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第29回1000字小説バトル Entry35

しあわせのかたち

 殴られてうれしい人っているのかなあ。ごりごり。いないと思うよ。ごりごり。だって痛いもん。まだぴりぴりするもん。ごりごり。
 左目がふさがってる私。どうしてあの人は、すぐ殴るんだろう。優しい時は優しいのになあ。私以外の人にも、すぐ殴るのかなあ。それってかなりヤバいと思うよ。ごり。私だけ殴るんなら、それで他の人を殴らないんなら、私はいい事してるのかもね。ごりごり。

 ああ、いっぱい出来た。すり鉢いっぱい、粉ができたよ。怒りやすい人にいいんだって、カルシウム。だからいっぱい粉にしたよ。カラを粉にして、中身の方は私が食べたよ。ゆで卵二十四個。死ぬかと思った。でも殴られるよりずっとマシだよ。

 あと、体にいいのはミルクだよ。毎日骨太だよ。温かいミルク、すり鉢に入れたら、真っ白なお風呂みたいでいい感じ。ミルクは半分まで。仕方ないよ。だってまだブルガリアヨーグルトとパルメザンチーズも入れるんだから。ミルクの残りは私がのむね。
 暖かい部屋で、温かいミルク。ちょっと心もあったかい。

 トイレに行ってきた。ずっと便秘っぽかったのに、毎日骨太とヨーグルト、一気のみしたからかな。便秘が治ると気持ちいいよ。あの人も便秘だからイライラするんじゃないかな。そうか便秘か。て事は、やっぱかなりいけてるのかも、このメニュー。あと、便秘にきくのはセンイかな。センイってあったっけ。ないなあ。布とか? あの人が脱ぎ捨てたシャツとか? 百回刻んでもバレるなあ。毎日骨太の紙パックとかどうかな。紙パックで何か作ってるの、前にテレビで見た気がするよ。小さく切って、ふやかして溶かすんだ。すり鉢に入れて、ごるごる、ごる。時計の音が、かっちんかっちん。

 またトイレに行ってきた。紙パックじゃなくて、トイレの紙にすれば良かった。キレイに溶けるもん。まあいいや。いろいろ考えると疲れちゃう。下ごしらえしたすり鉢を、明るい窓ぎわにそおっと置いて、レースのカーテンをゆっくり開ける。ちゃーんと日に当てて、吸収しやすくするからね。

 窓ガラスを通して、冬のお日さまがほこほこさしてくる。
 私はソファに転がって、温まったクッションに、右の頬っぺをぎゅっと当てて、陽射しの中で目を閉じる。何だかこんな時間って、昔あったよねっとか思いながら、きううっとか鳴いてみたりして、くっくっと笑っちゃう私。
 窓の外にはサオダケ屋さん。時計の音が、かっちんかっちん。

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