タクシー日誌(銃社会)
DOGMUGGY
次郎は青山通りで渋滞にハマっていた、片瀬からロングのお客を麻布で降ろした帰りに帰宅のラッシュアワーが重なった。
ノロノロ進む次郎のタクシーの後席窓をコンコンと叩く音がした、ルームミラーを見ると髭男が話しかけていた。
「すいません、鵠沼まで乗せてもらえませんか?藤沢って車体に描いてあったので」
次郎は後席ドアを開けた。
「いやー助かった、電車で帰るつもりだったのですがカフェで転寝して体が冷えたようでね、満員電車で帰るのシンドくなりましてね」次郎は愛想笑いで応じてドアを閉めた。
「鵠沼石上から高瀬通り抜けて熊倉通り迄行って欲しいんですが、こんなこと言っても東京のタクシーじゃ通じないもんね」苦笑しながら次郎は返した「かしこまりました」
帰宅の足を確保して落ち着いたのか、寝起きで頭が冴えたのか、髭男は饒舌に話し出した。
「さっきは妙な夢見てね、地震と津波に火山噴火で日本は3つに分かれたんだよ、それで本州と四国は米国に統治されてるんだが、銃の所持が解禁されて銃社会になっちゃうの」
ルームミラーをチラッと見て「そりゃ物騒な話ですね」次郎は相槌を打った。
「ほいでさ、夢の中で45口径のコルトガバメントでスイカを撃つと木っ端微塵に吹き飛んだよ、そのあと22口径のスタームルガーで3連射したら小さい穴が3つ空いて数秒後にメリメリとスイカが割れたよ」髭男は興奮して上機嫌で話し続けた、どうやらさっきの白昼夢を誰でも良いから忘れない内に吐き出したい欲求にかられている様子だ。
「でもさ、気になってアイフォーンでググって調べたらさ、ニューヨークは東京に比べて、犯罪件数は、殺人4倍、強盗40倍って統計が出てきてビックリしたよ」
これには職業柄、次郎も本能的に反応した。
「こんな統計聞くと、ニューヨーク並になったらタクシーやるのも命懸けだな、こうなると自分も保身目的で銃を所持しなくちゃならなくなる、正にイタチごっこになるな(汗)」
「ところでお客さん、銃とか詳しいんですね撃ったことあるんですか、なんかハワイとかグアムには射撃ツアーがあるのを聞いたことありますけどね」
髭男から返事はなかった、その代わりに「グー」話し疲れたのか今度は車内で転寝だ。
やれやれ、このお客さんの夢が現実になったらカフェで転寝など危険で出来なくなるな。
物騒になって来たとはいえ、他国に比べればまだまだ安全な都心を抜け次郎のタクシーは横浜新道へと入るのだった。