3つの日本
DOGMUGGY
「東南海地震」「首都直下巨大地震」「富士山大噴火」「東海地震」
日本列島の太平洋ベルト地帯を襲った未曾有の「巨大津波」により産業基盤と産業人口の大多数を失った大惨禍の末、いまや日本は3つに別れて存在している。北海道はロシア沿海州の一部、本州と四国は米国の委任統治領、九州と沖縄は中華人民共和国の日本自治区、その中でも本州と四国は同盟国の保護下で元の日本に近い体制が保障されている。
オレは多重立体交差の新六本木交差点で信号待ちをしている、道路は米本土と同じ右側通行に変わって久しい。自動車産業などの工業地帯が被災した今ではクルマは殆どがアメリカ車になっているが、たまに往年の日本車も見かけるものの部品の入手が年々困難になるので減る一方だ。
崩壊した鉄道網や地下鉄の復興は断念され鉄道立国の面影は皆無になった。
自衛隊が存続しているのは本州四国だけで、北海道には極東ロシア軍が、九州沖縄には南京軍管区の中国人民解放軍が駐留してお互いを牽制しあっているのだった。
自衛隊が存在しているとはいえ米国の委任統治の下では、米太平洋軍の配下で国内の治安維持にあたる組織になっていた。
ここ元の首都圏でもクルマ社会、クルマ通勤でクルマが無いと移動の自由が無くなっていた。
人口密度は元々少子高齢化で減っていたところに大惨禍の影響で右肩下がりだ。通貨も、北海道の日本ルーブル、本州四国の日本ドル、九州沖縄の日本元の3つ存在していて本家の親通貨に交換レートが連動している。北海道にはシベリアから天然ガスパイプラインが引かれロシア本土への漁業資源供給、九州沖縄には中国本土からの工場進出が相次ぎ、そして本州四国はアジアからの移民ラッシュが始まろうとしていた。
3つの日本は植民地経済に近いながらも大惨禍から復興しつつあり、かつての経済大国に戻るかの様相を呈してはいたが、その為には3つが1つに戻るのが不可欠なのだが…「おっと、うたた寝か」髭男は表参道のカフェテーブルから頭を起こした。
「夢か、やたら現実的だったな」青山通りは帰宅ラッシュでクルマが込み出していた、輸入車も場所柄多いが、殆どは国産のミニバンやハイブリッド車だ。
行き交う国産車や坂の下にある渋谷の高架線を走る電車を見てやたらと安堵した表情の髭男だった。
「電車で帰ろ」カフェラテを飲み干し席を立った。六本木ヒルズの後ろから満月が出て来た、今はまだ平和な都心の中秋の夕べだった。