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第29回1000字小説バトル Entry36
ただ、私は、人のぬくもりが欲しかった。
だから、道で声をかけて来たおじさんに体を許したのも、ぬくもりが欲しかっただけだ。
宇宙に広がる雲のように、私のアイスコーヒーにミルクが混ざる。
一人で眺める外の景色は、太陽の暖かな光線を浴びた人々が信号機の気まぐれに足を速めている。
高校の授業に出ていない私は、暇をつぶす為に、毎日、同じコーヒーショップに体を預けている。
父と母は、私が高校に入学した次の日、今までの冷戦に終止符を打つため離婚届けを引出しから出した。
その日から、私は、父と住む事になったが、そこにいた父は、私の知る父と言う殻を破った男へとなった。
私は、夜を迎えるのが怖かった。だから、私は家を出た。
五時を過ぎると私は、コーヒーショップに別れを告げる。
「明日も来るよ。」と、心でつぶやく。
公園で座っている私に、声をかけてくる。
「家に帰らないの?」
おじさんは、決まった言葉をかけて来る。
「帰る家がないの。」
私も、決まった言葉を返すだけ。
ただ、ぬくもりが欲しいだけ。
だから、私は、体を許す。
はじめは、心の準備が必要だったけれど、今は、慣れた私がそこにいた。
太陽が、一番高いところに着いた頃、私は、いつものコーヒーショップに体を預ける。
毎日、同じ事の繰り返し。
違う事は、夜を共にする人が違うだけ。
私は、今日も五時にコーヒーショップを後にする。
公園にいる私に、今日も声をかけてくる人がいる。
私は、断る事を知らない。
ただ、ぬくもりが欲しいから。
今日も体を許すだけ。
雲が地球を覆った頃、私は、コーヒーショップに体を預けにきた。
いつもと違う席に座った私の前に、男の人が現れる。
混んでた店の相席のお願い。断る事を知らない私がそこにいる。
男は、私に声をかけてきた。
決まった言葉と違う言葉。
私も、決まった言葉と違う言葉。
五時を過ぎても立たない私。
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