼間が、気になる。元々、路地裏に佇む定食屋。流行っているかどうかは、別として、店内は、奥行きのある二段構えになっている。

いきなり、小さな声で、「張っ倒すぞ。」と大将が言った。調理場で料理の最中に、何が行われているのか、見当もつかない。客が、私ひとりだったせいか、「玉子とじうどん」は、程なくして、テーブルに運ばれた。

玉子とじに、海苔が乗っている。
注文の時に、生意気にも「オススメは?」と聞いて、大将を困らせただけの事はある。

ズルズルと、うどんを啜る音だけが、店内に鳴っていた。急に次のお客さんが、入ってきた。
隣の散髪屋の大将だった。
「今、夕飯か。」
私は、愛想で、「はい。」と答えた。散髪屋の大将は、出前を注文し、すぐさま出てしまった。
私が、うどんを食べ終える前に、大将は、岡持ちを持って、出て行った。店内に残された私と、お弟子さん。ズルズルという音と、調理器具を洗う音。
私は、大将が、帰って来る前に、急いで、うどんを啜った。何も喋らないで、只々、食べるのが、掟の様な気がしてならなかった。
「御所」と書かれた看板が、その心意気を感じさせる。
考えながら、食べるうどんは、絶品である。
このひと時に、客が集まるのか、と言わざるを得ない。店を構える人というのは、それなりの自信を持っているはずだ。

私は、帰りの横開きの扉で、丁度、大将の帰りに出くわした。

「お疲れ様です!」

そう言わざるを得ない風貌と、その大将の無口さが合間って、口を衝いた。

「ありがとう。」

その言葉の裏に、「またおいで。」の意味が含まれていたのかどうかは、知る由もない。
うどん 小笠原寿夫

星に想いを~reprise
深神椥

「ふぅ……」
ため息、というか、一息ついた。

 鏡に映った自分の顔を見る。
 くたびれたような顔をしている。

「何だこの顔……こんな顔してたのか、オレ」
そう呟いた後、もう一度顔を洗い、鏡を見た。
 今度はため息をつく。
ボクにしては珍しく忘れずに、パンツのポケットに入れてきたハンカチで、顔を拭いた。
 もう一度、鏡を見る。

 キミと出会ってから、これまでのことを思い出していた。

 小学生の時、キミと学校帰りに寄り道したこと、キミの家で一緒に勉強したこと、高校受験に合格した日に喜びを分かち合ったこと、あまり会えなかった大学生活四年間のこと。
 夏にキミの車で海までドライブしたこと――。

 そんなことばかりが頭をよぎる。

 くだらないことで喧嘩して、何日も口を利かないこともあった。
そして、何人もの彼女を紹介されたことや、聞きたくもない彼女とのデートの話を延々と聞かされたこと。

 今となっては全て、いい思い出、なのかな。

 思い出したくないことも山ほどあるけどね――。


 数々の恋愛遍歴を持つキミも、今や一つの鞘に収まろうとしている。
そう思うと、何だか感慨深い、というか、余計に切なさが増してしまう。

「ホント色んな女の子見てきたなぁ……」

 今回の彼女、ユミちゃんは、可愛らしいけど、どこか抜けてて、男なら皆、好きになりそうなタイプだ。
 まぁ、キミが好きになった相手なら、何も文句は言わないけどね。
あのコがボクのことをどう思ったかが気になるところだが――。

 ふと、キミが言ったくれた言葉を思い出した。

(オレ、お前のことも、ユミちゃんのことも、大事にしたいんだ)

「よくもまぁ、あんなことを恥ずかしくもなくぬけぬけと……」

 ボクはそう呟き、小さく笑った。

 ホントにホントに、こんなもんだ、恋なんて。

 何度、この言葉を心の中で繰り返したことか――。

「まさか二人してオレの悪口言ってないだろうな。んなわけないか」

 ボクは一息つき、何かを決心したように、楽しそうに食事をしながら会話をしているであろう、キミとユミちゃんのもとへと、踵を返した。
星に想いを~reprise 深神椥

ネズミと太陽
ごんぱち

 太陽は、今日ものんびりと地面を照らしていました。
 太陽の光を浴びて草木は一層緑を濃くし、鹿がそれを食べ、熊がその鹿を捕らえ、狩人が熊を狩ります。
 狩人が熊を曳いて帰る様を、太陽は眺めていました。
 獲物を喜ぶ村人が、ささやかな宴の用意をしていた時、豆の一粒がザルから転げて落ちました。
「やあ、いいものを見つけた」
 落ちた豆を見つけたのは、一匹のネズミでした。
「祝言のごちそうにはうってつけだ」
 ネズミは豆をくわえて、壁の穴から、床下へ走り去りました。

 その翌日、太陽はまた、狩人の家の上を通りました。
「――いやいや、この世で一番強く偉いものはお日さまさ!」
 床下から声が聞こえて来ました。
「はん、お日さまだって!?」
 声は、ネズミ達でした。昨日、豆を拾ったネズミもいます。
「お日さまは雲に隠れたらおしまいだ。そんなものを大事な一人娘の婿に迎えるなんてとんでもない」
 ネズミは婚礼の相談をしているのでした。
「じゃあ雲にするか?」
「雲は風に飛ばされるじゃあないか」
「それを言ったら風は壁に遮られる」
「待てよ、ならばその壁を食い破るネズミが一番ではないか!」
 太陽は、ネズミ達の声に耳を傾けていました。

 その翌日、ネズミ達は、森で他の家のネズミ達も呼んで、結婚式を挙げていました。
「虎よりも象よりも太陽よりも雲よりも風よりも壁よりも強く偉いネズミを婿に迎え、大変喜ばしい……」
 ネズミの長老が祝辞を述べていた時です。
 虎が通り過ぎました。
 ネズミは大慌てで逃げて行きました。

 虎がいなくなって丸一日経ってから、ネズミ達は結婚式を再開しました。
 そんな時です。
 象が通り過ぎました。
 ネズミ達は死に物狂いで逃げました。

 その翌日、どうにかネズミ達は結婚式を再開しました。
 そんな時です。
 分厚い雲が重なり激しい雨が降りました。
 大水に流されまいと、ネズミ達はまた逃げ散りました。

 そのまた翌日は、風に吹き飛ばされそうになり、更にその翌日は崩れ落ちた壁の下敷きになりかけ、やっぱりネズミは逃げ惑いました。

 そうして。
「ええ……色々と邪魔が入ったが、それでも空に一等大きく輝く太陽に対しては何ら被害を受けていないのであり、すなわちこれはネズミが太陽より優れている事に他ならず、このように優れたネズミを婿に迎えて大変喜ばしい事である」
 来賓が半分以下になったネズミの結婚式を、太陽はただ暖かく照らしていましたとさ。
ネズミと太陽 ごんぱち

俳句修行
石川順一

私はひとりよがり虚子だ。今日はひとりよがり句会を開くことにする。まずは私が手本を見せる。
・ひとりよがりやってはいかんぞ冬ぬくし
・小説はひとりよがりの巣窟だ(しまった無季だ)
・マウス変えひとりよがりも沈静化(また無季だがうーむ)。以上全てわしの署名入り
とまあこんな感じで無季でもいいから、試行錯誤しながら、多少拙くてもいいから励行やって貰いたい。

 実はわしは変名を150以上持って居る。「ひとりよがり虚子」もそのうちの一つだが、ちょっと評判が悪いので、最近改名を頻繁にやった。
助手「ひとりよがり先生モノローグ中まことにすいませんが、あきらかにあなた自慰でひとりよがっちゃって居るのを「ひとりよがり」と付けられているのですよね。ちょっとは自覚症状をお持ちになった方が」
 余計な横槍を。確かに。外の圧迫に耐え切れず・・。今朝の8時ごろだって徹夜明けに付け込まれてちょっとまどろんだところを寝込みに付け込むかのように体が回転して・・・しかし半分は外れだ。別にヨガって居なくてもそう言う流れはある。「自慰」が無いならないで、別の物が「よがり」に化けて居る事も。例えば私がインドでヨガの修行を・・・おっといかんいかん私の変名がばれて仕舞う・・・
助手「あなた、明らかにわざとらしいですよね、自分で自分の作品を模倣して別ハンドルネームで似たような内容が別作品で成立すると、疑惑の目を寄せずに、影響関係と言ってほしいとか。結構人間関係がぎくしゃくしますよ」
 うむ。確かに。しかしそんなつもりはない。確かに混乱が起きればHNを使い分けて居るのを原因として論(あげつら)われ易いがその程度でだめになるようであれば、初めから成立のさせ方が弱いので、本当は別に原因があるのだと思いますよ。逆にその程度の原因で納得するようであればたいしたことは実現できないと思いますよ。
ちなみに私は愚痴を聞くのも俳句修行だと思っています。今日(2013年11月30日(土))はこんな愚痴を。
体型がスカート「医者の話を信じて顔を洗う振りをして壺の湯で隣の人に湯の飛沫を掛けたら末期癌が治ると聞いたので実践したらやはり似非科学だった。しかも壺の湯ではあまり長時間独占しないで下さいと見当外れな注意を」
私「うむそうかね、あまり見当外れな注意とも思えないが・・」
冬の夜愚痴は最大限に駈け
俳句を詠んで誤魔化すしか無かった。「愚痴」を馬の如きに準えて見ました
俳句修行 石川順一

流れ 流れて
待子あかね

 木枯らしが前に吹いていたのだから、秋晴れなんて本当はいえない。いい天気と叫んでみたくなる空。お寺にあるイチョウの木。鮮やかな黄色染まっている。

 信号待ちというのは退屈。
「上岡さん、左の方の空を見て」
 少し大きめの声を出して、話しかける。今日の私は一人ではないから信号待ちが退屈だなあなんて感じることはない。雑踏の中、車いすの彼女に話しかけるのは、少し大きめの声が必要。ただ、あんまり大きな声を出しすぎてもいけない。たわいのない話をしたいだけなのに、大きな声でびっくりさせてしまってはいけないから。
 今日は車いすの上岡さんと一緒に、映画を観たりショッピング。私は、彼女のことが好き。さほど歳は変わらないのに、しっかりとした考えで、いつも前向きなことばを聞かせてくれる。元気をくれる。
「あ、あの雲、ハートの形をしているね。あの雲のこと?」
 ほっとした。ハートの形をしている雲に気づいてくれたことに、ほっとした。雲の形というのは、それぞれによって見え方がちがうというし、
「なんにも見えないよ」と言われてしまっては、淋しいなと思っていたから、私の感じているように、彼女も感じてくれて、ほっとした。

 ふと、小さなころの記憶を思い出す。
 同じように信号待ちをしていて、空を見上げていた時のこと。
「ねえ、見て、お母さん、あの雲、あめちゃんみたいに見えるよ、ねえ、見て見て」
 そう自転車から振り向いて話しかけたところ、返ってきた言葉は、
「ちゃんと前を向いてなさい。自転車が突っ込んでしたらどうするの、危ないじゃない。ちゃんと、前を見ていなさい。ほら、もう、信号が変わったよ」
 それだけだった。
 確かに、前を見ると信号は青に変わり、私はそれから信号を渡り前だけを見て、ずっと進んでいた。前だけを見て。

 前だけを見て走り続けていたら後ろが見えないばかりか、空のことを知らないまま。朝も昼も夜の空も知らないまま。
 雲は、毎日毎日流れ、流れている。あめちゃんの形をした雲も、ハートの形をした雲も、本当は、昨日も今日も、そして明日も流れている。知らないだけ。知らないままでいるだけ。

 走ったままでは危ないから、ふっとほんの少しだけ立ち止まって。空を見上げて。左の空に、ハートの形の雲。右の空に、あめちゃんの形の雲。
 そして、
「そうね、あんたもおかしな娘ね、あの雲、あめちゃんに見えるね」
というお母さんの声が聞こえるね。