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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第62回バトル 作品

参加作品一覧

(2014年 9月)
文字数
1
DOGMUGGY
1121
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000

結果発表

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反戦屋根
DOGMUGGY

反戦屋根

鉄男は厚木航空基地のそばで小さな鉄工所を経営している、ベトナム戦争の激化で最近はNAVYの空母艦載機に加えて横田基地からAIR FORCEのベトナムカラーに迷彩されたF4Cファントム戦闘機が飛んで来るのも増えたが、息子の次郎は無邪気に喜ぶのだった。
「ドーン」不意に爆音が耳を劈いた、F4がアフターバーナーを炊いて離陸したのだ。
鉄工所の安物の薄い窓ガラスが割れんばかりに振動する、「またか、戦争反対だべ」
鉄工所の赤い平屋根には戦争反対の意味を込めて、飛行機から見えるように照準点の十字を「Against war I"m here」の文字と共に描いているのだが、空から見えているのだろうか?実はそんな鉄男の思惑とは正反対に鉄工所の屋根は飛行中に演習目標の一つとして使われているのだった。
たまに空母艦載偵察機のRF8が低空偵察の目標として高速航過して写真撮影したりして基地内では「Red roof Iron Works」としてパイロット達には有名なポイントになっていた。
それから数十年が経ち21世紀の今は、次郎が後を継いで鉄工所を切り盛りしていた。
「親父が屋根にメッセージを描いてから半世紀近くになるが、何も変わらないじゃん…」
あの頃に比べればF4ファントムがFA18ホーネットに変わった事と、ベトナム戦争当時に比べれば飛行機の数も随分減ってはいるが本質的には不変だった。
ただ過去には有り得なかったものが飛んでくることがあるのだ、どうやらグアムから遠隔操縦で飛んで来るらしい真っ白い無人機だ。
当然ながらパイロットは乗っていないので頭の上を飛んでいても、「心ここに在らず」といった具合に、なんとも無愛想というか無責任にスーッと通過して行くのだ。
父と同じく「飛行機はうちの屋根見てんのかねえ?」うっとおしげに見上げていると、今日はいつもと違い、なんと無人機からオレンジ色の筒が落ちてきた。
それは見る見る内に大きくなり鉄工所の屋根に書いてある照準点の十字の中央に突き刺さって紫煙をもうもうと吹き上げだした。
消防車が何台も来てボヤ騒ぎになり、マスコミにも取り上げられニュース沙汰になった。
あとから分かったことだが、遠隔操縦していたグアムの新任オペレーターがモニターに映った「次郎の鉄工所の屋根の十字」を「硫黄島にある似た建物の屋根にある十字」と錯覚して演習用の発煙弾を誤って投下したのが真相だった。
やはりその場に人間が介在する有人機に対し、遠隔地から限られた視界のモニター画面で操縦される無人機の限界を露呈する結果を晒し、期せずして反戦メッセージが世間に伝わったのだった。
実に半世紀近く経って、鉄工所の屋根に描いた父、鉄男の思いは結実したのであった。
それからは、あの白い無人機が鉄工所の上を飛ぶことはなくなった。
反戦屋根 DOGMUGGY

雑草刈りばあさん
サヌキマオ

 ポリバケツ入りの除草剤を目一杯積んだ8tトラックが山道をのろのろと登っていきます。山道といっても荒涼とした、草木の枯れ果てた坂の道で、遠くに見える連峰の山々と比べてもそれはそれは異様なものでした。運転しているのは、鶏ガラだってもう少ししゃぶるなりなんなりの旨味があるだろうという痩せこけた老婆です。当年取って七十二歳、免許証はMTです。8tまで運転できるやつです。
 今日も今日とて、ふもとのホームセンターに頼んでおいた雑草剤をトラックに積んで、家に帰るところ、日差しに枯れきった黄土色の山肌が続きます。緑を喪っても聳え立つ常用樹林、この世に幹のうねりだけを遺して逝った赤松、みんなみんな土気色です。朝の雨で幾分か地面が湿ったらしく、いたるところで陽炎が立っています。ようよう山の上に建物が見えてきて、山頂と車道をつなぐ石段の脇にトラックを停めるのです。
 しかし、なんといい見晴らしでしょう。遠く山並みは緑に燃え、宇宙の遠さに透き通った青空に、刷いたような雲が浮かんでいます。ばあさんは縁側に正座すると、コンビニで買ってきたおにぎりとペットボトルのお茶で遅い昼食を取るのでした。生まれ育った集落とはいえ、山は美しい、と思うのでした。月の頃はなおさら、満月の晩に雁が群れて飛ぶ様子なぞ、普段は飲まないお酒をちょっと飲むくらいに好きでした。この山々の青さは乙女の時から大好き。しばし静謐の時です。
 と、気配に振り返ると飼い猫のみーちゃんが勝手口からやってくるところです。そういえばあんた居なかったわね。いつもはご飯を食べていると膝に乗ろうとしてくるのに。
 原因はすぐわかりました。みーちゃんは咥えていた蝉をばばあの前に落とすと、手柄顔で見上げてきたのです。
「てめぇ! どこだ! どこでこの虫けらを拾ってきやがった! 冗談じゃねえよおれが虫嫌ぇなの解ってんじゃなかったのかみーちゃんよぉォ、あぁン?」
 先ほどまでの安穏とした空気はどこへやら、ばあさんは脇においてあったダイソン(掃除機)を振りかざしてあらん限りの力でスイッチを入れました。掃除機なので普通に動きます。セミの死骸は無事に吸い込まれていきました。
「ど畜生め、どこの木から来たセミ野郎だか、はっきりさせるまで今日は眠れねえぜ」
 ばあさんはたちまち防護服に着替えると、噴霧器に除草剤を詰め込んで家を飛び出して行きました。
 お山は夕方から雨だそうです。
雑草刈りばあさん サヌキマオ

となりのイバラ
ごんぱち

 昔、あるところに王子がいました。
 王子は、イバラに包まれている城で百年眠っている姫を見つけ、目を醒まさせ、結婚して幸せにくらしました。

 その話を聞いた隣国の王子は、羨ましくてなりません。家来に命じイバラに包まれた城が他にないか探させましたが、一つも見つかりませんでした。
「こうなったら、自分で探しに行くしかない」
 反対する王様との押し問答の末、書き置き一つ残し、王子はお城を飛び出しました。

 数ヶ月が過ぎ、旅路は森に差し掛かりました。大きな樹が並び、岩もゴロゴロしています。
 王子が慎重に馬を進めていると、どこからともなく醜い泣き声が聞こえてきました。
「これは魔女の罠に違いない、だが罠は打ち破ってこそだ」
 泣き声を目印に、王子は馬を走らせます。
 と、周囲の薮が動きはじめました。
 薮の切れ間から見えたのは、狼でした。
 王子は矢をつがえ、放ちます。
 王子の矢は割れた硝子の先よりも鋭く、音を置いて飛び、狼の頭蓋を次々に貫きます。
 狼の群は二呼吸する間に半分になり、残った狼は恐れをなして逃げて行きました。

 再び泣き声を頼りに歩きはじめた王子の前に、
山のように大きな竜が立ちはだかりました。
 竜は人の声とは到底異なる音で叫び、一気に王子へと突っ込んで来ました。
 王子の同時に放った三本の矢が、竜の眉間と両目に真っ直ぐ吸い込まれていきます。
 しかし、矢は弾かれました。
 王子が騎乗槍を構えたのと、竜の爪が馬もろとも王子を薙ぎ払ったのとは、ほとんど同時でした。
 馬は気絶し、王子は樹に叩きつけられ、そのまま根元にうずくまります。胴鎧は革が割れ鋼片がいくつも外れ、もう用を為さないでしょう。
 竜は王子の方へ、ゆっくりと近寄って、大きく息を吸い込み、そして口から燃える毒液を吐き出そうとして。
 そのまま、倒れ込みました。
 竜の眉間には、深々と騎乗槍が突き刺さっていました。

 息を吹き返した馬に乗り、王子は進みます。
 泣き声はいよいよ近付いて来ます。
 木々の隙間から、光が見えました。
「あれは!」
 光と見えたのは、硝子の箱でした。
 泣き声はそれを担ぐ小さな男たちのものでした。
硝子の箱の中には、雪のように白い肌をした姫が眠っていました。
「おお! あなたこそぼくの運命の――って死体かよ!」
 その後、王子は普通に政略結婚して、それほど美しい訳ではないけれど、化粧は上手く、気の回る后を得て平穏に暮らしましたとさ。