この世の存在ではなくなったらしく痛くも痒くも寒くも暑くもない。
さっきから街の上を風のごとく漂う様に飛んでいるのだ。
遠くに物凄い速さで飛んで行く人の形が見えた、あの世のご同輩だろう。
音は聞こえないし声も出ないのだが、まあ肉体が無いのだから当然なのか。
遠くに新幹線の「のぞみ」が走っている、またスーっと加速して運転台の近くに寄った。
この世の住人の運転士は淡々と運転乗務をこなしている。
そうだもっと高く飛んでみよう、グーンと超スピードで沖縄付近迄来てしまった。
途中で何度も旅客機にぶつかったが何も無かった様に突き抜けてしまった。
まったく愉快爽快な事この上ない、遥か台湾に近いあたりで自衛隊機がスクランブル飛行している、俺は瞬時にグレーに日の丸が着いたF15J戦闘機の操縦席の脇に寄った。
2等空佐殿の視線の先には隣国のプロペラ電子偵察機が銀翼を輝かせながら悠々と飛行している、空佐殿はさかんにデジカメで撮影していた、いやあご苦労様ですわ。
この調子なら、もっと高く宇宙にだって行けそうだな。
俺は成層圏を突き抜け、空はドンドン濃い青になり、やがて漆黒の大気圏外に出た。
星が無数に光っていて、ひときわ強烈な太陽からの光が差し込んで来る。
大気がないので星は瞬かない、「これが宇宙って奴か」俺は感嘆した。
そうだ、月あたりなら地球も見えるし宇宙の迷子にはならずに済むな、も少し時間あるし。
しかし、ロケットの破片やら人工衛星から外れた部品やらで宇宙は思いのほかゴミだらけだな、そういった無数の大小の人工物が物凄い速さで俺に向かって来るが、みんな突き抜けて行ってしまった。
銀色に輝く月に向かう途中で見慣れない白い円筒形の宇宙船が静止している、寄って見ると赤い星が描いてある、船内を覗くと宇宙服の人物が2人生きているかの様に操縦席にシートベルトをして座っていた、いやもうこれ以上は見るまい。
もしかしたら冷戦期の宇宙開発競争で、密かにアポロに対抗して打ち上げたものの何らかの機械故障か燃料切れで、志半ばにして遭難した極秘計画の宇宙船かもしれないな。
合唱して、俺は月の裏側に飛んでいった「あれは、まさか」それは何百何千という発光体の群れだった。
凄まじく巨大な円筒形、真円などなど・・窓から俺に向かって手を振っている。
連中はご同輩か、宇宙人か、高次元の住人?
おっと、もうすぐ初7日になるタイムリミットだ、俺は慌てて地球に戻ることにした。