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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第72回バトル 作品

参加作品一覧

(2015年 7月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
青野 岬
1000
3
サヌキマオ
1000
4
ごんぱち
1000
5
叶冬姫
1000
6
蛮人S
1000
7
新美南吉
1000

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浪花男道~葬儀編~
小笠原寿夫

ディズニーランドの好きな母でした。ディズニーを語らせたら、目が輝いて、止まりませんでした。そんな母は、晩年、日本の伝統に興味を注いでいた様です。相撲や歌舞伎を見に行っては、その感動を私に教えてくれました。
当時の母の思い出として、安保法制には、反対だと言っていました。かと思えば、永遠の0を熱く語っていました。働く事にかけては、一級品で、家の中で、最も権限を持っていたのが、母でした。
「ちょっと待てー!」
えー、母の教育方針には、反対でしたが、母の説明はよく分かりました。
「まだ死んでないわー!」
列記とした大人には、なりませんでしたが、今の私があるのは、他ならぬ母のお陰だと自負しております。
「勝手に殺すなー!」
思えば、夏の日のこと、母は、こんな事を言いました。自分がされて嫌な事は、人にもしたらあかんのよ。生前、お世話になった方々が、こんなにもお集まりくださり、母もさぞ喜んでいると思います。
「おい!トシ、ふざけるのもええ加減にせえよ。」
母の辞世の句を拝読いたしまして、最期のお別れの挨拶としたいと思います。
【フフッ、上沼さん、面白いわー。】
「どこを切り取って言うとんねん!」
【松嶋最高!】
「おい!セリフのチョイスおかしいやろ。」
掘り起こせば、何が飛び出すかも分からない母の最高の名言を最期に言わせてください。
【ぺーやな。ぺーかもわからんな!】
「ゆうてないわ、ど阿呆!」
その後、親族がメチャクチャ睨んでいたらしいのだが、どつかれた痛みであんまり覚えていない。
後に母は、こう述懐する。
「お前は、天才じゃない。お笑いという文化が世に根付いた時に、お前は、一番じゃなくてもいい。ただ、そこに携われることが、どれだけ崇高で尊いことなのかを、噛み締めなさい。折角の空気を壊したり、飲み込んだりするようなことがあれば、私は、お前を許さない。てっぺんを狙うな。てっぺん取った奴は、それにしか分からん苦労が待ってる。引き立て役に徹し続けて行くことが、スターへの階段や。判ったか。」
それでは歌っていただきましょう。
『浪花男道』
おたふくソースの
看板背負って
一軒隣は
風車
くるくる回る
嗚呼
くるくる回る
浪花男道

二軒隣は
ラーメン屋
本場串カツ
風車
くるくる回る
嗚呼
くるくる回る
浪花男道

嗚呼
浪花男道

なにーののにーが
浪花男道

歌って頂きました。人生抜きには、語れない歌声で、鐘はゼロでしたが、よく健闘して頂きました。
ありがとうございました。
浪花男道~葬儀編~ 小笠原寿夫

泣く男
青野 岬

 メールの着信を知らせる間抜けなメロディで、あたしは浅い夢から現実の世界に引き戻された。
「なんだよ、うるせぇなぁ……」
「ごめん、メール」
 あたしは男に謝ると一旦起き上がり、煙草をくわえてまたベッドに舞い戻った。メールの差出人は、歳の離れた元カレのケンからだった。
 ケンとは半年間くらいつきあった。出逢った頃は金回りも良くて、そういう意味ではずいぶん世話になった。けれども資金ショートを起こして、今では無職のプータローだ。
 金の切れ目が縁の切れ目。
 あたしは煙草の煙をケータイの画面に勢いよく吹きかけて、メールを開いた。
『今日の午後三時、三笠公園まで来てくれ。いつものスカジャン着て待ってるから』
「いつものスカジャン、って……マジで!?」
 あたしは思わず吹き出してしまった。
 横須賀生まれ横須賀育ちのケンはいつも、背中に虎と龍が刺繍されたド派手なスカジャンを着ていた。
「ねぇ、あたし午後からちょっと出かけてくるから」
 眠っている男の耳元で囁いて、あたしは立ち上がった。
「出かけるって、どこに?」
「ちょっと友達に呼ばれてさ。横須賀に行ってくる」
 赤い電車を降りて駅前を歩く。乾いた風は、かすかに潮の香りを纏っていた。
 三笠公園の近くまで来ると、潮の香りはよりいっそう強くなった。ケンはもう来ているだろうか。このままバックレようか。迷いながらも足は一歩一歩、待ち合わせ場所へと進んでゆく。
 いた。ケンだ。
 あたしは戦艦三笠をバックに佇む、スカジャンを着た中年の男を見つけた。お気に入りのハンチング帽、いつものスカジャン、そして少し背中を丸めて煙草を吸う癖。
「ケン……」
 思わず駆け寄ろうとして、あたしは動きを止めた。
 ケンが泣いている。
 遠くに浮かぶ猿島を背負い、小刻みに肩を震わせて、唇を噛み締めながら嗚咽を漏らし、人目もはばからず号泣していた。
 道行く人々が、遠慮なく泣きじゃくるケンを見て戸惑っている。あたしは金縛りになったみたいに、その場に立ち尽くした。
 やがてケンは涙を拭き、手すりに体を預けて、身じろぎもせずにじっと海を眺めた。背中に宿る猛々しい虎と龍の刺繍が今にも動き出しそうに思えて、あたしは思わず息を飲んだ。
 ケンはあたしの不義理をなじるかもしれない。責められるかもしれないし、また泣かれるかもしれない。それでもあたしは目をそらさずに、正面から真剣にケンと向き合おう。
 そう、心に決めた。
泣く男 青野 岬

サヌキマオ

 野を歩いていると沢山の骸にあった。沢山の骸がいるということはこの辺に美味いうどん屋が出ているということである。
 ほどなくかつを出汁のにおいがしてきて屋台があった。骸が行列を作っているのが見える。前掛けをした牛1が麻袋に入れたうどんだねを踏んでいる。牛2が蹄に包丁を括ってうどんを切っている。牛3がうどんを茹でている。別段役割分担があるわけではないようで、手の空いたところからいろいろの仕事にとりかかっている。骸は犇から恭しく丼を受け取ると、地べたに座ってうどんを啜っている。嫌気がさすほどの好天である。魔がさすほどの夏の風で、野の向こうから雲がひとつやってくる。透き通る肌に痣ひとつ、といった風情だったものがだんだん膨らんで、通り雨を運んできたものだとわかる。
 骸らも犇も黙って雨に打たれている。パチンコ玉ほどの粒の雨がだりずでどだだと地虫たちを撃ち抜いて弾け、誂えたうどんを撃ち殺す。雨水に八つ裂きにされたかつを出汁になんの感動があろうか。骸らは無表情にぬるまった丼を受け持って身動ぎしない。牛1が所在無げに足元の草をかじりだすと、牛2は口を開けて雨水を集め、牛3はその場で糞を垂れた。
 通り雨が過ぎると地平線上に土煙が上っている。雨が通らなかったのだ。粉塵はゆるゆるとこちらに近づいてきたが、或るところからぱたりと止んだ。そこから雨が降ったのである。他に見るものもないので様子を眺めていると、半時もあって巨きな荷車だとわかった。
 もう半時すると荷車は牛が引いていることがわかった。天角地眼一黒うんたらの大きな黒牛である。牛もでかいが、その牛にも余るくらい荷車はでかかった。種々の木箱の山に絨毯が百反、大時計に中便器に小錦を乗せて、脇に鳥かごがぶら下っている。牛は無限に有らん限りの力を尽くすことが定めのようで、血眼で荷車を引いている。流れる涎は力強く、来し方に轍より歴然と軌跡を遺していた。
「ちょっとねーェ見てよお姐さん」牛2はつけまつげをはためかせた。「いくらなんだってあんなに無茶をさせたら持たないわよン」こってりと付けたアイシャドウは先ほどの雨で下顎に向かって広がっている。「そりゃそれぞれ事情があるのよ」牛1は左手に括った煙管を使い始めた。「あの様子だと荷主が欲張ったのよ。もしかすると牛一頭殺しても儲けのほうが勝つのかもしれないワ」牛3はあらぬ方を見て呆けている。老いて耳が遠いのだ。
犇 サヌキマオ

鰯屋、篩(ふるい)屋、古鉄(ふるかね)屋 WITH T
ごんぱち

「いわしー、いわし、いわしー、いわしっ! とれたてのいわしだよ!」
 威勢の良い売り声と共に、長屋の路地から路地へ、天秤棒で鰯を担いだ鰯屋が歩きます。
「いわし、いわしだよっ!」
「いわし屋さん、ちょいと」
 長屋のおかみさんが、ザルを持って声をかけます。
「へい、まいど!」
「鰯を見せておくれでないかい?」
「こいつでさぁ!」
「あら、丸々太っておいしそう。この大きさなら三尾で良いわね」
「十五文になりやす」
「はい」
「毎度どうも! いわしー、いわしっ!」
 その後、鰯屋が十匹程鰯を売り歩いた後。
「ふるいー、ふるい」
 どうした加減か、篩屋が後を付いて歩くようになりました。
「いわし、いわし」
「ふるいー、ふるい」
「いわしだよ、とれたてのいわし!」
「ふるい、ふるい」
「いわし」
「ふるい」
「いわし」
 鰯が古いように聞こえてしまって、ちっとも売れません。
「おい、篩屋! もっと別の処を回れ! これじゃあ商売上がったりだ!」
「そうは言われてもなぁ、おれにも慣れた道がある」
「こうやってる間にも鰯は腐っちまうんだ、さっさとどっかへ行きやがれ!」
「まあまあ、喧嘩はしなさんな」
 そこに屑鉄を買う古鉄買い仲裁に入りました。
「私も一緒に行けば良いのだ」
 三人は一緒に歩き、売り声を上げます。
「いわしー、いわし」
「ふるい、ふるいー」
「ふるかねぇ、ふるかねー」

「なあ、嬶ァ、今日の夕飯は魚を食いたい気分だな。活きの良い、身のキュッと締まった歯ざわりの良いのをな」
「丁度鰯屋さんが通ってるようだね、買って来ようか」
「……いやいや、耳をすませなよ」
「え? おやおや? いわし……が、古い? ん?」
「いわしが古いけど、古かぁねえらしい」
「確かに聞こえるね。古いんだか古くないんだか、どういうつもりだろう?」
「これはアレだろう、本当は古いんだが、ちょちょいとやって古くない事にしている一時期世間で流行した、賞味期限誤魔化し問題!」
「アッ! それだね! ええじゃないかで済まなかったアレだね!」
「そうとも! 偉い連中がペコペコやってたアレだ」
「そりゃあいけないね」
「いやぁ、危ねえ危ねえ、食中りで、白い衛生陶器の恋人になるところだった!」
「あ、豆腐屋が来たよ。あんた、豆腐で良いかい? 歯ざわりはないけど」
「なぁに、上等、いいともさ! 豆腐たって、塩抜きを程ほどにしたかくやのこうこでも薬味に添えりゃあ、暑気もはらえて歯ざわりも付くってもんだ!」
鰯屋、篩(ふるい)屋、古鉄(ふるかね)屋 WITH T ごんぱち

コイハシガチ
叶冬姫

「こんにちは先輩。N公園の向日葵が見頃だそうですよ」

 高校生男子。色々と悩みはあるが、今一番の悩みは男だけで『彼女欲しいなー』とファーストフード店で馬鹿騒ぎをしているこの状況。馬鹿騒ぎだけど切実で、だがもし彼女が出来るなら、相手は『彼女』だったらいいなと僕は思っていた。

 『彼女』は美術部に今年入部してきた後輩で、実質マンガ研究部と化している中で、水彩画スケッチを好きだという共通点が僕とはあった。『先輩、今日は紫陽花描いてみたんです』と僕に感想を求めてきたり、スケッチをするのに良さそうな場所を教えてくれたり。週一回の部活の日も、強制参加でもないのに部室に顔を出していたのは、彼女と少しでも話がしたかったからだ。だから帰りのバス停で二人きりになった時、うっかり告白なんてしてしまったのだ。
「すみません。先輩、私このバスに乗るので」
 そう言ってバスに彼女が飛び乗ってしまったのを、呆然と見送ったのはうっかりではすまないけれど。

 彼女のクラスまで尋ねに行く勇気もなく、友達に相談すれば『それはフラれたんだろう』と言われ、いやもしかしたら考えてくれているのかもしれないと一縷の望みを持ってみたり。或いは、このまま顔を合わさず夏休みに入ってしまえば無かった事にしてもらえるのではないかと最低の考えまで浮かんできて、僕の一週間は過ぎてしまった。いや、それでも返事を貰わないと。このまま夏休みなんて腐ってしまう。僕にもそれくらいの勇気はあったので、足取り重く部室に向かった。

 部室には彼女しかいなかった。

「こんにちは。先輩」
「あぁ…」
 だが、どう話を切り出したらいいのか判らない。
「あの、この前はすみませんでした」
 先に彼女に謝らせてしまった。情けない。
「それでその…先輩は私の事本当に好きなんですか」
 いきなりの質問に僕は驚いた。好きだから告白したのだ。だが、続く彼女の言葉に僕はさらに驚くことになった。
「だって先輩、私がどれだけ話を持っていっても、一緒にスケッチしに行こうとか誘ってくれなかったし…」
 あれはそういう意味だったのか…と思い、彼女をよく観察してみると彼女の頬は小さく膨れていた。僕なりに必死に考えて『週末に向日葵をスケッチしに行こう』と誘ってみても、彼女の頬は膨らんだままでどうしたらいいのか判らない。

「ねぇ先輩、もう一度ちゃんと好きって言ってください。そしたら拗ねるのやめてあげます」
コイハシガチ 叶冬姫

くるくる、くだんちゃん
蛮人S

 私です。留奈です。覚えてますよね。

 でも今は頭が牛だから、角が生えてるから、くだんちゃんって呼ばれてるんです。
 漢字だと、にんべんに牛、だそうです。でもって、件(くだん)、くだんちゃんは不吉の前兆だそうです。大きな災いが起きる時に生まれるそうです。友達がそう書いてました。

 くだんちゃんは頭が牛なので外に出してもらえません。牛なのに出れません。ずっと部屋です。ご飯とか親が持ってくるんですけど、時々自分でピザ頼んだりもします。持ってくるのは親ですけど、あっ、手は人間のです。パソコンするから。
 ネットは良いです。友達は前より増えました。みんなくだんちゃんの話が聞きたいんです。でも先生はすべて知ってますよね。私の事なら――

 ごめんなさい。くだんちゃんは本当は角なんて無いんです。でも聞いて下さい。子どもには角があるんです。手足もちゃんとヒヅメです。お腹を蹴るとき分かります。そして伝わりますから。くだんの啼き声が。ヘソで繋がってるんです。で、そのたびくだんちゃんは黒い水が頭に溢れて、うわあ、ってなるんです。それは真っ暗い重い水で、どうしようもなく、苦い。でもその気持ちは分かる。先生も分かりますよね。

 くだんちゃんの部屋――暗くて臭くてどろどろな、外に繋がるのは線一本の。ひかりなんて来ないんですよ。来るのは暗いネタばかりだから、くだんちゃんも暗い重い水を送るんです

 ぼおえ

 また、くだんがお腹を蹴ってます。黒い水が溢れます

 ぼおえ

 くだんも溺れてるんでしょう。きっとお腹のくだんだって、お腹に小さなくだんちゃんが黒い水を口から吐いて、ぼおえぼおえと啼くんです。だからこの子も、線をくわえて啼くんです。
 もう嫌ですよ、出してよお、と。
 そこでくだんちゃんも、もうすぐですよって分かる。

 くだんちゃんも外へ出れるんです。きっと出れるかなって思いませんか。部屋を割って、ばっくり黒い水を吐いて、痛くない、マブシクもない、だってその時には空だって、ばっくり割れて、暗い水が降り注いで、流れ出て、うん、大丈夫、先生は、先生はきっと最初に救われる! 先生は何でも知ったひとだから、何もかもが、くるくる、ぐるぐる――

 黒い空の割れ目の向こう、大きな、大きな扉が開く。
 でもそれは、たぶんきっと、なんだか夕暮れみたいな匂いだって、そんな気がするんです。だから大丈夫、気にしなくっていいんです。

 先生。もうすぐ。
くるくる、くだんちゃん 蛮人S

げたにばける
今月のゲスト:新美南吉

 村がありました。村のそとを、おがわがながれていました。川のきしには、はんの木がしげっていました。
 はんの木のしたで、おかあさんのたぬきが、こどものたぬきに、ばけることをおしえていました。
「おてらのこぞうさんにばけるときは、ころもをつけて出るのだよ。おさむらいにばけるときは、まげをつけて、ひげをはやして、かたなをおこしにさしてね」
「それでは、おてらのこぞうさんにばけてみよっと」
 こどものたぬきは、こぞうさんにばけてみました。けれどもたいへんなことに、こぞうさんが、ぴんとひげをはやしていました。
「だめだよ。おひげなんぞつけたりして。それは、おさむらいにばけるときだよ」
 おかあさんのたぬきは、がっかりしていいました。
 そんなぐあいで、こどものたぬきは、なかなかうまくばけることはできませんでした。それでも、どうしたことか、げたにばけることだけは、たいへんうまいものでありました。
 そこでこどものたぬきは、げたにばけました。そして、はんの木のしたに、ころがっていました。
 するとむこうから、ひとりのさむらいがやってきました。さむらいは、げたのおをきって、こまっているところでしたので、
「や、これはうまいわい、ここにげたがおちている」
といって、こどもだぬきのばけたげたを、はきました。
 木のかげから、このようすをうかがっていた、おかあさんだぬきは、たいへんなことになったと、目をまんまるくしておどろきました。
 さむらいは、すたこらあるいていきました。
 こどもだぬきは、いまにもつぶれそうで、おもわず、
「ぐっ ぐっ」
とこえを出しました。さむらいはびっくりして、足もとを見ると、げたのうしろに、ふでのほのようなしっぽが、ちょろりと出ていました。
 けれどさむらいはかまわず、どんどんあるいていきました。
「ぐっぐっぐっ、かあちゃん」
 こどもだぬきは、たまらず、とうとう大きなこえを出して、なきだしました。
 おかあさんたぬきはしんぱいして、木のかげをかくれて、さむらいのあとをついていくのです。
 そのうちに、さむらいは村に入っていきました。
 村には、げたやがありました。
 さむらいは、げたをかって、こどもたぬきのばけたげたを、おもてに出してやり、おあしを一つやって、
「や、ごくろうだったのう」
といいました。
 こどもだぬきは、おあしをもらったので、さっきのくるしさもわすれて、よろこびいさんでかえっていきました。