ぼくが力を隠すわけ1
エルツェナ
雨の心配をしながら大学へと愛用の変速機付き自転車で向かう道すがら、曲がるつもりの交差点近辺から女性の悲鳴が聞こえた。 引ったくりが起きたようだ。
丁度自転車に乗っているので、一気に踏み込んで加速しながら、引ったくり犯と思しき相手の逃げた方向に車体を傾けつつハンドルを微妙に操り、無理矢理に曲がる。 曲がりきって前を見れば、ちょっとしたスクーターに二人乗りして、ハンドバッグと思しきモノを片手に持った犯人と思しき二人組を見つけた。
その片方が、ぼくを見て加速を訴えたようだ。
させるか、と、一気にギアを最高速手前まで変速させ、チェーンが移動し終わるまで軽く漕いで待つ。 軽い音を立てて切り替わる間がもどかしいが、2秒待てば更なる加速が出来るのでそれを待ってから、逃げるスクーターの真後ろに着けると同時に上半身を前に倒し、一気に自慢の脚力でがんがんペダルを踏んでいく。
どんどんと音が大きくなってくるスクーターの排気音ににやりと微笑むと、二人乗りの後ろ側がこちらに気付いて驚愕した。 普通ならスクーターは自転車を追い抜けるけど、乗り手と自転車によっては逆にちょっとしたバイクさえ追い抜けることは案外知られていない。
そのままわざと追い抜かずに5m程の距離を保って数分全力で逃げさせる。 すると突然、スクーターの下側から低く鋭い音がして急減速。 ぼくはそのまま右から追い抜く際に左へスクーターを蹴飛ばし、二人を宙に飛ばした。
路面に叩き付けられた引ったくり犯二人は、逃げることも出来ず通報で警察に御用となった…けど。
やたらと、ぼくに対して何人もが、何度も同じことを聞いてくる。 それは、どちらも本当なのか、と。
その片方が、自転車でバイクを追い上げたこと。 自転車を見ればかなり速度を出せる構成なのは分かるのでいいとして、もう片方がどうしても我慢ならなかった。
曰く、身分証に偽造の可能性があるから確認させろ、と。
「そこまで言うなら、誤りが一切なかったら大学まで自転車もろとも送ってよ!?」
不満を顔全面に出し、自転車のフレームを片手で持つとパトカーの後部座席に苛立ちが見える態度で座る。
「はい、確かに我が大学の三回生です」
かくして1時間後、大学の事務室で全ての書類を確認して貰い、やっと疑いは晴れた。 助手に変な疑いを掛けられ、教授も怒ってなければいいけど、と思っていたら、なんと大笑いしていた。