第30回1000字小説バトル Entry11
「うぎゃああぁぁぁ」
まるでバケモノを見たかのような声が家中にこだました。何事かと私は部屋から出てくると
「あぁ・・・、あぁ・・・」
と後ずさりしながら、蚊のように細い体をした男が洗面所の中、揺れる手で窓の方をまっすぐに指さし怯えていた。歯磨き粉混じりの口がなんともこっけいである。
「カマキリじゃない」
私はカマキリを手でつかまえ、窓から逃がしてやった。
「すごいなぁ〜。舞ちゃんは」
男はにこにこと素直に感心している。私が「馬鹿じゃない?」と思いながら立ち去ろうとした時、
「あぁっ。ちゃんと手を洗わなきゃ!!ばい菌が・・・、ばい菌がついちゃうよう」
と男が叫んだ。私は
「あなたも私もカマキリもみんな自然の産物なのよ。カマキリがばい菌なのならあんたもばい菌じゃない?」
と言い残し、母のいる居間へと向かった。
「今度の男は何なの!? ゴキブリを素手でつかめるお母さんの相手じゃないわね」
私はテーブルの上にあったお菓子の袋を開けながら言った。
「結婚したのは三度目かしらぁ」
と母は酔ったように言い
「一度目はあなたのパパ。まともな男だったけれど堅すぎちゃってね。だめだったわ。二度目はワイルドな男。バイオレンスだったわね。ふふっ。二ヶ月で別れてやったけど。三度目は、今度は優しい男にしようと思ったのよ。確かに優しいじゃない?」
と続けた。私は
「う〜ん・・・」
と考え込みそして言った。
「一度でも私が『素敵だわ〜』と思うような男を連れてきなさいよ」
すると母は急に真面目な顔をしてテーブルの上に身を乗り出し、私の顔をまっすぐに見て
「そんな男が来ちゃったら、きっとあなたとその男は愛し合うようになるわ。そしてあなたは私からその男を奪ってどっか行っちゃうでしょう?それかその男が誠実であったのならば『お母さんに分かってもらえるまで説得しよう』なんて言っちゃってるのよ。そうなのよ」
とまくしたてた。私は驚いた顔で母を見た。そしてひと息飲んで
「・・・何で?昔、そういう経験でもあった?」
と聞いた。
「違うわ。何となくね。私のように水商売を長くやっていると目を見ただけでどんな人か分かるようになるのよ。あなたは冷めたフリをしているけれど心の中は情熱で煮えたぎっている。そういう目をしているわ」
母は言った。
「だから変な男ばかり連れ込んでくるんだ」
私が冗談まじりに言うと、母は
「モテちゃって、モテちゃって仕方ないのよ」
と言って笑った。